「ところで、パーティー会場の人質はどうするんだ?」
アンジェラたちが警備システム奪還に向けて決意を固めていると、不意にシルバーが気になったことを口にした。
「……あ、そうだよ。せめてパーティー会場の敵はどうにかしなきゃいけないじゃん」
「うーん、でも敵の正体が分からない状態で、あまり大人数でパーティー会場に行くのは……」
そう、パーティー会場の人質をどうするか問題である。アンジェラがパーティー会場にあったモニターをちらりと目にしたとき、タワー以外の場所はコントロールが乗っ取られた警備ロボットに任されているようで、あのロボットは捕獲用の装備はあれど人に危害を加えることはできないとメリッサに確認したので、放置していても問題はないだろう。
だが、パーティー会場の人質は違う。相手は銃で武装した敵。下手な手を打てば、人質が殺されてしまうかもしれない。かといって、アンジェラたちでは色んな意味で少々悪目立ちが過ぎる。
人になるべく気付かれず、敵を一気に叩ける人物でも居れば……
「……だったら、ちょうどいい奴がいるじゃねぇか」
「え、何処に?」
アンジェラは無言でスタスタとシルバーに近付く。その迫力にシルバーは若干たじろぐも、アンジェラはシルバー……ではなく、シルバーの影に向かって声を荒らげた。
「オラ、テメェ、どうせそこに居るんだろ!? 緊急事態だ、とっとと出て来い!!」
麗日たちはアンジェラが一体何をしているのかよく分からなかったが、ソニックたちはアンジェラが誰に向かって声を荒らげているのかを即座に理解した。
「……なんだい? さっきから騒がしいけど」
シルバーの影からぬるりと現れたのは、メフィレスだった。メフィレスには他人の影に潜り込む能力がある。シルバーが遠出をしていて、近くにメフィレスの姿が見えないときは、シルバーの影に潜り込んでいる可能性が非常に高いことを、アンジェラたちは知っていたのだ。
そのことを知らない麗日たちは、いきなりシルバーの影から現れたシャドウに似たナニカを凝視している。
「……いいのか、アンジェラ? メフィレスを頼って」
「この状況だ、仕方ねえだろ」
「話が全く見えてこないんだけど」
「お前ちょっとパーティー会場に行って人質に危害を加えず気付かれずに敵とっちめてこい。さもなくば複雑骨折の痛みを体験してもらう」
「「それはただの脅迫だよ!?」」
麗日と耳郎のツッコミが響き渡る。しかし、アンジェラとメフィレス、そしてそれを取り巻く周囲にとってはわりといつものやり取りなので、ソニックたちにはスルーされていた。
「おお、怖い怖い。
で、報酬は?」
メフィレスは口では怖いだなんだと言っておきながら、顔は全然怖がる素振りすら見せていない。メフィレスにものを頼むと必ず見返りを要求されることを知っているアンジェラだが、今はそんなことを気にしていられないし、出し惜しみもしてられない。
「ちっ…………ガトーショコラとレアチーズケーキ」
「ショートケーキも追加で」
「……OK、交渉成立だ」
アンジェラは苦虫を噛み潰したような表情で言う。メフィレスが要求しているケーキはアンジェラ手製のものだ。意外と甘味を好むメフィレスは、アンジェラに頼み事をされる際、見返りとしてアンジェラ手製のケーキやスイーツなどを要求することが多い。
「ええっ、メフィレスだけずるい! 私イチゴムースケーキがいい!」
「僕シフォンケーキ!」
「俺アップルパイ!」
「そんなに違う種類のケーキを一度に作れるか! せめて種類を絞れ! そしてシルバー、何でお前だけパイを要求するんだ、そこはケーキを要求しとけ!」
メフィレスだけずるいずるいと、テイルスとエミー、そしてシルバーも自身の食べたいケーキ(シルバーだけパイ)をアンジェラに要求する。全員が全員違う種類のものを要求してきたことに、アンジェラが物凄い勢いでツッコミを入れた。ついでにシルバーだけパイを要求してきたことにもツッコミを入れた。
途中話が脱線したが、パーティー会場の敵はメフィレスが対処することとなった。が、流石にメフィレスを一人にしておくわけにもいかない。
案内兼付き添い兼監視として、シルバーも一緒に着いていくことになった。麗日たちからは大丈夫なのか(特に迷子)という声があがったが、シルバーは真面目なときは真面目にやる男だし、戦闘力もメフィレスとほぼ互角。心配はいらないだろう。心配事があるとすれば、メフィレスが力加減を間違えて敵を殺したりしないかどうかくらいだが、それもシルバーが居れば問題はないだろう。なんだかんだ言いつつメフィレスはシルバーには甘い。
シルバーとメフィレスと別れたアンジェラたちは、非常階段を使って最上階へと向かっていた。このタワーの最上階は200階。普通なら途方もない階数で、登るだけで疲れそうなものだが、アンジェラが
「凄い……これ絶対普通に登ってたら疲れてたやつだ。あるがとね、アンジェラちゃん」
「いいか、その
それでも「階段を疲れずに突破できる」という利点は今この状況において魅力的なのか、麗日たちはしきりにアンジェラを褒めちぎる。
「いや、そんなことはないぞ! アンジェラ君のおかげで体力が温存できる!」
「そうそう、それで十分だって」
「ならいいんだがなぁ」
ソニックとシャドウには先行してもらい、非常階段に何か異常がないかを見てもらっている。連絡はお互いのリミッターに仕込まれた通信機を使えば解決だ。
「シャドウ、聞こえるか?」
『ああ、こっちは80階まで到着したが……シャッターが閉まっている』
「マジか。80階ならそろそろ着くころだが……」
アンジェラたちはかなり速いスピードで階段を登っている。まもなく80階の踊り場に到着すると、アンジェラたちの目に重厚なシャッターが入ってきた。
「Wow,硬そう」
シャッターを目にしたアンジェラは、麗日たちが80階に到達したことを確認すると
「壊すか?」
「そんなことしたら、警備システムが反応して敵に気付かれるわ」
「なら、こっちから行けばいいんじゃねーの?」
峰田が手を伸ばしたのは、シャッターの反対側にあるフロアへと続く非常用のドア。メリッサは静止しようとしたが間に合わず、峰田はハンドルを引いてしまった。なんてことを、とメリッサが呟くが、フロアの広さを目にしたアンジェラは、むしろこれで良かったのかもしれない、と言った。
「あの場じゃどうせシャッター壊すかあの扉を開けるかの二つに一つだったんだ。戦闘なら広い場所じゃないとかえって危険が増す」
「じゃあ、俺の判断は間違ってなかったんだな」
「あくまでも結果論だ。もう少し迂闊な行動は慎め」
調子に乗りかけた峰田をアンジェラが諫める。
「他に上に行く方法は?」
「反対側に同じ構造の非常階段があるわ」
走りながら問う轟にメリッサが答える。が、やはり敵に気付かれていたようで、行く手の通路のシャッターが次々に閉じられていく。即座に轟が氷壁閉まっていくシャッターを止め、飯田が“個性”を用いた蹴りで扉を破壊した。
扉の中へと足を踏み入れると、その中を埋め尽くしていたのは様々な植物だった。メリッサ曰く、ここは植物プラントとのことだ。
「待って!」
耳郎が全員に制止をかける。耳郎の視線の先には、空間の中央を貫くように設置されたエレベーター。その出入り口の上に表示された階数を示す数字がどんどん上がってきていた。
「敵が追ってきたんじゃ……」
恐れおののく峰田だったが、幸いにもここは植物プラント。隠れられそうな茂みがあり、アンジェラたちはとりあえず茂みに隠れることにした。
「あのエレベーター使って、最上階まで行けねーかな」
「無理よ。エレベーターは認証を受けている人しか操作できないし、シェルター並みに頑丈に作られているから破壊もできない」
「使わせろよ文明の利器ィ!」
峰田が悔しさのあまりに震えたその時、エレベーターがこの階に止まり、中からのっぽとちびの二人組が出てきた。その服装はパーティー会場に居た敵のものと酷似しており、彼らが敵の一味であることを示していた。
どんどん近付いてくる男たち。アンジェラは
「見つけたぞ、クソガキども!」
「あぁ? 今何つったテメー!」
アンジェラが
「……あいつら、まさか道に迷って80階まで来たのか……?」
アンジェラは真顔でつい、といったふうにぼやく。
当然、切島の言い分が敵に信じてもらえるわけもなく。
「見え透いた嘘ついてんじゃねえ!」
苛立ったのっぽの男が、巨大化させた右手を振りかぶって衝撃波を発生させた。まさか攻撃されるとは思っても見なかった切島は動けない。
「
咄嗟にアンジェラは切島の前に行き、
「フーディルハイン、それに轟も!?」
「テメェら、何でここに……」
「放送聞いてねぇのかお前ら。タワーが敵に占拠されたんだよ!」
アンジェラが爆豪と切島に向かって本当に簡潔に事情を説明すると同時に、轟が氷結を使って麗日たちをプラント上部の外周通路へと運んだ。
「フーディルハインも先に行ってくれ! ここは俺たちで時間を稼ぐ!」
「……確かに、あいつらならお前らでも相手できるか」
先程受けた衝撃波の威力を見た感じ、あののっぽたちは轟たちでも十分に相手ができる。あいつらは偵察係であるだろうし、いきなり主力を引っ張り出すなんてこと、Iアイランドの警備システムを掌握するような狡猾な敵が行うはずもないだろう。
が、不測の事態というのはあり得るので、アンジェラはソルフェジオを杖に変形させて構えると、3人に
「それで多少の無茶は大丈夫だ」
「ありがとな、フーディルハイン」
「っち、お前の救けなんざいらねーんだよ!」
「爆豪、そんなこと言うなって!」
ある意味予想通りの爆豪の反応にアンジェラはくすり、と笑う。
「じゃ、先に行ってる!」
そして、
「アンジェラ、置いてきてよかったのか?」
「轟と爆豪が居る。それに一応強化も付与してきた。何かあれば轟が持ってるアレが反応するだろうし大丈夫だよ」
「アンジェラ、あの二人を結構評価してるみたいね」
轟の持つアレとは、保須事件の直後アンジェラが轟と飯田に渡した魔力の結晶である。常に肌身放さず持っておけとのアンジェラの言葉通り、轟と飯田はそれを今も手元に置いている。そのことは、結晶の大元であるアンジェラには手に取るように分かった。
結晶の持ち主が危険に晒されれば、ソルフェジオ経由でアンジェラに連絡が行く。轟たちが危機にさらされるようであれば、結晶を媒介にアンジェラがワープして助太刀に入るつもりだ。
エミーの言葉に、アンジェラは笑って言った。
「一回タイマン張ってるからな。まだ荒削りだけど……あいつらは強くなるよ、絶対」
その後、峰田の活躍によって日照システムのメンテナンスルームを通って、アンジェラたちは現在130階まで上がってきていた。100階を超えてからシャッターが開きっぱなしで、アンジェラたちは誘い込まれていると確信する。が、今は先に進むしかない。
その予想は正しかったようで、最上階への通り道である実験場に、大量の警備マシンがウヨウヨと待ち構えていた。
が、麗日たちはそれに反応することが出来ずにいた。
「…………何、アレ…………」
麗日たちの目には、警備マシンに混じって数体、謎の物体が佇んでいるように見えた。
その物体は警備マシンの2倍くらいの大きさの人間のような姿かたちをしているが、全身が黒く、腕は身体と同じくらいの長さであり、手の先に大きな黒い爪を2つ、両方の手を合わせると4つ持っている。身体を黒い布のようなもので覆っているが、その布は物体から生えているらしく、首元で物体と一体化している。
が、アレを人間と呼ぶのはこの超人社会でも難しいであろう。
何故なら、あの物体には頭がないのだから。
本来頭部があるべきであろう場所には大きな切断面が見えるだけであり、頭部らしきパーツはどこにも見当たらない。
あまりに悍ましいその物体に、メリッサが恐怖のあまり声を漏らす。
「どうしたんだ?」
少し遅れてアンジェラが扉越しにその物体の姿を視認する。
「…………………………ぁ」
その存在を認識した瞬間、アンジェラの思考回路が「ある欲求」で満たされた。
本性出てきましたね。