音速の妹のヒーローアカデミア   作:えきねこ

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ソラリス………何のことだか、ソニックファンの皆様なら分かるかと。


ソラリスの灯火

 アンジェラたちは138階のサーバールームに辿り着き、そこで部屋中に溢れんばかりの数の警備マシンの妨害に遭っていた。ワルプルギスの姿は、そこにはない。先のワルプルギスは偶発的に出現したものだったのだろうか。

 

(…………それにしては、変な空気だ)

 

 先程、ワルプルギスと交戦……というか、アンジェラがワルプルギスを喰い荒らしてから感じる、奇妙な感覚。それは、アンジェラが魔法使いであるから感じるものなのか、それとも、別の何かか。それは、まだ分からない。

 

(今は、まだ気にするべきじゃない)

 

 アンジェラは今すべきことを頭の中で反芻し、そう己の中で結論付けた。今は、警備マシンの群れをどう切り抜けるかが最優先だ。

 

「こいつらも壊すか?」

「待って! ここのサーバーに被害が出たら、警備システムもどうなるか分からない!」

 

 アンジェラはメリッサの声を聞き、少しマズイかもな、と思っていた。こんな場所では砲撃魔法なぞ使えないし、射撃魔法も少しでも軌道をずらされたら恐らくはサーバーに被害を及ぼす。得意の格闘戦も、少しでもスピードを出し過ぎたら勢い余ってサーバーをぶっ壊す可能性が高い。

 

《お姉ちゃんたち、勢い余ってさーばー壊しそうだよね》

 

 一番最後の懸念は、ケテルの言及した通りソニックとシャドウにも言えることだった。3人のスピードが速すぎるからこその弱点とも言えよう。加えて、天井近くのタラップからも続々と警備マシンが降りてきているこの状況。峰田の「どんだけいんだよぉぉぉ〜!!」という絶望に満ちた叫びが響いた。

 

「ソニックたちは先へ進んで!」

 

 通路を埋め尽くす警備マシンを前に、エミーがどこからともなく大きなピコピコハンマーを出現させて力強く言う。それに続くかのように、飯田と八百万も口を開いた。

 

「ここは俺たちが引き受けます! アンジェラ君たちは一刻も早くメリッサさんとテイルス君を最上階へ!」

「アンジェラさんたちのスピードであれば、警備マシンを振り切ることなど造作もないでしょう!」

 

 八百万はしゃがみこんで、背中から武器を創り出す。八百万と飯田以外のクラスメイトたちもここに残る気満々だ。

 

「さっきのおっかない化け物と比べたら、警備マシンくらいお茶の子さいさいだぜ!」

「そうだな、本丸は一番強い人たちに任せる方がいいよな!」

「ウチらもヒーロー目指してるんです、警備マシンに遅れを取ったりはしません」

 

 クラスメイトたちもただの学生ではない。ヒーローになるべく日々切磋琢磨する、未来のヒーロー候補生である。

 

 その覚悟を受け取ったアンジェラは、ソニックとシャドウに向き直った。

 

「ソニック、シャドウ、ここはあいつらに任せよう」

「わかった。エミー、任せたぞ!」

「ええ、任せて!」

「……まあ、アンジェラが言うなら」

「シャドウ、もう少し信頼してあげてもいいんじゃないかな?」

 

 あくまでも「アンジェラが任せた」からこの場を彼らに託す、というスタンスを崩そうとしないシャドウに、テイルスが少し呆れながら言う。

 

「そうだ、お茶子さんも一緒に来て!」

「え、でも!」

 

 クラスメイトたちとともに警備マシンを迎え撃つ気満々だった麗日は、メリッサからの突然の指名に戸惑うも、飯田の迷い無き「頼む、麗日君!」の言葉とその判断を信じて頷いた。

 

「じゃあ、任せたぞ!」

「ああ、任された!」

 

 飯田の力強い宣言を聞き届けたアンジェラは麗日を、ソニックはテイルスを、そしてシャドウはメリッサを抱えて、音速のスピードで駆け抜け、警備マシンを振り切って行った。

 

「トルクオーバー……レシプロ、バースト!!」

 

 レシプロバーストを用いた飯田は、その勢いのまま蹴りをかまして警備マシンを壁へと叩きつける。

 

「砲手は任せます、私は弾を創ります!」

「了解!」

 

 八百万は創った砲台の砲手を耳郎に任せ、休む間もなくトリモチ弾の創造にとりかかる。耳郎は渡された弾を砲台に装填し、警備マシンに向かって放った。

 

「オイラだってやってやる!」

「俺は……直接触って放電だ!」

 

 上鳴の“個性”をただ闇雲にブッパしてしまえば、サーバーに被害が及ぶ可能性が高い。そのことは流石に分かっている上鳴は、警備マシンに捕縛されないように立ち回りながら警備マシンに直接電撃を流し込む。上鳴を狙う警備マシンは、峰田がもぎもぎを投げて動きを封じていた。

 

「皆、やるわね……あたしも負けてられないわ!」

 

 アンジェラのクラスメイトたちに負けじと、エミーは出現させたピコピコハンマーで警備マシンを叩く。その一撃は重く、ピコピコハンマーから出ているとは思えないズドン! という重い音と共に、警備マシンをスクラップに変えてゆく。

 

 エミーの“個性”は「ハンマー」。自身の体力を消費してピコピコハンマーを作り出すものだ。大きさはある程度操作可能。警備マシンを一撃でスクラップに変えるほどの威力は、ピコピコハンマーの強度もあるが、エミー自身の力でもある。

 

 誤ってサーバーに警備マシンをぶつけたりしないように、警備マシンの上をとって潰す。警備マシンから捕縛用のワイヤーが放たれたら、ハンマーを軸にした軽い身のこなしで避ける。ヒーロー志望でもないエミーの強さに、クラスメイトたちは脱帽していた。

 

「エミー、あんた強いね」

「ふふん、こう見えて私だって、ソニックたちにある程度は着いていけるくらいには強いんだから!」

「ああ、頼もしい限りだ!」

 

 エミーの存在はこの場においてとても心強い。流石はアンジェラの友人だなと、クラスメイトたちは頭の片隅で思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 180階まで駆け上がり、メリッサの案内である扉を蹴破ったアンジェラたち。そこは、タワーの空洞部分に作られた風力発電システムのあるエリアだった。アンジェラ、ソニック、シャドウは各々抱えていたメリッサたちを降ろす。

 

「メリッサ、どうしてここに?」

「タワーの中を昇れば、警備マシンが待ち構えているはず。だから、ここから一気に上層へ向かうの。あの非常口まで行ければ……」

 

 メリッサが指差した先にあったのは、おおよそ20階分の高さはあるような風力発電エリアの天井にある小さな非常口。

 

「お茶子さんの触れたものを無重力にする“個性”と、アンジェラの飛行能力なら、私とテイルス君の二人があそこまで行ける……」

 

 メリッサは毅然とした態度で言う。しかし、胸に置かれた拳は確かに震えていた。

 

 アンジェラはメリッサが麗日を指名した理由に納得する。アンジェラの翼を授ける(アーキウィング)ではあの高さまで飛ばせないし、アンジェラは小さいのでメリッサとテイルスの二人を同時に抱えて飛ぶなんてこともできない。

 

 

 

 

 ……しかし、メリッサと麗日には知らないこと、というか、知り得ないことがあった。

 

「……ああ、だから麗日を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 でも、テイルスって自力で飛べるからなぁ…………」

「「………………え?」」

 

 アンジェラの口から出た衝撃的な発言に、麗日とメリッサは目が点になった。それは当然のことだろう。どこの誰が、狐が空を飛べると思うだろうか。

 

「……あのね、僕は尻尾を回転させて空を飛ぶことができるんだ」

「そんなに不思議なことか?」

「普通の狐は例え尻尾が二本あっても空は飛べん。君たちの困惑はよく分かる……僕も初めて見たとき驚いた」

 

 ほら、とテイルスが実演してみせる。テイルスの尻尾が回転し、確かにテイルスは空を飛んでいる。それを見た麗日は思わず華麗に崩れ落ちた。

 

「……私が、ここに来た意味とは……?」

「ほ、ほら! 戦力は多いに越したことないし……な?」

 

 アンジェラ、必死のフォローである。

 

「まあ、必ずしも無駄ってわけじゃないさ。オレとシャドウは迂回路を探す。そこで麗日の力が必要になるかもしれないだろ?」

「そ、ソニックさぁ〜ん…………」

 

 このとき麗日は、ソニックに確かな兄オーラを感じたとかなんとか。

 

 それはともかく、アンジェラはメリッサを抱えて天を駆る翼(ローリスウィング)を使い、テイルスはヘリテイルで非常口へと向かう。

 

 アンジェラたちがある程度の高さまで昇った、その時。奥の扉から警備マシンがぞろぞろと現れた。

 

「警備マシンが……!」

「大丈夫だ、メリッサ」

 

 不安がるメリッサ。しかし、アンジェラは大丈夫だと明言する。

 

「あそこに居るのを、誰だと思ってるんだ?」

 

 麗日は“個性”を使ってこの場を切り抜けようと構える。警備マシンが一斉に麗日たちに襲いかかってくる。

 

 

 

 

 しかし、次の瞬間、警備マシンの群れは粉砕された。

 

「ここはそこまで狭くもなければ、サーバーがあるわけでもない。

 

 

 

 ……つまり、ソニックとシャドウが本気で戦うのを妨げるもんが、何一つ無いってこった」

 

 警備マシンを破壊したのは、青と黒の閃光。警備マシンが襲いかかると同時に2色の閃光が奴らに向かって走り抜けていったのだ。

 

「Hey,Shadow! ちょっとばかし鈍ってるんじゃないか? お前が取り漏らすなんて」

「それはこちらの台詞だソニック、君こそ壊しきれていないのを何台か残しているじゃないか」

 

 その閃光の正体は、勿論ソニックとシャドウである。その圧倒的なスピードで、警備マシンの群れを破壊してみせたのだ。

 

「……凄い……」

「へへ、二人は凄いんだよ!」

「やっぱ、遠いなぁ……」

 

 その光景を見たメリッサは、その圧倒的なスピードに感嘆の息を漏らし、テイルスは得意気に笑い、アンジェラは、自分と兄達との差を改めて実感して声を漏らした。

 

 しかし、警備マシンはまだまだ残っている。ソニックとシャドウは構えを取り、麗日も何かアシストできることはないかと思考を巡らせた。

 

「よし、ここは3人に任せて行くぞ!」

「うん!」

「ええ!」

《わかった!》

 

 それを見届けたアンジェラたちは、なるべく速いスピードで非常口へと昇っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────一方その頃、パーティー会場の敵制圧に向かったシルバーとメフィレスは、吹き抜けに身を隠して敵の様子を伺っていた。

 

「……流石に、あのボスっぽいのとここで戦ったら目立つかな?」

「あんたなら勝てはするだろうが……確実に目立つな。というか、それ以前に被害が凄まじくなるから止めとけ」

 

 オールマイトを含むヒーローと思しき人物たちは皆青い拘束されており、会場のあちらこちらに銃を持った敵。へたりこんでいるヒーローではないパーティーの参加者たちの顔には、底知れぬ怯えが滲んでいる。

 

 そして、オールマイトが拘束されている壇上には、ドカリと座り込んでいる趣味の悪い仮面の男。先程、通信機で会話していたのだが、その時に命令口調だったことから、あの男がボスで間違いないだろう。

 

「あのボスっぽい男が部屋を出たら行動を開始しよう」

「ハイハイ、分かりましたよ」

 

 その後もしばらく身を隠していたシルバーとメフィレスだったが、ボスっぽい男が何やら苛立ちながら通信機で話すと、側近らしき白い仮面の男を連れてパーティー会場の外へと出て行った。辛うじて、最上階に行くらしいことは聞き取れたが、それ以外のことは分からなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 まぁ、二人の今からの行動には然程関わりはないのだが。

 

 メフィレスは自分の頭を何度かひとつまみ分引きちぎる。引きちぎられたそれは、普段メフィレスがバラバラになるときに撒き散らされる重油のようなものではなく、黒いスライムのようにヌルヌルしていた。

 

「頼むよ」

「了解」

 

 メフィレスは言葉少なにそのスライムのようなものをシルバーに差し出すと、シルバーは自身のサイコキネシスでそれらを会場にある監視カメラに向かって飛ばした。べっちゃりと、黒いスライムのようなものがこびり着いた監視カメラは、暫くは暗闇しか映さないだろう。監視カメラが結構高い場所にあるのも手伝って、会場内の誰も気付いてはいないようだ。

 

 シルバーは間髪入れずに敵の持つ銃火器をサイコキネシスで取り上げ、ぐしゃり、とスクラップに変える。流石にそれには気付いた敵たちだが、銃火器も奪われ壊され、どこから攻撃されている状況では、困惑が伝播していたのもあって動こうにも動けない。

 

「流石だね」

「敵は任せていいか?」

「勿論。というか、そのためのご指名だろうしね」

 

 軽口を叩き合いながら、メフィレスはドロドロと重油のような姿に溶けてゆく。溶けたメフィレスは、敵の影に入り込んで影の中から一瞬だけ細い針のようなものを出し、それを敵の首元に刺す。すると、敵は一瞬のうちに眠ってしまった。

 

「な、何事だ!?」

「敵が……眠っている?」

「おい、起き────!」

 

 敵もヒーローも一般人も関係なく、混乱に包まれるパーティー会場。その混乱に乗じて、メフィレスは次から次へと敵の影を渡り歩き、細い針のようなものを敵の首元に突き刺す。周囲の人間から見たら、敵がなんだかよくわからないうちに次々と眠っているように見えるだろう。

 

 これは睡眠薬とか、睡眠を促す成分がメフィレスに含まれているとかそんなことではなく、信号化された催眠である。メフィレスの針から、相手の神経細胞を通して脳に信号として催眠を送り込んでいるのだ。一度かけられたら少なくとも6時間は何をされても起きなくなる。

 

 ちなみにメフィレスが移動に使っている影だが、実は影自体を攻撃すればメフィレスを外に放り出せる。地面を抉るくらいの威力は必要だが。また、信号そのものに抗う術を持っている場合は、催眠は効果がないそうだ。閑話休題。

 

 武器を失った敵たちは“個性”を使おうとするが、その前にメフィレスによって眠らされる。影から影へと移動するメフィレスの速度はかなりのもので、この場でその動きを捉えられたのはオールマイトだけだった。

 

「……さて、これで最後かな」

 

 最後の敵を手早く眠らせ、オールマイトの影に入り込むメフィレス。オールマイトが何かを喋りかける前に、彼の脳味噌に直接語りかけてくる声があった。

 

 

 

 

 

『やあ、ナンバーワンヒーロー。……ああ、声を出す必要はないよ。影を通して君の声が聞こえるからね』

 

 声の正体は、オールマイトの影に入り込んだメフィレスだった。影を通して、オールマイトの脳へと信号と言う名の声を送っていたのだ。

 

 それができるなら催眠も直接影から送ればいいのでは? と思うかもしれないが、世の中そう上手いこといかないのが常。

 

 メフィレスが影から直接できるのは声を送ることと、影の持ち主から流れ込む思考という信号の傍受だけであり、催眠などの別の信号を送りたい場合は肉体を介す必要がある。

 

『……君が、敵をやったのか?』

『ああ、心配せずとも眠っているだけだよ。神経細胞を通して催眠を仕掛けたからね、向こう6時間は何があっても起きない』

『そうか……敵の銃を破壊したのは?』

『それはシルバーだよ。今は吹き抜けに待機してる白い子のサイコキネシス』

『君たちは……一体?』

 

 オールマイトから流れ込んでくる思考は懐疑的なものだ。いきなり現れて敵を制圧した正体不明の人物。感謝もするが、同時に怪しむのは当然のことだろう。

 

 それは当然予想済みなメフィレスは弁解するような思考を流した。

 

『そんなに疑わないでくれよ、僕らはアンジェラに頼まれてここに居るってのに』

『フーディルハイン少女に……? 君たちがフーディルハイン少女が言っていた、少女の弟分の付き添いかい?』

『ま、そんなとこかな』

 

 そんなことを言っているが、メフィレスはシルバーの影に潜り込んで勝手に着いてきたようなもんである。傍から見たら不法侵入者でしかないが、アンジェラに頼まれた、という点は事実だし、メフィレスは今回のIアイランド占拠には一切関わりはないのでそっちの意味では無罪である。

 

『アンジェラたちは今、警備システムを取り返しに行っているよ』

『何……逃げなかったのか!?』

『施設が物理的に閉鎖されていてバレずに脱出するのは困難だったんだよ。それに、あそこにはシャドウが居たからね。彼が戦闘許可を出して、この状況を打開するために動いているよ』

 

『流石はヒーロー候補生、正義感も人一倍だねぇ。ま、彼らが一緒だから大抵のことは大丈夫だろうけど』とおちゃらけたような信号を送るメフィレス。オールマイトはマッスルフォームが解けないように身体に力を込めつつ、メフィレスに問いかけた。

 

『君たちは、この会場を制圧する係なのかい?』

『そんなとこだね。警備システムの奪還を目的に動いているのがバレて、人質が殺されでもしたらたまったものではないだろう?』

『随分と……信頼されているんだね』

『いや、シルバーはそうだろうけど、僕に関してはそれはないかな』

 

 オールマイトの思考を、メフィレスは一刀両断する。その言葉の意味を、オールマイトは図りかねていた。

 

 屋内という狭い空間、しかも、人質の居る銃で武装した敵の無力化は、プロヒーローでも難しい案件だ。それをこうも平然とこなすのだから、それは信頼されているということなのではないのか? 

 

 

 

 

 

 

 

『何せ僕は、アンジェラに嫌われているからねぇ』

 

 だから、この言葉の意味するところも、分からなかった。

 

 

 




ヒロアカ世界の人間であっても、二本の尻尾で空を飛ぶとは考えつかないと思う。
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