音速の妹のヒーローアカデミア   作:えきねこ

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そろそろストックが尽きてきました。

あと、ここらへんから劇場版と展開が大きく変わります。


蒼白の深夜

 無事に非常口に辿り着いたアンジェラたちは200階へと急ぐ。途中、腕を刃物に変形させた敵やライフルを持った敵が襲いかかってきたが、奴らが何かを言う前にアンジェラがそのスピードで黙らせた。

 

 そして、ついに200階に到着したアンジェラたち。目当ての場所に到着したということは、それだけ危険も大きいということ。周囲を十分に警戒しながら進む。

 

「メリッサ、制御ルームの場所は?」

「中央エレベーターの前よ」

 

 メリッサの言葉が示す場所を目指す途中、何かの部屋の扉が開け放たれていた。

 

「誰か、居るのかな?」

「確認するしかないだろ」

 

 通路に隠れながら、アンジェラたちは開け放たれている扉の先を伺う。その中の人影を、そしてその正体を見たメリッサが、ハッ、と声を上げた。

 

「パパ……!?」

「マジか……」

「メリッサさんのパパって……あの人、もしかしてデヴィット・シールド博士……!?」

 

 開け放たれていた部屋はアイテムの保管庫。そして、その部屋でデヴィット博士は、懸命にコンソールを操作していた。てっきり、パーティー会場に居るものだとばかり思っていたアンジェラたちは困惑に包まれる。

 

「どうして、最上階に……?」

「敵に連れてこられて、何かさせられてる……恐らくは、デヴィット博士が作った何かしらの装置を狙って、それを持ってこいと言われた、とかか?」

「敵がタワーを占拠したのも、それが理由かも……」

《敵は人質をとって、博士を脅したの?》

「とにかく、救けないと…………!」

 

 様々な憶測が飛び交う中、メリッサは心配のあまり顔を歪ませている。アンジェラとテイルスは顔を見合わせた。

 

「テイルス、警備システムを頼む。ケテル、テイルスに着いてってやれ」

「わかった、アンジェラたちも気を付けて」

《うん!》

 

 アンジェラの肩からテイルスの肩に乗ったケテルを連れて、テイルスは一足先に警備システムの方へと向かう。メリッサは不安そうな顔のまま、保管庫を睨みつけていた。

 

「パパ……」

「警備システムはテイルスに任せれば問題ない。メリッサ、行くぞ」

「……うん、パパを救けなきゃ!」

 

 二人は慎重に、保管庫へと近付いていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 保管庫に入った二人の耳に、デヴィット博士とその助手サムの会話が聞こえてくる。

 

 その内容は、特にメリッサにとってはあまりにもショッキングなものであった。

 

 なんと、この事件はデヴィット博士が仕組んだものだと言うのだ。

 

 当然、愛する父が、ヒーローのためにサポートアイテムを作ることで、間接的にではあるが平和のために戦っている、メリッサにとってのヒーローがそんなことをするはずがないと、メリッサはデヴィット博士に、否定の言葉を望みながらも問いかける。

 

 しかし。

 

「…………そうだ…………」

 

 デヴィット博士から返ってきたのは、肯定の言葉であった。メリッサは震えながら、悲痛な叫びを上げる。

 

「なんで……どうして!?」

 

 メリッサの疑問に、デヴィット博士の代わりに答えたのはサムだった。

 

 

 

 曰く、デヴィット博士は奪われたものを取り返しただけ。今サムが持っているスーツケースに入っているのは、デヴィット博士が作った“個性”増幅装置の試作品である。それを使えば、薬品などとは違い人体に影響を与えることなく“個性”を増幅させることが可能だそうだ。

 

 しかし、この発明と研究データは、これが世間に公表されることで社会が混沌と化すことを恐れた各国の圧力を受けたスポンサーによって没収。研究そのものも凍結させられてしまった。

 

 ただの研究ならば、その時点で諦めもつくかもしれない。少なくとも、デヴィット博士ならばそうだろう。彼は本来、聡明で良識のある科学者だ。

 

 しかし、デヴィット博士にとってその研究はただの研究などではなく、使命にも似た大事なものであった。例え間違った道に突き進んでしまったとしても、何が何でも、取り返さなければならないものであった。

 

 そんな博士に、サムは提案した。「研究を敵に盗まれたことにすればいい」、と。敵を装った偽物を雇い、研究を盗ませ、別の場所で研究を続けるべきだ、と。

 

 それでも、最初は他の道がきっとあるはずだとデヴィット博士はその道を一生懸命探したが、結局、サムの提案に乗ることにした。してしまった。

 

 何故、デヴィット博士がそんな凶行に走ってしまったのか。

 

 それは、全てオールマイトのためであった。

 

「お前たちは知らないだろうが、彼の“個性”は消えかかっている…………」

 

 その瞬間、アンジェラはその理由に思い至った。

 

 アンジェラが、偶発的とはいえワン・フォー・オールを継いでしまったから、オールマイトから“個性”が移動してしまったから、彼がこんなことをしでかしてしまったのだ、と。

 

「だが、私の装置があれば元に戻せる。いや、それ以上の能力を彼に与えることができる。ナンバーワンヒーローが……平和の象徴が、再び光を取り戻すことができる! また多くの人たちを救けることができるんだ!!」

 

 平和のために戦うヒーローを、憧れのヒーローを、そして何よりかけがえのない親友の夢を、失うことを憂いて。

 

 アンジェラは瞳を伏せ、身体を震わせているメリッサの肩に手を置いた。

 

 デヴィット博士はサムの手からスーツケースを取り、懇願する。

 

「頼む! オールマイトにこの装置を渡させてくれ! もう作り直している時間はないんだ! その後でなら、私はどんな罰でも受ける覚悟も────」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「黙れ」

 

 低く、おどろおどろしく放たれた声。そこに秘められた怒気と殺気に、その場の誰もが固まり、動けなくなった。

 

白亜の鎖(フィアチェーレ)

 

 アンジェラの足元に展開された魔法陣から、複数本の光の鎖が伸びる。それは、凄まじいスピードでデヴィット博士の手からスーツケースに絡みつき、奪い取ると、デヴィット博士たちでは手も届かないほど高くへとそれを持ち上げた。

 

「……隔絶された流星群(オクサーハイデネヴ)

 

 間髪入れずアンジェラはソルフェジオを手に取って拳銃に変形させ、天高く掲げ引き金を引く。銃口から魔法陣が展開され、そこからガトリングガンのように放たれるは無数の空色の魔力弾。まるで加速装置にかけられたかのようなスピードのそれらは、我先にとスーツケースへ向かって着弾した。

 

「な、何を…………!」

 

 デヴィット博士の悲痛そうな声が聞こえてこようが、メリッサが困惑の表情でこちらを見ていようが、サムが絶望に打ちひしがれたかのように膝をつこうが、アンジェラは攻撃の手を決して緩めない。持てる魔力を限界まで込めて、その存在を許すまじと、隔絶された流星群(オクサーハイデネヴ)を撃ち続ける。

 

 破壊力の高い魔力弾の直撃をモロに受けたスーツケースは、その中身である“個性”増幅装置やそのデータは粉々になる。もはや、元の形がどうであったかなど分からないほどに。

 

 しかし、それだけで済ますアンジェラではない。

 

 隔絶された流星群(オクサーハイデネヴ)を撃ち尽くしたアンジェラは、足元に更に大きな魔法陣を展開する。アンジェラが何をしようとしているのかを直感的に感じ取ったデヴィット博士は、なんとかアンジェラを止めようと駆け寄る。

 

「や、やめろ!」

「……っ、パパ! 駄目っ!」

 

 それを、身体を張って止めたのはメリッサであった。これ以上父が罪を重ねぬように、憧れたヒーローが堕ちるのを止めるために、救うために。

 

 目に入れても痛くないほどに愛している娘に止められ、デヴィット博士は立ち止まる。

 

「…………星羅を征く(カージュフォビィア)

 

 その瞬間、ソルフェジオの銃口から、特大の砲撃が放たれた。ギリギリ天井や壁に当たらないように放たれたそれは、残骸と化していたスーツケースを跡形もなく消し飛ばした。

 

「………………なんて、ことを…………」

 

 デヴィット博士は崩れ落ちた。自身の研究、オールマイトを救うための研究が、今や、ただの塵すら残さず消え去った。それは、彼を絶望させるには十分なことであった。

 

「っ君は! 自分が何をしたのか分かっているのか!?」

「パパ! やめて!」

 

 咆えるデヴィット博士をメリッサが止める。娘への愛が強いデヴィット博士は、例え自身の邪魔をしていようとも愛する娘へ手を挙げることなど出来ずに目を伏せた。

 

 

 

 

「……あんたが、何の研究をしていようが、オレには関係ない……」

 

 掲げていたソルフェジオを降ろしたアンジェラの口から放たれたのは、その見かけからは想像もつかないほどに低い声。

 

「名声が目的だろうが、金だろうが、平和を望むからだろうが、その全てがどうでもいい。目的が何であれ、長年続けてきたあんたにとって特別な研究が、変化を恐れたビビリな国からの圧力で凍結されたのは、正直同情する……悔しくてたまらない気持ちを抱くのは、分かる。それを取り戻すために目が眩むのも、凶行に走るのも、仕方ないといえば仕方ない………………。

 

 

 

 だが………………オールマイトをこれ以上戦わせるための研究は、オレは断じて認められない」

 

 アンジェラのトパーズの瞳は怒りに燃え、デヴィット博士を射抜いていた。まるで、首に刃物を宛行われたかのような錯覚がデヴィット博士を襲う。

 

「っ、オールマイトが、平和の象徴が倒れてしまえば、日本は平和ではなくなってしまう、彼の夢が、「人々が笑って暮らせる世の中を明るく照らし続ける平和の象徴になる」夢が、叶わなくなってしまう!! また多くの人々が、怯えなくてはならなくなってしまうんだ!!! そんなの、あってはならない!!!」

 

 デヴィット博士は悲痛に叫ぶ。大学時代からオールマイトのことを知っているから、彼の夢に対する姿勢を知っているから、それ以上に、敵に怯える人々の表情を知っているから。

 

「平和のために、誰かのためだけに自身の幸福も日常も何もかもを投げ捨てて、たった一人で生贄になり続けるような人間が居ていい理由にだって、なりはしない!!!! そんなもの、オレは平和などとは断じて認めない!!!!」

 

 しかし、それはアンジェラが決して認められないことであった。

 

「あんたは、顔も名も知らない人間の幸福を追求するために、親友の幸せですら手放していいとでも思っているのか!?」

 

 アンジェラの悲痛な叫び声が保管庫に木霊する。その場の誰もが、声を上げることすら赦されなくなってしまったかのような感覚に陥る。

 

「というか、偽物の敵とか言ってたけどな、普通に銃を撃ってこようとしたぞ! その件はどう申し開きするつもりなんだ!?」

「ど、どういうことだ? 敵は偽物、全ては芝居のはず……」

 

 激高したままデヴィット博士を問い詰めるアンジェラに、困惑の表情を浮かべサムの顔を見るデヴィット博士。サムは何を思ってか顔を逸らした。

 

 その時だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「勿論芝居をしていたぜ、偽物敵という芝居をな」

 

 保管庫の入口から、高圧的な口調の男がゴーグルの男と白い仮面の男を伴って入ってきた。パーティー会場に居た、敵のボスと思しき敵である。

 

「サム、装置は?」

 

 敵のボスの言葉にアンジェラは気付く。デヴィット博士が偽物の敵だと思っていたものは、実は本物の敵だったのだと。サムは、デヴィット博士を言葉巧みに利用し、本物の敵をこの島に招き入れたのだと。

 

 サムの顔が雪よりも白くなる。恐怖からか、息も絶え絶えになってゆく。

 

「す、すみません……ウォルフラム……破壊されてしまいました」

「…………何?」

 

 敵のボス……ウォルフラムはサムを鋭く睨みつけた。まるで蛇に睨まれたネズミのように、サムは身体を縮こませる。

 

「……なるほど、あんたは最初から装置を手に入れるのが目的だったのか。でも残念、装置はもう塵すら残さず消し去った」

「…………小娘……貴様、何をしでかしたのか分かっているのか?」

 

 ウォルフラムは扉に触れ、“個性”を使って金属を操り、手すりをまるで生物のように暴れさせアンジェラを拘束しようと試みる。

 

明けの空に舞う星屑(ヴエアハイドシリウス)っ!」

 

 暴れる金属の束は、アンジェラが背に展開した魔法陣から放った白色の魔力弾の束によって焼切られた。切断面は赤く溶けており、地面に重々しいガラン! という音が何度も響く。

 

 明けの空に舞う星屑(ヴエアハイドシリウス)は極限まで温度を上げた魔力弾を束で放つ炎属性射撃魔法である。金属は熱せば柔らかくなるという特性を利用することで、細い金属ならばいとも簡単に焼き切ることが可能だ。

 

 連続で放たれ部屋を縦横無尽に飛び回る明けの空に舞う星屑(ヴエアハイドシリウス)に、ウォルフラムが操作する金属の束は焼切られ続ける。ウォルフラムが段々と苛立ちを隠さなくなってきた、その時だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おや、では貴方たちは用済みですね」

 

 白い仮面の男の声に、全員が疑問を抱く。

 

 

 

 次の瞬間。

 

 

 

 

 

 

 ザシュっ! 

 

 そんな音を響かせて、ウォルフラムとゴーグルの男の首が、ゴロンと落ちた。白い仮面の男は何もしていない(・・・・・・・)にも関わらず、ウォルフラムたちはその首を斬り落とされたのだ。切断面からは血潮が噴き出し、ウォルフラムたちの胴体はドサリ、と音を立てて床に倒れ伏す。

 

「もう少し役に立ってくれるものだとばかり思っていましたが…………まぁ、ここまで働いてくれたのですから感謝しましょう」

 

 白い仮面の男がごくごく普通にそう言うと、ウォルフラムとゴーグルの男の肉体がボコボコ! という肉々しい音を立てて、まるで泡をたてられたかのように膨らんで、破裂する。

 

「な……な……なんてことを…………!」

 

 あまりにも凄惨な光景に、メリッサは思わず口を手で抑えてその場にへたり込む。白い仮面の男はアンジェラ達に向き直ると、この場では不釣り合いなほど楽しげに言った。

 

「あなたは彼が憎くはないのですか? 父親を誑かし、悪の道に進ませた彼らが」

「っ、そうかもしれないけど、何もそんなことしなくても……!」

「なるほど……身体はともかく、心はヒーローですね」

 

 白い仮面の男は感心したようにメリッサを見やる。あれを放っておいてはマズいと直感的に感じたアンジェラは、踏み出してその男に接近し、一発入れようと拳を構え放つ。

 

 しかし、放たれた拳が男に命中する前に、アンジェラは腹部に鈍い痛みを感じた。

 

「あなたに今動かれては困るのですよ」

「っぁ………………」

『我が主!』

 

 アンジェラとソルフェジオでさえ直撃するまで気付くことができなかった痛みの発生源は、いつの間にか腹部に刺さった棘であった。あの男の“個性”だろうか、何もないところから急に出現した黒い棘。

 

「……がはっ……!」

「アンジェラっ!」

 

 瞬間、アンジェラは断続的に体内で栗が育ったかのような鋭い激痛を感じ、浅い呼吸を繰り返してその場で蹲ってしまう。手に力を込めることすら困難になり、ソルフェジオがアンジェラの手からガタン、と音を立てて落ちた。

 

 メリッサはあまりの痛みに顔が大きく歪んだアンジェラを心配し、駆け寄ってアンジェラの肩を擦った。

 

「大丈夫、死にはしません。もっとも、体内に強大なエネルギーを蓄えているであろう彼女にとっては死んだ方がマシなほどの激痛で、しばらくは立つことさえもままならないでしょうが」

「っ……あなたは、何者で、何が目的なの!? パパを誑して、自分の仲間を殺して、アンジェラをこんな目にあわせて……!!」

 

 メリッサは白い仮面の男を射殺さんばかりの視線で射抜く。

 

「ああ、そういえばまだ名乗りもしていませんでした……これは失敬」

 

 白い仮面の男は何を思ったのか、礼儀正しい佇まいでお辞儀をした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私はアトブリア。天使の教会と呼ばれている組織で研究者の職を頂いております」




原作劇場版のラスボスが死にました。
そして、オリジナルキャラクターが出てきました。


先に言っておくと、アトブリアの大元になったのは、かの黎明卿です。
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