この章、メイドインアビスとネクロニカを足して二で割ったようなノリなんです。何で私はこうもエグいもんばっか好きになるんだか………
アトブリアへと向けられたソルフェジオの先端に魔法陣が展開され、ものすごいスピードで魔力弾の群れが放たれる。マシンガンもかくやという勢いの弾幕は、寸分の狂いもなくアトブリアへと一直線に押し寄せ、その身体を貫かんとばかりに襲いかかった。
「なるほど……やはり、素晴らしい……」
アトブリアは笑う。こんなにも危機的な状況下だというのに、奴は一切焦っていなかった。
アトブリアは
しかし、全ての弾を弾くことが出来たわけではない。
黒い針の毒牙から逃れた魔力弾が、アトブリアに直撃する。まるで怒りや憎悪など、アンジェラが抱えるあらゆる負の感情が込められたかのようなその弾幕は、アトブリアの身体を容赦なく貫いた。
普通ならば、肉体に風穴が開けられた時点で無事では済まないだろう。
「感情によって力も強くなる……いいですね、いいですよ、
もっと見せてください……あなた達の力を」
奴が、普通の人間であるのならば。
アンジェラ達は、アトブリアに直接攻撃を仕掛けたその時に気付いていた。
奴が、そもそも生身の肉体を持つ人間などではないことを。
この超人社会においても、心体共に「異常」としか言い表すことができない、異常性の塊であることを。
アトブリアが、アンジェラの魔力弾に貫かれた箇所から、ブチブチと火花が散っていた。血肉や臓物が溢れているわけでもなく、その代わりに露出しているのは、パチパチと電気が迸る配線と、無機質な金属のパーツ。血液の代わりに溢れ落ちているのは、ツン、と鼻につく臭いを放つオイル。
アトブリアという存在が人間、いや、そもそも生物ですらないと断定するためには、それだけの情報があれば十分だった。
「しかし、困りましたねぇ。パーツも無制限にあるわけではないのですよ」
「……とても、困っているようには見えないが」
「いえいえ、困っていますよ……そして同時に、感動しているのです」
アトブリアはそう言いながらヘリポートの残骸に着地し、両腕を広げる。
「私には、憧れがあるのですよ」
アトブリアはその声に憧憬を染み込ませながら、針を持っていない左腕をアンジェラ達の方へと向ける。
瞬間、その腕が弾けたかと思うと、シュルシュル、シュルシュルと金属製のパイプの束が現れる。チューブの束はそれぞれが不規則に動き回っており、どれもが先端に銃口のようなものを着けている。その動きはミミズが集まって動く様を思い出させて、気味が悪い。
「人の身では辿り着くことが出来ぬ深淵。人の身があっては触れることすら叶わぬものに近付きたい。私は、そのために研究を重ねています」
「……それに辿り着くために、人の身を捨てた、と?」
敵意、否、殺意を一切隠さぬアンジェラのドスの効いた声に、しかしアトブリアは臆することもなく続ける。
「いえいえ、身体を機械で代用することはできても、自我をそのまま完全に機械化することは私の技術では出来ませんから。この身体は変えが効く代用品です」
「……本体は別のとこにあると? 何でわざわざオレたちにそんなこと教えるんだ?」
「それは……簡単なことですよ」
ソニックが懐疑的に放った疑問に、アトブリアは何も取り繕うこともなく答える。
「あなた達が、なんとも素晴らしいからですよ」
瞬間、アトブリアの左腕に光が灯る。それぞれのパイプにある銃口のようなパーツに、光が集っている。
アンジェラ達はそれが、高密度のエネルギー体であると、即座に認識した。
「この躯体を破棄しなくてはならないのは甚だ残念ですが……それ以上に、私は今感動しているのです。
ヒトの感情には、心には、まだそれほどの力があったのですね。私一人では、気付くことすら出来ませんでした」
ワシャワシャ、ワシャワシャと、チューブが蠢き、広がってゆく。銃口に込められた弾の光が、アンジェラ達を捉える。
「っ、アンジェラっ!」
「っ、
ソニックとシャドウがアンジェラの傍に行き、アンジェラが右手に構えたソルフェジオをアトブリアへ向けて
アトブリアの左腕から、紫色のレーザーが何本も束となって発射された。
それはまるで降り注ぐ流星のように、ヘリポートの残骸へと注がれ、ただでさえ酷く壊れているヘリポートを更に破壊する。唄の残骸で強化された防壁で防ぐことは出来ているが、それもいつまで保つか分からない。
唄の力にだって限界や時間制限はある。特にアンジェラは、場数こそ踏んでいるが魔法が使えるようになってまだ数年ほどしか経っていない。まだ数えるほどしか唄を使ったことがないこともあり、唄の力を掌握しきれていないのだ。完全に掌握したらしたで、今度は発狂する未来しか待っていないのだが。
「ヒトの感情は、意思は、こんなにも強い力を産み出すものなのだと、改めて思い知らされました。目的は邪魔されてしまいましたが……これはこれで大きな収穫です」
「……」
恐らくアトブリアには、罪悪感というものが存在しない。
アトブリアの精神は、根本から人間と違う。
モラルや常識などの一般的な感情の一切を捨てた好奇心が、服を着て歩いているようなものだ。
……アトブリアの言葉から推察するに、恐らく
しかし、デヴィット博士はシャドウの手によって奪還され、放り投げられた先であるヘリポートの入口もアンジェラ達が立つ先にある。防壁までもがあっては、さしものアトブリアでも手の出しようがない。
「あれも崇高なる目的に必要なものではありますが……今はそれよりも、あなた達の力が見たい」
その上、アトブリア本人にデヴィット博士を奪おうとするような行動や言動が見られない。というか、今は興味を失っているようだ。逆に、アンジェラ達にはそのドロドロとした興味の視線が向けられている。
やがて、レーザーの雨が止む。アンジェラが
アンジェラは
それでも、例え意味がないことだとしても、眼の前の機械は破壊せねばなるまいと、アンジェラはソルフェジオを握る手になけなしの力を込めた。
……その時であった。
「よく持ち堪えてくれた、少年少女!」
その声と共に、タワーの中から弾丸のように何かがヘリポートへと飛んで来る。その勢いは凄まじく、上昇気流までもが発生した。
「もう大丈夫! 何故って!?
私が来た!!」
お馴染みの決め台詞と共に、上空より威風堂々と現れたのは、日本が誇るナンバーワンヒーロー、オールマイトであった。
「おやおや、ナンバーワンの御登場ですか。今宵は随分と賑やかですねぇ」
かの平和の象徴がその姿を現したというのに、アトブリアの声には一切の恐怖心すらも感じ取れない。機械だから当然と言えば当然なのだろうが、ほんの少しくらいは動揺するものではないだろうか。
オールマイトはアンジェラ達とアトブリアの間に着地し、アトブリアを睨む。今ここで初めてアトブリアと対峙したオールマイトだが、直感的にアトブリアの異常性を感じ取ったのか少し身震いした。
「平和の象徴、オールマイト……確か、デヴィット・シールド博士のご友人でしたか。ご友人ならもう助け出されていますよ、彼らの手によってね」
デヴィット博士が救出されているということは、オールマイトも既に空中から確認済みだ。ヘリポートの入口辺りに貼ってある防壁の中で雑に放置されている姿を見た。
「親切にどうも。だが、ここでお縄になってもらうぞ、敵よ!」
オールマイトはアトブリアに向かって拳を構え、放つ。目も開けていられないほどの凄まじい風圧を乗せた一撃だ。その勢いで、砂煙と火花が舞い散る。普通ならば、その一撃を喰らっては立つこともままならないだろう。
「おやおや……流石はナンバーワンヒーロー。ただの拳の一振りだけでも、桁違いの威力ですねぇ」
しかし、砂煙が晴れた時にそんな呑気なことを口走って佇んでいたアトブリアは、纏う服に多少の汚れは付いていても、それ以外に損傷箇所は殆ど見受けられなかった。
いや、アトブリア自身が攻撃を受けたのではない。奴の前に立ち、その攻撃を受けた者が居た。
「………………ぁ」
アンジェラは、その姿を確認すると小さく呻く。
アンジェラの脳髄を、自我を、感情を、抗い難い本能的な衝動が掻き乱し、犯し、侵食する。彼女の瞳がアカイロに染まってゆく。理性がグズグズと崩れ、どうしようもない空腹感が、殺意が、憎悪が、あらゆる暴力的な感情が彼女を支配してゆく。
「………………………………」
本能に呑まれてゆく理性の中で、アンジェラは辛うじて総動員できた理性を振り絞り、それでも念話でソルフェジオに結界の維持に全機能を割くよう命令を下すことが精一杯であった。
「ふ、フーディルハイン少女? いきなりどうしたんだい? なんだか調子が悪そうじゃないか」
そのアカイロの目に写るのは、アトブリア………………の前に悠然と陣取る、名状しがたき獲物だけ。
アトブリアの前には、ぐしゃり、と全身が潰れ、腸に穴を開け、そこから黒い液体と肉をまき散らし、それでもアトブリアを守るかの如く仁王立ちをする、