音速の妹のヒーローアカデミア   作:えきねこ

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二度とその手に宿すことも、

二度とその目に写すこともない。

その憧れは、

彼方へと消えた。


第六章 Find Your Flame
強化合宿


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 世界が壊れている。

 

 少なくともその少女には、そう見えた。

 

 

『ゃ…………! ぃゃ……!!』

 

 小枝のような手足で、力を込めればいとも簡単に手折られそうな身体で、幼い少女は突然伸びてきた魔の手から、どうにか逃れようと身をよじる。圧倒的な恐怖が胸の内から湧き上がり、身体を支配する。声を上げようと腹に力を込めたつもりであっても、その小さな口からは掠れたような音しか出すことが叶わなかった。

 

『っ………………』

 

 幼い少女は、掠れたその声で救いを求める。行き過ぎた恐怖で、もはや涙すら流れてはいない。

 

 幼い少女に伸ばされた魔の手は、まるで触手のように彼女に絡み付いて離れない。どれだけもがこうとも、抗おうと身体に力を込めようとも、まるで現実を突きつけるかのように。

 

 極度の緊張と疲れからか、朦朧としてくる意識の中、幼い少女は最後に二つの光景をその目に焼き付ける。

 

 

 

 一つは、ある少年が最後まで少女を救おうと抗う光景。

 

 

 

 そして、もう一つは、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 彼女の憧れが、少女を視認し、しかし手を伸ばそうとは決してしなかった光景。

 

 

 

 

 

 

 憧れは怒りへ、怒りは憎悪へと、時と共に形を変えて、言葉を失っても、誰に悟られることもないまま、ひた隠しに、ひた隠しにし続けた。

 

 血肉を捧げ、揺蕩う存在に成り果てても、ひた隠しにし続けた。

 

 

 

 そしてそれは、確かに託された。

 

 

 彼女に連なる者たちに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………………っ!!!」

 

 身体を掴まれるような感覚を覚えると同時に、アンジェラは勢いよく身体を起こした。今だに日の影も見えず、月の光が地を照らす時間帯のことだった。

 

「……はぁ、はぁ…………」

 

 乱れた心臓の鼓動と息を整えながら、アンジェラはスマホの電源を入れ時間を確認する。表示された時刻は、午前3時過ぎだった。

 

 悪夢を見て、妙に早い時間に目を覚ますことは、アンジェラにとってはよくあることだ。

 

 しかし、今回は今までとは決定的に違う点が一つ存在していた。

 

「…………あれは、夢? 

 

 ……にしては、妙にリアル……そもそも、内容を覚えてる……? 普段は何も覚えてないってのに……」

 

 そう、アンジェラははっきりと、夢の内容を覚えている。それはもう、一から十までの全てを覚えている。

 

 普段はただ「悪夢を見た」という感覚と不快感があるだけで、夢の内容など一欠片も覚えていないというのに。まるで、ブラック彗星事件の時のように、深層意識がアンジェラの自我に、「忘れるな」と言っているかのようだった。

 

「……ったく……目覚めから気分悪い……」

 

 午前三時という日も昇らない早すぎる時間だが、二度寝をする気にもなれなかったアンジェラは、足取り重くキッチンに赴きコーヒーを煎れ、精神安定剤と共にコーヒーを喉に流し込む。口の中に広がる苦味が、僅かにアンジェラの心を落ち着けた。

 

「……荷物の確認でもするか」

 

 アンジェラはカップを洗うと、溜息をつきながら自室へと戻って行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その日の午前8時頃。二台のバスが停まっている、雄英高校敷地内のバス乗り場。

 

「雄英高は一学期を終え、現在、夏休み期間中に入っている。

 

 だが、

 

 ヒーローを目指す諸君らに、安息の日々は訪れない。この林間合宿で更なる高みへ……Puls Ultraを目指してもらう」

『はい!』

 

 相澤先生の言葉に、A組全員が元気の良い返事を返した。

 

 そう、今日から雄英高校の学校行事の一つ、林間合宿が始まるのだ。普通の学校の林間学校などとは違い、ヒーロー免許取得のための“個性”強化合宿なのだが、クラスメイト達と寝食を共にするという点では共通している。クラスメイト達……特に、期末実技で赤点を取ってしまい、合宿中に補習が決まっている芦戸と上鳴が過去小学校や中学校で行ってきたであろう林間学校や修学旅行を思い出しテンションを上げている中、アンジェラだけは少しだけ難しげな顔で、肩の上に乗せたケテルを撫でていた。

 

「アンジェラちゃん、ついに林間合宿の始まりだね……って、どうしたの?」

「……いや、ちょっと朝目覚めが悪かっただけだ」

 

 林間学校や修学旅行に参加したことはない、というか、そもそもラフリオンの学校に林間学校や修学旅行は存在しないが、旅行自体は好きなアンジェラはクラスメイト達のテンションが上がる理由はなんとなく分かるし、共感も出来る。

 

 しかし、今のアンジェラは、テンションを上げる気には到底なれなかった。

 

「そっか……無理はしちゃ駄目だよ」

「ああ、肝に銘じとくよ」

 

 アンジェラはそう言いながら、手をひらひらとさせる。

 

 彼女の首にかけられたソルフェジオと魂の残響(ソウルオブティアーズ)が、強い陽の光を浴びてきらり、と光った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「えっ? なになにA組補習居るの? つまり期末で赤点取った人が居るってこと? ええ? おかしくないおかしくない? A組はB組よりずっと優秀な筈なのに? あれれれれれぇ?」

「自分の立場を顧みてから物を言えよお前」

 

 いざバスに乗り込もうという時に、A組に突っかかるような発言をしたのはB組の物間。A組とB組の組分けは別に優秀かどうかで決められているわけではないし、何よりそんな発言をしている物間本人が補習対象者である。一体どういう精神構造をしているのか、アンジェラは呆れを通り越してもはや興味が湧いてきていた。

 

 そうやってA組を煽り散らかしていた物間だったが、お約束というかなんというか、拳藤の手刀を浴びせられて気絶。

 

「ごめんな」

 

 拳藤はA組に向けて放ったその言葉と共に、気絶した物間のシャツを掴んでB組のバスへと運んで行った。

 

「物間、怖っ…………」

 

 このB組お約束とも言える物間と拳藤の流れをジト目で見ていたのは、B組の女性陣。

 

「体育祭じゃなんやかんやあったけど、まぁ、よろしくねA組!」

「ん」

 

 物間以外のB組の生徒は、A組に対していい意味でのライバル意識は持っているものの、物間のように過剰にA組を嫌っているわけではない。同じヒーロー科の学生として、廊下ですれ違ったら挨拶をする程度の交流しかないのも事実だが、基本的に物間以外のB組生徒はA組を好意的に見てくれているようだ。というか、物間がA組を敵視しすぎなだけである。物間をスタンダードとして見ることは、B組の他の生徒に対して大変失礼なことである。

 

「バス乗るよ〜」

 

 B組の生徒たちは、物間を引き摺ったままバスに乗り込んでいった拳藤の声に返事をし、B組のバスへと移動していく。

 

 そんなB組女性陣を見て、涎を垂らしながら変な方向へとテンションを上げている峰田が一言呟く。

 

「A組だけじゃなくB組女子まで……よりどりみどりかよ!」

 

 敢えて言おう、完全なセクハラである。

 

「お前駄目だぞ、そろそろ」

 

 切島が一応苦言を呈するが、峰田に届いているかは不明であった。

 

「A組のバスはこっちだ! 席順に並びたまえ!」

 

 飯田のこの提案に、芦戸と上鳴が自由に座りたいと言い出し、全員が右往左往している間に相澤先生の鶴の一声がかかり、即座に全員が着席した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……バスが雄英を出発して、暫く経った頃。

 

「お前ら、一時間後に一回バスを停車させる。その後しばら……く…………」

 

 相澤先生が生徒たちに声をかけようとしたが、その声は喧騒にかき消された。

 

「音楽流そうぜ! チューブだチューブ!」

「バッカ、夏といや、キャロルの夏の終わりだぜ」

「終わるのかよ」

 

「席は立つべからず! べからずなんだ皆!」

 

「しりとりの「り」!」

「りそな銀行! 「う」!」

「ウン十万円!」

 

 若さ溢れる高校生のエネルギッシュなテンションに、相澤先生は注意をする気もなくし目を閉じ仮眠の体制に入った。これから一週間、そんな高校生達と寝食を共にするのだ。休めるうちに休んでおかねば体力が保たない。

 

「まぁいいか……ワイワイできるのも、今のうちだけだ」

 

 相澤先生がそんな不穏な発言をしていることなど露知らず、クラスメイト達の会話は盛り上がっていく。

 

 そんな中、飯田の隣、通路側の席に座っているアンジェラは、一人膝の上に乗せたノートパソコンとにらめっこをしていた。ケテルはアンジェラの肩の上でグミをむしゃむしゃと食べている。

 

 それを疑問に思った飯田は、立ち上がってはいけないと注意をするために立ち上がるという矛盾した行為を止め、席に座ってアンジェラに問いかける。

 

「アンジェラ君、さっきから何をしているんだい?」

「論文書いてる」

 

 よほど集中しているのか、アンジェラの返事は簡素かつ短いものだった。飯田がアンジェラの膝の上のノートパソコンをちらりと見てみると、パソコンの画面には、飯田ですら難しいと思うような単語まみれで、辛うじて英語であるということだけは分かる言語で書き途中の論文と、その横にはラフリオン語で既に完成された論文が映し出されている。どうやら、ラフリオン語で書かれた論文を、英語に翻訳する作業の真っ最中のようだ。

 

 飯田はアンジェラの作業の邪魔をしてはいけないと、窓の外の景色を眺めることにした。

 

 

 

 

 

 

 アンジェラがある程度キリの良い所まで翻訳作業を終わらせ、一息つこうとデータを保存してからパソコンをシャットダウンしたその時、飯田から声をかけられた。

 

「あ、アンジェラ君、作業が終わったのならしりとりに参加してくれないかい?」

「しりとり? なんだそれ」

 

 そもそもしりとりという遊びの存在自体を知らないアンジェラは、パソコンをテリーヌバッグに仕舞いながら首を傾げる。

 

「……ひょっとしてアンジェラちゃん、しりとりをご存知ない?」

「ご存知ないな」

「体育祭のときも騎馬戦のこと知らなかったよね、これがカルチャーショックってやつ?」

 

 麗日はそう苦笑すると、アンジェラにしりとりのルールと、しりとりをすることになった経緯を説明する。どうやら、鏡を見続けたせいで乗り物酔いをしてしまった青山の気を紛らわすために行うらしい。

 

「なるほど……つまり、最後の音を取って言葉を次にパスすりゃいいんだな? で、「ん」が最後についたら負けと」

「そういうこと!」

「俺の「くるぶし」からだから、アンジェラ君は「し」で始まって「ん」で終わらない言葉を言ってくれ!」

「し……し……んー、これ知ってる奴居ないと思うけど、「シャートレン・アストファイ」」

 

 アンジェラが放った言葉に、バス内のほぼ全員が頭の上にクエスチョンマークを浮かべる。それは流石に予想内だったのか、アンジェラが解説を始めた。

 

「ラフリオンの古ーい書物さ。大昔の人が書いた詩や御伽話や神話なんかが載ってる本。ラフリオンの古い言葉でシャートは「価値あるもの、かけがえのないもの」、レンは「物語、御伽話」、アストファイは「集合、結集、凝結」を意味するから、このタイトルを訳すと「価値ある物語の結集」になる。わりとまんまだな」

「……フーディルハイン、よくそんなこと知ってるなぁ……」

「んにゃ、さっきまでそれに関する論文書いてたから、頭の中に残っててな」

「論文……そういえば、期末前に論文を書いたことがあるって言ってたわね。また例の教授さんに出された課題なのかしら?」

「いんや、教授経由で学会に提出するやつ」

 

 アンジェラの思わぬ発言に、バス車内は一瞬しん……と静まり返った。

 

「……え? フーディルハインさん、今、なんと……?」

「? そんな変なこと言ったか……って、ああ、そういやこの国飛び級制度なかったな。そりゃ意外か」

「意外どころの騒ぎじゃねーよ!?」

 

 上鳴の渾身のツッコミが炸裂した。もはやしりとりどころの騒ぎではない。クラスメイト達は口々に、アンジェラへと疑問をぶつけてゆく。

 

「えっ、フーディルハイン、学会に論文提出するの!?」

「教授の押しが強すぎて渋々引き受けたんだよ……曰く、「この分野でアンジェラ君の論文が無いとか何事だ!」……だとよ」

「……論文って、書くのにどれくらいかかるの?」

「オレは語学史学の論文しか書かないから、そういう類の論文なら、早けりゃ調べて書いてで4日ちょいで終わるぜ。一番時間かかった卒論でも、調べるのに1週間、書き上げるのに5日くらいだったかな」

「ああ、そっか。大卒資格は持ってるんだもんね。そりゃ卒論は書いてるか……にしても、早ない?」

「教授から「君、論文書くの早すぎ」って言われたことはある。グラフとかの資料部分の作成はソルフェジオにも手伝ってもらってるけどな」

「これが“個性”の有効活用……」

「無駄遣いの間違いだろ」

 

 そんな会話で盛り上がる中でも、バスはエンジン音を轟かせて進んでいく。青山の気を紛らわすために、忘れ去られたしりとりの代わりに峰田が小学生の頃出会ったホームレスとのいい話なのかよく分からない話をしたり、蛙吹が子供の頃に体験した怖い話をしたりした。

 

 それでも青山の気が紛れないので、蛙吹はアンジェラへ次の話のパスを繋ぐ。パスを受けたアンジェラは、どうしたもんかと唸った。

 

「Hum,いきなり話せって言われてもなぁ……あ、御伽話でもいいか? お前らが絶対に知らないやつ」

「さっきの峰田の話よりは全然いいと思うぜ。俺らが知らないやつなら尚更な!」

「アレと比べんな」

 

 切島の言葉にツッコミを入れると、アンジェラは一度咳払いをして、ある御伽話を語りだした。

 

「じゃあ……「天使と貴族」

 昔々あるところに、貴族の男が居りました。貴族の男が受け持つ領地は貧しい土地でしたが、人々の笑顔が絶えない場所でした」

「導入はわりと普通だな」

「ある時、その領地に天から何かが降ってきました。貴族の男が領地を代表して降ってきたものを確認してみると、そこに居たのは薄い水色の美しい髪と、金色の宝石のような瞳を持つ、この世のものとは思えないほど美しい天使でした」

「……ん?」

 

 どこか聞いたことのあるような特徴に、麗日が首を傾げる。アンジェラはそれに気付いているのかいないのか、そのまま語り続けた。

 

「天使は、「おさわがせしてしまってごめんなさい、しかし、この地上の国に落ちてきてしまったときに、天使の力を失ってしまい、天の国へ帰れないのです、どうかしばらくこの地にとどまらせてください」と、困った顔で言いました。それを聞いた貴族の男は、「それならば、私の屋敷におとまりください、あなたが力を取り戻すその時まで、あなたのめんどうは私が見ましょう」と言いました。貴族の男は言葉の通り、天使に自らの屋敷の部屋を一つ貸し、ふかふかの寝床と温かい食事を用意してやりました。天使は「ありがとうございます、このお礼は必ずいたします」と貴族の男に約束をしました。貴族の男の献身的な介護のおかげで、天使は日に日にその力を取り戻してゆきました」

 

 ここまでの話で、よくあるタイプの童話かな? と思いつつあるクラスメイト達。

 

 しかし、アンジェラが御伽話の続きを語ると、彼らの表情が一気に変わった。

 

「しかし、天使がその力を取り戻してゆくほどに、貴族の男の心の中には不安が渦巻いていきました。貴族の男は、美しい天使のことを痛く気に入っていたのです。そして、貴族の男は思いました。(このまま天使が力を取り戻してしまえば、彼女とはお別れになってしまう)、と。

 

 貴族の男はその不安に耐えかね、とうとう天使を地下に閉じ込めてしまいました。今まで優しかった貴族の男がいきなり変わってしまったように思えて、天使は酷く怯えて泣きながら、「なぜ、こんなことをするのですか、わたしの存在がめいわくなのですか」と言いました。貴族の男は悍ましい顔をしながら、「きみとお別れをしたくないんだ、分かっておくれ」と言い、天使の背に生えたきれいな白い翼を、右手に持ったナイフで切り落としてしまいました。天使の翼も、貴族の男にとっては邪魔なものでしかなかったのです」

「…………え?」

 

 そう声を漏らしたのは、果たして一体誰だったのか。アンジェラはそんなことなどお構いなしに、淡々と御伽話の続きを語り続ける。

 

「貴族の男はその白い翼をよその金持ちの領主に売り渡し、たくさんのお金を手に入れました。貴族の男はそのお金で天使を閉じ込めた地下の部屋を作り替え、残りは領民のために使いました。

 

 貴族の男は毎晩天使の元を訪れ、天使の美しい髪を梳きながら、「きみの髪は本当に美しい。まるで宝石のようだ」と言いました。天使は貴族の男が部屋に来ない昼の間、ずっと祈り続けていました。「ああ、わたしはなにを間違えてしまったのでしょう、主よ、どうか哀れなわたしをお助けください」

 

 天使の祈りは、天の国に住まう神様に届き、貴族の男の領地に天罰が下りました。雷が空から降り注ぎ、領民は皆焼け焦げた死体へと変わり、貴族の男はその心臓を神様のお付きの蛇に食べられ、その魂は神様によって握りつぶされました。

 

 貴族の男から解放された天使は、しかし翼を失ってしまい天に帰ることは叶いませんでした。そのまま天使は、地上の国を彷徨い続けたと言います…………」

 

 バスに乗り込んだ当初のエネルギッシュな雰囲気は何処へやら。皆一様に、御伽話とは思えないほどの胸糞悪さに震え上がる。

 

「……どうだ?」

『恐ろしいわ!!!』

 

 クラスメイトのほぼ全員、爆豪にまでツッコミを入れられたアンジェラ。アンジェラのいまだに幼さが残る声で、しかし淡々と紡がれる悲惨な物語は、クラスメイト達に恐怖を与えるのには十分すぎる威力を宿していたものの、当のアンジェラ本人はあまり反省した様子は見せないまま、「気は紛れたろ」と笑っている。

 

「御伽話っつーからもっとワクワクとか、ほのぼのとかするようなもんを予想してたのに! 何だその胸糞話は!」

 

 瀬呂のごもっともなツッコミに、しかしアンジェラは首を傾げながらさも当然かのように口を開く。

 

「そうか? 御伽話って普通こういうもんだろ」

「シンデレラ系の話かと思ったら……」

「何もしてない領民も死んだぞ、天使は結局天の国に帰れてないし」

「シンデレラも結構エグくね?」

『え?』

「…………?」

 

 アンジェラは基本、童話や御伽話は原典派である。というか、原典しか読まない。ゆえに、一般的に子供向けとして市場に出回っているような童話や御伽話は、子供向けに内容が改変されている事自体は知っているものの、その内容までは知らないのだ。単純に興味がないだけとも言う。

 

 ちなみに、アンジェラが御伽話や童話を原典しか読まないのは、本人の好みでもあるが、それ以上にまず最初に原典を読ませた教授のせいである。

 

 一時はアンジェラのせいで違う意味で騒然となったバス車内だが、お構いなしにバスは進む。そして、アンジェラの語りが終了した少し後、ようやくバスが停車した。

 

 バスが停まったことにより青山の乗り物酔いも改善されたようで、相澤先生の指示の下、アンジェラ達はバスを降りていった。

 

 




というわけで、林間合宿編が始まりました。ちなみにアンジェラさんが語った御伽話は私が勝手に作ったものです。グリム童話を読みながら書きました。

今更ですが、章のタイトルにも明確な共通点があります。分かる人には分かると思います。
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