「あ〜、暇だ」
アンジェラはその日、珍しく暇を持て余していた。
外は豪雨で出掛けたくても出掛けられず、かといって大学の教授から出された課題はとっくの昔に終わらせている。本を読む気分でもない。しかもこの時間は面白いテレビ番組もやっていない。ソニックは数日前から自主的な行方不明……という名の一人旅の真っ最中。シャドウは昨日から泊まり込みの仕事。
アンジェラは、とにかく暇を持て余していた。
「……なんか、面白い番組やってないかなぁ」
あまりの暇っぷりに、アンジェラはスマホを操作しながら興味のないテレビ番組を片っ端から見るという暴挙に出た。しかし、当然ながら面白い番組などあるはずもない。同時にスマホを操作しているから、内容が頭に入ってくるはずもない。
「ん〜……懸賞……?」
アンジェラの目に止まったのは、ある懸賞番組。なんでも、その懸賞に応募した中から抽選で3名に、ホーギー社製エクストリームギアがプレゼントされるらしい。
エクストリームギアとは、溜め込んだ
普段のアンジェラなら、こんな懸賞気にしないのだが……
「……暇潰しに申し込んでみるか」
この日は、とてつもなく暇であった。
数週間後。あの豪雨が嘘のように晴れ模様が広がり、絶好の冒険日和。
アンジェラがお気に入りのランニングスポットへ向かおうと家を出ると、家の前に段ボールがあるのを発見した。
「なんだこれ……」
不思議に思ったアンジェラは、その段ボールを開封する。
中に入っていたのは、一枚の手紙と、銀河のようなデザインが施された、紺色のエクストリームギア。裏にホーギー社のロゴマークが刻まれている。
アンジェラは何故こんなものが届いたのか不思議に思い、同封されていた手紙を読む。
その手紙の内容を簡単に要約すると、この前の懸賞にアンジェラが当選したので、ホーギー社製エクストリームギア、スピードタイプ二型機「ミルキーウェイ」を贈ります、とのことだった。
エクストリームギアにはスピードタイプ、フライタイプ、パワータイプの3つのタイプがあるが、スピードタイプは他2つのタイプと比較して速度面の性能に優れている。スピードに乗ることが好きなアンジェラにはうってつけの機体だ。
アンジェラはこの手紙を読んで、ようやくこれが暇を持て余しすぎて気まぐれに応募した懸賞の景品であることに気が付いた。まさか当たるとは微塵も思っていなかったから忘れていた。
「……どうしよ、これ」
確かに、面白そうだとは思った。しかし、実際に来るとなると話は別である。まず、乗り方が分からない。買い物ではないが、衝動買いにも程がある。
「……ネットに載ってねーかな」
アンジェラは懐からスマホを取り出し、エクストリームギアについて調べる。適当なサイトにアクセスすると、エクストリームギアの乗り方に関する詳しい解説が載っていた。
アンジェラはミルキーウェイを持ち、広い場所を求めて音速で駆け抜けた。
エアの放出、空中での姿勢制御、スピードを出すための体重のかけ方……
一つ一つ、素早く丁寧に確認しながら、アンジェラはミルキーウェイを駆る。その様子は、とても素人のようには見えない。
感覚としては、やはりスケートボードに近いものがある。しかし、スピードは段違いにエクストリームギアのほうが速く、操縦方法も複雑であった。
それでもアンジェラがエクストリームギアをこうも容易く駆ることができるのは、本人のセンスもあるが、ソルフェジオのアシストのおかげでもある。エアを放出するタイミングと角度をソルフェジオが計算して、アンジェラにテレパシーで伝えているのだ。魔法の発動体であり、魔導演算装置でもあるソルフェジオだからこそ出来る芸当である。
練習から数時間もすれば、トリックを決められる程に上達した。自身で走るよりはスピードが遅いが、アンジェラは何かに乗って空で風を感じるというのも乙なもんだと思い始めていた。
アンジェラは飛行魔法がそこまで上手くない。速度は亜光速に近いものを出すことができるが、旋回や高機動戦などが苦手なのだ。故に、実戦で使えばよほど広い場所でない限り即事故るのは目に見えている。
「〜♪ ……ん?」
エクストリームギアに乗ることは、アンジェラにとって飛行魔法の練習にもなる。鼻歌を歌いながらミルキーウェイで空を駆けていたアンジェラだったが、スマホのバイブレーション音に気付いて地に降り立つ。スマホに示された名はシャドウ。どうしたのかと、電話を繋げる。
「どう『どうしたもこうしたもないだろう。今何時だと思っているんだ』……?」
いつもより数段低い声のシャドウは、声からして確実に怒っている。スマホの時計を確認すると、既に夜中の10時を回っていた。あまりにも夢中になりすぎて、周囲が暗くなっていたことに気が付かなかったようだ。
『まぁまぁ、シャドウ、落ち着けって』
『これが落ち着いていられるか!』
『いや、確実にアンジェラ引いてるから』
「……いや、引いちゃいねぇけど……」
電話の向こう側でソニックとシャドウが言い争いをしている。言い争いというより、シャドウが一方的にヒートアップしているのをソニックが諌めているような感じだが。
「……シャドウって、案外アレだよな。心配症」
『どうでもいい相手の心配などしない』
『ほーん、つまりシャドウはアンジェラのことがだ~いすきってわけ……って、危なっ!!』
『ソニック、余計なことを言うな……!』
『だからって踵落としすることはないだろ!?』
『余計なことを言う方が悪い』
『……Hey,シャドウ……随分とまぁ言ってくれるじゃねぇか』
「……あーっと、オレ、今から帰るから……うん。ゴメン」
……段々ソニックとシャドウの喧嘩(?)の収拾がつかなくなってきたので、アンジェラは電話を切って家まで走った。
家の前までたどり着いたアンジェラだったが、中から聞こえるバキッ、ドゴッ、ドカッという音に、ドアノブを回すのを躊躇ってしまう。意を決してドアを開けると、やはりというかなんというか、
「そもそも君はお気楽がすぎるんだ!」
ブゥン、という風切り音を鳴らしてシャドウの蹴りがソニックの横っ腹目掛け振り抜かれる。
「そういうシャドウはお硬すぎるんだよっ!」
その音速の蹴りを、ソニックは腕で受け止めた。発生した風圧で周囲にある物が吹っ飛ばされる。
アンジェラは即座にドアを閉めたくなった。何が悲しくてソニックとシャドウの喧嘩なんか諌めにゃならんのか。
アンジェラは確かに五年前よりは遥かに強くなっている。しかし、ソニックとシャドウは、そのアンジェラよりも遥かに強かった。
アンジェラは時折ソニックやシャドウと手合わせするのだが、ある程度までは互角に渡り合うことはできるものの、一回も勝てた試しがない。
アンジェラはどうしたもんかと頭を抱えた。取り敢えず帰ってきたことを伝えると、殴り合い蹴り合いの大喧嘩をしていたソニックとシャドウの動きが止まった。
「おお、おかえりアンジェラ。ちょっと待ってろ。今、ちょっとお硬い弟の頭を解してる所だから」
「それはこっちの台詞だアホ兄貴。君のお気楽すぎる頭のネジを締め直してやる」
「シャドウが……オレのことを兄貴って……!」
「枕詞が聞こえなかったのか?」
また何やら喧嘩を始めそうになった二人に、アンジェラは周囲を見渡しながら溜息を吐く。
「まぁ、それはそれとして……
この散らかった部屋、どうしてくれるんだ?」
二人の喧嘩の巻き添えを食らって、ダイニングルームはそれはもうひどい状態になっていた。
「「……あ」」
「あ、じゃねーよっ!!」
アンジェラの渾身のツッコミが、グリーンヒルの空の向こうまで響いていった。
なんてことない、日常の一コマである。
そしてこのあと、エクストリームギアのことをアンジェラから聞いたソニックが、テイルスとナックルズを筆頭に周囲を巻き込み、更にはある盗賊団までもが加わって、エクストリームギアの大会に出場することとなるのだが、それはまた別のお話。