音速の妹のヒーローアカデミア   作:えきねこ

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ちょっと感想を見てて疑問に思ったことがあるのですが、ヒロアカ世界の全員が全員ヒーローに憧れているのでしょうか?

答えは否。

人の憧れが、全ての人間の憧れが、同一のものに向けられるわけがない。

それを世間が受け入れられなかったから、起こった悲劇もあるのではないでしょうか。

前置きが長くなりましたが、どうぞ。


“個性”強化特訓

 合宿二日目、午前五時三十分。夏であってもまだ太陽が登りかけでしかない、早朝の時間帯。

 

 

 

 

 

 

 そんな朝早くから、A組の面々は体操服で宿泊施設の前に集合していた。あまりにも早い時間帯だからか、ほぼ全員眠そうな顔を隠しもしていない。

 

「おはよう諸君。本日から本格的に強化合宿を始める。今合宿の目的は、全員の強化及びそれによる「仮免」の取得。具体的になりつつある敵意に立ち向かうための準備だ。心して臨むように」

 

 朝からシャキッとした相澤先生による合宿の目的の説明。眠たげな目を擦っていた者たちもその言葉を聞いて目が冴えてきたようだ。敵連合に実際に襲撃された経験があるからだろう、他の学生よりも、彼らは具体的な敵意がいかなるものかを知っている。

 

「というわけで爆豪、こいつを投げてみろ」

「これ、体力テストの……」

 

 そう言って相澤先生が爆豪に手渡したのは、体力テストの時に使用したソフトボール。前回の計測……つまり、入学したての頃の爆豪の成績は「705.2メートル」。どれだけ伸びているか、成長具合の確認だろう。

 

「おお! 成長具合か!」

「この3ヶ月、色々濃かったからな、1キロとか行くんじゃねえの!?」

「いったれ、バクゴー!」

 

 クラスメイト達も興奮し、爆豪に声援を送る。爆豪も腕を回し、やる気は十分だ。

 

「んじゃ……よっこら……

 

 くたばれ!!」

「……だから、why?」

 

 ボールという非生物にくたばれとはこれいかに。

 

 そんなことはともかく、爆豪はボールに爆風を乗せて遥か遠くまでぶん投げる。大きく弧を描いて飛んでいくボールに、クラスメイト達はどれだけ記録が伸びているかとワクワクが止まらない。

 

 しかしアンジェラは、入学直後の体力テストの光景をふと思い出し、そして悟った。

 

「……軌道が、ほぼ同じ」

「え?」

 

 アンジェラのぼやきに麗日が反応すると同時に、相澤先生の受信機に結果が表示された。

 

「────―709.6メートル」

「……なっ……!?」

「あれ、思ったより……」

 

 記録が伸びていない。爆豪もクラスメイト達も、この結果は予想外だった。この3ヶ月、クラスメイト達は成長してきた。さぞ記録も伸びているだろうと思いきや、実際にはたったの数メートルほどしか記録は変わっていない。

 

「入学からおよそ3ヶ月、様々な経験を経て、たしかに君らは成長している。

 

 だがそれは、あくまでも精神面や技術面、あとは多少の体力的な成長がメインで、“個性”そのものは、今見た通りでそこまで成長していない。

 

 だから今から君らの“個性”を伸ばす」

 

 “個性”も身体機能の一つ。酷使すればするほど成長する。しかし、一年生のヒーロー基礎学の内容では、“個性”はそこまで成長しない。これは、一年生のヒーロー基礎学が“個性”の強化ではなく基礎身体能力の強化を主軸に据えたカリキュラムになっているからだ。“個性”が使えない状況であっても、ある程度は動けるようにするため、また、“個性”強化は肉体の成長に合わせて行った方が効率がいいため、殆どのヒーロー科では一年次は身体能力の強化を優先させ、“個性”に関する指導は行われない。個人的な相談をすれば先生方は応えてくれるだろうが、全体としての“個性”強化授業などは行われない。

 

 本来であれば、二年生で行うはずの林間合宿。それが一年次に前倒しになっているのは、ひとえに情勢の変化が原因だろう。肉体の成長を待っていられない状況になりつつあるという、言外の警告である。

 

 相澤先生は不敵な笑みを浮かべ、口を開く。

 

「死ぬほどキツいがくれぐれも……死なないように」

 

 とても不安になる言葉である。クラスメイト達は背筋が凍るような感覚を覚えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 A組が特訓を開始してから暫く。B組がブラドキング先生に引率されて訓練場にやって来た。

 

 そこで行われていたのは、傍目からは地獄絵図にしか見えないような、“個性”を酷使する特訓の数々。一部、「本当に効果あるのかこれ?」と疑問符が浮かぶような特訓を行っている生徒も居たが、その場に響き渡っていたのは悲鳴やら怒号やらの大合唱。

 

「……なんだ、この地獄絵図」

 

 訓練場の光景を目にしたB組の中には、口から魂が抜けかけている者も居た。

 

「許容上限のある発動型は、上限の底上げ。異形型、その他複合型は“個性”に由来する器官部位のさらなる鍛錬。本来であれば、肉体の成長に合わせて行うが……」

「ま、時間がないんでな」

 

 ブラドキング先生の説明を引き継ぐかのように、相澤先生がそう言いB組の方に近付いてくる。

 

「B組も早くしろ」

「でも、私たちも入ると四十人だよ? そんな人数の“個性”を、たった6名で管理できるの……?」

 

 拳藤の疑問はもっともだ。いくら生徒のことを知る担任の先生方が一緒に居るとはいえ、四十人の、一人ひとり異なる“個性”の底上げに6人は少ないのではないか。

 

 相澤先生もその疑問が浮かんでくるのは想定内なのか、しかし慌てずに口を開く。

 

「だから彼女らだ」

「そうなの! あちきら四位一体!」

 

 相澤先生の言葉に合わせるかのごとく、どこからともなくラグドールが現れた。

 

「煌めく眼で、ロックオン!」

「猫の手手助けやって来る!」

「どこからともなくやって来る……」

「キュートにキャットにスティンガー!」

 

 マンダレイ、ラグドール、虎、そしてピクシーボブと、順番に決め台詞を言う。

 

「「「「ワイルド・ワイルド・プッシーキャッツ! フルバージョン!」」」」

 

 そして、全員でポーズを決めた、ワイルド・ワイルド・プッシーキャッツ。なんか一人だけ世界観が違う気がするが、そのままのポーズで各々が自身の“個性”を解説する。

 

「あちきの“個性”、サーチ! この目で見た人の情報を百人まで丸わかり! 居場所も弱点も!」

「私の土流で、各々の鍛錬に見合う地形を形成!」

「そして私のテレパスで、一度に複数の人間へアドバイス!」

「そこを我が、殴る蹴るの暴行よ……」

「……色々駄目だろ」

 

 こうツッコミを入れたのは、果たして誰だったのだろうか。ただ、この四人の“個性”がこの強化合宿に合うものであることは確かである。

 

 と、ここである違和感を抱いた拳藤が口を開く。

 

「……あの、ちょっと気になったんですけど、A組、一人足りないような……具体的に言えば、フーディルハインの姿が見えないんですけど」

「そういえば……」

 

 拳藤の言葉で、その事実を認識したB組の面々。眼前に広がるだだっ広い訓練場には、確かにアンジェラの姿だけがどこにもなかった。

 

「ああ……アンジェラはちょっと離れたとこに居るんだ。私がちょくちょく様子を見に行ってるの」

「どうしてわざわざ離れたところに……?」

 

 当然といえば当然の疑問に、マンダレイはどことなく呆れたように笑った。

 

「ちょっと、事故ったら危ないからね」

 

 マンダレイの言葉に、B組の面々は首を傾げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 時は流れて、お昼も過ぎ夕方辺り。

 

 

 

 

 ズザザザザっ!! 

 

「Ouch!」

 

 訓練場から離れた場所にある、ピクシーボブによって作られた、訓練場よりは小さな、それでもそれなりの大きさはあるスペース。

 

 その地面に、光とともに突然空中から現れたアンジェラが、引き摺られるような音を立てて落ちた。その右手には、青い光を放つカオスエメラルドが握られている。

 

「あー、っててて……ソルフェジオ、さっきのはどうだった?」

『目標の位置から約1.3メートルのズレを確認』

「よし、さっきより0.3メートル近いな」

 

 少しずつ、しかし着実に上達している自身の腕前に、アンジェラは少し満足感を覚えた。

 

「しっかし、何でこうもズレとか出るかねぇ」

『それは、我が主の適性の問題かと思います。短距離ワープであれば、練習次第で上手く使いこなせる可能性は高いですよ』

《お姉ちゃんがんばれー》

 

 スペースの端っこの木陰で、アンジェラに声援を送るケテル。

 

 アンジェラはそんなケテルに微笑みかけながら、右手に携えたカオスエメラルドに力を込めた。

 

「お、捗ってるみたいだね」

「信乃」

 

 そんなアンジェラの様子を見に、マンダレイがやってきた。アンジェラは顔に付いた埃を手で拭い取りながら、マンダレイの近くへと歩いてゆく。

 

「さっきから失敗ばっかだけどな」

「アンジェラほどの天才でも、やっぱり失敗とかするんだ」

「失礼だな、これでも昔は教授に論文をダメ出しされることも多かったんだぜ?」

「ふふ、それは失礼。

 

 カオスコントロール、だっけ、今練習してるのは」

 

 マンダレイはアンジェラが持つカオスエメラルドへと視線を向ける。アンジェラはたはは、と笑いながら頷いた。

 

 

 

 そもそもの話をしよう。

 

 他の生徒たちはラグドールの“個性”サーチで各々の“個性”をサーチされ、その結果によって個々に特訓内容を指示される。

 

 しかしアンジェラは、その特訓内容の指示を受けていなかった。

 

 ラグドールがアンジェラをサーチしようとした時、激しい頭痛を感じてしまったのだ。

 

 幸い、アンジェラへのサーチを解除したらその頭痛はすぐに収まったようだが、サーチした内容も同時に飛んでいってしまったらしい。もう一度試しても結果は同じだった。

 

 頭痛の理由はアンジェラの身体に渦巻く強大な魔力であると推察されるが、実際のところは不明である。

 

 そんなわけで、アンジェラはラグドールから指示を受けることが出来なかったのだ。

 

 しかし、今のアンジェラにとって、それは大した問題にはならなかった。

 

 今のアンジェラには、何よりも優先して練習したいことがあったのだ。

 

 それが、カオスコントロール。

 

 もっと言えば、カオスコントロールによる短距離ワープの練習である。

 

 アンジェラのカオスコントロールは、巻き戻すことに特化しすぎてそれ以外の時間停止やワープなどには大きな制約がかかっている。時間停止に至っては、アンジェラ一人で使えた試しはない。ワープは使えないことはないのだが、長距離となると座標の認識が必須条件、座標の認識が必要ない短距離のワープであっても、目標地点からズレた場所に飛んでしまうことはザラにある。

 

 ただし、短距離でのワープであれば、練習をすれば十分使いこなせるようになる可能性が高いと、ソルフェジオが言った。

 

 アンジェラは一応空間魔法が使えないことはないのだが、その適性はかなり低い。空間魔法でワープをしようとすると、その適性の低さと空間魔法そのものの特性が合わさって必ず大きな隙を産んでしまうので、とても実戦的とは言えない。並大抵の速度の攻撃はマッハで動き回るアンジェラには当たらないのだが、それでもアトブリアの異空間攻撃のような例外はある。

 

 なので、アンジェラはカオスコントロールによる緊急回避が使えるようになれば、と練習を重ねていたのだが、これが中々上手くは行かない。

 

 アンジェラはそもそもカオスコントロールを短時間にそう何度もポンポン使えるわけではない。アンジェラが一度カオスコントロールを使えば、必ず暫くのインターバルを挟まなくてはならないのだ。

 

 その理由は定かではないが、アンジェラがカオスエメラルド7つの力に耐えられるとはいえ、ソニックやシャドウほど頑強な肉体を持っているわけではないことが理由の一つとして考えられている。

 

 しかし、インターバルの問題も短距離のワープ限定だが、練習すれば克服出来る可能性が高いと、ソルフェジオの解析で分かっている。流石にシャドウのようにとはいかないが、数回程度なら短時間に使えるようになると。

 

 なのでアンジェラは、合宿というまたとない機会を利用してカオスコントロールを練習していた次第である。

 

 ちなみにアンジェラがこんな離れた場所で一人で特訓している理由だが、カオスコントロールのワープであらぬ方向に飛ばされてしまった際に他の生徒とぶつかる、という事故を防ぐためである。

 

 大失敗したときなんかは、変な方向に100メートルほどの距離を飛ばされてしまうこともあるのだ。練習していたら、いつの間にか木の上に引っかかっていたこともあった。

 

 特に、大容量バッテリーと通電している上鳴や、手から酸をドバドバ出している芦戸とぶつかってしまえば、お互いに事故では済まない大怪我を負う可能性が高い。そう考えたアンジェラが、マンダレイ達に自ら進言したのである。

 

 カオスコントロールのインターバルの間は、ワン・フォー・オールの練習や各種魔法の練習をしていた。この時間でようやく実戦レベルまで仕上がった魔法もいくつかあるので、アンジェラは結構充実した時間を過ごしていたようだ。

 

 そのことをマンダレイに説明していたアンジェラ。マンダレイも、この小さな友人の努力を微笑ましそうに聞いていた。

 

「ふふ、充実してたみたいだね」

「そうだな……って、信乃はオレに用があるんじゃ?」

「ああそうだ、そろそろ夕飯の支度の時間になるよ」

「あー、もうそんな経ってたのか」

 

 林間合宿における2日目以降の夕食は、生徒たちが手作りすることになっている。なんだかキャンプのようだと、アンジェラは思った。

 

「分かった。ケテルー、行くぞー」

《はーい》

 

 アンジェラはカオスエメラルドをジュエリーケースに仕舞うと、ケテルに声をかける。ケテルはいい返事をしながらアンジェラの元へと飛んで来た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さぁ、昨日言ったね! 世話焼くのは今日だけって!」

「己で食う飯くらい己で作れー! カレー!」

 

 机の上に並べられているのは、40人分にしては多めな野菜と肉と米、そしてカレーのルー。それを目にした殆どの生徒たちは、空腹で腹を鳴らしながら力なく口を開く。

 

『……イエッサー……』

「……お前ら大丈夫……ではないな」

 

 生徒たちの中でピンピンしているのは、規格外の体力を持つアンジェラだけであった。

 

 ただ、普段の比にならないほどにカオスコントロールを使ったからか、さしものアンジェラも全く疲れていない、というわけではないようで、何度か欠伸を繰り返している。

 

 それでも、他の生徒と比べると明らかに普段通りに立っていられるのは、流石というかなんというか。

 

「アハハハハ! ヒメちゃん以外全員全身ブッチブチ! だからって雑なねこまんまは作っちゃ駄目ね! ヒメちゃんに頼り切るのも禁止だぞ!」

 

 アンジェラの料理の腕前は昨日の夕食の一件で全員、A組だけでなくB組にも知れ渡っている。そして、今の状況で一番ピンピンしているのもそのアンジェラである。

 

 ラグドールはそんな料理上手で体力もかなり残っているアンジェラに頼り切りにならないように、生徒たちに釘を刺したのだ。

 

「確かに……災害時避難先で消耗した人々の腹と心を満たすのも救助の一環……流石雄英、無駄がない! 

 

 世界一旨いカレーを作ろう! 皆!!」

 

 ラグドールの言葉から些かおかしな方向に話を飛躍させた飯田が生徒たちを鼓舞する。

 

 アンジェラは絶対そこまで考えてねぇだろ、と5秒くらい思った。

 

 そして相澤先生はそんな飯田を見て、飯田、便利、と思った。

 

 飯田、まさかの担任からの便利道具扱いである。

 

 閑話休題。

 

 

 

 

 

 体操服からそれぞれの私服に着替えた生徒たちは、早速カレー作りに取り掛かる。アンジェラはあまり手を出しすぎないように、とマンダレイに言われているので、大人しく包丁でじゃがいもやにんじんを切ったり皮を剥いたりしていた。その手付きは迷いがなく、正確であった。

 

 たまたま近くを通りかかった麗日と耳郎は、アンジェラの包丁捌きに感嘆した。

 

「おおー、アンジェラちゃん、包丁使うの上手やね」

「昨日も思ったけど、フーディルハインって料理上手なんだね。誰に教わったの?」

「ソニック」

 

 耳郎の質問に、野菜を切るのに集中しているのかたった一言で答えるアンジェラ。耳郎と麗日は、I・アイランドで出会った、アンジェラの兄の姿を思い出した。

 

「ソニックさんか……凄まじいイケメンだったなぁ」

「確かに。もう一人のお兄さんはシャドウさん、やっけ。あの人も格好良かったよねぇ……」

 

 耳郎と麗日の敬愛する兄に対する賛辞にアンジェラは嬉しそうに笑みを浮かべながらも、野菜を切る手を止めることはない。

 

 二人はそんなアンジェラに、流石だな、と言いたげな視線を向けた。

 

 

 

 

 

 

 

 途中、爆豪が爆発で飯盒を炊くための火を点けようとして、飯盒をぶっ飛ばしたなどのハプニングはありつつも、程なくしてカレーが完成した。野外卓にそれぞれ座り、号令と共に出来上がったカレーを食べ始める。

 

「店とかで出したら微妙かもしれねーけど、この状況も相まってうめー!」

「言うな言うな、野暮だな!」

 

 “個性”伸ばしの訓練がかなりハードだったこともあり、全員が大盛りに盛り付けたカレーをガツガツと勢いよく食べている。アンジェラはさも当然かのように男子の数倍の量のカレーにタバスコをかけて食べていた。

 

 そんな中、アンジェラほどではないが女子でかなりがっついている人物が居た。八百万だ。その量は男子と互角という、普段のお嬢様っぷりからは想像もつかないほどの量だが、彼女の“個性”を考えると、何らおかしい話ではない。その何倍もの量を何食わぬで食べているアンジェラが少しおかしいだけだ。

 

「ヤオモモがっつくねー!」

「ええ、私の“個性”は脂質を様々な原子に変換して創造するので、沢山蓄えるほど沢山出せるのです」

「うんこみてぇ」

 

 瀬呂の食事中、よりにもよってカレーを食べている時、しかも女子に対して最も言ってはいけない言葉により、八百万、あえなく撃沈。

 

「謝れー!」

「すみませーん!」

 

 瀬呂は耳郎にビンタされながら謝りましたとさ。

 

 

 

「洸汰〜? 食事の時間よー、洸汰〜?」

 

 そんな最中、アンジェラは洸汰を呼ぶマンダレイの声を聞き、同時に森の方へと入っていく洸汰の姿を見た。よそったカレーの最後の一口を食べると、アンジェラは席を立つ。

 

「信乃、オレが洸汰にカレー持っていこうか?」

「アンジェラ……じゃあ、任せていいかな」

「Of cource!」

 

 アンジェラはマンダレイからカレーを受け取ると、洸汰の後をつけていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 洸汰が宿泊施設から抜け出してやって来たのは、彼が秘密基地と称する崖の上だった。

 

 マンダレイ達は憎んでいないし、彼女らの言うことは比較的よく聞く洸汰だが、よりにもよってヒーローを目指す人間とは同じ空間に居たくない。

 

 しかし、そうは思っても腹は減る。洸汰が腹を鳴らしながら、気晴らしに崖の上からの景色を眺めていると、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「Good evening,ここは星が綺麗だな」

「あ……お前……」

 

 マンダレイから受け取ったカレーを持ったアンジェラが現れた。昨日の一件でこの場所のことがバレているからか、そこまで洸汰は驚いた様子は見せない。

 

「ほら、カレー持ってきた。ちゃんと食べないと大きくなれないぞ。オレはちゃんと食べてても大きくなった試しないけどな」

「……なんだそれ」

 

 カラカラと笑いながら言うアンジェラの言動がどことなくおかしくて、洸汰も思わず吹き出した。

 

 アンジェラはカレーを洸汰に手渡すと、洸汰の隣に座る。

 

「お前は偉いよ。卵とはいえ、どこまでも憎いはずのヒーローを前にして、その憎しみを表に出さないで居るんだから」

 

 そう語るアンジェラは、聖母のような微笑みを湛えていた。

 

「……お前は、ヒーロー目指してないのに、あそこに居て辛くないのか?」

「んー、オレはヒーローになりたくないだけだし、ヒーローに関してどうこう思ってるわけではないし、友達も出来たしな」

 

 洸汰はカレーを食べながら、複雑そうにアンジェラの話を聞いている。

 

 洸汰にとってアンジェラは、マンダレイ達以外で唯一、自分の憎しみを分かってくれた人間であり、洸汰が初めて目にした「ヒーローに憧れていない」人間だ。彼女には彼女の考えがあるとはわかっているが、そんなアンジェラがヒーローの卵を「友達」だと称することが、色々と複雑なのだろう。

 

「……オレさ、思うんだよ。

 

 人の憧れは、他人がどうこうして止められるもんじゃないって」

「?」

 

 突然不思議なことを言い出したアンジェラに、洸汰が首を傾げる。

 

 アンジェラは少し考える素振りを見せ、そして口を開いた。

 

「……うん、やっぱ、お前には話しておいた方がいいな。

 

 いいか、洸汰。今から話す内容を、よく覚えておけ。

 

 

 

 

 

 少なくともお前は、知っておいた方がいい。

 

 

 

 ヒーローっていう職業の奴にも色々居て、ヒーロー向きと言われるような“個性”を持っていても、ヒーローにならなきゃいけないなんて決まりはない。ヒーローが、誰も彼もが憧れる職業というわけじゃない。

 

 

 

 ヒーローと呼ばれる奴らも、そうじゃない奴らも、等しく「人間」だって話だ」

 

 そして、アンジェラは語り出す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 誰に何を言われようと、どれだけ酷く罵られようと、それでも、憧れを貫き通すと心に決めた一人の少女と、その決意を支えた者たちの物語を。

 

 

 

 

 

 




というわけで、次回からしばらくアンジェラさんの過去回想「憧れに捧ぐ白百合」をやります。アンジェラさんの大学時代のお話です。I・アイランド編でちょっとだけ言及された、アンジェラさんの大学時代の後輩が主軸になります。言わずもがなオリキャラです。他にもオリキャラが出てくる他、ソニックサイドのキャラもガッツリ関わります。

5話6話はかかる気がしますが、少なくとも10話はやりません。

あと、アンジェラさんの価値観の形成に大きな影響を及ぼしている話の一つでもあるので、飛ばしたら多分アンジェラさんの考えがよく分からなくなると思います。元々サイコパスの思考を理解しろってのがどだい無理な話ですけど。

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