音速の妹のヒーローアカデミア   作:えきねこ

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過去回想編その2です。細かいことは置いといてどうぞ。











GLタグの回収出来た……のか?


憧れに捧ぐ白百合 ―リリィ・フェマーソン―

 アンジェラがカオティクス探偵団に依頼をした、その2日後。

 

 やはりホクマー教授の研究室には、脅迫メールや脅迫電話が一日に何件もかかってくる。

 

 いや、それだけではない。アンリーゼ大学の教務課や学生課、更には他の学部やキャンパスにも、同じ内容の脅迫が送られてきている。大学側もその対応に追われており、全キャンパスで講義が一時中断されている始末だ。

 

 しかし、アンリーゼ大学の総意としては、リリィを手放すつもりなど、毛頭なかった。

 

 リリィが脅迫文程度でみすみす手放そうと思わせることなど出来ないほどの、若くして語学の分野において既に様々な功績を残している天才であることももちろん関係しているが、それ以外に大学の上層部は、リリィを贄と捧げてしまえば、そのリリィ以上の天才であるアンジェラをも手放すことになると理解しているのだ。

 

 いや、手放すだけで済むはずがない。大学側がそんな決断をしてしまえば、決して敵に回してはいけない者達を敵に回すことになる。

 

 そんな決断が出来るような無能は、ラフリオンでも指折りの叡智を持つ者が集まるアンリーゼ大学には居なかった。

 

 最初はリリィを捧げてしまえばいいのではないかとのたまう者も居たようだが、その点を指摘されると面白いほどすぐに黙り込んだらしい。理由はどうあれ、自分の考えを曲げているだけ脅迫文を送り付けてくる奴らよりは確実に数十倍マシだが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんな最中、ステーションスクエアにあるマンションの一室。小洒落たインテリアのこの部屋に、アンジェラとリリィと、もう一人の女性の姿があった。

 

 彼女はリリィよりも幾分か歳上であろう、しかしまだ若い印象であり、紫と白のグラデーションカラーのセミショートヘアーの上に薄紫色の狐の耳を持ち、青い瞳を輝かせ、快活そうな印象と衣服の長身で、出るとこは出て引き締まるとこは引き締まっているグラマラスボディと、フサフサした薄紫色の狐の尻尾を持っている、整った顔立ちの女性。

 

 その女性は少し苛立ったような面持ちで尻尾を逆立て狐耳も伏せ、一人分にはかなり多すぎる量の食料が入った買い物袋を、少しばかり荒々しくシンクの上に乗せた。

 

「…………ふざけやがって……」

 

 その整った顔は、憤怒で恐ろしく歪んでしまっている。ボソボソと恨み辛みを吐くと、女性はギリぃ……と歯軋りをした。

 

「あの……ごめんなさい、私のせいで……」

「誰もお前のせいだなんて思っちゃいねえさ。少なくとも、オレ達はな」

 

 女性のあまりの豹変ぶりに、リリィは恐怖よりもその憤怒が自分由来であることに申し訳ない気持ちでいっぱいになるが、アンジェラはそんなリリィに慰めの言葉……というよりも、彼女らの意思を伝えた。

 

「あああああっっ、今直ぐにでもぶっ殺してやる!!」

「おいリゼ、ここお前ん家じゃねえんだぞ」

 

 中々にご乱心なこの女性の名は、リゼラフィ・ザ・フォックス。アンリーゼ大学語学部語学史学科に通う、20歳の大学生である。

 

 そして、彼女らが今居るここはリリィの家、そのダイニングキッチンである。

 

 辛うじて理性がが働いているのか、リゼラフィはリリィの家の物品を壊すなんてことはしていないが、いつ物が壊れてもおかしくはないほどの荒れっぷりである。アンジェラは、リゼラフィの気持ちが分からないというわけではない、寧ろこの胸に燻る怒りをどうしようかと思案していたが、流石にこれは荒れ過ぎだと呆れ返った。

 

「これが落ち着いてられるかよセンパイ! リリィが、私のリリィが、ヒーローなんかになれと脅しを受けてるんだぞ!?」

「お前さぁ、一応言っとくけど本人の前だし、オレもここに居るんだが」

「……リゼ、アンジェラの前で……恥ずかしいのでやめてください」

「はいすみませんでした」

 

 少しばかり顔を赤らめたリリィが恥ずかしそうに言うと、面白いくらい直ぐにリゼラフィは落ち着きを取り戻した。

 

 半ば呆れ混じりの生暖かい目でその様子を見守っていたアンジェラだったが、同時にその頭の中では様々な考えが渦巻いていた。

 

 リリィの父親、ドラグが殉職し、そこから何故か数ヶ月の時を経て起きた今回の騒動。リリィが幼き日からその胸に宿し続けてきた憧れを、意味の無いものと断ずる愚か者共は、しかしどうしてこのタイミングで行動を開始したのだろうか。

 

「……どうして、今更」

 

 ふとした拍子にリリィの口から零れ出たその呟きに、しかしアンジェラとリゼラフィは返す言葉を持ち得なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 リリィに“個性”が芽生えたのは、他の子供達よりもかなり遅い、14歳頃のことだった。

 

 トップヒーローとして活躍していた父親、ドラグの帰りを待つ日々。“個性”の発現が遅れたせいで、周囲とも中々馴染めずにいた。この超人社会、“個性”を持たぬ人間は何かと不利になりがちだ。流石に日本ほど極端ではないが、学校に行けば周囲にはヒーローになりたいという人間も多数存在する。それ以外の者達も、“個性”を活かした仕事で活躍する自分を夢想してはワイワイとはしゃいでいた。その輪の中に、リリィの姿はない。「ヒーローの娘なのに無個性の可哀想な子」と蔑まれるのが常だった。

 

 しかし、リリィにそんなことは関係なかった。

 

 彼女が真に憧れたのは、本当に幼い頃、まだ周囲の子供達も“個性”が発現していない頃に生きていた母親と、その母親が教えてくれた、どこまでも広がる言葉の世界だ。無限に広がり続ける言葉を、丁寧に紐解く母親に憧れを抱き、母親のように言葉の海に沈み生きたいと、強く強く思った。父親であるドラグも、リリィの憧れを、夢を応援してくれていた。

 

 母親が亡くなった後も、リリィは周囲の蔑みを無視して言葉の勉強をし続けた。彼女にとって言葉の勉強は、まるでゲームでもしているかのように面白いものだった。ドラグも憧れを胸に頑張る娘の姿を微笑ましく思い、色々な言語に関する書物を買い与え、知り合いの、当時アンリーゼ大学の准教授であったホクマー教授と引き合わせたりした。

 

 それが、リリィがアンリーゼ大学に行きたいと思ったきっかけでもあった。

 

 理系の科目が苦手であったため何回かは不合格になったが、それでもラフリオンでも最たる叡智が集う国立大学であるアンリーゼ大学に14歳という若さで入学を果たした。大学から合格通知が来た時は、父親と一緒になって、涙を流して喜んだものだ。

 

 大学では、彼女をヒーローの娘なのに無個性だ、と蔑む者など居なかった。皆がリリィ自身の知性を、語学に対する知見を見てくれた。リリィはそれが、とても嬉しかった。

 

 リリィと同じくホクマー教授を恩師とする歳下の先輩であるアンジェラや、愉快な歳上同期であるリゼラフィなどとも巡り合うことが出来た。彼女にとっては、初めてできた友人だった。今まで味わうことができなかった子供らしい青春というものを、リリィは大学に入ってようやく手にすることが出来たのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その最中、リリィに“個性”が発現した。

 

 なんてことはない、アンジェラとリゼラフィと共に研究室で本を読んでいたときである。

 

 うっかり紙で指を切ってしまったリリィが垂れ流れてくる血を拭き取ろうにも、近くにティッシュもハンカチもなかったので、取り敢えず手で拭き取った、そのとき。

 

 

 

 

 リリィの身体から、百合のような香りがしたかと思うと、彼女の手先を百合のような形をした光が包み込み、その光が消え去るとリリィの傷も跡形もなく消え去っていた。

 

 これにはリゼラフィや、さしものアンジェラも混乱し、あれやこれやでなんとかドラグまで連絡が行った。

 

 最初はリリィに“個性”が発現したことを純粋に喜んでいたドラグだったが、その“個性”の概要を調べていくにつれてどんどんと顔色を悪くしていった。

 

『……お父様?』

 

 不思議に思い、父親の顔を覗き込むリリィ。ドラグは、娘に発現した力の強大さに、それによって彼女の未来が狭まってしまうのではないかと危惧した。

 

 リリィの“個性”は「白百合」。白百合と名を冠してはいるが、実際には白百合の形を模した、白百合の香りを放ち光るエネルギーを操る“個性”だ。

 

 そのエネルギーは様々なことに応用出来る。撃ち出しての高威力な攻撃は勿論、ちょっとやそっと、少なくともラフリオンのヒーローの中でも指折りの破壊力を持つドラグが全力を出しても突破できないような防御、こちらもドラグがフルパワーで抜け出せないような拘束、意識を乗せての広範囲の偵察も可能。

 更には、そのエネルギーを直接人体に注ぎ込めば、複雑骨折をしていようが、いや、手足が千切れていようが即座に完治させられる。しかも、ガジェットの回復と違い、血が足りない場合は自動で補填してくれる、と、まさしくチートと言っても過言ではない“個性”だった。

 

『………………リリィ、君は、ヒーローにはなりたいかい?』

『おかしなお父様。どうして私がヒーローになりたいだなんて言わなきゃいけないんですか? そんなものになりたくはありません。

 

 確かにお父様のことは大好きですが、それとこれとは話が別です。私は語学史の研究をしたいのだと、そのために大学に入ったのだと、それはこれからも曲がることはないのだと、お父様ならご存知でしょう。

 

 なら、そんな命が吹けば飛ぶように軽い仕事なんて、していられませんよ』

 

 リリィはまっすぐな、一欠片の曇りさえない瞳でドラグを射抜く。ドラグはやはりな、と言いたげな、どこか曖昧な表情でリリィの頭を撫でた。

 

『多くの富や名声が得られるとしても?』

『富はともかく、名声なんて欲しくありません。富だって、生きるため、語学史の研究のために必要な分だけあればいいです。私が一番欲しいものは、研究の先にしかありませんから』

『その力で、多くの人を救えるとしても?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『? 通りすがった眼の前で困っているのならともかく、何故顔も名も知らぬ遠い人間のために、わざわざ力を、時間を、私を、使わなくてはならないのですか? 私はそんなこと、したくありません』

 

 そう語るリリィは、ドラグが何を言っているのかが本当に分からないという、どこまでも悪意の無き眼差しをしていた。

 

 ドラグは、リリィがそう返事をすることを理解していた。リリィがそういう考え方の持ち主であること知っていた。だから、怒るつもりは毛頭なかった。

 

 考え方など千者万別。彼女の考え方が完全に間違っているとは、誰にも言えるはずがない。そんなこと、言ってはいけない。

 

 それに、リリィは「わざわざヒーローなんかをやる理由はないし、そうする人間の思考回路も分からない」だけであり、決して誰かを陥れようとするような悪い人間ではない。探究心と憧れが、人より強いだけだ。

 

 そして、幼い頃蔑まれていた経験から、リリィは意識しているかは不明だが、潜在的に人間を、“個性”を毛嫌いしているきらいがある。人のために力を役立てるなど、彼女にとっては以ての外なのだ。

 

『ああ、そうだね……おかしなことを聞いた』

『……本当に、おかしなお父様』

 

 リリィがヒーローになれば、きっとすぐさまトップヒーローに躍り出る。

 

 しかし、彼女はそれを決して望まない。

 

 ヒーローの娘でありながら、遅咲きながら、ヒーロー向きな強い“個性”を手に入れながら、ヒーローにはこれっぽっちも憧れを抱かぬ娘を少し勿体ないと思いながらも、彼女の憧れの強さとこれまでに彼女がどれだけの努力を重ねてきたかを考えたドラグは、これ以上リリィにヒーローになりたいかと、その力を人のために役立てるつもりはないかと聞くことを、止めた。

 

 リリィの未来はリリィ自身が決めるものであり、それをあれこれ横から口出しするのは親として、決してやってはいけないことだ。彼女がただ語学史学を研究したいと願っているだけであるのなら尚更。

 

 ドラグは、ヒーローとしては愚策だと分かっていながらも、ヒーローの道を強制すればリリィは決して幸せにはなれないと確信し、ただただ父親として、娘が幸せになれるように努めようと、決意した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 PLLLLLL……

 

「あ、オレのだ……Hello?」

 

 リリィがふと、“個性”が発現したばかりの頃の父親との会話を思い出していると、アンジェラのスマホがベルを鳴らした。アンジェラは電話に出ながら、ダイニングの外へ出て行った。

 

 アンジェラが退出すると同時に、頭が冷えたらしいリゼラフィがリリィの近くに向かいながら口を開く。

 

「……リリィ、世の中の奴らは言うだろうさ。その力を人に役に立てないのは何事だー、って。手に入るはずの名声を手放すだなんて馬鹿なんじゃないか、って」

「…………」

 

 リリィの家にも、そういう類の手紙が届いていた。差出人の分からぬ手紙で、電話で、口汚く罵られた。そこまでの力を持っていながら、ヒーローにならないなど、一体何を考えているのかと。

 

「だけど、そんなもんじゃ貴女を止めることなんて出来やしない。名声なんて、私達には必要ないもの手放したってそりゃ、自分の勝手だよ」

「……ふふ、そうですね、名声なんて生きる上で無駄でしかないものを欲する人間の気持ちは、分かりたくもありません。お父様の思考回路で、それだけは唯一分かりませんでしたし、私は、これからも理解しようとはしないでしょう」

 

 彼女らの考え方は、一般人には到底理解の及ばぬものだろう。ヒーローに憧れ、名声を欲する一般人には、理解など一生出来ない。

 

 だが、彼女らは、それでいい。誰に理解してもらおうなどとも思っていない。

 

 それでも、邪魔をしてくる奴らが居るのだとしたら…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「二人共、グッドニュースとバッドニュース、どっちが先に聞きたい? ちなみにグッドニュースは二つあって、バッドニュースは一つだけ」

 

 電話を終えてダイニングに戻ってきたアンジェラは、開口一番にそう言った。

 

「いきなりですね……」

「ここはいいニュースからでしょ」

 

 少し困惑気味のリリィと、面白がっているリゼラフィ。アンジェラはニヤリと不敵な笑みを浮かべながら口を開いた。

 

「カオティクスから連絡が入った。証拠の入手出来たってさ。あと、ソニック達やシャドウ達の方も首尾よくいったってよ」

「あ、センパイ、いいニュース追加で。放送学部の協力も取り付けられた」

 

 アンジェラの話を遮り、リゼラフィが自身のスマホに流れてくるメールを流し読みながら言った。アンジェラはリゼラフィの仕事の速さに感嘆の声を漏らす。

 

「へぇ……やるじゃん」

「放送学部の友達に頼んだら、教授に掛け合ってくれたみたいで」

「放送学部でリゼの……ああ、あの人ですか。

 

 それでアンジェラ……悪いニュースとは?」

 

 アンジェラは一呼吸置くと、スマホの画面を二人に向ける。

 

 それは、先程ホクマー教授から送られてきたメールに添付されていたある画像だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「リリィ、お前直接呼び出されてる」

 

 

 

 

 

 

 

 




はい、なんか次回終わりそうな気もしてきたけど、次回じゃ終わりません。早くてあと2回だと思います。多分。予定は未定。今回はオリキャラ回でしたが、次回はソニックさんかシャドウさんが出てくるはず。





百合設定は元々あったんですよ?ただ回収するタイミングがなかっただけで。
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