音速の妹のヒーローアカデミア   作:えきねこ

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過去回想編その3にして、主人公不在回です。ソニックファンならご存知かもしれない、あのキャラも出てきます。どうぞ。


憧れに捧ぐ白百合 ―Hedgehog―

 リリィの家でリゼラフィが恨み辛みを叫んでいた、その数時間前。

 

 ステーションスクエアに存在する、国際警備機構GUNの本部。全世界に支部を置くGUNの、いわゆる総本山である。

 

 

 

 

 

 

 

 その資料室で、シャドウは普段の仏頂面のまま、片っ端からある出来事に関する資料を読み漁っていた。

 

「……」

「あらシャドウ、ここに居たの?」

 

 資料室の扉を開けて入ってきたのはルージュだ。必要な資料はあらかた運び出した後であり、あとは新たに入ってきた情報と共に洗い出しを行うだけである。ガジェットやインフィニットなどの一部のエージェントも、その洗い出し作業に駆り出されていた。

 

 そんな最中でシャドウが資料室に籠もっていることが、ルージュには不可思議だった。

 

「少し……気になることがある」

「気になること? ……って、あんたが読んでるそれって……」

 

 シャドウが読んでいたファイルは、ドラグというプロヒーローに関する資料。数ヶ月前、突如として殉職した、元ラフリオンのナンバー3ヒーロー。その殉職時の状況などを纏めたものだ。

 

「今回の件、被害者となっているのはアンジェラの大学の後輩だが……このドラグというヒーローの娘だそうだ」

「ええ、アンジェラちゃんってば、あのカオティクス探偵団にも依頼をしたそうよ。GUNが大々的な調査で動くと相手に警戒されるからって。相当お怒りみたいね、あなたの妹ちゃん」

 

 ルージュの言葉に、シャドウはソニックと共に、家でアンジェラから今回の一件について語られた時のことを思い出す。

 

 表情こそ「無」そのものだったが、その瞳には普段のアンジェラからは想像もつかないほどの憤怒で塗れていた。普段は本気で怒ることは少なく、ましてや、怒りを覚えても逆に冷静になるタチのアンジェラが、あそこまで怒りの感情を剥き出しにしている所をシャドウは初めて見たし、ソニックでさえ久方ぶりに見たと語っていた。

 

「妙な話だ。ドラグの殉職から、数ヶ月が経ってから今回の騒動が起こったというのは」

「……そうね、普通、そんなに時間が経たないうちに接触を図ろうとしそうなものだけれど……」

 

 ルージュはそう言いながら首を傾げる。そういう類の話であれば、まだ傷が深い直後などにした方が効果的なはずだ。あの強い憧れを持つリリィでさえ、父親の死の直後は相当堪えたようなのだと、アンジェラが言っていたのだから。

 

 その点を不審に思ったシャドウが、個人的に調べていたのだ。もしかしたら、ドラグの死の裏側にはなにかの陰謀が働いているのではないか、と。

 

 それは、あまりにも直感的で、信じるには不十分で、しかし、無視することなど出来なかった。時にはそういう類の直感が、思わぬ収穫を運んでくることもあるのだから。

 

「それで調べていたのね……で、収穫はあったの?」

「ああ、不審な点がいくつか見つかった」

 

 いつもの仏頂面で、しかし確信を持った声色でそう語ったシャドウ。ルージュは相変わらず仕事が早い男ね、と関心した。

 

「まず、ドラグの死因だが……彼の“個性”と当時の状況を考えると、不可解だ」

 

 ドラグの“個性”は「竜」。その名の通り、竜の姿になれる“個性”だ。日本にも同じような“個性”を持つヒーロー、リューキュウが居るが、彼女の“個性”と比べるとかなりの違いがある。リューキュウの“個性”は巨大な竜に変身するものだが、ドラグの“個性”は変身しても人並みの大きさのままだ。しかし、驚異的な攻撃力と防御力、更には使用回数に制限があるが、エネルギー弾を発射することもできる。

 

 シャドウが不審に感じたドラグの死因は、腹部を包丁か何かに貫かれての失血性ショックだ。しかも、“個性”を発動させている限り有り得ないほどに、腹部に空いた穴は広く、大きかったそうだ。

 

 これでドラグが殉職することとなった事件の犯人が、彼の防御を突破するほどの“個性”や武器の持ち主であれば、シャドウも不審には思わなかっただろう。

 

 しかし、件の事件の犯人は破壊力などない“個性”とごく一般的な武器しか持たない、ただの立てこもり犯だ。警察がくまなく立てこもり先や犯人の住居などを調べ尽くして、普通の武器……少なくとも、ドラグの装甲には傷ひとつ付けることすら叶わない武器しか出てこなかった。

 

 しかも、ドラグの遺体が発見された場所の状況も不可思議だ。当時ナンバー3であったドラグを殺したとは思えないほどに、その場所は荒れてはいなかったし、近隣住民の話では、聞こえたのは一度きりの発砲音のみ(・・・・・・・・・・)であり、暴れるような音も聞こえてこなかったという。

 

「そして、ドラグの死を通報したのは、何故か(・・・)当時合同捜査などしていなかったはずの、グリフォンだった」

「それは私も不思議に思ってたわ。どうして救援要請も来ていないはずなのに、わざわざグリフォンが通報してきたのかしら、って。活動範囲も違うはずだし、出張してたなんて話も聞いてないし……」

「そもそもグリフォンは表向きこそナンバー2だが、裏ではいい噂を聞かない。これでは、怪しんでくれと言っているようなものだ」

「色々と不祥事を起こしているのを、ナンバー2の権力で揉み消している、って聞くわ。しかもあちこちで。あくまでも噂とはいえ、ここまで話が広がっていてよく今までヒーローのままで居られたわね。逆に関心しちゃうわ」

 

 ルージュがシャドウから受け取った資料を流し読みながらそう零した、その時。

 

 

 

 

 

 

 

 PLLLLL……

 

 シャドウのスマホがベルを鳴らす。画面を見ずとも、シャドウは電話をかけてきた相手が誰なのかを直感的に理解し、一つ溜息を零す。

 

「……ソニックか」

 

 画面を確認し、自身の直感が正しかったことにまた一つ溜息を零すと、シャドウは鳴り続けるベルを多少鬱陶しく思いながら電話に出た。

 

『Hello,Shadow? そっちは捗ってるか?』

 

 思った通りのハスキーボイスがスマホのスピーカーから流れてくる。シャドウはその仏頂面に少しだけ不機嫌さを混ぜたかのような表情で口を開いた。その表情の変化が乏し過ぎて、ルージュが面白いわね、と思ったのはここだけの話だ。

 

「作業を中断させたのは君だ」

『Oh,そいつは失礼』

「何の用だ、そもそも仕事中にかけてくるなと言った筈だが」

『その仕事に関わる話だ。じゃなきゃわざわざ電話なんかせずメールとかで済ますって』

 

 確かに、ソニックはスマホがあっても殆ど通話機能を使わない。連絡があればメールやSNSで済ます。そのことはシャドウも知っていた。だからこそ、シャドウは彼が前にした仕事中に電話してくるな、という発言をソニックが忘れていたものだとばかり思っていたが、どうやら違うらしい。

 

「……それで、用件は?」

『可愛げのないヤツ……ま、いっか。

 

 今クリスん家に居るんだけどさ……あ、ちょっと待て』

 

 ソニックにしてはかなり珍しい発言が飛び出したかと思うと、スピーカーから何やら物音が聞こえてくる。ノイズ混じりの物音が止んだ次の瞬間、シャドウにとっては少しばかり懐かしい声が聞こえてきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

『あ、シャドウ久し振り、元気にしてた?』

「変わりはない。君も変わりはなさそうだな、クリストファー・ソーンダイク」

 

 現在、ソニックのスマホからシャドウに話しかけてきている彼は、クリストファー・ソーンダイク、通称クリス。ヒーローのサポートアイテムも手掛ける世界的な電子メーカーの社長である父親と、欧州では特に人気が高い女優の母親を持つセレブ一家の一人息子であり、ソニックの友人である。歳は14歳で、去年のアンリーゼ大学の学祭を訪れた際に意気投合したようで、リリィとも結構仲がいい。

 

『クリスでいいのに……まあ、それは置いといて、パパからある話を聞いたんだ。今回の事件に関わる話で、信憑性は結構高いんだけどまだ完全に確証があるとは言えない。

 

 けれど、調べて見る価値は十分にあると思う』

「……聞こう」

『あのね……………………』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……伝えたけど、これでいいのかな」

「Thanks! あとはシャドウ達が調べてくれるさ。これで真実じゃなけりゃそれはそれ、真実だったら…………

 

 

 

 

 アイツを堕とす、いい一撃になるな」

 

 ソファに腰掛けたソニックはそう言うと、ニヤリ、とあくどい笑みを浮かべた。

 

 クリスは明らかにこの状況を楽しむと同時に、怒りも露わにしているソニックを珍しく思った。

 

「にしても、ソニックがここまで徹底的にやるだなんて、ちょっと意外かも……」

「オレにだって、生きてりゃ赦せないことの1つや2つくらいはあるさ。

 

 それに、オレ達の中で一番キてんのはうちの妹だからな」

「その、アンジェラが感情を剥き出しにして怒ってる、っていうのが、イマイチ想像出来ないというかなんというか」

 

 怒ると逆に顔から感情が引っ込むアンジェラの姿は、クリスも見たことがある。去年の学祭の時、アンジェラが、何らかのどさくさに紛れて彼女にセクハラをしかけようとした不届き者を伸した時、彼女の表情が消え去っていたことを覚えている。

 

 あの時は、世の中にこれほどまでに「無」という言葉が似合う表情が存在するのか、とすら思った。

 

「それほどまでに、アンジェラも今回の一件は赦せない、ってことだ。あいつは友達思いだからな」

「ソニックを通じてうちのパパとママにも協力を頼むほどだもんね……ま、かくいう僕も許せないし、パパとママも、電話越しに怒りながら「協力は惜しまない」って言ってくれたけど」

 

 クリスも幼い頃には無邪気にヒーローに憧れていた時期もあったが、今は、応援はしつつも憧れてはいない。発明家である祖父と、ソニックを通じて出会ったテイルスの影響を受け、現在は科学者を目指しているのもあるが、同時にセレブの子供ということで、否が応でもヒーローというものの「現実的」な側面を早くから見てきたからでもあるだろう。

 

 ヒーローは決して、メディアで伝わってくるような綺麗な側面ばかりの仕事ではない。

 ある意味では当たり前のことだが、幼き日のクリスにヒーローへの憧れを失わせるには、十分なことであった。

 

「うーん、他所の国の話とか聞いてて思うんだけど、皆ヒーローに盲目的というか……ラフリオンって珍しい部類なんだね」

「ヒーローも人気あるとはいえ、ここにはGUNの本拠地があるからな。他所の国よりヒーローの人気は低いだろうよ。場所にもよるが、GUNはヒーローの不祥事とか容赦なく摘発するからな。他所の国でもGUNの活動が活発な地域は、それに反比例するかの如くヒーローの人気度は他国と比較して低くなる傾向にあるらしいぜ」

「逆にヒーローが人気の地域……アメリカとか日本とかは、GUNの活動は控えめみたいだね。前にリゼが話してたよ」

 

 記憶から掘り起こしたグラフを比べながら、クリスはふむふむ、と頷く。客観的に各国におけるヒーローの違いなんかを見比べてみるのはそこそこ面白いが、それは彼らがヒーローに憧れる動機にはなり得ない。鉄道好きの全員が全員、駅員や運転手などになりたいと思うわけではないのと同じだ。

 

「……にしても、どうしてアイツはこんなことしたんだろう」

「リリィの“個性”は強力だからな、何としても手中に収めたいんだろ。

 

 例え、リリィがヒーローになりたくないと思っていても、そういう奴らには関係ない。あいつの憧れも意思もその全てを踏み躙って、ただただ利益を得たいのか、それか……

 

 そもそも、そういう自覚すら無いか、だな」

 

 クリスは首を傾げる。「自覚が無い」とはどういうことなのだろう。世の中の全員がヒーローに憧れているわけではない、それは、特にこのラフリオンで暮らしているのであれば分かるはずなのに。

 

 ソニックは少し難しげな表情で、口を開いた。

 

「世の中には一定数は居るんだよ、自分の考え方が世界の全てだって、根本から勘違いしているような奴らが。

 

 確かに、考え方の違いで争いが起こることはよくある。自分の考えを押し通すことは間違いなんかじゃない。生きてりゃ多かれ少なかれ、価値観の違いによる対立や争いが起こる、そんな状況に陥るものさ。それは間違ったことなんかじゃない、むしろ人間が感情を持つ生き物である以上、当たり前のことだ。

 

 だけど、それはどれだけ正しい考え方であろうと、他者にそれを強制していい理由にはならない」

「……」

 

 クリスの表情が曇る。ソニック達との出会いから大きく広い世界を知ったとはいえ、クリスはソニック達のように達観したわけでもない、ただの子供なのだ。表情が曇る方が正常である。

 

 ソニックは少し喋りすぎたか、と頭を掻きながら息を一つ吐いた。

 

「……っと、ガラにもなく長々と喋っちまったが……要はこういうことだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 これは、オレ達に対する宣戦布告だ、ってね」

 

 ソニックの視線は、表情から陰りの取れたクリスから、スマホへと移される。

 

 その画面には、カオティクス探偵団から送られてきたある資料が映し出されていた。

 

 

 

 

 




というわけで、ソニックXよりクリスの登場です。ソニックとクリスの出会いの経緯は、流石にクリスの家のプールに落ちた、とかじゃありませんが、ソニックが溺れかけたところをクリスに助けられた、というのは同じです。場所は………海か何かなんじゃないですかね。単に決めてないだ(殴





思った以上に過去回想編が長引きそう。
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