音速の妹のヒーローアカデミア   作:えきねこ

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ヒーローだ敵だと区分を作っても、

“個性”というものが存在していようと、

ヒーローというものは存在しない。





人間は、人間以外の何者にもなれない。


憧れに捧ぐ白百合 ―フーディルハイン―

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふふ……あはははははは! リリィ、その力が社会のために役立てないというのなら、ここで殺す!!」

「っ……! 殺す、って……!」

「そこまで墜ちたか、グリフォン!」

 

 グリフォンはリリィとミセスの叫びを無視して笑いながら、アンジェラへ爪を振りかざす。グリフォンのパワーは、コンクリートを砕き岩盤にヒビを入れられるほど。ラフリオンのヒーローの中では、かなりのパワーを誇る。

 

 しかし、逆に言ってしまえば、それだけだ。

 

 そして、アンジェラが奴に手を抜いて相手をする理由など、微塵もない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ドゴォッ

 

「おい、今ので攻撃のつもりか? 大道芸かと思ったんだが」

「なっ……何が……」

 

 一般的な人間よりも、速い速度で動く物体を認識できるグリフォンでさえ、アンジェラの動きを認識することは出来なかった。離れた場所に移動したリリィとミセスも、認識出来なかった。

 

 振り下ろされたグリフォンの爪は、文字通り粉々に砕け散った。血管にまでその傷は到達していたようで、ドロドロと血が流れる。

 

 伝説上の生物「グリフォン」に変身することはできても、再生力は人並みしかなく爪を即座に再生させる手段など持たないグリフォンは、猛禽類の鋭い眼でアンジェラを睨む。

 

「き、貴様……何をした……!!?」

「何って、攻撃されたからそれを弾いただけなんだが……分からなかったのか?」

 

 アンジェラは拳銃を手で弄びながら、眼の前の愚かな獣を嘲笑う。先程の爪を弾いた攻撃……マッハ以上の速度でかましてやった蹴りも、彼女にとってはまだまだ本気とは言い難い。確かにアンジェラの最高速度はこの時点ではマッハ3程度だが、蹴りなどの一瞬の動きに関して言えばそれ以上の速度でかましてやることができる。

 

 人間の認識外の速度で蹴りを入れることなど、アンジェラには朝飯前なのだ。

 

「貴様……よくもっ!」

 

 グリフォンは室内だというのに翼を広げ、アンジェラ達の方へと飛んでくる。その速度は、日本で有名な若手実力派ヒーロー、ホークスにも引けを取らないほどのものだった。

 

 しかし、それだけである。ソニックやシャドウの動きを、魔法がなくてもその目で捉えることができるアンジェラには、グリフォンの突進など止まって見えた。

 

「……ま、致命傷さえ与えなければ何してもいい、ってお墨付きも貰ってるし…………オラッ!!」

「ガハッ…………!?」

 

 マッハでグリフォンの懐に潜り込んだアンジェラは、凄まじい勢いでグリフォンを蹴り上げる。驚異的な速度とアンジェラの元々の脚力の相乗効果でパワーアップしたその蹴りは、4メートルほどの巨体を持つグリフォンを天井へと叩きつけた。

 

 パラパラと崩れた天井の瓦礫と共に、グリフォンが天井から落ちてくる。彼の瞳に映るのは、薄ら寒い嘲笑と共にこちらを見下す、トパーズの瞳の少女。

 

 グリフォンは、自分の力に自信を持っていた。

 

 それは、驕り高ぶっていたというわけでは決してなく、ナンバーツーヒーローという座に登り詰めればどんなに謙虚な人間であっても、誰でも必ず抱くだろう自信。

 

 グリフォンの“個性”であれば、ごく一般的な敵であれば相手にもならない。ネームド敵であっても早々に負けはしないだろう。それは、客観的な事実である。事実、先程の突進攻撃も並大抵の敵であれば躱すことができなかっただろう。

 

 彼は、喧嘩を売る相手を果てしなく間違えてしまったのだ。

 

 その身の振り方を間違えたのだ。

 

 決して目覚めさせてはならないものを目覚めさせてしまった。

 

 決して怒らせてはならないものを、怒らせてしまったのだ。

 

「はぁ……弱っ。これならエッグマンのメカの方が、よっぽど面白いし遊び甲斐がある。

 

 こんな弱いのが、リリィを狙ってたって?」

 

 アンジェラは呆れたかのように溜息をつく。

 

 確かに、攻撃力を防御に転用できるようなパワータイプの相手は、アンジェラの苦手な部類だ。

 

 しかし、それはナックルズやオールマイトのように極端にパワーに振り切れている相手限定であり、グリフォンはアンジェラにとって、パワーもスピードもそこまでない中途半端な相手でしかない。

 

 こんなのでもナンバーツーヒーローになれるのかと、アンジェラは逆に感心し、そんな中途半端な奴がリリィを狙っていたのだという事実を、心底腹立たしく思う。

 

「弱い……だと……!?」

「だってあんた、オレの動きをまるで見切れてないじゃないか。言っておくけど、オレは“個性”使ってないぜ」

「なっ……こ、“個性”を使ってない……そ、そんなわけが……! う、嘘を付くな!!」

「残念、オレは欠片も嘘なんぞついてねぇよ。第一、こんな嘘ついてオレに何のメリットがあるんだ?」

「認めない……そんなの、認めるか!!」

 

 グリフォンは翼を広げ、血が吹き出していない方の爪を振りかぶる。その猛禽類の瞳には、アンジェラに対する憤怒が宿っていた。きっかけをばら撒いたのは自分であろうに、逆ギレもいいところだと、アンジェラは呆れ返った。

 

 グリフォンの動きは火事場の馬鹿力が発揮されているのか、先程よりも速い。その巨体と四足歩行という体型故にアクロバティックな飛行は不可能だが、それでも一般的な敵であれば、反応こそすれ対処は不可能だろう。

 

「はぁ……もういい加減、終わりにしよう」

 

 しかし、アンジェラは一切焦らない。

 

 彼女にとってこの程度、焦る必要もない事象なのだから。

 

「ミセス」

「おおっと……我ながらナイスキャッチ」

 

 今の今まで手に持っていた拳銃をリリィとミセスの居る方向に投げる。ミセスは手から薔薇を生やしてそれを見事キャッチした。

 

 ミセス・ローズの“個性”は「薔薇」。身体から薔薇を生やし、自在に操ることができる“個性”である。ミセスの練度により、生やされる薔薇はそんじょそこらの物体よりも断然強度が高く生やされる速度も早く、その形もある程度自由自在である。

 

 だからこそアンジェラは、ミセスにリリィを託したのだ。

 

「アンジェラ……蹴散らしてやってください」

「言われなくてもそうするさ」

 

 リリィとアンジェラの視線が一瞬合う。アンジェラは無表情のまま、頷いた。

 

「ははは、貫いて殺す! 強い“個性”を持ちながら、ヒーローにならない者など、この世界には必要ない!!」

「…………そう、それがあんたの答えか。

 

 

 

 

 

 

 

 なら、死ね」

 

 アンジェラは冷たくそう言い放つと、グリフォンの認識を遥かに超えた速度でグリフォンに接近しその巨体を空中へと蹴り上げる。

 

 グリフォンは、アンジェラに何をされたのかも認識出来なかった。

 

 否、認識する隙すら、与えられなかった。

 

 蹴り上げられ空中に放り出されたグリフォンの巨体へ、アンジェラは追撃をかける。

 

 嘴と爪の全てを血が出るまで叩き割り、胴体に何度も蹴りを入れ、撲りつけ。その全てが音速を超えた認識外のスピードで行われ、アンジェラの元々の力と、スピードの相乗効果で凄まじい威力……とても人間へ向けるような威力ではないそれを、アンジェラは冷徹な瞳で、何度も何度も執拗に、グリフォンの身体へと叩き込む。

 

 バキッ、ドガっ、バキャっ!! と、およそ人間の身体から聞こえていいものではない音が周囲に響き渡る。確実に、いくつか骨も折れているだろう。いや、アンジェラは折るつもりでやっている。

 

 大事な大事な友人を絶望の底に追いやろうとした輩に、与える慈悲などアンジェラには存在しない。

 

 これぞまさしく、ファントムラッシュ。グリフォンには、何度も何度もソニックブームが発生したかと思ったら、途切れ途切れにアンジェラが姿を現していたように見えただろう。

 

「ッ、オラッ!!」

 

 ドゴォォッ!!! 

 

 最後の一撃とばかりに、アンジェラは今までで一番の速度を乗せた踵落としを、グリフォンの背に叩き落した。ソニックブームを発生させながら与えられたその一撃は、グリフォンを床へと叩きつけた。床に大きくヒビが入る。ここまでのことをしていても床が崩れて崩落していないのは、ソルフェジオが事前に魔法で床の強度を補強していたからだ。上の階への衝撃は瓦礫が落ちるだけで済むが、下の階は色々とそうもいかない。

 

 それはともかく、アンジェラはグリフォンの近くに着地する。

 

 グリフォンの眼に映っていたのは、まるでゴミを見るかのような視線をこちらに向ける、空色の魔女。

 

「…………この、ゲス外道が。生かしてもらえてるだけ有り難いと思え」

 

 アンジェラがそう低く言い放つと、グリフォンの意識は遠くなり、“個性”が解除された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後。

 グリフォンは令状を持って駆けつけたGUNによって逮捕された。

 

 グリフォンは死んではいないが全身骨折まみれで、アンジェラは流石にやり過ぎだとお偉いさんに怒られたが、元々GUNはアンジェラに「殺しさえしなければ何をしても、どれだけ怪我をさせてもいい」と自分達で先に言っていたため、怒られる以外の大々的なお咎めは無かった。

 

 そしてこの一連の件に加担した、一部のグリフォンのシンパ達や、GUNの追跡を逃れた公安委員数名は、ソニック達の手で事前に潰されていた。潰された側は少しばかり怪我が多かったような気がしたが、きっと気の所為だろう。気の所為だと思う。

 

 また、程なくしてグリフォンのシンパではなくてもリリィをヒーローにしようと付け狙っていたヒーロー達の情報が、ネット上や週刊誌、テレビなどで晒されるという事態が発生した。中には、賄賂などの不正を晒された者も居たそうで、そういう者達は数日と経たずヒーローを辞めていった。

 

 この情報開示の裏でミセス・ローズとアンリーゼ大学が動いていたという事実を知る者は、ごく僅かしか居ない。

 

 

 脅しには参加していなくとも、リリィの力を欲した公安委員も多く居たが、GUNと警察によって公安委員の不正を多く暴かれ、あるサポートアイテムも手掛ける世界的な電子メーカーの社長に「リリィから手を引かなければ、今後一切ラフリオンのヒーローにはサポートアイテムを提供しない」と宣言され、極めつけにミセス・ローズから、「リリィから手を引かないのであれば、即座にヒーロー免許を返納……いや、粉々にして使い物にならなくする。ちなみにうちの相棒(サイドキック)達も同様の結論を出した」と脅しをかけられ、ラフリオンのヒーロー公安委員会は、「今後一切リリィに干渉しない」という誓約書を書かされるハメになった。

 

 

 まぁ、アンジェラには関係のない話だ。

 

 一番大事なのは、これからもリリィが憧れを追い続けられるということだけである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一連の事後処理が終わり、此度の一件から一週間が過ぎた頃。ミセスは、グリーンヒルの小高い丘を訪れていた。周囲に咲き誇る空色のビャクヤカスミの花々が、夜風に揺れて花弁を散らす。

 

「……あなたの忘れ形見は、憧れを望んで、追いかける道を選んだ。それを邪魔しようとした奴らは、あの子の友達が追い払った。

 

 これで少しは、あなたも枕を高くして眠れるわよね」

 

 ここは、彼女にとって思い入れの深い場所。かつての親友と出会い、そして永遠に別れた場所。

 

 彼女がここに埋まっているわけではない。

 

 しかし、ミセスの脚は自然とこちらに向いていた。

 

 

 

 

 

 

『ローザ。あなたがヒーローになりたいと思ったように、私は言葉の歴史を紐解きたいと思ったの。

 

 それって、普通のことだと思わない?』

『流石に、語学史は割とマイナーだと思う』

『あはは、そうだけど、そうじゃないよ』

 

 今でも思い出す、彼女とのある会話。

 

 ここに来れば、何度だって鮮明に思い出せる。

 

 あの時も、空色のビャクヤカスミが大輪の花を咲かせていた。

 

『あなたはヒーローに、私は語学史の世界に。

 

 世界は違えど、その始まりの感情は同じ。人間であれば誰しもが普遍的に持つ。

 

 ねぇ、ローザ。知ってる?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……あれ、ミセスじゃないですか。どうしたんです、こんな時間に」

 

 物思いにふっけていたミセスだったが、聞き覚えのある幼い声に振り返ると、そこにはよく見知った姿があった。

 

「アンジェラ? どうして……」

「どうしてって、オレは夜風に当たりに来ただけですけど」

「……そっか、この近くに住んでるんだものね。そもそもあなたに距離なんてもの、あってないようなものでしょうけど」

 

 ミセスは呆れたかのように笑う。

 

「ここはいいですよね、オレもたまに来ますけど……いやー、それにしても見事に咲いたもんだ」

 

 アンジェラはそう言いながら、咲き誇るビャクヤカスミに目を向けた。風で飛ばされた花びらが、月光に照らされて輝きを放つ。

 

「……アンジェラは知ってる? 空色のビャクヤカスミのもう一つの名前と、花言葉を」

「そりゃ、知ってますよ。当然でしょう?」

「あはは、そうだ、そうだったわね。よく考えなくても当然だったわね」

 

 ミセスは失念していたとばかりに笑う。そうだ、彼女が知っているのは、至極当然のことなのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「だって、自分の名前なんですから」

 

 

 

 

 空色のビャクヤカスミのもう一つの名は、「フーディルハイン」。

 

 その花言葉は、「私の旅路はあなたと共にある」、「残酷な真実」、「偽りの幸福論」、

 

 

 

 

 

 そして、「何よりも輝かしい憧れ」。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………………」

 

 かの事件の全てを語り終え、アンジェラはゆっくりと口を閉ざす。

 

 洸汰に渡された皿に盛られたカレーは、もう既になくなっていた。

 

「そりゃ、世の中のヒーロー全てがグリフォンみたいなのとは、口が裂けても言えないさ。事実、あの時手を貸してくれたミセスも、またヒーローだ。

 

 だけど、職業としてのヒーローはあっても本当の「概念的なヒーロー」は存在しない。ヒーローなんて名乗ってても、結局は利己的だったり自分の思想を相手に押し付けたり、なんてことはままある話だ。

 

 ……この世界でヒーローって名乗ってる奴らは、皆「人間」でしかないんだよ」

「……じゃあ、パパとママは、なんで、ヒーローなんてやってたのさ」

 

 洸汰は涙目になりながらアンジェラの顔を覗き込む。アンジェラはうーん、と考える素振りを見せた。

 

「流石にそれは分からん。オレはその人達のことよく知らないからな。

 

 

 

 

 

 ……でも」

 

 アンジェラは魂の残響(ソウルオブティアーズ)に指先でそっと触れて、口を開いた。

 

「リリィも、お前の両親も、始まりの感情は多分一緒だ。

 

 命の危険や脅迫……」

 

 ふわり、と風が吹き、アンジェラの髪が浮き上がる。その月光に照らされた姿がまるで天使のようで、洸汰は思わず見惚れてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……そんな程度じゃ、

 

ヒトの「憧れ」は、止められないし、終わらないんだ」

「憧れ………」

 

洸汰は、残酷でさえあるアンジェラのその言葉が、何故かスッ……と胸の内に収まったような気がした。

 

「憧れを追うことも、親であることも、何も間違ったことじゃない。子供に手を挙げたりせず、ちゃんと愛情を与えてやれるのならな。

 

 

 

お前の両親も、そうだったんだろ?」

 

アンジェラはそう言うと、優しく洸汰に微笑みかける。

 

洸汰は物心ついたばかりの頃の両親を思い出して、

 

「……………うん」

 

力強く、頷いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 







どうも、えきねこです。よろしくおねがいします。

「憧れに捧ぐ白百合」、アンジェラさんの過去回想編いかがでしたでしょうか。とりあえず、私的にはカオティクスとルージュさんの出番作れたから満ぞ(殴




こらそこ、戦闘があっさりすぎとか言わない。流石にこれ以上過去回想編を伸ばしたくないんや。
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