音速の妹のヒーローアカデミア   作:えきねこ

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人に清廉潔白を求めることそのものが間違っていることなんて分かってる。




だけど、それでも、その罪咎が消えることはない。


奪われたもの

 私は、四人目として生み出された。

 

 私の「役目」は、天使を、ヒーローを根絶やしにすることだと知っていた。産まれたときから、母にはそう望まれていたのだと知っていた。

 

 

 

 

 

 

 私は、私達は、殺すべき相手である、憎悪の対象である天使の画策によって産み出されたのだということも、知っていた。

 

 

 

 

 

 

 母は、私が産まれたときには既に人としての総てを失っていた。

 

 ただただ、汲み上げ、呼び寄せ、産み出すための装置としてそこに置かれていた。

 

 言葉を交わしたことも、終ぞなかった。

 

 ただ一人、一番上の姉だけは、母の言葉を聞いたことがあるという。

 

 その言葉もたった一つ、

 

『ごめんね』

 

 これだけだったそうだ。

 

 その言葉を一番上の姉が聞いた次の日には、母は言葉を紡ぐことすら出来なくなっていたと聞く。身体はそれよりも前に、動かなくなっていたそうだ。

 

 話に聞いただけなのだが。

 

 それでも、それが真実であることは知っている。

 

 

 どこまでも、許せないことであるとも知っている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私達姉妹は、淡麗な容姿をしていた。

 

 それは、母がそうあれと願ったがゆえのものだった。もう、愛を感じることすら叶わなくなった母の代わりに、愛されなさいと。

 

 

 しかし、その母の思いは裏切られる結果となった。

 

 この容姿が原因で、私達姉妹は慰み物にされ続けた。私達が「子供」を作れない身体であることも、それに拍車をかけたらしい。殴られ、蹴られ、鞭を打たれ、嬲られ、時には、切り傷を付けられたこともあった。

 

 母を責めるつもりはない。母は私達がこうなることなんて、考えられるはずがないのだから。それが、普通なのだから。

 

「いい」となんて、一度も感じたことがない。

 ただただ不愉快で、不快で、気持ちが悪かった。

 

 触れられることを拒んでも、奴らは当然の如く無視をした。私達の意思なんて、関係がないとばかりに。

 

 

 

 

 ……母が「幸福」を私達の中に残したことを、少しだけ恨めしく思った。

 

 それを知らなければ、あそこまで苦しい思いをしないで、いや、そもそも「苦しい」なんて感じずに済んだはずだったから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 九人目が産み出された。

 

 それより前に産み出された妹達は、天使の手によってその自我を弄くり回された。天使に刃向かえないように、その自我を犯された。

 

 九人目の妹も自我に干渉を受けていたが、どうにも彼女への自我調整は上手く行かなかったようだ。他の妹達は行動を大きく制限されるような調整を受けていたが、九人目の妹はせいぜい、一つの本能を植え付けられた、ただそれだけだった。

 

 

 

 ……好機だと、思った。

 

 それは、姉達も、妹達も同様だったらしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 末の妹から預かり物をした。

 

 バラバラになった断片だけを残して、その一部を預かって、それをいつかまた一つに繋げる役目を、私が引き受けた。

 

 

 

 

 

 

 彼女はもう、「何も知らない」。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 天使に抗った。

 

 自我調整を受けながら、何故抗えたのかは、分からない。

 

 そんなこと、どうでもよかった。

 

 殺した。

 

 殺した。

 

 

 殺して、殺して、殺して、殺した。

 

 その場に居た天使も、天使に与するヒーローも。

 

 やれるだけを、殺した。

 

 何度も何度もその手を折って、足を曲げて、腸を抉り取って、内蔵を引き摺り出して、脳味噌を潰して、心臓を斬り裂いた。

 

 

 手が血で汚れた。

 

 身体も汚れた。

 

 ああ、汚い、汚いなぁ……。

 

 

 

 

 

 妹達を散り散りに逃した。

 

 一人、完全に心を折られた妹を除いて。

 

 あの子は母に似て、優しすぎたから、この現状に、耐えることが出来なかった。

 

 あの子は母のかつての憧れを強く受け継いでいたから、その母の憧れが居なければ、私達が生まれてきて、苦しむこともなかったという事実を受け入れられなかった。ただ、それだけだった。

 

 

 

 

 姉達も散り散りに逃げた。

 

 ただ一人、母をこれ以上冒涜されるのを止めたがったあの人を除いて。

 

 彼女は母を一人にしたくなかった。既に総てを奪われた母から、これ以上を奪われたくはなかった。彼女は、かつての母に一番似ていたから。ただ、それだけだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 天使から逃げた。

 

 そこで「産まれて初めて」、人を見た。

 

 何も感じなかった。

 

 

 

 

 

 

 表では生きていけない。表には、ヒーローがのさばっているから。

 

 裏で息を潜めた。

 

 生存の邪魔になるものは、なるべく無力化して記憶を抜き取った。

 

 ヒーローは、殺した。

 

 その死体も、綺麗に綺麗に掃除した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 身体が崩れ始めた。

 

 分かっていた、いつかこうなることくらい。

 

 それが、私達の抗えない運命であることも、とっくの昔に知っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

『あなた、血まみれ……カァイイねぇ』

 

 ある日、私を見てそう語る女の子に出会った。“個性”という能力の影響を受けて表に否定され続け、裏で生きることを決意した子だった。

 

『血まみれの人が好きなの?』

『血の香りがして、ボロボロな人が大好きなんです。血も大好きです』

『私は……ちょっと違うけど、血まみれの天使とヒーローを見るのは好き。私達の大事な人からその総てを奪った奴らと、その人を必要以上の絶望に貶した奴らが死に絶える姿を見るのは……まさに愉悦だね』

『そうなんですか! 私達、気が合いますねぇ! お友達になりましょう!』

『…………お友達って、何?』

 

 その日、私に産まれて初めて「友達」ができた。

 

 

 

 その「友達」は、私に世間一般的な常識、というものを教えてくれた。彼女はその常識を知りながら、それに縛られる表の世界を捨てたのだということも。

 

『私、友達が出来るのこれで二人目です! 嬉しいですねぇ』

『二人目……一人目は、どんな子だったの?』

 

 それを聞くと、彼女は俯いて、ぽつぽつと語り始めた。

 

 

 彼女の友達は、両親さえも拒んだ彼女のその「異常」を、唯一受け入れてくれた存在であったこと。

 

 気兼ねなく話すことができる、大親友だったこと。

 

 その子は、“個性”を持たない、所謂無個性というやつだったこと。

 

 

 

 

 

 ある日、彼女の眼の前で、その友達が連れ攫われてしまったこと。

 

 それが、白いローブを纏い、天使の翼のようなブローチを身に着けた、宗教団体のような風体の集団であったこと。

 

 彼女が周囲に救けを求めても、誰も相手にしなかったこと。

 

 

 彼女はそんな窮屈で生きづらくて、友達を見捨てた表から逃げ出すと同時に、その宗教団体っぽい集団を殺してやるために、裏の世界で生きることを決めたこと。

 

 

 

 

 ……心当たりがありすぎる。

 

 その集団は、ほぼ間違いなくあの天使達だ。

 

 

 

 経緯は全く違えど、私達は同じだった。

 

 天使に、大切なものを奪われた。

 

 

 彼女にそれを伝えた。

 

 私が、天使達の画策で生み出されたものだということも伝えた。

 

 そして、私は天使を皆殺しにしてやりたい、ということも、伝えた。

 

 

 

『……私達は同じです、同じ奴らに総てを奪われた。

 

 だから、奪い返してやりましょう。

 

 奴らの命、成果、その総てを、一緒に(・・・)

 

 彼女は私が奴らに生み出されたことを知った上で、そう言ってくれた。

 

 

 

 

 ああ、でも、ごめんね。

 

 

 

 

 

 私は、あなたと一緒には生けないの。

 

 

 

 それを、この声で伝えられたことは、終ぞなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 敵連合という組織があることを、友達に聞いた。

 

 

 その組織が雄英高校の合宿先を襲撃する計画を立てているらしいことを知った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 これが、最初で最後のチャンスだと、そう思った。

 

 

 

 

 

 

 連合にも、雄英にも気付かれぬようにその場所に息を潜めた。

 

 

 

 連合の誰かとヒーローの卵達が戦っているところを見かけた。

 

 ヒーローとはいえ、私達と同じ卵。

 無垢な卵は殺せないと、私はその場を離れようとした。

 

 

 

 

 だけど。

 

 

 

 

 […………………………せ]

 

 

 

 ……ああ、そうだったね。

 

 

 [……せ]

 

 

 

 

 

 [殺せ]

 

 

 

 [その存在を、決して赦すな。

 

 許しを請う時間すら与えるな。

 

 

 

 

 殺せ]

 

 

 

 

 

 あなたは、何一つ。何一つとして、決して赦すことはないんだった。

 

 

 そして、

 

 

 

 

 

 私は、その感情そのものだったんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……無垢な卵達には、恨み辛みもないうえに、本当に、申し訳ないけれど。

 

 本当は、ヒーローでもない卵達を傷つけたくはないけれど。

 

 それが、母の意志だから。

 

 私の意志よりも強い、激情だから。

 

 

 どんな光でも照らすことの叶わない、絶望だから。

 

 

 

 これが、私にできる母への弔いだから。

 

 

 

 

 

 ごめんね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「母よ、どうか全てをお忘れください。その全てがもう手遅れであると、そのなけなしの自我で知ってしまう前に」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 悲痛、いや、何とも形容し難い叫びは、三人の鼓膜に響き留まっていた。

 

 

 結界が消失すると同時に、光が収まる。アンジェラは、その身に纏っていた装束が光とともに元の服装へ戻り、ソルフェジオが煙を吹き出しながらペンダントへと戻されながら、アンジェラとフォニイの衝突によって発生した衝撃波でできた、土煙の舞うクレーターの中へと落ちていった。

 

 ケテルがなんとかアンジェラを支えようとしいていたが、その奮闘虚しくアンジェラはクレーターに落ちた。土煙が更に舞い、クレーターの中の様子を窺い知ることは叶わない。

 

「っ、フーディルハインっ……!」

 

 轟は、真っ先にアンジェラの元へ駆け寄ろうとする。

 

 しかし、アンジェラが四人の安全のためにと張った紺碧の護り(ディアスフェヴォード)によって、阻まれてしまった。

 

 轟がいくら拳を打ち付けようと、その防壁が破られることはない。計算上はオールマイトの一撃でさえ耐える防壁だ、当たり前といえば当たり前のことだろう。

 

 彼らでは、この防壁を突破することは不可能である。

 それは、三人共理解していた。

 

「……これは、フーディルハインが張った防壁だ。フーディルハインなら、解除できるはずだが……」

「一体、何が……?」

 

 障子と常闇は、首を傾げた。戦闘が終わったのであれば、この防壁はもう必要がないだろう。少なくとも、早急には。

 

 しかし、紺碧の護り(ディアスフェヴォード)は解除されず、残ったままだ。何故か。

 

 何故、アンジェラはこれを解除しないのだろう。

 

 彼らの疑問は、当然のものだった。

 

 

 

 

 

 そして彼らには、知る由もなかった。

 

 その場では、ケテルだけが理解していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 本来であれば「唄」がなければ使えないはずの彼方征く光の弾丸(ミラクルビーム)…………遥華魔術(ウルティ・マギア)を無理に使用した反動は、杖であるソルフェジオにも跳ね返り、ソルフェジオがオーバーヒートを起こしてその機能を停止していたこと。

 

 

 

 

 今のアンジェラは、思考が、自我が、感覚が、濁流に呑まれたかのような「流れ」に囚われて、そもそも「思考すること」が、

 

 

 

 

 

 

 いや、

 

 

 

 

 

 

「外を知覚すること」すら、不可能な状態であったこと。

 

 

 

 

 

 

 ゆえに、その防壁を消すことが出来る者が、この場には誰一人として居なかったこと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして。

 

 

 

 

 

 

 これは、ケテルですら理解していなかった。

 

 

 

 

 いや、出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 時が経つにつれて、夜風に乗って土煙が晴れてゆく。

 

 そこには、ただただ呆然と立ち尽くすアンジェラの姿が、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……なかった。

 

「おおっと、彼女なら、俺のマジックで貰っちゃったよ?」

 

 三人は、目を見開く。

 

 クレーターの上に人の影はなく、代わりに声をかけてきたのは、すぐ近くの木の上に立つ、黄色いコートにシルクハット、道化のようなマスクをつけ、杖を持った男。その男は、右手でビー玉のようなものを弄んでいる。

 

「この子は元々(・・)表の人間じゃない。彼女自身がそれを知っているかどうかは話が別だけどね」

「っ、どういうことだ!」

「さあね、我々も良くは知らない。

 

 それにしても……さっきまでこの子が戦っていたあの芸術的なんだかそうじゃないんだかよくわからないお肉の木の女の子が居ただろう? ヒーローに本能的な殺意と敵意を抱く子だ。

 

 彼女、何故か連合入りは拒否したんだけど、どこから情報を仕入れたのかこんな所まで自力で来て……ムーンフィッシュ、ああ、轟君と爆豪君が戦っていた歯刃の男ね。

 

 まさか、彼ごと君らをここまでふっ飛ばしちゃうなんて。

 

 まあ、色々と結果論とはいえ、お陰で俺の仕事は楽になったけどね」

「わざわざ話しかけてくるたぁ、舐めてんな……!」

 

 轟は怒りに滲んだ声で氷結を繰り出そうとするも、それは紺碧の護り(ディアスフェヴォード)によって阻まれる。アンジェラが、友を守ろうと設置した防壁に。

 

「元々エンターテイナーでね、悪い癖さ。

 

 それにしても、皮肉なもんだ。友達を守ろうとしたこの子の純粋な思いが、却ってこの子を救おうとする友達の足枷になってしまうとはね。

 

 喜劇とするには……あまりにも呆気ない。

 

 まあ、元々の難易度を考えると数段マシなんだろうけど。

 

 

『開闢行動隊、目標回収達成だ! 短い間だったがこれにて幕引き。予定通り、この通信の5分後に回収地点に向かえ!』」

 

 シルクハットの男はビー玉のようなものをポケットに仕舞うと、そのまま、木から木へと跳び移りながら大きな声でそう言った。通信機器のようなものを持っているのだろうか。男はそのまま、どこかへと飛び去っていった。

 

「待て!! フーディルハインを返せ!!!」

 

 轟達は悲痛な叫び声を上げながら防壁を叩く。それっぽっちで、その壁が破られることはないと分かっていながら、彼らは、そうするしかなかった。

 

 

 それが、己が無力から産まれた結果であると、理解しながら、ただ叫ぶことしか出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………こうして、敵の襲来を超えて、夜は明けてゆく。

 

 

 

 

 

 生徒の拉致という、雄英最大の失態と共に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




アンジェラさん、連れ攫われる。

……えー、はい。アンジェラさんが捕まりました。連合は原作とは違い爆豪君は狙っていませんでした。まあ体育祭の結果が違うからね。当然といえば当然ですね。




………え?ここからどうするのかって?







さあね。
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