音速の妹のヒーローアカデミア   作:えきねこ

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 ……ヒーローも、天使も、“個性”も、この世界の全てが憎たらしい。



 母を絶望に叩き落した、その全て、









 壊してしまえば、全て終わる。




(Tsadi)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………」

 

 意識が一気に浮上する。

 

 まずは触覚が、次に聴覚が、周囲の状況を拾う。どうやら、ソファの上にでも寝かされているらしい。複数人の話し声が聞こえてくる。そして、明瞭になった聴覚と、開かれ光を取り込んだ視覚で、情報が完結した。

 

 

 

 

 

 

「あ、目が覚めたみたいですよ!」

 

 最初に彼女の目に飛び込んできたのは、自分の顔を覗き込む女子高生らしき少女の姿。どことなくふわふわとした意識の中、アンジェラは取り敢えずソファの上に起き上がることにした。ものすごくだるくて目眩もする上に頭痛も酷い。吐く息も若干熱く感じる。どうやら、リミッターが壊れているらしい。

 

「ようやくか、待ちくたびれたぜ! 早っ!」

「あら、まだ意識がハッキリしたわけじゃないみたい。どこかぽわぽわしてるわ」

「まさか、2日も眠り続けるとはなあ……まあ、これでようやく話ができるわけだ」

 

 まだしょぼしょぼとする視界で、ここが自分の知らない場所であることと、周囲に居る人間達の中にアンジェラが遭遇した敵が混ざっていたことから、彼らが敵連合であることを認識する。

 

「ようやくか……寝坊助だな」

 

 そして、アンジェラの視覚と聴覚が敵連合のリーダーである死柄木弔を認識したその瞬間、アンジェラは自分が敵連合に拉致られたことをようやく認識し、そして、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……お茶くれ。なければ水道水でも可」

「拉致られて目を覚ましてからの第一声がそれかよ」

 

 耐えきれないほどの喉の渇きを感じたアンジェラは、何をするよりもまず水分を要求した。死柄木は思わずツッコミを入れ、トガヒミコと全身タイツの男……トゥワイスは思わず吹き出す。

 

「あとお腹空いた」

「流石に厚かましいぞお前」

 

 二日間寝込み続けていたとはいえ、いきなり言外に「飯よこせ」と言ったアンジェラに、死柄木はつい真顔になって言う。しかし、今度はアンジェラが真顔になって、口を開いた。

 

「いきなり襲ってきて、あまつさえ拉致りやがった奴らにだけは言われたくない」

「確かに、それは正論だ」

 

 犯罪者なのに、アンジェラのド正論についつい同意してしまった死柄木。一連の漫才のようなやり取りを見せられた連合のメンバーの半分は、堪えきれずに笑っている。それ以外のメンバーも、反応をせずにはいられなかった。

 

「あらあら、随分と図太い子ね」

「自分の立場が分かってて言ってるのだとしたら……相当なイカれ女だぞこいつ」

「如何なる状況であろうとも、平静を保つ姿……やはり、ステインが見初めた者に相応しい!」

 

 スピナーはどこか特別なものを見るかのような眼差しでアンジェラを見ている。襲撃時や先の言動から察するに、ヒーロー殺しステインの熱狂的なファンか何からしい。同時に、アンジェラがステインと接触したことがあることを知っているらしい言動から、単なる模倣犯ではないこともわかる。良し悪しはともかく、ステインと繋がっていた敵連合に所属していることからもそれは明らかだ。

 

「まあいいや……黒霧、あいつに茶と軽食、出してやれ」

「良いのですか?」

「あいつは客人だ。客人はもてなすものだろ? それに、前に奢られたアイスの分を返す」

「なるほど……?」

 

 黒霧は少々困惑しながらも、今ある食料品で一体何が作れるかという思案に暮れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カメラのフラッシュがたかれ、瞬きすることすら億劫になるような一室。

 

 ここで、雄英高校一年担任のイレイザーヘッド、ブラドキング、そして、雄英高校校長の根津校長による謝罪会見が行われていた。全員がスーツを身に着け、相澤先生に至っては普段生やしっぱなしの無精髭が綺麗に手入れされ、無造作に降ろされている髪もまとめ上げられている。

 

『この度……我々の不備から、ヒーロー科一年生二十七名に被害が及んでしまったこと、ヒーロー育成の場でありながら、敵意への防御を怠り社会に不安を与えてしまったこと、謹んでお詫び申し上げます。誠に申し訳ございませんでした』

 

 そう言い、三人は深々と頭を下げた。カメラのフラッシュがたかれる音が重なる。

 

『JHNテレビです。雄英高校は今年に入って4回、生徒が敵と接触していますが、今回生徒に被害が出るまで、各ご家庭にはどのような説明をされていたのか、また、具体的にどのような対策を行ってきたのかお聞かせください』

『周辺地域の警備強化。校内の防犯システム再検討。「強い姿勢」で、生徒の安全を保証する……と、説明しておりました』

 

 JHNテレビの記者の質問に、根津校長が答える。これまだ、ありがちな質問だ。情報を発信することが仕事である彼らにとっては、雄英高校の基本姿勢を再確認する上で必要な質問であり、雄英高校としても来ることは当然予測出来る質問だ。

 

 

 

「不思議な話だよなぁ、何故ヒーローが責められてる? 奴らは少ーし対応がズレてて、その上、こっちがちょっと同情するくらいに間と運が悪かっただけだ。

 

 守るのが仕事だから? お前らは完璧で居ろって? 誰にだってミスのひとつやふたつはあるし、時には運が悪い事もあるだろ。現代ヒーローってのはかたっ苦しいねぇ」

「税金で暮らしてるようなもんだからな。多少はそういう不満が出るのも仕方ない所はある。

 

 ま、完璧で居ろ、は人間として流石に理不尽な話だとは思うが……それを言うなら、あんたは一度もミスのない人生を歩んで来られたのか、って話だ。

 

 そんな人間、存在できるはずがないのに」

 

 テレビに流れる記者会見の様子を真顔で見てそう言うと、アンジェラは出されたサンドイッチを少しずつ頬張る。ハムにキュウリとレタスが挟まれた、シンプルなサンドイッチだ。普段よりも食べるスピードは遅いところを見ると、食欲はあれど、流石に普段通りとはいかないようだ。

 

「守るという行為に対価が発生した時点で、ヒーローはヒーローでなくなった。これが、ステインのご教示!」

 

 スピナーが放った主張に、アンジェラはお茶をごくごくと飲み干すと、口を開いた。

 

 

 

 

「じゃああんたは、命を懸けて誰かを守った人に、「何も求めるな」と……そう言いたいのか? 

 

 自分が死ぬかもしれない状況で、それでも他者を救い出してみせた人間に……ただ、ヒーローを名乗っているから、というだけの理由で?」

 

 どこまでも純真無垢。しかし、確かな狂気と殺意が垣間見えるその瞳が、スピナーを射抜く。心臓を鷲掴みにされたかのような奇妙な感覚が、スピナーを襲う。スピナーはあまりの恐怖で動けなくなり、他の面々も、アンジェラの並々ならぬ様子に無意識に身震いした。

 

「…………一つ、言っておいてやる。

 

 あんたの言うようなヒーローは、そもそも存在し得ない(・・・・・・)

 人間が人間である以上、存在することそのものが不可能だ」

 

 どこまでも、冷徹に、冷淡に、機械的に、無機質に。

 まるで生気を感じさせない瞳で、アンジェラは淡々と述べる。

 

「……やっぱ、お前イカれてるよ」

「褒め言葉として受け取っとく」

「うちに来ないか?」

「それは面倒だから遠慮しとくぜ」

「残念、断られたか」

 

 スピナーから目を離したアンジェラは、死柄木とそんな会話を繰り広げながらサンドイッチに齧り付いた。

 

 

 

 

 

 テレビの中では、根津校長の答弁が終わり、今度は別の記者が立ち上がり質問する。

 

『生徒の安全……と仰りましたが、イレイザーヘッドさん、事件の最中、生徒に戦うように促したそうですね。意図をお聞かせください』

『私共が状況を把握出来なかったため、最悪の事態を避けるべく、そう判断しました』

 

 相澤先生の返答に、記者は求めた答えではなかったのか若干顔を歪ませて言う。

 

『最悪の事態とは? 二十六名もの被害者と、一名の拉致は最悪と言えませんか?』

『私があの場で想定した最悪は……生徒がなすすべなく敵に殺害されることでした』

『被害の大半を占めるガス攻撃……敵の“個性”から催涙ガスの類であると判明しております。拳藤さん鉄哲君の迅速な対応のおかげで、全員命に別条はなく、生徒らのメンタルケアも行っておりますが、深刻な心的外傷などは今のところ見受けられません』

 

 相澤先生と根津校長の返答は、やはりその記者の求める答えではなかった。望むような答えが返ってくるまで徹底的に洗い出そうとでもしているのか、その記者は顔を歪ませ敵意を隠さずに口を開いた。

 

『不幸中の幸い、だとでも?』

『未来を侵されることが、最悪だと考えております』

『攫われたフーディルハインさんについても、同じことが言えますか?』

 

 その質問に、相澤先生は身構えた。

 

『体育祭優勝、あの歳で既に大卒資格持ちなど、経歴や“個性”こそ素晴らしいものです。体育祭におけるエンデヴァーへの問題発言はありますが、それだけでは連合が彼女を攫う理由には少々心もとない。

 

 ……理由があるとすれば、彼女の過去に、何かがあった、としか考えられません。

 

 これはあくまでも噂なのですが……彼女には、7年前以前の経歴が一切存在しないとか。

 

 私としましては、彼女が元々裏の世界の人間であり、周囲にそれを隠しており、今回の襲撃事件を手引きしたと考えるのですが……そこの所は、どうなのでしょうか?』

 

 攻撃的な記者の発言を、アンジェラはテレビ越しに耳に入れ、溜息を吐く。

 

『我々は、フーディルハインさんが襲撃事件の手引きをしたとは考えておりません。彼女は襲撃時、ウォーターホースのお子さんを救おうと、クラスメイトの被害を抑えようと行動し、敵と戦いました。

 

 その行動は彼女の信念ゆえであると、友を思う純粋な心がゆえであると、彼女は「友」を裏切るようなことはしないと、私は確信しております』

『根拠になっておりませんが? 感情論ではなく、彼女の経歴を含めてちゃんとした証拠を提示していただきたい』

 

 

 

「あの記者も馬鹿だなぁ」

 

 

 嘲笑が込められた視線が、テレビの中の記者に向けられる。

 

『彼女の経歴についてはプライバシーの問題もあるので、ここでの発言は控えさせていただきます。

 

 しかし、我々は彼女が敵と繋がっているとは考えておりません』

『我々も手をこまねいているわけではありません。現在、警察と共に捜査を進めております。我が校の生徒は、必ず取り戻します』

 

 

 

 

 

 

 

 

存在しないもの(・・・・・・・)を血眼になって探したって、見つかることは絶対にないのに」

 

 

 

 

 

 

 

「……それ、どういう…………」

「どうもなにも……言葉通りの、意味でしかないんだが」

 

 死柄木がアンジェラの発言について問い質そうとする前に、アンジェラが「ああ、そうだ」とけだるげに口を開いた。

 

 その視線は、テレビからトガヒミコへと移されていた。

 

「トガヒミコ……って、お前だよな?」

「? はい、そうですが」

「フォニイから、言伝を預かってる」

 

 トガヒミコは、目を見開いた。まさか、アンジェラの口からその名前が出てくるとは、思っていなかったからだ。

 

 お別れを言うことすら出来なかった友達であり、アンジェラにとっては単なる敵でしかないはずの、彼女の名前を。

 

 アンジェラはそんなトガヒミコの様子は放っておいて続ける。

 

「一字一句、そのまま伝えるぞ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『……まず、何も伝えることが出来なくて、ごめんなさい。

 私があなたと出会ったあの時、いや、私が産まれたあの時からもう、私は自分が十年と生きることが出来ないと分かっていたのに、それを伝えることが出来なかった。悲しませたくなかった。伝えられていれば、あなたとの時間をもっと大切に過ごせたはずなのに。

 

 後の祭りだということは、分かってる。本当に、ごめんなさい。

 

 そして、私の友達になってくれて、今まで仲良くしてくれて、ありがとう。ふぉーちゃんってあだ名で呼んでくれて、嬉しかった。私の短すぎる一生の中で、あなたと過ごした時間が一番楽しくて、幸せだった。今なら分かる、どうして、母が私に「幸福」を残したのかが。

 

 ……ありがとう、トガちゃん。今まで、一緒に居てくれて。

 

 そして、どうか、天使達の翼を切り裂いて、もぎ取ってほしい。

 

 私の分も、どうか……』」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………」

「オレは、お前らのしていることについてどうこう言うつもりはない。それは、オレの仕事じゃないからな。

 

 だけど……トガヒミコ、オレが言うのもなんだが、フォニイのことを、どうか、悲しんでやってくれないか。

 

 それは、友達のお前にしかできないことだから」

 

 そう語るアンジェラは、聖母のような表情をしていた。トガヒミコはその目に涙を浮かべている。どこか、嬉しそうに、そして、友達の死を、心の底から悲しむように。

 

 かくいうアンジェラは、ズキン、と酷い頭痛を感じ、こめかみを手で押さえて座り込みながら、荒く息を吐いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どーもぉ、ピザーラ神野店ですー」

「……誰だよ、わざわざピザなんか頼んだの」

 

 と、突然、外から気の抜けるような声が響き渡る。アンジェラが頭痛に耐えながらついついツッコミを入れた、その時だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「SMAAASH!!!」

 

 丁度、スピナーが背にしていた壁を拳一つでぶち抜いて、オールマイトが姿を現した。完全に不意をつかれた連合のメンバー達は動揺を隠せずに居たが、いち早く動揺から回復した死柄木は声を張り上げる。

 

「黒霧、ゲート!」

 

 しかし、黒霧がゲートを発動させるその前に、シンリンカムイが壊れた壁から現れる。

 

「先制必縛……ウルシ鎖牢!」

 

 そして、“個性”で左腕を樹木のように枝分かれさせて伸ばし、連合のメンバー達を拘束した。

 

「木ぃ!? んなもん……」

 

 ツギハギの男……荼毘は、彼らを拘束する樹木を焼き切ろうとする。

 

 しかし、その瞬間、バーの中を青と赤の風が吹き抜けた。荼毘は反応する間もなく、その意識を刈り取られる。

 

「っ……」

 

 その風の正体を視認出来たのは、その場ではアンジェラだけであった。頭痛が限界に近付き、ふらり、と倒れそうになった彼女の身体を、支える手があった。

 

 

 

 

 

 

「おっと、大丈夫か? アンジェラ」

「……ソニック」

「目ぇ虚ろじゃねえか……どれだけリミッター外してたらそうなるんだ?」

「ナックルズまで……」

 

 目眩のせいでどことなく虚ろな、しかし、真っ直ぐな瞳が捉えたのは、何にも代え難き兄と、兄貴分の姿だった。

 

「流石若手実力派だ、シンリンカムイ! そして、目にも止まらぬ、少年達! 

 

 もう逃げられないぞ、敵連合! 

 

 なぜって? 

 

 

 

 

 

 我々が来た!!」

 

 オールマイトは死柄木の姿をその目で捉え、力強く言い放った。

 

「攻勢時ほど、守りが疎かになるものだ。ピザーラ神野店は、俺達だけじゃない。外はあのエンデヴァーを始め、手練のヒーローと警察とGUNが包囲している」

 

 そう言いながら“個性”を使って扉からニュルっと現れたエッジショットがその扉を開けると、そこには警察とGUNの機動部隊が居た。

 

「フーディルハイン少女、大丈夫……では、なさそうだね」

「予想はしていたが、リミッターが完全にオーバーヒートして使い物にならなくなってる。この様子だと、目眩と頭痛の症状が、ってとこだな」

「……見ただけで分かるんだね! 流石はお兄さん!」

「いや普通は分からねぇだろ」

「……なぁ、替えのリミッターはあるか?」

「あるにはあるが、装甲強化が間に合わなくてここには持ってこれなかった。アンジェラ、ちょっとの間だけ、目眩と頭痛、我慢しててくれ」

「わかった……」

 

 アンジェラは、こめかみに添えた手に力を込めた。

 

「……折角色々こねくり回したのに、何そっちから来てんだよラスボスゥ……! 

 

 ……俺達だけじゃない? そりゃこっちもだ。

 

 

 黒霧!! 持ってこれるだけ持ってこい!!」

 

 死柄木は叫び、この状況を打開できる切り札を出せと黒霧に命令する。

 

 

 しかし、黒霧の“個性”が発動されることはなかった。

 

 

 

 

 

「すみません、死柄木弔……所定の位置にあるはずの脳無が……ない?」

「……は?」

 

 死柄木は動揺する。所定の位置にあるはずの脳無がない。それすなわち、脳無格納庫が制圧されたということを意味する。

 

「やはり君はまだまだ青二才だな、死柄木。敵連合よ、君らはナメ過ぎた。少女の魂を、警察とGUNのたゆまぬ努力を、そして、我々の、彼らの怒りを! 

 

 おいたが過ぎたな、ここで終わりだ、死柄木弔!」

 

 それは、平和の象徴。日本のトップに君臨する、ヒーローの姿。その平和の象徴の鋭い眼光に、連合のメンバー達は思わず萎縮する。特にスピナーは、これがステインが求めたヒーローなのか、と、驚愕に包まれていた。

 

「……ま、そういうことだ。オレ達も妹に手ぇ出されてちょいとキてるんでね……大人しくしておいたほうが身のためだぜ?」

「お前らは、狙う相手を完全に間違えたってことだ……覚悟する間も、あると思うなよ?」

 

 明らかな怒気を含ませた瞳で、ソニックとナックルズは連合を睨み付けた。アンジェラは頭痛が響く頭で、特にソニックがここまで感情を剥き出しにするのも珍しいなぁ、と思っていた。

 

「…………終わりだと? ふざけるな……正義だの平和だの、あやふやなもんで蓋された、この掃き溜めをぶっ壊す。そのために、オールマイトを取り除く。仲間も集まり始めた。ここからなんだよ………………黒霧ッ!!」

 

 死柄木の叫びに呼応するかのように黒霧が何かをしようとした、その時。

 

 

 

 

 パンっ!! 

 

 

 

 

 一発の銃声が響き渡ったかと思うと、黒霧はその意識を失っていた。

 

 銃声の方を振り返ると、そこには一丁の拳銃を構えたシャドウの姿があった。相当キレているのか、いつにも増して仏頂面に磨きがかかっている。

 

「……ただの麻酔弾だ。頭に、相当に強力な、が付くがな。

 ……死んではいない。眠っているだけだ」

「殺すのを我慢した、の間違いなんじゃねえの?」

「結構な殺意を感じたんだが」

「そこ二人、煩いぞ」

 

 そんなふうにくっちゃべる三人だが、その瞳には隠し切れぬ怒りが滲んでいる。

 

 死柄木は、明らかな苛立ちを感じていた。ようやく、始まるところなのに、この掃き溜めのような世界を変えるはずなのに。

 

 ヒーローが、そのうちヒーローがと、見て見ぬふりをされた。「先生」に救われていなければ、死柄木は今を生きることもなかった。

 

 ヒーローが憎い、ヒーロー社会の基盤たるオールマイトが憎い。その全てが、何もかもが!! 

 

 

 

 

 

 そして、死柄木の怒りは、限界を超えた。

 

「ここまでだ、死柄木!!」

「お前が、嫌いだ!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 死柄木の叫びは、一体何に、届いてしまったのだろうか。

 

 

 

 

 

 

「……!!」

 

 その予兆をわずかでも感じ取れたのは、アンジェラだけだった。

 

 

 

 

 瞬間、周囲が目を開くことすら出来ないほどの閃光に包まれた。その場の全員、ヒーローも敵も何も関係なしに、全員が反射的に目を瞑る。

 

 

 

 そして、光が消え去ると…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……なっ!?」

 

 アンジェラと敵連合の姿が、その場から忽然と消えていた。

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