音速の妹のヒーローアカデミア   作:えきねこ

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 不条理に嘆き、理不尽に絶望し、身勝手に怒り。

 そうすることしか、知る由もなかった。

 知る術なんか、分かるはずもなかった。

 分かったところで、受け入れられるわけがない。




 母を、僕らを、傷付け苦しめ絶望させ続けた奴らを信仰しろ、だなんて。






「僕達は死んで生きる。生きて死ぬ。当たり前を知らぬまま。知るは母と同胞たちの怒りと絶望だけ」










 灰色(偽りの平和)で塗り固められた与太話(英雄譚)を終わらせて、





 さあ、幕を上げよう。








 愚かな子供()を称え、冒涜者(天使)狂信者(ヒーロー)を裁くための、血に彩られた舞台(審判)の幕を。








審判(Sin)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あまりにも平然と、訳の分からないことを口走る少女に、ベストジーニストは一瞬、言葉を失った。彼は、眼の前の少女が自分の、普通の人間の価値観が全く通用しない相手なのだと、直感的に理解したのだ。

 

「……っ、予想外に次ぐ予想外……だが、一流はこの程度を失敗の理由になど…………っ!!?」

「うるさい」

 

 ベストジーニストは少女を拘束するべく、“個性”を発動させ自身の衣服の裾を伸ばし少女へと向けたが、少女がベストジーニストに向けた左手に展開された魔法陣から放たれた魔力弾の直撃を受け、その腹を抉られ血を撒き散らし、意識を刈り取られた。

 

「ジーニストさん!!」

「おい、ガジェット!」

 

 ガジェットは咄嗟に飛び出して“個性”で治療を施そうとするも、何故か、一向に傷が塞がらない。ベストジーニストの腹の穴からは、赤い液体と共に、緑色のモヤのようなものが溢れ出ている。ガジェットはそのことに困惑するも、インフィニットに肩を叩かれ、平静を取り戻した。

 

「こういう状況だからこそ、平静を保て。“個性”が効かなくても、できることはある」

「……はい、すみません」

 

 ガジェットはポーチから包帯を取り出し、ベストジーニストの腹に巻いていった。

 

 

 

「この世界は……狂信者(ヒーロー)がのさばりすぎている。そうは思わない?」

 

 少女は再びアンジェラの方を向いて、口を開く。

 

 

 

 

 

 その直後のことだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……!!」

 

 少女は咄嗟に空中へ魔法陣を展開する。

 

 その空中から、月を背に、日本が誇る平和の象徴、オールマイトが飛来し、魔法陣に向かって拳を放った。凄まじい衝撃波と破壊音が周囲に響き渡り、魔法陣はピキピキ……と音を立ててひび割れていく。

 

 このままでは保たないことを確信を抱いた少女は、浮遊しながら拳の軌道上から逸れた。オールマイトは勢い余って地面に激突し、砂煙が舞い起こる。

 

「……オールマイト……平和の、象徴…………」

 

 少女がオールマイトを見るその瞳には、溢れんばかりの憎悪と怒りと殺意が込められていた。少女にとって、オールマイトは決して許せぬ敵の親玉の一人。そんな人物を見る視線が敵意で染まり上がっているのは、当然のことであった。

 

 砂煙が晴れ、その中からオールマイトが姿を現す。オールマイトは空中に浮かぶ少女を目にすると、口を開いた。

 

「……やあ、少女。敵連合のブレーンの男を知らないかい?」

「殺した」

「殺した……君、が?」

 

 少女はどこまでも無垢な表情で頷いた。それのどこが悪いのかと言わんばかりの目だった。

 

「ああ、殺して、中身(こせい)を食べた。

 ……それが、何か?」

「……君は、人を殺して罪悪感を感じたりはしないのかい?」

「不思議なことを言うなぁ、諸悪の根源(オールマイト)狂信者(ヒーロー)は、物分りが悪い生き物だね。そんな生き物で溢れてるこの世界は……実に、くだらない」

 

 そう語る少女の顔には、ヒーローというものに、この世界に対する嘲笑が見て取れた。ヒーローという生き物と、そのフォロワーで溢れ返るこの世界が、汚らわしいとでも言わんばかりの表情だった。

 

 ヒーローに、この世界に対する嫌悪も、怒りも、憎悪も、何もかも、少女は隠すことなく曝け出している。

 

「母は……最初は救けを求めていたよ。きっと、自分が憧れた、ヒーローが救けてくれると、希望を持ち続けていた。

 

 ……母を見捨て、母の全てを奪ったのは、そのヒーローだというのに、

 

 ただでさえ絶望に塗れていた母を、更なる絶望の底へ叩き落したのは、そのヒーローへの強すぎる「憧れ」だというのに」

「……それは、どういう……?」

 

 オールマイトが少女へそう問いかけた、その時。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ビュオオオオっ!! 

 

 その場に荒々しい風が2つ、吹き荒んだ。

 

「……次から次へと……」

 

 少女はそうぼやくと空を切り、自身の周囲に緑色の障壁を作り出す。吹き荒れた2つの風は、少女が展開した障壁に衝突し、火花を散らし、障壁を破壊した。

 

「っ……!」

 

 その衝撃で、少女は地面に叩き落される。地面に衝突する寸前のところでふわり、と浮遊し、衝突による大ダメージは回避したようだ。

 

 少女が一つ、息を吐いた、その瞬間。

 

 上空から赤い閃光のようなものが、少女めがけて落ちてくる。

 

 それに気が付いた少女は、急いでその落下物を回避する。それが落ちてきた……否、叩きつけられた場所には、大きなクレーターが出来上がり、砂埃が舞い上がっていた。翡翠色の髪が、衝撃波に揺られてたなびく。

 

「……今宵は……随分と、客が多いことで……」

 

 少女は思わず、そうぼやいた。彼女にとって、これほど予想出来て、予想外なことはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 砂埃が晴れていく。視界が段々と、クリアになっていく。

 

 そして、周囲の様子が視認出来るようになり、最初に少女の視界に飛び込んできたのは、

 

 

 

 

 

「Hey,girl.随分とまぁ、派手に暴れたな?」

「街を破壊したのは僕じゃないよ。街を破壊した奴を殺したのは僕だけど」

「おおっと、そいつは失礼」

 

 アンジェラを背に庇い、少女の視線の先に立つ、ソニック達の姿だった。

 

「あいつは……連合の親玉か?」

「いや、連合のブレーンは男性らしい。同時に、あの女のような敵の情報は一切無かった」

「何にせよ、オレ達がやることは変わらないさ。

 

 うちの妹は返してもらうぜ、girl?」

 

 ソニックはそう言って、挑発的に笑った。

 

「……「うちの妹」……ね…………

 

 取り敢えず、ガール呼ばわりはやめてほしいんだけど」

「Sorry.だけどオレ達は君の名前を知らないもんで」

「……ああそっか、挨拶もしてなかったのか。これは失敬」

 

 少女は再び空中に浮かぶ。冒涜的なその姿が、月光で照らされる。

 

「僕はトゥーレシア。

 失われし時間の偶像(フェイタル・マギア)の、次女さ」

 

 そう言って、少女……トゥーレシアは、丁寧にお辞儀をしてみせた。

 

失われし時間の偶像(フェイタル・マギア)……?」

「そう、天使に時間という概念すら奪われた母の無念と、天使の画策が組み合わさった結果産まれた、人のかたちをした人ならざるもの。それが僕ら。

 

 僕らは言葉すらもとうの昔に失った母の代弁者であり、母が抱き続けた憎悪と絶望の、代行者」

 

 トゥーレシアは翡翠色の髪を夜風で揺らしながら、その背に大きな魔法陣を展開した。翡翠色に輝く魔法陣に、淡い魔力の光が収束していく。

 

「“個性”を持たぬがゆえに、母は虐けられ冒涜し続けられ……終には、人としての総てを失い絶望の底へと叩き落された。

 

 その結果を産み出した、天使とヒーロー……そして、それらを生み出し続けたこの世界そのものも……僕は、その存在を赦さぬ」

 

 トゥーレシアはその瞳を緑色の輝かせながら、威圧感のある低くドスの効いた声でそう言うと、背の魔法陣を更に巨大化させる。

 

「せめて、せめて母がヒーローなどに憧れていなければ……ヒーローが、存在していなければ。

 

 母は要らぬ絶望を抱くこともなく、失意の果てに貴様らを憎むこともなかった。

 

 総て……総て、ヒーローという存在の傲慢が、この結果を産み出した。憎み続けることは、憎悪を抱き続けることは、母の幼く優しい心を深く深く、傷付けた………………

 

 

 

 

 

 その罪は、例え天使とヒーローを根絶やしにしても贖えぬ。

 

 総てを壊し、天使を皆殺し、ヒーロー社会そのものを瓦解させ、冒涜者(ヒーロー)共が失意の果てに絶望することでしか、贖罪は果たされない」

 

 魔法陣が更なる光を放つ。トゥーレシアが、彼女の言う「母」が抱き続けた怒り、嘆き、悲しみ、絶望、憎悪、その全てを、照らし示すように。

 

「この火はもはや、誰にも止められない。止めることなど、赦さない。

 

 諸悪の根源(平和の象徴)……まずは、貴様だ」

 

 次の瞬間、眩いばかりの光が周囲に放たれた。攻撃力は皆無のようだが、目を開くことが困難なほどの光だった。その場の全員が、思わず瞳を伏せる。

 

 

 

 ……たった一人を除いて。

 

 

 

 

 

 

 

 ガキィッ…………!! 

 

 コンマ数秒後、金属がぶつかるような音が周囲に響き渡ると同時に、光が消える。まるで、そこに光などなかったかのように、さっぱりと。

 

 そして、そこに見えたのは、

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………何のつもり?」

「…………」

 

 杖に変形させたソルフェジオの柄で、槍のように変形したトゥーレシアの右腕を受け止める、アンジェラの姿だった。

 

 その場の誰もが、動けずにいた。

 

 アンジェラが、意識が朦朧としているはずの彼女が、息が詰まるほどの威圧を、放っていたから。

 

 トゥーレシアは、懐疑そうな顔をアンジェラに向ける。キリキリ、キリキリと、金属同士が擦れる音が周囲に響いていた。

 

「君は何一つ覚えちゃいないだろうけど……そいつは、諸悪の根源なんだ、母を、何も罪など犯していない母が、望まぬ人殺しを強制されているのは、元はと言えばその男がヒーローの頂点に君臨してしまっていたからだ。

 

 ……邪魔しないで、くれる?」

 

 

 

 

 

 

 

 トゥーレシアの言葉に、アンジェラはゆっくりと、首を横に振った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………………「知ってる」よ……自分が一体何者だったのか、「母」が一体誰だったのか、自分が何を望まれていたのかも……全部」

「……………………は?」

 

 トゥーレシアにとって、その言葉は想定外も想定外だった。予想することが、できるはずもなかった。彼女には、いや、この場の全員が、知る由もなかったのだ。

 

 林間合宿の襲撃時、フォニイがアンジェラと接触した、その本当の理由。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アンジェラから失われていたと思われていた、バラバラに砕けた記憶が、フォニイの手によって元の形に戻されていたことなど。

 

「っ……記憶を……取り戻していた、ってことか……!? でも、何で今……!?」

「さあね。フォニイの考えは分からない。未来永劫、答えが返ってくることはない。

 

 ただ……時間がなかったのは、大きな要因なんじゃないか、とは思うけどな」

 

 アンジェラはそう言いながら、トゥーレシアの腕を弾く。弾き飛ばされたトゥーレシアは、その場で浮遊しアンジェラに右腕を向けた。

 

「っ……思い出したのだと言うのなら、何で! 何で、僕の邪魔をするんだっ!!」

 

 まるで子供の癇癪のように、涙を浮かべながら叫ぶトゥーレシア。アンジェラも、その怒りも嘆きも悲しみも、理解することは出来た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 …………そう、理解すること、()

 

 

 

 

「その感情は正論でしかないし、オレにはそれを否定することなんで出来やしない。

 

 だけどさ……関係ない奴らも纏めて消す、は、なんか違くないか? 

 世の中の全てがそうやって善悪簡単に決められるようなものなのなら、誰も苦労しないっての」

「………………だけど…………これは、「母」が望み……僕が望んだことだ……今更、止められるわけがないだろうっ!!!」

 

 トゥーレシアは泣き叫びながら、刃のような形に変形させた右腕をアンジェラに向かって振るう。無茶をした反動か、アンジェラはふらり、とよろけた。

 

「アンジェラっ!」

「来ないで」

 

 ソニック達はアンジェラの元へ駆け寄ろうとしたが、それは、儚げな笑みを浮かべたアンジェラ本人に遮られた。ソニック達がアンジェラの思わぬ表情と言葉に一瞬動きを止めてしまった、その瞬間。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ザシュッ

 

 舞い散り、滴り落ちる、赤い液体。

 

 重力に従って、落ちる物体があった。

 

 

 

 

 

 

「……あ……何、で………………」

 

 

 それを斬り落とした張本人であるトゥーレシアですら、いや、その場の誰にだって、声を上げることが出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 重力に従って落ちた物体、

 

 

 

 それは、斬り落とされたアンジェラの、左腕だった。

 

「アンジェラっ……!」

 

 ソニック達は脇目も振らず、アンジェラに駆け寄った。左腕があった場所からは、未だにドロドロと血が流れ出ている。

 

「っ、ガジェット、直ぐに治療を……」

「……いや、このままでいい」

 

 アンジェラの言葉に、当然ソニック達は驚愕する。明らかに、今のアンジェラは治療が必要な状態なのに、彼女はそれを拒んだ。

 

「なに言ってんだよ、そのままで平気なわけないだろ……!!」

「アンジェラさん……」

「……」

 

 ナックルズとガジェットが、心配をその表情の全面に押し出して声を上げる。しかし、アンジェラの意志は硬い。

 

 

 

 

 

 

 

「どう……して……何で……受け止めることも、しなかったんだよ……その気になれば、避けることだって、受け流すことだって、出来ただろ……なあ、「ナーディ」!!」

 

 トゥーレシアは涙ながらに叫ぶ。アンジェラであれば、あの攻撃を避けることは今は難しくとも、受け流すことは容易であった。それは、トゥーレシアも分かっていた。

 

 なれば、何故それをせず、無抵抗に自分から、左腕を斬り落とさせたのか、と、

 

 

 

 

 アンジェラの本来の名前(ナーディ)と、共に。

 

 

 

 

 

「其れが、オレの答えだ」

 

 アンジェラは斬り落とされ激痛が走るはずの左腕があった場所には見向きもせず、トゥーレシアに向き直る。

 

「確かに、オレは記憶を取り戻した、何があったのかを、思い出した。……それで、ヒーローに対する悪感情が生まれなかったと言えば、間違いなく嘘になる。

 

 だけど……

 

 

 

 

 それだけが、「世界」じゃない、「人間」じゃない」

 

 アンジェラは、残された右腕と右手に携えたソルフェジオをトゥーレシアに向けて構える。

 

 彼女の表情には、確かな決意が、垣間見えた。

 

「トゥーレシア……お前の感情はご尤もだが……オレは、そのやり方に賛同しようとは思わない。

 

 それがオレだ、「アンジェラ・フーディルハイン」だ、

 

 

 

 

 

 

 文句があるなら、掛かってこいッ!!!

 

 

 

 

 咆哮のような、寸分の狂いも迷いもない叫びは、その場に居た全員の魂までもを震わせた。

 














原作緑谷君がアンジェラさんに出会って、その力と価値観を知ったらどうなるのか気になる今日このごろ。逆のパターンはすぐに結論出たんですけどね。





…とか書いたら、誰か意見くれないかしら|д゚)

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