Q. シリウスシンボリに弱みを握られるとどうなるのか 作:ルルザムート
今回はちゃんと計画を立てて10話前後で終わらせるので…
シンボリ家のお屋敷にて…
「よう、来てやったぞ皇帝サマ?」
「──まさかキミが1番に来るとは思っていなかったが…久しいな、シリウス」
中央トレセン学園にてURAファイナルと呼ばれるレースより10年後…
当時皇帝と呼ばれたウマ娘、シンボリルドルフから誕生日パーティの招待を受けた私
「お久しぶりです、大旦那様」
「…10年経ってもその呼び方は慣れないなぁ、普通に名前で呼び合うのはダメなのか?」
「ルドルフ様と共にシンボリ家を背負う、そう決断した時点でこれも決まっていたことです。こちらとしても慣れていただかなければ困ります」
困ったように頭をかくルドルフの元トレーナー、10年前にルドルフ様がトレセン学園を卒業すると同時にそのまま結婚前提の付き合いが始まり、今に至る
最も当のトレーナーに最初は結婚の意思は無かったらしい、付き合う中で自分より良い男性が現れる…そう思ってのことらしかったが──
パーン!と勢いよく扉が開き、ルドルフに良く似た子供が部屋に入ってくる
「マ…お母様!…その人たちは?」
「以前話していたシリウスとそのメイドさんだよ、お前の誕生日を祝いに来てくれたんだ」
今では一児の父だ、そのことを大旦那様に話すといつも恥ずかしそうに顔を逸らすのでシリウス様が会うたびにそれをからかっている
「おいおい、私は呼び捨てで
大人になってから目上の人物が誰なのか見極められるようになっておかないと困るぞ?」
「………シリウス様」
「おや、それに関しては問題無いよ?この子は彼と私に似てとても賢い、それに先の私の紹介も何も間違っていない、キミとキミのメイド…常識ある人間としてどちらを敬い見習うべきかしっかり理解して発言しているからね」
「ルナ、ここで火花を散らすのは──」
…ルナ?その名前は確かルドルフ様の幼名の──
そこまで理解した直後、良いネタを見つけたと言わんばかりにシリウスが笑い出した
「はっはっは!!そういえばそんな名前で呼ばれてた時あったな!いやこれは悪かった!幼名を呼ばせているとは中々…皇帝サマも女の子みたいなところがあるじゃないか!」
──気のせい、ではない。今間違いなく電流みたいなものが部屋に流れた
(──逃げるか?)
(ええ、逃げましょう)
大旦那様とのアイコンタクト、1秒に満たないソレで互いの思考を感じ取った我々は音なく席を立ち私は出口へ、大旦那様はお嬢様の元へ
「…シリウスとルドルフはお話があるみたいだから少し別の部屋に行こうか」
「?うん!」
火花散る応接室から廊下に出てメイドの控え室に向かう
「じゃあまた後で」
「かしこまりました」
「………」
一瞬だけ応接室の方を振り返ってみる
…ここからでも分かるくらいの気配が中の激戦を物語っている。あれはしばらく続く
というか大旦那様が着いてきていない、恐らく逃げ遅れて大奥様に捕まったのだろう
その証拠にお嬢様だけが部屋から出てどこかに行ってしまわれた
もう10年もメイドとしてシリウス様に仕えているがこの手の言い争いは相変わらず無くならない
それどころか第三者が下手に仲裁しようとしたところで巻き添えだけ食らって終わりだ
「…まぁもう慣れましたが。」
「ルチアーニさん…イーチェ・ルチアーニさん!」
ふとどこからか聞き覚えのない声に引き止められる
「こっちです、こっち!」
声の方を見ると物置、というプレートがかけられた扉の陰から手招きするメイドが1人
ウマ娘のメイド…以前来た時は居なかったし大きく見積もっても高校生だ、新人だろうか
「…シリウス様のことですか?」
私の知らない人物が私の名前を呼ぶ時は十中八九シリウス様のことだ
シリウス様の電話番号を知りたいとか好みを知りたいとか普段何やっているのかとかそのあたりだろう
「え…!?あ、はい…!その、シリウス様は今どちらに…?」
まるで恋する女子高生のようにモジモジと顔を逸らしながら質問してくる新人メイド
…私に照れてどうする
「大奥様と応接室で話している、何の用があるかは聞かないがしばらくは近付かない方が良い」
「そ、そんなぁ」休憩終わっちゃうよ…
シリウス様は大人になっても相変わらず、いや大人になってさらに人を惹きつけるようになったらしい、使用人達の仕事に悪影響が出なければいいが…
特にこちらから用は無い、早急にここから立ち去って茶の用意でも──
…ん?
ふとメイドの手元にあるディスクケースに目が行く
「………それ、そのディスクは?」
「これですか?本日いらっしゃったシリウス様が落として行ったんです、気付かれておられなかったようなので私が拾って直接お返ししようと…」
……………
「………そのディスクをこっちに。私がシリウス様に返しておきましょう」
「え…でも…」
「貴女が持っているより私が持っていた方が早く済みます」
この方が合理的だと新人に伝えるものの納得していない
「せっかくシリウス様とお話できる機会なのに…」
「………やれやれ」
まぁそんなことだろうと思っていた
「貴女が期待しているようなことは起こらない、と言っておきましょう
ともかく休憩時間が終わると言うのなら貴女が持っていても仕方がないでしょう」
半ば取り上げる形でディスクケースを貰い受けて部屋から出る
「ルチアーニさん、ディスクの中身って何が入ってるんですか?」
「…貴女が知る必要はありません」
「そんな言い方しなくても…じゃあ奥様に聞きますよ」
「…!…………」
全く、若さとは無敵の一種ですか本当に。
「知ったところで何の役にも立ちませんがそれでも聞きますか?」
「聞きたいです!」
………はぁ
仕方がない、大奥様には悪いがこうなったら逆に話へ引き込んで仕事をサボタージュさせるしかない。あちらの弱みを握れば話したところで口外はしないだろう
それに子供の噂は主婦より早い場合もある、ここで彼女に釘を刺しておけばシリウス様に遊ばれてしまう人も減るかもしれない
「…いいでしょう、端的にいってこのディスクの中身は10年前の記録…シリウス様とシリウス様のトレーナーについて記録された唯一のディスクです」
「へ…?」
持ち歩いている写真を取り出して彼女に見せる
「これは…シリウス様と…ルチアーニさん?」
「トレーナーの方はよく似ていますが別人です、名前はアイス・ルチアーニ
私の双子の弟です」
弟がいらしたんですか!?と謎の食い掛かりを見せる彼女を無視して話を続ける
「彼は出会う前からシリウス様についてある程度知っていた
『皇帝』を叩き落とさんばかりの走りも、あの性格も。模擬レースで実際に生で見てスカウトしたいと思ったそうです」
「…これが貴女の走り、か」
「ん?ここに来たってことはお前もトレーナーか」
流石に桐生院家とかと比べれば劣るがルチアーニ家も優秀なトレーナーを数多く生み出してきた名門ではあった
最もシリウス様にとって家柄は基本『どうでもいい』ものであったからルチアーニ家の名は意味を成さなかったが。
今のシリウス様を見ていたなら想像はつくだろうが正面から面と向かって彼女と話せる人物は多くない、話せたとしたら秋川理事長か理事長秘書のたづなさん…他にはルドルフ様、ルームメイトのナカヤマフェスタに同期のマルゼンスキーくらいだろう
「スカウトでもしにきたのか?」
「それ以外の場合がこれまでにもうあったのか?…いやありそうだな
私の場合はそれだ、私の名前はアイス・ルチアーニ。
貴女をスカウトさせて欲しい」
名前を言った途端、見えないバリアに押しのけられたようにスカウトに来ていたトレーナーが遠ざかっていったらしい
シリウス様にはどうでもいいことでもルチアーニ家の名前を知らない人間はいなかったですし
「へぇ、じゃあアンタは私をスカウトするために何を差し出せるんだ?」
「貴女がデビューし、トレセン学園を卒業するまでの3年間の中の全てだ」
「ホントにそう言ったんですか?」
「そうですが、何か疑問が?」
「いえ、なんだかトレーナーさんの解答が真面目すぎてシリウス様にはあまり好かれないというか響かないんじゃないかな…って」
「つまりトレーナーとして最低限のことだけはする、ってことか
…今のままじゃ話になりそうにないな
上乗せするなら今のうちだぜ?」
そ、それでアイスさんは何を差し出したんですか?
いや、彼は何も差し出すことはしなかった
…え?
「そうか、ならいい。邪魔をしたな」
「…?どこにいくんだ?」
「スカウトできないと分かった以上留まる理由は無い
もう1人、目を付けているウマ娘がいるからな」
敢えてそのウマ娘が誰なのか彼は言わなかった、まぁシリウス様と並べて目をつけている。と言えば周囲の人間の頭には真っ先にルドルフ様が浮かんでくるでしょうし
もちろんルドルフ様が頭に浮かんだのはシリウス様も例外ではありません
「…っち、おい待ちな」
「………何か用か?」
「じゃあシリウス様からアイスさんに?」
「そうなりますね、シリウス様と共に3年間を駆けるにあたってある意味ではこのスカウトこそが1番の難関だと彼は思っていました」
違う見方をすれば彼女をスカウトできた時点で3年後の明確なビジョンを作ることができた、ともいえます。それ程までに彼女は強く、格好よかった
「でも弟さんがシリウス様のトレーナーでお姉さんがメイドって凄い偶然ですね」
「………偶然だと、思います?」
「違うんですか?」
「………ん…?」
ふと辺りを見回してそこが自分の寝室でも自分のベッドの上でもないことに気付く
どこだここは?それに昨日の記憶が曖昧だ、何をしていた?
確か──URAファイナル優勝のお祝いとしてシークレットバーで飲んでいたハズだ、店から出た記憶が無い…
スカウトからURAファイナルまでの出来事は…まぁ今回話したいこととは主旨がずれるので割愛します
…いつか聞かせてください、それで?
「起きているのか?ルチアーニトレーナー」
扉越しに聞き覚えのある声がする
間違いなくトレセン学園生徒会会長、シンボリルドルフの声だ
彼は完璧だった、文字通り氷のように一分の隙間なく、トレーニングスケジュールはもちろん勤務日、休日、お手洗いやほんの少しの移動にさえ針に糸を通すように慎重に行い、完璧にこなした
そんなに張り詰めていたなんて…シンボリ家のトレーナーとしての責任感からですか?
「シンボリルドルフ?何故ここにいる?いや、そもそもここはどこだ?」
「……URAファイナルという大きな舞台に勝利したことで少々浮かれていた、というのは分かる。
しかし記憶が無くなるほど羽目を外すのは関心できないな」
キミもシンボリ家のトレーナーであるのなら節度を持った行動をするように
それだけ言うと扉の向こう側から気配が遠ざかっていく
「???…いったいなんなんだ」
違う。確かにシンボリ家は大きな家系ではありますが彼にそこまでの意識はありませんでした。
勿体ぶらないでくださいよ、それは何故ですか?
「…?」
気のせいかベッドの上、毛布の下に人1人分くらいの盛り上がりがあるのに気付く
弱みをシリウス様に見せないためですよ。普通のウマ娘とトレーナーなら互いの弱みを知り、支え合い、前に進む。
しかし彼はそうは考えなかった、ひたすらに
シリウス様からしてみれば面白くなかったでしょう、あえて隙を無くしていたことは分かりきっていたことでしょうし、それこそルドルフ様のような『絵に描いた優等生』でしたので
…だから最後の最後で気を緩めてしまった、たった一度の油断をシリウス様は見逃さなかった
「…誰かいる、のか?」
冷静に考えて1つのベッドに自分以外のもう1人がいる、という時点で察するべきだったがあいにく彼の脳は先日のアルコールにより著しく出力が低下していた
布団をまくり、そこに居た人物を見て──絶句した
「──よう」
以前シリウス様にワザと弱みを握られてそれをネタに揺すられたい、などといった大馬鹿メイドの噂を聞いたことがありますが。
へ、へぇ〜?誰、なんだろー?そんなこと考えるの!
…良い機会ですし教えておきましょう
「え、え?シリ、ウス…?」
「はっ、やっと起きたか眠り姫?」
シリウスシンボリに弱みを握られるとどうなるのか
〜
大旦那様
シンボリルドルフの元トレーナー
ルドルフと共に3年間を駆けたとおもったらいつの間にかシンボリ家にされていた、とは本人の談。お前も
ルドルフに見合う男になるためトレーナー時代以上に努力している
シンボリルドルフ
スカウトから始まりそのままトレーナーと共にゴールインした駄洒落好き。
権力や家柄に頼ることなど殆ど無かったが過去に一度だけ、煮え切らずに逃走を図った元トレを捕らえるためにシンボリ家と生徒会の権力を乱用したことがある
イーチェ・ルチアーニ
シンボリ家、ではなくシリウスシンボリに仕えているメイド
元は優秀なトレーナーを多く排出していたルチアーニ家、その長女だが現在のルチアーニ家には見る影も無いらしい…
シリウスシンボリ
かつてルチアーニ家のトレーナーと契約していたウマ娘
URAファイナル優勝経験があるが性格はまるで変わっていない、それどころか加速したという声も…
最近ルドルフの前で姪をからかうのが面白すぎてやめられない
ひょいっとシリウスに担がれてそのまま連れ去られたい作者のルルザムートです、ハイ。
夏休みメリュジーヌとかバイオハザードとか放置してるのがいっぱいある中で投稿したのは…うん、まぁ今回はちゃんと計画を立ててるので…
…せめてコヤンの方は終わらせねばなるまい