Q. シリウスシンボリに弱みを握られるとどうなるのか   作:ルルザムート

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どうでもいいですが作者はアルコールが少し苦手です
お楽しみください


シリウスのゲーム

「それで、シークレットバーで何が?」

「それは──待ちなさい」

「?」

「………」

 

 

扉の向こう、廊下側から何か…ああ。

「………入りなさい、盗み聞きしているのは分かっています」

「うえっ!?いやぁこれはその「言い訳は入ってから聞きます」

 

 

やはり扉の向こうで盗み聞きしようとしていた者が、いや者達がいた

ぞろぞろと入ってきたのは人間の使用人が2人、ウマ娘の使用人が3人、そして──

 

 

「…!アグネスデジタルさん?何故ここに?」

あの目立つ桃髪ですぐに分かった

「えっっ!!?アグネスデジタルさん!?」

どういうわけかメイド服に身を包んだアグネスデジタルが他のメイドに混じって入ってきた、ウマ娘のメイドが近くにいるせいか顔がニヤけている

 

 

全く、なんてタイミングでやってくるんですか…

 

 

「いやー、実は最近推しのための資金が不足してきてですね!これまでは自制してたんですがこの前つい!つい家賃に手を出してしまって!

ルドルフ奥様に臨時で雇っていただいたわけですよ!

…あれ?私名乗りましたっけ?」

「そんなことはどうでもいいでしょう、それに稼ぐために来たのなら盗み聞きなんてしている場合ではないのでは?」

 

 

そう言うと彼女の横にいたウマ娘のメイドがすぐさまフォローに入った

「あ、それに関しては奥様から許可を頂いてデジタルさんは大休憩中ですよ」

「というか働きすぎで奥様から叱られたばかりですし!ね、デジタルさん!」

「皇帝の実家で働かせてもらっている身で休むなんて勿体な──とんでもない!」

 

 

「…はぁ」

頭が痛い…

「とにかくデジタルさん以外は仕事に戻りなさい、働きすぎたのは彼女だけでしょう」

強引にデジタル以外の使用人を追い返し、椅子に座り直す

 

 

「それでデジタルさん、貴女もここにいる理由は無いでしょう?休憩室が分からないなら案内しますが」

「大丈夫です!それよりもさっき話していた学生時代のウマ娘ちゃん──ワイルド王子、シリウスシンボリ様とそのトレーナーの話…

その話を聞きたいです!」

 

 

「それが…そんなに大事なんですか?休憩より?」

「はい!」

「来月の生活費より?」

「はい!お金で買えない尊みの前には無意味ですっ!」

「………」

 

 

ああ…思い出してきた、彼女はこういうウマ娘だった

「良いでしょう、では話をする前にそこの窓の前に立って窓を開け、目を瞑ってください」

「ありがとうございます!これでいいですか?」

「ええ」

 

 

若干角度を変えたいがこれでもいいだろう

「ルチアーニさん?なにをする気ですか?」

「静かに。ではとある写真をお渡しするので手に取ってから3秒後に目を開けてください」

「分かりました!ところで以前どこかで会ったことありませんか?どうも見覚えが──うん?」チラッ

 

 

   ア° ッ°   

 

 

「え、あのちょ

 

 

「エンダァァァア!!!」

 

 

渡した写真を目にした瞬間。直立不動の姿勢で全開の窓に向かい吹っ飛んでいくアグネスデジタル

一瞬見えたその表情はまるで天国に到達したかのように安らかで──

 

 

「一体何を渡したんですか?」

「幼少期のシリウス様とルドルフ様が2人でお昼寝をしている写真です」

「ええ…いいんですか勝手に持ってきて?」

「うるさいですよ、ともかく野次ウマもいなくなったので話の続きをします」

「はーい」

 

 

 

 

 

「………よし」

 

 

表通りからは見えづらい路地裏の奥、周囲に目撃者が居ないかを再度確認した後パスワードを入力、物置かと思われそうな薄汚い扉に手をかけて中へ入る

 

 

「こんばんは」

「ええ、こんばんは。ルチアーニトレーナー」

 

 

どうやら先客が居たらしい

既にカウンターで飲んでいた駿川たづなの横に座り、足元に荷物を置く

 

 

「……マスター、ラムコークを」

「かしこまりました」

 

 

用意されたグラスを手に取り、静かに流れるクラシック音楽を聴きながらひと口

うん、これでいい

「結局最後までラムコーク以外飲まれませんでしたね」

「別にいいだろうマスター、それにこれが最後ってワケでもない」

 

 

アルコール度数が低いものを時間をかけて沢山飲むよりも度数の高いものを短く、少しだけ飲んで飲酒を終える…次の日に痕跡を残さないようにするにはこれがいい

 

 

「…たまにはハメを外して飲んでも良いのでは?」

「………驚いた、まさか貴女からそんなことを言われる日が来るとは」

あの真面目なたづなさんが『ハメを外しても良い』とはどんな心境だろうか?そう思ったのを察したのかそのまま話してくれた

 

 

「ここ3年間、ルチアーニトレーナーがバー(ここ)以外の場所で羽を伸ばしているのをついに見ませんでした

その様子ではご自宅やトレーナー寮でも素を出したことが無いのでは?」

彼女がカクテル(スクリュードライバー)が入ったグラスを片手に心配そうに聞いてくる

 

 

「いつ誰から見られているか分かりませんしシリウスのことを考えればこれくらいが良いんです

走りは勿論のこと、学生だというのに顔が良すぎる。気を抜けば私もシリウスの取り巻きの1人になりそうでしてね」はっはっは

 

 

「今のこれが貴方の素だと知っている人物はどれくらいいるのでしょうか…」

「それは当然貴女とマルトレ、マルゼンスキーの3人だけですよ。でなければ3年間仮面を被り続け、家族にまで秘密にした意味がない」

 

 

その時、ふと咳払いするマスター

「おっと4人でした、これは申し訳ない」

 

 

「それで…先のハメを外しても良いのでは?という質問ですがやめておきます、私は貴女のようにアルコールに強くない」

いや、マスター曰く私もかなり強い方なのだがたづなさんが規格外すぎて同じラインに立てないのだ、幸い引き際を慎重に確かめていたおかげで酔い潰れることは無かったが。

しかし珍しく、いや初めてたづなさんは食い下がった

 

 

「…種類は違いますが私も仮面を被っています、別にやましいことがあるというわけではなく今の生活が気に入っている私にとってそれが1番都合が良いんです」

外部ではどんな時だろうと取らない緑の帽子を脱ぎ(見る限りでは)3杯目のカクテルを飲むたづなさん

 

 

…!!その、頭は──

 

 

「それでもこの仮面の下は私にとってかけがえのないものであることに違いはありません、なので自宅以外で唯一仮面を外すことができるこのバーが私は好きです

 

 

長く仮面を被り過ぎていればいずれ仮面の下の大切なものを自分自身忘れてしまうもの、私が言うのもなんですがこの3年間貴方は本当によく頑張ったと思います。

今くらいは仮面の下の話をするだけじゃなく…仮面を外しても良いのでは?」

 

 

………参ったな

 

 

「そういう貴女も3年間──いえ、これまでずっと仮面を被っていたということですか、まぁ納得はしましたが」

「ふふ、私は今その仮面を外しましたよ」

 

 

ルチアーニさんはどうしますか?と聞いてくるたづなさんに私も応えることにした

流石にここまでされて仮面をつけたままでは失礼であるし何より私自身これ以上張り詰めていたくない

 

 

「マスター、スクリュードライバーというカクテルを。」

「…違う種類の酒類同時摂取は悪酔いの要因になりますが」

「知ってるさ、でも今日くらいはいい」

「かしこまりました」

 

 

URAファイナルは終わり、出会いと別れの季節がやってくる。これ以上無いくらい分かりやすい節目だ。もう良いだろう

「ありがとうございます、ルチアーニトレーナー」

「礼を言うのはこちらのほうですよ、貴女が仮面を外して見せてくれたおかげで私もようやく羽を伸ばす決心が付いた」

 

 

どうせお互い明日は休みだ、3年間の労いも込めて今日だけ、今日だけはこれで良いんだ

「飲みましょうか」

「喜んで」

 

 

 

 

あれからある程度酒と会話が進んでいき、気付けば日付が回り始めていた

「あ〜どおりでトレーナーの人手不足が…」

「ウマ娘達にしてみれば3年間親身に支え続けてくれた人間ですからね、ある意味必然でしょう、学園(こちら)としては深刻な問題なのですが」

 

 

「まーまー、在学中に事を起こされるよりよっぽど良いんじゃあないでしょーかね。ホラ、サトノダイヤモンドの…」

「サトトレさん、ですね。まさかあんなことになるとは…」

「トレーナーの方から手を出したとか言われてますが実際どうなんでしょう?

何度か話したことはありますがどうにも彼から手を出したとは思えない」

 

 

一部ネット上で『サトノ家が仕組んだのでは?』『サトノ家の裏工作』などと書き込まれていたこともあったらしいがありえない速度でその手の書き込みが削除されているようで実際に記事を見たことは無い

 

 

「もしかしたら事件自体がそもそも無かった可能性がありますが当のサトトレさんの行方が分からない以上確かめようがありませんし…」無事だと良いのですが…

 

 

いかん、酒の席で話すようなことじゃないな、話題を変えよう

「まぁ当人のサトノダイヤモンドが慌てていないのなら無事ではあるのでしょう

…そういえばもうずっと飲んでますがホント酔いませんね」

「これでも結構アルコール効いてるんですよ?」もう一杯お願いします

 

 

 

 

更に時間は過ぎ──

 

 

ピロン

「失礼します…ああ、またですか」

「どうしまひたー?」

 

 

たづなさんがケータイで何か話している

あー3年間で稀によく見た光景。まーたねこ理事長が何かしたんですかねぇ?

 

 

「すみません、理事長が新学期に向けて新しいトレーニング施設を導入しようとしている、とたった今密告がありまして…」

「こんな夜中に…?もー誰ですかソレ」

「匿名で誰なのかは…しかし思い当たる節はあります。明日の休みは返上になりそうです…」

 

 

申し訳ありませんが今日はこれで失礼させていただきます

そう言って勘定を済ませ、あせあせと退店していくたづなさんの背中を見ながら『マスター!もう一杯頼むよー!』とおかわりを要求する

 

 

「ぐびぐび…ぷっはぁ」

「…ここ、居酒屋でなくバーなのですが」

「カタイこと言わないでくれよ、どうせ私以外誰もいないんだ」

「………まぁ、アナタが後悔しなければそれで良いのですが」

 

 

「しないさ、そこに置いてあるボトル2本とも空けてくれ」

「1本しかありませんが」

「うん?2本あるらないか、マスターも2人になったことだし早く空けてくれよ」

「…かしこまりました」

 

 

変なマスターだ、それよりもアルコール分解にかかる時間はどれくらいだろうか?

「ウマ娘の五感は人間のと比べて鋭いから匂いも含めて完全に抜け切るまで安心できないんだ…」

「心配しなくてももう知ってる、隠す必要は無くなったんじゃないのか?」

「そうなのかー?じゃあいいか」

 

 

安心しろよ、と背中を摩ってくれるシリウスシンボリに感謝しながらもう一杯

「うん?」

どうも何かがおかしい気がするが…まぁ大した問題じゃないだろう

 

 

「そうそう、URAファイナル優勝おめでとう!」

「へぇ、祝ってくれるのか」

「そりゃもちろん!たくさんがんばったの知ってるからね!干し芋、じゃない欲しいものある?」

「お前」

「ええー良いよ!でもラッピング難しいから週明けでいい?」

「良いとも、期待してるぜ」

 

 

珍しく機嫌がいいシリウスシンボリと一緒に更に飲み明かす

何故か目を合わせようとしないマスターだったが手際良く私にアルコールを、シリウスにはニンジンジュースを用意してくれたため気にすることも無かった

 

 

そして──

 

 

「おいおい、社会人が学生相手にこんなべったり抱きついていいのか?」

「このバーは誰も来ないからだいじょうぶらよ!…もしかしてシリウスはイヤだった?」

「さてどうだろうな?教えてやってもいいが…人にものを聞く時はまず自分から話すべきじゃないのか?」

「そうか!私は好きだよ!」

 

 

「足りないな、気持ちを伝えたいならもっと全力になるべきだと思うが?」

「大好き!いちばんすき!」

「まだまだ足りないな、お前の想いってのはその程度なのか?」

「ぐぐぐ!えいっ!」どんっ

「おっと」ぎゅ

 

 

「しりうすぅー!すき!すきすき!大好き!ねーしりうすは?」

 

 

ハグ…というか椅子から転がり落ちそうなところをシリウスにキャッチされ、そのまま想いをぶつける

「おいおい良いのか?そんなこと勢いで言って?後で後悔するかもしれないぞ?」

「しなーい!大丈夫ー!それでしりうすはどうー?」

 

 

「私か?私はな──」

 

 

「!!!!」ガバッ

 

 

机に突っ伏していた身体を跳ね起こし、辺りを見回す

昨日もこんなことをしていた気がするが今回はシンボリ家のお屋敷ではなくトレーナー用の休憩室の中だった

 

 

「………お、」

思い出した…!

寝起きにも関わらずダラダラと汗が流れる

 

 

「ルチアーニさん?顔色が悪いですが大丈夫ですか?」

「…大丈夫です、お気遣いありがとうございます」

心配してくれる同期にお礼を言って席をたつ

 

 

まずい、非常にまずい。弱み、どころの話ではない

シリウスの言葉通り、自分の軽はずみな行動に後悔していたが──

 

 

ピリリリリッ

 

 

「シリウスの電話…」

どうやら彼女は考える時間を与えてはくれないらしい

 

 

「もしもし?」

『ちゃんと言いつけ通り2コール以内で出れたな、ご褒美をやろうか?』

「…ゲームの説明をお願いします」

『せっかちだな、まぁいい

中等部の音楽室に来な、そこで1回目のゲームを始めようじゃないか』

 

 

遅れるなよ?と、こちらの返答も聞かずシリウスが電話を切る

「………はぁ、先が思いやられる」

…とりあえずコーヒーか何か飲んで落ち着──あ。

 

 

「今の電話…」

遅れるなよ?と彼女は言ったが何時から始める、等の話は聞いていない

「あのルチアーニさん、本当に大丈夫ですか?」

 

 

「!!」

2つの携帯電話をテーブルの上から引っ掴み、足早に休憩室を出て目的の場所へと向かう

 

 

幸い中等部の音楽室はすぐそこだ、平日だがこの時期に今更音楽の授業をやっているクラスは無いだろう

音楽室の前に到着、5秒だけ立ち止まって身なりを整えて中へ

 

 

「おっと、惜しかったなシリウス」

「あと5秒早かったら私の勝ちだったが、まぁ負けたものはしょうがないな」

 

 

教室に居たのはシリウスシンボリとそのルームメイトであるナカヤマフェスタ、テーブルの上にはトランプのカードとチップが何枚か散らされており、2人とも嬉しそうな、面白そうな表情をして私を見ている

 

 

「シリウスのトレーナー…だよな?正直アンタがコイツの身代わりに来るとは思ってなかったが実際にこうしてやって来たってことはそういう認識で良いんだよな?」

…身代わり?

 

 

「ああ、さっきも電話で話した通り今日は負けが込んでいてな

このUSBメモリもたった今取られちまった」

…!そういうことか

 

 

「さっきも言っていたな、このUSBメモリの中身は本当に賭けるに値するものなのか?」

「勿論だ」

「へぇ?」

 

 

ナカヤマフェスタは警戒を緩めない、シリウスの余裕の表情を『逆転できる』と確信したものだと認識しているようでシリウスの3倍の量のチップを持っているというのに闘志が私にまで伝わってくる

 

 

「別に身代わりになってくれ、なんて言うつもりは無いぞ?

私はただオマエに私が逆転するところを見てほしいだけなんだよ」

嘘だ、もしこのまま続行させればシリウスは間違いなくワザと負けるだろう

 

 

「ここは私が代わる、シリウスは下がれ」

「ハッ、珍しく乗り気じゃないか?私は良いがフェスタ、交代についてお前は認めても良いのか?」

「シリウスのトレーナーが相手か!良いぜ、正直アンタの事はずっと知りたいと思ってたんだ」

 

 

珍しい?嘘を嫌うシリウスが息をするように嘘を言っているこの状況より珍しいものなんて無いだろう

そう言いたくなるのを堪え、フェスタに勧められた席へつく

 

 

1回目のゲームがようやく始まる…

初戦からいきなりフェスタが相手だとは、だが──

 

 

「ポーカーでいいか?」

「構わない、早く始めよう」

 

 

退くことは、できない!

「フェスタもトレーナーも準備は良さそうだな、それじゃ始めるぞ?

第1のゲーム────開始だ」




背後から呼びかけてくるシリウスに照れて聞こえないフリをしているところに不意打ちで『私が呼んでるんだから1発で応えろよ?』と耳元で囁かれたい作者のルルザムートです、ハイ。
いつの間にか3月になっている、だと?…ま、まぁ3月入ってスグだし!うん、大丈夫!多分!
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