Q. シリウスシンボリに弱みを握られるとどうなるのか 作:ルルザムート
トレセン学園 中等部音楽室にて…
「…6と4のツーペア」
「悪いが3カードだ、アンタが色々と常人離れしてるのは風の噂で知っちゃいたがギャンブルとは今まで縁が無かったみたいだな」
さっきと同じようにまだ続けるか?という質問を投げかければ帰ってくるのはYESのみ
「………いいぜ、だが賭けるものが無くなったら終わりだってことを忘れるなよ」
「分かっている、シャッフルが終わったらカードを配ってくれシリウス」
「勿論だ、ほらよ」
勝ち取ったアイスのスマホやノートを脇に置き、配られたカードを手に取る
「………」
相変わらず余裕の表情を崩さないシリウスと部屋に入ってきた時から一度として表情の変わっていないシリウスのトレーナー
…やはり何かある
常日頃からシリウスとはゲームをしていた、だからこそ分かる
シリウスが嘘をついている、あのシリウスが。
ゲームで見せるようなブラフを巧みに使い…ワザと私に負け続けた
理由はアイスに私とのゲームをやらせるためだろう、何のためにかはまるで分からないが今日の本命が彼女であることに間違いはない
「交換するか?」
「…3枚交換だ」
「フェスタ、お前は?」
「1枚交換」
だがそうすると疑問がでてくる、自分のトレーナーと私をゲームで戦わせたいのなら最初からそう言えばいい
シリウスのことだ、少なくとも私とゲームをさせている時点で恐らくアイスとはもう勝負している
アイツが自分のトレーナーとの最初の勝負を他人に譲るはずがない
「交換は終わったぞ、勝負はするか?」
「ああ」
「フェスタ、お前は?」
「するさ、カードを開いてくれ」
勝負…!
「2のワンペアだ、アンタは?」
「…ブタだ」
ブタ…また組無しか?
「はは、ツいてなさそうだな
そろそろ止めておくか?」
「…負けっぱなしは性に合わない、続行する」
「………」
「おいフェスタ?コイツは続けたいらしいがお前はどうなんだ?」
「もちろん続ける、お前のトレーナーが泣いて逃げ出すかもしくは何もかも失うまでやってやる」
「そうか」
ギャンブルをやった事が無いのは本当だろう、だが2.3戦もすれば引き際や勝負どころも理解してくるはずだ
もちろん判断が際どくなる場面で読み間違える時もあるだろうがアイス程の奴が15戦もやって3回もブタを引くのは考えづらい
「次は何賭けるんだ?そろそろ持ち物も無くなってきたと思うが?」
「確かにそうだな…じゃあ家の鍵でもいいか?寮じゃない、家の鍵だ
住所と一緒にオークションにでも出せば金にはなるだろう」
「…!?ぷっ…はっはっは!もう退くに引けないところまで来てんじゃないのか?」
「………」
かなり吹っ飛んだ物も賭け始めていたアイス、だがフェスタの頭には賭けた物に対しての関心は既に無くなっており、あるのはアイスという人間に対する興味と疑問。
まずブタを引く状況を考えてみる
前提として最初に配られたカードでは役が成立していない状態で、さらにそこからカードを数枚交換してもなお役が一つも揃わない状況…
確率で言えばかなり低い、それこそペアの1つでもできてていいだろう
だが前提を覆すような手を取っていたのなら話は変わってくる、つまり
『元々あった役を自分から崩した場合』だ
3枚交換だと言った時アイスが交換したのは奴の右から見て1番目と2番目と4番目のカードだった
最初の時点で全部ブタだったのなら何故端から3枚を無作為に取ろうとしなかったのか、それは──
「おいフェスタ?」
「構わねぇ、続けよう」
アイス、お前には
だが何を待っている?勝機を待つにもお前の賭けられるものは着々と消えていっている
まさかこのまま終わるわけじゃねぇよな?…アイス・ルチアーニさんよ
「カード配布は終わった、交換するか?」
「そうだな…私は2枚交換する、アンタは?」
「私は交換しない」
「へぇ…?それで勝負するのか?」
「そうだ」
ハッタリか、もしくは余程手札に自信を持っているのか
どちらにせよアイスの流れは来ていない、このまま勝負してやる
「いいぜ、乗った…勝負だ
そら、フルハウスだ。アンタは?」
「…3カード」
「おいおい、お前ホントに大丈夫なのか?」
「………続行を。」
「いいぜ、そろそろ終わりそうだしな」
シリウスのからかうような言葉にもアイスは無反応を貫き通し、無言で鍵を渡してくる
ああ確定だ、コイツには勝つ気が無い、だが負けを認めてもいない
勝負を降ろさせようとする気配が全く無かった、そして勝とうとする闘志も。
アイス・ルチアーニがどれだけ天才かは知らないが闘志を完全に偽ることはできない
「賭ける物…家の鍵の後じゃ軽いかもしれないが車の鍵でもいいか?」もちろん車とセットでな
「お前の持ち物ならなんでもいいぞ、それにしても…はは、そうか」
氷の異名を持つ人間か。
…ならその氷が溶けきる前に──
「ほら、カードだ。交換は?」
「………」
「私は2枚だ」
「ほらよ、トレーナーは?」
「…3枚」
「ほらよ」
──粉々にして何もかも奪い尽くしてやる
捕食者の牙に応えるかのように手元に届いたカードを見据え、僅かに、自分でも気付かない程の僅かに口角が上がる
「じゃあ勝負をするかどうか──「待てよ」
降りるのか?と聞いてくるシリウスに首を横に振って答える
「賭ける物の上乗せだ、これ以上ダラダラ続けてもしょうがないからな
私が今回のゲームでアンタから勝ち取った物を全て賭ける」
「私にはそれと釣り合いを取れるだけの物はもう残っていない、ゲームにはならないぞ」
「なに、賭ける本人である私が『価値がある』って判断したものならルール上何も問題は無い」
「…一体何を?」
「あるじゃないか、アンタの胸で輝くバッジが」
トレーナーバッジ…この中央トレセン学園において彼がトレーナーであることを証明し、認めるバッジだ
いかなる理由であろうと紛失すればトレーナーではいられない
「────」
「────いいだろう、バッジも賭けよう」
「おいおい…?」
乗ってきたか、まぁここまでは想定内だがバッジを賭けた以上もう後戻りはできねえぞ?
「はっ、随分勝ち気だな、じゃあ更に上乗せさせてもらう」
「これ以上があるのか?」
「ああ、上乗せするのは今日シリウスから勝ち取った物全部だ」
そもそもアイスが私と勝負するきっかけになったのはシリウスの負けが込んでいてその肩代わり、という体裁だった
だがシリウスはそもそも本気で勝負しておらず、何回か負けた後アイスを呼んだ
そしてシリウスが自身のトレーナーとの最初の勝負を他人に譲らない、という予測も当たっているのならアイスはシリウスに対して何かしらの負けがある
そして…おそらくは今日私がシリウスから勝ち取った物のどこかに本来アイスが持っていて、どうしても取り戻したい物がある…というのは飛躍しすぎだろうか
…まぁ終わった後でじっくり調べれば分かることだ
「待ちなフェスタ、コイツにはもう賭ける物なんか「戸籍だ」
「…なんだって?」
「だから戸籍だ、役所に行けばあるだろ?」
今までシリウスとの勝負で退学を賭けたことがあったがそれ以上のものを叩き込んできたことに流石のシリウスの奴も一瞬動揺していた
そりゃそうか、戸籍を取られるってことは存在を証明できなくなる、ってことだ
「シンボリ家の力ならアイスの戸籍を私に寄越すことくらいできるだろ?」
「…まぁな」
もちろんアイスにとっては分が悪いなんてレベルの賭けじゃない、降りたいだろうが既にトレーナーバッジを賭けている以上ここで退いても大損害だ
「………」
バッジを賭け始めたあたりから既に自身のカードを見てもいないアイスは10秒かそこら考えたあと静かに答えた
「シリウス、もし私が負けたら頼む」
「…ああ、分かった」
!!
「いいだろう、戸籍も賭けよう」
乗ってきた…!?
「…冗談じゃ済まねえんだぞ、一度宣言したからには」
「分かっている」
アイスからしてみればなんとか私を降ろさせたいだろうが無茶な話だ、何せ重みが違う
私が賭けたのは今日手に入った、言わば元々無かった物だ
引き換えに向こうが賭けているのはまさに人生と言っても過言では無い
それに加えて──
手元の、同じ4つの数字が並んだトランプをチラリと見る
7のフォーカードだ、これを破れるとすればイカサマくらいしか無いだろうが残念なことにアイスにも、もちろんシリウスにもそんな動きは無い
「後悔するなよ?勝負だ!」
「ッ…!」
ついにカードが開かれる
「フォーカードだ、アンタの手札、は…」
「ハート2から6のストレートフラッシュ、私の勝ちだ」
「────」
「な…!?」
アイスが言った通り机の上に並べられたカードには赤一色で綺麗に数字が並んだ5枚のカードがこれ見よがしに置かれていた
「勝負は私の勝ちだ、もっと時間がかかると思っていたがシリウスの負け分も無くなったからな
これで失礼する」
「お、おい…」
そう言うが早いか鍵や免許証、スマホを回収し止める間も無く教室から出て行ってしまった
「はっは、最後の最後に派手にやられたな、フェスタ」
──そうか
「……ああ、その通りだ。理由は知らないがアイツの執念が私を上回ったんだろう」
「なんで負けたか教えてやろうか?」
「いや、大体は理解できた」
最後の一戦のために負けを重ねていたのもそうだが…致命的なのは3つ
1つ、勝負に勝つか負けるか、ではなく相手の全てを奪うことに思考を持っていってしまったこと
2つ、賭ける物の価値を合わせなかったことだ、そりゃ戸籍と他人の私物じゃ重みが違う
そしてなによりも3つ目──
「勝負の最中なのに勝ったと思っちまった
まだまだ甘いな、私も」
思い返せば途中でシリウスが動揺したのも私の行動が普段じゃあり得ないことだったからだなありゃ、事実すぐに動揺は収まっていたようだし
「アイスはギャンブラーとしちゃ初心者だったが執念だけは持ち合わせていたからな、今回はあいつの方が飢えていたんだよ」
その通りだ
…そういえば
「…なぁシリウス、1つだけ聞かせてくれ」
「私とアイスの勝負についてか?」
「いや、それはいい。聞いたところでお前は言わないだろうしな
聞きたいのは最後の手札──」
机の上に放置されたストレートフラッシュの役を指差し、シリウスに質問する
負けた理由は理解できたがこれだけはどうしても分からなかった
「片方がフォーカード、もう片方がストレートフラッシュなんて役が揃う場面を執念だけで呼び寄せたと思ってるか?」
「さぁどうだろうな?だがイカサマはしてないことだけは保証してやるよ
じゃあな、私もそろそろ帰ることにするさ」
「………」
トランプと私物を片付け、シリウスも部屋から出て行く
「イカサマ『は』…か」
〜
トレーナー寮にて…
「お疲れ様です、ルチアーニトレーナー!」
「ええ、お疲れ様です」
「?汗がすごいですが大丈夫ですか?」
「ええ、久しぶりに身体を動かしまして、今から休むところですよ」
同じ階に住む他のトレーナーと挨拶を交わしつつ自室の鍵を開けて中へ入る
靴を脱ぎ、手を洗い、うがいをしてリビングへ
「…今日は、これで終わった…そう、だよな?」
────
すぅ…
「あ、あ…」
危なかった…!!
音楽室を出てからずっと止まらない冷や汗を拭きながらぐったりと床に倒れ込む
「まさか戸籍までギャンブル場に出してくるとは…」
そもそも今回のゲームは生粋のギャンブラーであるナカヤマフェスタを相手にハンデを背負った状態で戦ったんだ、小細工はしていたがそれでも勝てたのは奇跡に近い
「…お茶でも飲もう」
まずUSBメモリを取り返す時にUSBが目的だとフェスタに知られるわけにはいかなかったため、大きく賭けて他とまとめて取り返すしかなかった
その上シリウスの嘘に気付いていたのなら私にもシリウス並みの警戒をしていたに違いない、というかされていた
「…」ぐびっ
なんとかシリウスのシャッフルするところをしっかりと目に焼き付け、どのカードがどのあたりにあるのか把握し、交換する枚数も調整してカードを入れ替えて調整、ストレートフラッシュまで繋げることができた
フェスタ側のフォーカードが見えた時は冷えた肝がさらに縮み上がったが
「とりあえず目の届く場所でシリウスがシャッフルしてくれたこと
調整の過程で3回もブタが出たおかげでフェスタが1人で考え込む時間が増えたことで私がシリウスを凝視してるのがバレなかったこと
この2つの幸運が無ければ今の私は無いな…」
ピリリリリッ
「!」
──少しは休ませてほしいな
「………なんですか」
『おいおい折角お祝いの一つでも言ってやろうと思ったのに随分元気が無いみたいだな?』
「これでまだ元気があるほうがおかしいかと思いますが」
『はっ、それもそうか
とりあえず1つ目のゲームはアイス、お前の勝ちだ。嬉しいか?』
「………」
嬉しさよりも…こんなのがあと何回も続くという現実への絶望感の方が強い、ここから本当に勝ち抜けるのか…?
『相当参ってるようだな、まぁ心配するな
ゲームはまだまだ残っているがフェスタみたいなまともに強いのはあと1つだけだ、楽しもうじゃないか』
「そう、しますよ
…もう休んでいいですか?」
『よく頑張ったしな、ゆっくり休めばいいさ』
そうさせてもらおう…
通話が切れたのを確認し、重い身体を引きずってソファへ
「本当に、疲れた、はぁ…」
飲みかけのお茶をキッチンに置いたまま、私は眠りについた…
ラウンド1/7 VS勝負師ナカヤマフェスタ
勝利
会社のクソめんどくさい試験勉強もシリウスに『がんばれよ?』と一言言われればやる気で満ち溢れそうな作者のルルザムートです、ハイ。
カードバトルって表現しにくいんだなぁというのを実感しながら書いてました
次の相手は船です、お楽しみください