ずっと暗闇の中にいた。そんな気がする。
大切な人がいなくなった。僕の目の前で消えた。助けられたはずなのに、助けられなかった。立ち上がるべきだった、失ったことを嘆いていないで前を見て。
失う痛みを知っているのなら、同じ思いをする誰かを放っておくのはだめだ。同じ思いをする人を生み出してはだめだ。
わかっていた。わかっていた。それでも立ち上がれなかった。何故かはわからない、思い出せない。ただ後悔とか悲しみとかで心がいっぱいだったのを覚えている。
それから心がどんどん追い詰められて、すごく痛かった。もしかしたら体も傷ついていたかも。待っていても救いはない。止まって祈るなんて冒険者には許されない。
そのはずだった。でも救いはあったのだ。遅れないようにすぐに飛びついて。
戻った。
長い時間が経った。ずっと眠りこけていたのだろうか、頭がやけにぼうっとする。
起きたばかりなのに、全身にずっしりと感じる疲労感。何かあったのかもしれない、急いで体を起こし周りを確認しなければ。そう考えても、思考はゆったりとしたまま、体は思うように動かない。
起きてすぐの気怠さで説明がつかない違和感は焦りを生じさせ。不味いと思い始めた僕は、疲労を振り払い、どうにか体を動かそうとする。全くと言っていい程働かなかった頭も働き始め、感覚が戻っ 。
「痛い⁉︎」
酷く強い痛みが、全身を、いや、足を襲った。
中々開かなかった瞼も思いっきり開き、目の端にはほんの少しの涙が浮かぶ。
ようやく映った周辺の景色、もう昼間なのか、太陽が高く昇っていて、視界に強い光が急に入ったことで、目が灼かれる。
(屋外⁉︎)
自分がいるのは
「おいっ、聞いてんのかいベル⁉︎」
「えっ?」
突如して呼ばれる自分の名前、謎に痛む足、起きたら屋外にいる事実、もう何が何だか
「だから、お前の所の
聞き覚えのある声だった。最近聞くことはなかったが、昔は事あるごとに聞いていた。というのも……。
(お
そこまで思い出せば、この怒声は随分と懐かしく感じられた。祖父が覗きする度に彼女は烈火の如く怒っていたのだ、
犯人は祖父であり、自分は関係ない。そんな言葉は彼女には通じない。家族だから連帯責任、とのことだ。
今が昼頃なのを考えると、祖父は川で、常では決して見られない程薄着で遊ぶ女性達の姿を覗いたのだろう。
足の痛みも、喜ばしいものとは言えないが、懐かしいものだった。彼女のお説教の間、自分はいつも正座させられていたのだ。終わった後家に帰るまでも辛かったのを覚えている。
理解が完璧に追いついた。状況も完全に把握した。そこから導かれる結論は。
(これって、夢……?)
これが1ヶ月前のこと。
「のう、ベルよ」
「んー、どうしたの?」
冬にひどく冷える他、季節による変化が薄い生まれ故郷の村。時は昼、ぽかぽかと暖かい陽気にのんびりとしていたら自分の名を呼ぶ祖父の声が聞こえたので、要件を尋ねることで返答する。
「のう、儂のかわいい自慢の孫であるベルよ」
「ありがとうー。なにー?」
返答が少し冷めたものだったからか、祖父は下手なゴマスリを敢行。
目的が何かおおよその見当がついた僕はわざとさっきより温度を下げた声で返した。しかし、それに気づいているだろうにあちらは遠慮なく言葉を投げ続けてくる。
「村1番のボンボン美人ねーちゃん、エレアの無防備な姿を目にするため、完璧な計画を立てたんじゃが」
「ヤメトキナヨ」
村1番の美人さんと目されているエレアさん。14歳になった僕が村を出る時でも若々しい見た目を保ち、子供もいたのに人気がなくなることのなかったちょっとした超人である。
狭い村である。彼女と話したこともあるし、人となりもその家族がどんな人かも知っている。
「おばさんすぅっっごく怒るよ」
エレアさんの母はとっても怖い。村でつまみ食いや覗き するのは祖父ぐらいだが 等、悪さを働いたものは彼女のお説教を例外なく受ける。村の風紀委員永世委員長。祖父をとっちめるのはもっぱら彼女のお仕事。ここに戻ってきた時の足の痺れは今でも思い出せる。
「エレアお姉さんだって意外と怖いし……」
そんな人物が母にあたるエレアさんだって当然怖い。力が強くないから自衛のためもあるのかもしれないけど、目撃者を慄かせる報復は恐怖の一言。
人気者の彼女に悪事を働けば、村の男性陣は敵となるだろう。恐ろしい、恐怖の包囲網三段構え。
「やめときなよ」
一応止める。一応。
「 ベルよ」
「…………なんでしょうか」
やたらと
聞き手の僕が黙ったまま、神妙な顔でいると祖父は
「覗きは男の
「言うと思ってたよ」
今日1番の冷たい声が出てちょっと驚く。本当に自分の声だったのかと喉に手を当てて首を傾げる。祖父はお構いなしにお祭り騒ぎ。計画がバレるのを嫌ってか、声量は普段と比べれば控えめ。その光景を見ても特別な感情は湧かない。かつての日常に今の僕は順調に適応していた。
少し前までは再会できた感動もあって、祖父の胸でワンワン泣き、孫の特権で甘えまくっていたのに。時が経つのも、人が変わるのも随分早いなぁ。
ベル・クラネル5歳。時の流れを感じる一幕だった。
エレアはオリキャラです。
これからはのんびりたまにやっていきます。
《追記》小説タイトルを間違えるというまさかのミスがあったので修正しました。誤字報告してくださった方、ありがとうございます。