散歩したら主人公になった件   作:合将鳥

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転スラの事を知った時からどうにもリムルが好きになれないが、なぜそうなのかは全然分からない。果たして何故なのか。無双系もハーレム系も嫌いじゃないんだが。




「よっしゃ、第二の人せ──「何か踏んだか?」」

「さて、行くか」

 

 畳張りの大広間で一人、青年が膝を叩いて立ち上がる。大量の勲章や装飾品で飾られた軍服と礼服、その上から着物を羽織るごちゃ混ぜな服装の青年は、鍔の無い西洋剣と反りの無い日本刀を腰に差しながら襖を開く。

 

『陛下。今度はどの複製世界へ?』

「決めてない、行き当たりばったりさ。オレっぽいでしょ」

 

 その先に広がる上下左右の無い幾何学空間を前にしながら、姿も無く響く声に答える青年。

 

 その名は常磐ソウゴ。世界の主である、最高最善の魔王。

 

「まぁ複製された偽物とはいえ、一度征服したものには変わりないんだし……そうそう面白い事もないと思うけど」

 

 そう呟き、ソウゴは世界を超える空間へ飛び込んでいった。

 

 

 

………………

……………

…………

 

《対熱耐性獲得…成功しました》

《刺突耐性獲得…成功しました》

《物理攻撃耐性獲得…成功しました》

《痛覚無効獲得…成功しました》

 

《血液が不要な身体を作成します…成功しました》

 

《対寒耐性獲得…成功しました。対熱/寒耐性を獲得した事により、『熱変動耐性ex』にスキルが進化しました》

 

 

「田村ぁ!!! 万が一、万が一だが……俺が死んだら、俺のPCを頼む。風呂に沈めて、電気流して、データを完全に消去してやってくれ……」

 

 俺は、最後の気力を振り絞って、最重要事項を伝えた。

 

 

《電流によるデータの消去…情報不足により実行不能。失敗しました。代行措置として、電流耐性獲得…成功しました。付属して、麻痺耐性獲得…成功しました》

 

 

 田村は一瞬何を言われたのかわからなかったのか、きょとんとした顔をした。しかし、言われた意味を理解すると……

 

「ははっ、先輩らしいですね……」

 

 そう言って苦笑を浮かべた。男の泣き顔なんてみたくないしな、苦笑いでも泣き顔よかマシだ。

 

「俺、本当は……沢渡の事、先輩に自慢したくて──」

 

 そうだろうと思ったよ……まったく、この野郎は。

 

「ちっ……、たく。全部許してやるから、彼女の事、幸せにしてやれよ。PC頼んだぞ」

 

 

 最後の力で、それだけを伝えた。

 

 

 

 

 何ということもない普通の人生。大学を出て一応大手と言われるゼネコンに入社し、現在一人暮らしの37歳。彼女はいない。年の離れた兄が両親を養っており、俺は気ままな独身貴族だった。

 

 お陰で童貞。まさか未使用であの世に旅立つ事になるとは……俺の息子も泣いてるだろう。

 

 すまんな、お前を大人にしてやれなくて。

 

 次生まれ変わる事が出来たら、ガンガン攻めよう。声かけまくって、喰いまくるぞ……ってそれは駄目か。

 

 

 

《ユニークスキル『捕食者』を獲得…成功しました》

 

 

 

 そして40歳目前の俺なんて、30歳童貞で魔法使いならもうすぐ賢者だったのに……大賢者も夢じゃないが、流石にそこまではどうかと思うけど。

 

 

 

《エクストラスキル『賢者』を獲得…成功しました。続けて、エクストラスキル『賢者』をユニークスキル『大賢者』に進化させます…成功しました》

 

 

 

……って、さっきから何だ。何が《ユニークスキル『大賢者』》だ。舐めてるのか? 全然ユニークなんかじゃねーよ! 笑えないよ、こっちわ! 本当に失礼な……

 

 そんな事を考えながら、俺は眠りについた。

 

 

(これが死ぬって事か、思ったほど……寂しくないな)

 

 

 それが、三上悟がこの世で思った最後の言葉だった。

 

 

 

 

 

 あっけなく、三上悟は死んだ。

 

 

 だがこの時、三上悟の"魂"は、異なる世界の同一時空に偶然発生した魔物とリンクしたのだ。

 

 

 目視も出来ない、小さな次元の亀裂。発生した魔素の塊に、リンクした魂。魔素の塊は魔物を生み出す元となり、リンクした三上悟の意思に基づきその身体を作成する。

 

 本来有り得ぬ天文学的確率で、三上悟は異なる世界の魔物として転生する事となる。

 

 

 

 

 暗い。

 

 真っ暗で何も見えない。

 

 ここはどこだ? てか、どうなった? 確か、賢者だ、大賢者だと馬鹿にされた様な……。

 

 

 そこで、俺の意識は覚醒した。

 

 俺の名前は、三上悟。37歳のナイスガイ。路上で後輩を、通り魔らしき奴から庇って刺されたんだった。

 

 ──よし、覚えてる。大丈夫だ、まだ慌てる時間じゃない様だ。大体、クールな俺が慌てた事なんて、小学生の頃う○こ漏らした時くらいのものだ。

 

 

 周りを見回そうとして……気づく。目が開けられない。参ったなと頭を掻こうとして……手が反応しない。それ以前にどこに頭があるのだろう。

 

 混乱する。

 

 オイオイ、ちょっと待ってくれよ。時間をくれ、落ち着くから。こういう時は素数を数えたらいいんだっけ? 1、2、3、ダァー!!!……違う。そうじゃない。抑々、1は素数ではないんだっけ?

 

 いやいや、それもどうでもいい。

 

 そんな馬鹿な事を言っている場合ではないぞ、ヤバイんじゃない? あれ?ちょ、どうなってんだこれ?

 

 ──もしかして……ひょっとすると、既に慌てないと駄目な時間なんじゃない?

 

 俺は焦って、どこか痛むところはないか確認する。

 

 痛みはない。快適だ。寒さも暑さも感じない。実に居心地いい空間にいる様だ。その事に少しだけ安心する。

 次に手足を確認。……指先どころか、手も足も反応はなかった。

 

 ──どういう事だ? 刺されただけで、手や足がなくなるハズないし、どうなってる?

 

 そもそも、目が開けられない。何も見えない、真っ暗な空間にいるのだ。

 

 俺の心に、かつて感じた事もないものすごい不安が押し寄せてきた。

 

 これは……植物人間状態になった、とか? 意識だけはあるが、神経が切断されて動けないとか?

 

 

 ──いやいやいや、勘弁してくれよ! 折角助かったと思ったら、植物人間とか。最悪、下半身不随の方がまだ幸運じゃないか。どちらも不幸なのは間違いないが、意識だけある植物状態なんて、地獄だぞ。

 

 俺は最悪の想像が頭をよぎり、慌てるのを通り越して絶望しかけた。

 

 考えてみて欲しい。

 

 人は、暗闇に閉じ込めるとあっという間に発狂するという。俺の状態は正にその状態であり、更には自殺も出来ないのだ。このまま狂うのみなど、絶望するなというのが不可能だろう。

 その時……

 

 さわっ───

 

 身体に触れる感触があった。

 

 

 ──ん? 何だろう……?

 

 

 俺の感覚が全て、その感触に意識を集中する。──腹(?)の横辺りを撫でる様に、草らしきものが触れていた。

 

 その“当たり”に意識を集中すると、自分の身体の範囲が朧げに理解できた。偶に、葉の先端が自分の身体にツンツンと刺さる感触がある。

 

 俺はちょっと嬉しくなった。

 

 未だ真っ暗な中にいる。しかし、五感の内の触覚だけでも感じる事が出来たのだから。面白くなって、その草に向かって行こうとして……

 

 

 

 ブチュンッッッ───!!!

 

 

 

 潰れた様な音が響き、"元"三上悟の意識は再び途絶えた。

 

 

 

「? 何か潰れた……?」

 

 一秒もしない程の数瞬後、“謎の水溜まり”の上にソウゴの姿があった。

 

 この世界への出口を開いた際、そこから漏れ出た自身の気配の余波を受けてか何かが潰れた事をソウゴは察知した。

 だが実際に降り立ってみれば、それらしき血痕も臓物が飛び散った形跡も無い。或いは、霊魂系のモンスターの類だったのだろうか。

 

 

「……思い違いか。それより、なんか嗅いだ事のある臭いが」

 

 

 しかしそこで意識を割くのを止め、直後に別の気配を見つけ其方に思考を向けた。

 

 ビチャッ!! という水溜まりを踏む足音を響かせながら、ソウゴは洞窟の奥へと足を進めた。

 

 

 

 

 

………………

……………

…………

 

 これは本来、三上悟という男の第二の生の物語──の筈だった。

 

 後にこの洞窟の奥に眠るドラゴンと盟約を交わし、「リムル=テンペスト」と名乗りこの世界に影響を及ぼす重大人物になる筈だった彼は、新たな名を得るその前に不運な事故によって今度こそ死んだ。

 

 

 だがしかし、それを恨んでも嘆いてもいけない。これは身に余る願いを抱いた事への、当然の報いだからだ。

 本来人間の生とは一度きりのものであり、剰え記憶を持ったまま生まれ変わるなど世界の法に触れる違反行為に他ならない。

 

 

 故にこそ。自らの領分をわきまえない愚者が、『世界の法そのもの』である常磐ソウゴに近づけば相応しい裁きを受けるのは───極々当たり前の結果なのだ。

 

 

 

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