ハリー・ポッターと綺麗なマルフォイ   作:ゆかりです。

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第一学年
賢者の石①


11歳の誕生日に届いた一枚の羊皮紙と、髭もじゃの大男によって僕の人生は大きく変わった。いままでは、そしてこれからもバーノンおじさんとペチュニアおばさん、そして豚のダドリーにこき使われていくはずだった僕は、何故か今こうして不思議なことがごった返すこのダイアゴンの横丁にいるのだった。

ゴブリンの支配する銀行──しかもそこには両親が僕に残してくれたという財産が山を成していた!!──から僕の当面の資金と何やら小さな小包をおろした僕とハグリッドだったが、どうにもハグリッドがトロッコで酔ってしまったということで気付けを一杯引っ掛けに漏れ鍋へ行ってしまった。

 

僕はハグリッドに教えてもらった店──マダム・マルキンの洋装店──へ歩きながら、ついぼうっと物思いに沈んでしまった。現実感のない事ばかりが立て続けに起こり過ぎて、どうにも夢の中にいるような感覚に襲われる。でも目の前で起こっている出来事は現実なのだった。

 

だからきっと、僕の両親も、そして僕自身も、魔法使いだというのは本当なんだろうと思う。そうやって受け入れてみると、僕は今度は強い不安に襲われた。だって僕は11歳になるまで魔法なんて知らずに生きてきたし、魔法界における「ハリー・ポッター」の名前はあまりにも大きいもののようだから。

 

魔法界の英雄と言われている僕が、実際はひょろひょろの痩せっぽちで、鳥の巣のような頭をしていて、おまけに魔法使いではないおじさんとおばさんに階段下に押し込められて育ったから魔法なんてなにもわからないんだ、なんて知られたらきっと皆がっかりするんだろうと思うと、とても陰鬱な気持ちになった。

 

そんなことを考えながら入った店の中には、藤色ずくめの服を着た、愛想のよいずんぐりした魔女がいた。彼女はハリーが口を開く前に、にっこりと笑顔で話しかけてきた。

 

「こんにちは、坊ちゃん。ホグワーツなの?大丈夫、全部ここで揃いますよ。⋯⋯もう一人、今お若い方が丈を合わせているところよ」

 

店の奥ではマダム・マルキンの言葉通り、僕と同じくらいの背格好の少年が、もう一人の背の高い魔女に採寸されているところだった。

絹糸のようなプラチナブロンドを頭の形に沿って後ろへ撫で付けて、同じ色の長く濃い睫毛に縁取られた瞳は淡い灰色。青白い肌色さえもう少し健康的であればと思ってしまうような美少年の、その隣の採寸台に立たされた僕を、マダム・マルキンは採寸しはじめた。

 

「やあ。君もホグワーツかい?」

 

「うん」

 

「僕の父上は隣で教科書を買っているし、母上はその先で杖を見ているんだ。せっかく久しぶりにダイアゴン横丁に来たというのに、この調子では僕は採寸だけで帰らなくてはいけない。⋯⋯君のご両親は?」

 

少し気怠そうな調子ではあったが、流麗なクイーンズ・イングリッシュで話す少年に水を向けられて、僕は少し慌てつつも答えた。

 

「その、僕の両親は僕が幼い頃に亡くなってしまって。おばさん達のところに引き取られたんだけど、その人達は魔法とか知らなくて。ここにはハグリッド⋯⋯えーと、ホグワーツの仕事をしているって人が連れて来てくれたんだ」

 

「それは失礼。大変申し訳ないことを言ったね。⋯⋯僕はドラコ。ドラコ・マルフォイ。君は?」

 

つんと鼻先の尖った面立ちからは似合わないほどに気さくに話しかけてくる少年に、ハリーは少し驚きつつも言葉を返した。

 

「僕はハリー・ポッター。みんなが僕の事を英雄って言うけど、僕は自分が何でそう呼ばれてるのかもよくわからないんだ」

 

僕がそう名乗ると、彼は少し目を見開いて

 

「君が」

 

と言った。それからちらと一瞬僕の額に目をやって、そして少し笑った。

 

「気を悪くしてしまったら済まないが、何だかそんな風には見えないね。僕は『生き残った男の子』というのはもっと強そうな大男かと思っていたよ」

 

今までの人達とは違う、マルフォイの淡白とも言える反応に、僕は少し気が楽になるのを感じた。

なにせ今まで出会った魔法界の人たちは、『生き残った男の子』に大層感涙していて、僕は過剰な期待の重圧に胃を重くしていたから。

 

「奇遇だね、僕もまるで自分が筋骨隆々のスーパーヒーローになったような気持ちだったんだ」

 

僕はマルフォイと顔を見合わせて笑った。

 

「そうだ、マルフォイは両親も魔法使いなんだよね?僕に教えてよ、魔法界のこととか、ホグワーツのこととか」

 

僕のリクエストに応えて、ドラコは色々と教えてくれた。箒に乗って三種類の球を使うクィディッチと言うスポーツが魔法界では大人気だということ、魔法族の郵便にはふくろうを使うこと、箒で空を飛ぶのはとても楽しいけれど少し肌寒いということ、それからホグワーツの四つの寮のこと。

 

勇猛果敢なグリフィンドール、機知に富むレイブンクロー、公明正大ハッフルパフ、深謀遠慮のスリザリン。マルフォイの家は先祖代々スリザリンであるらしく、僕も入りたいのだけれどねと少し困ったような顔をするので、どうしたのと問いかけようとしたちょうどその時、マダム・マルキンが

 

「さあ、終わりましたよ坊ちゃん」

 

と言ったので、僕は彼の話を遮るようにその場を離れることになった。

ごめんねと表情で伝える僕に、マルフォイは笑って

 

「それでは、ホグワーツでまた会おう。きっとね」

 

と言った。

 

 

店を出て、ハグリッドが買ってくれたチョコレートとラズベリーのアイスクリームを舐めながら、僕はハグリッドに尋ねた。

 

「ねぇハグリッド、スリザリンってなんだか最近⋯⋯えーと、評判悪かったりするの?」

 

「何でまた急にそんなこと言うんだハリー?誰かに聞いたんか?」

 

「うん、さっき採寸してる時に隣だった子が色々教えてくれて。その子が先祖代々スリザリンだから、僕もそこがいいけれど、でも最近は⋯⋯ってなんか言葉を濁してる感じだったから」

 

僕がそう答えると、ハグリッドはそうだなあと髭を撫で、何と答えていいかと迷うような表情を浮かべながらも言葉を選びつつ教えてくれた。

 

「ハリー、スリザリンってのはもちろんいい寮ではあるんだがな、お前さんのご両親を殺してお前さん本人にもその傷をつけた張本人、『名前を呼んではいけないあの人』の出身寮でもあるんだ。そんでスリザリンの元の気質と合わせてちょっち他の寮から孤立気味でな。ただ勘違いしちゃいかん、悪いのはスリザリンでなく『あの人』だぞハリー?噂に惑わされちゃあだめだ」

 

僕はハグリッドの言葉にうんと頷いた。

 

「ねえ、僕の両親はどこの寮だったの?ハッフルパフ?」

 

「うんにゃ、グリフィンドールだ。勇気ある者の寮──実際お前の両親は大層勇敢だったんだぞ、ハリー。『例のあの人』相手に最期まで戦って、そんで、お前が生きとるんだ。

そんでだな、偉大なるアルバス・ダンブルドア学長先生もグリフィンドールで、ついでに俺もグリフィンドールだったんだ」

 

そんな話をしながら辿り着いた本屋──フローリッシュ・アンド・ブロッツ書店──で今度は僕の教科書を買った。その本屋の棚は天井に届くくらい高く、敷石くらいある大きな革製本やシルクの表紙で切手くらいしかないサイズの本まであった。呪いの本まであって、僕がダドリーに呪いをかけるべくその本を読み耽っていると、ハグリッドに首根っこを掴まれて次のお店へと連行されてしまった。

 

そうして錫の大鍋や秤、真鍮の折り畳み式望遠鏡や、なんだかわけのわからない魔法薬の材料を買ってもらった後、ハグリッドは僕に誕生日プレゼントを買ってくれると言った。

僕はそんな事しなくていいと言ってしまったのだけれど、ハグリッドは俺がしたいからいいんだと言ってくれて、ふくろうを選ばせてくれた。雪の様に白いふくろうはとても綺麗で、僕はその子がとても気に入った。

 

大きな鳥籠をぶら下げながら僕とハグリッドが最後に向かった先の看板には「オリバンダーの杖店」と書かれていて、つまりそれこそ僕が最も欲しかったもの、魔法使いの杖だった。

様々な杖を振って選んだ(オリバンダーさん曰く選ばれた)、僕の運命の杖は柊と不死鳥の羽、28cm、良質でしなやか、そして僕の両親を殺した杖の兄弟杖であるらしかった。

オリバンダーさんは

 

「ポッターさん、あなたはきっと偉大な事をなさるに違いない⋯⋯。『名前を言ってはいけないあの人』も、ある意味では偉大な事をしたわけじゃ。恐ろしい事じゃったが、偉大には違いない」

 

とそう言った。

僕はあまり彼のことを好きになれない気がした。

 

地下鉄を待つ間、ハンバーガーを食べながら、僕はハグリッドに言った。

 

「みんなが僕の事を特別だって思ってる。『漏れ鍋』にいた人達も、さっきのオリバンダーさんだって⋯⋯。でも僕は魔法のことなんて何も知らなくて、それなのにどうして僕に期待できるの?僕は何が僕自身を有名にしたかってことさえ覚えていないのに。ヴォル⋯⋯、ごめん、僕の両親が死んだ夜のこと、僕は何が起きたのかも覚えてないんだ」

 

ハグリッドはテーブルの向こうから身を乗り出した。髭もじゃの顔の中に優しい笑顔があった。

 

「ハリー、大丈夫だ。心配すんな、すぐに様子がわかってくる。みんなホグワーツは一からなんだ、お前さんが心配することなんざ何もない。そりゃきっと大変だろうさ。お前さんは選ばれたんだからな。だがな、ホグワーツは楽しい。俺も楽しかった。今も実は楽しいよ」

 

だから安心しろ、ハグリッドはそう言って封筒を取り出した。

 

「ホグワーツ行きの切符だ」

 

丁度その時ホームに滑り込んできた電車に乗り込むのを、ハグリッドは手伝ってくれた。

 

「九月一日──キングズ・クロス駅発──全部切符に書いてある。ダーズリーのところでなんか不味いことがあったらお前さんのふくろうに手紙を持たせて寄越すとええ。ふくろうが俺んところまで届けてくれる。⋯⋯じゃあな、ハリー。またすぐ会おう」

 

 

 

 

九月一日、僕はホグワーツへ向かう汽車に乗っていた。九と四分の三番線のホームがわからず右往左往していたのを、赤毛の男の子たちを連れた親切なおばさんに助けてもらって、なんとか汽車に乗ることが出来たのだった。あのおばさんのおかげで助かったけど、できればホームへの行き方くらい──柵にぶつかるなんてわかるわけない──教えておいてほしかったな。なんて、そう思いながら空いているコンパートメントを見つけたハリーは、荷物を片付けて腰を下ろした。

 

窓から見える景色の中では、先程の赤毛の男の子達がおばさんに別れを告げているところだった。僕はそれを見るともなしに見つつも、これから始まる新しい生活に胸を躍らせていた。ホグワーツに何が待っていたって、きっとダーズリー夫妻の元で過ごす日々よりは何倍も楽しいに違いないのだ。

 

ハリーがぼうっとそんな事を考えていると、汽車が動き始めた。いよいよホグワーツに向かっているのだ。その時、コンパートメントの扉が開いた。柔らかそうな赤毛、丸顔に丸い瞳、のっぽでそばかす。先程の赤毛の男の子たちのうちの一人、ロンと呼ばれていた少年が顔を覗かせていた。

 

「ここ空いてる?」

 

彼は僕の目の前の席を指差して尋ねる。

 

「もうどこもいっぱいなんだ」

 

僕は頷いた。

男の子は前の席に腰掛け、僕の方をちらっと見たものの、何も見なかった様なふりをしてすぐに窓の外へ視線を移していた。

 

「おい、ロン」

 

先程ロンと一緒にいた、双子の兄弟が戻ってきた。

 

「なあ、俺たち真ん中の車両まで行くぜ⋯⋯リー・ジョーダンがでっかいタランチュラを持ってるんだ」

 

「わかった」

 

ロンと呼ばれたその少年がもごもごと返答している間に、双子のもう一人が言った。

 

「ハリー、自己紹介したっけ?僕たち、フレッドとジョージ・ウィーズリーだ。こいつは弟のロン。じゃ、また後でな」

 

「バイバイ」

 

僕とロンは揃って答えた。

双子がコンパートメントの扉を閉めて出て行った。

 

「君、本当にハリー・ポッターなの?」

 

ロンがぽろりと言った。僕は無言でこくんと頷いた。

 

「ふーん⋯⋯そう。僕、フレッドとジョージがまたふざけてるんだと思った。じゃ、君、ほんとにあるの⋯⋯ほら⋯⋯」

 

ロンは僕の額を指差してきた。僕はそれに応えるように前髪を上げてみせた。顕になった傷跡をロンはじっと見つめている。

 

「それじゃ、これが『例のあの人』の⋯⋯?」

 

「うん。でも何にも覚えてないんだ」

 

「なんにも?」

 

「そうだな⋯⋯、緑色の光がいっぱいだったのは覚えてるけど、それだけ」

 

「ウワー」

 

ロンはそう言ってじっと僕を見つめていたが、はっと我に帰ったように窓の外に目をやった。

 

「君の家族はみんな魔法使いなの?」

 

そんなロンに負けないくらい、僕もロンに興味津々だった。そうやって僕が訊ねると、ロンはいろいろ教えてくれた。

 

ロンの家族は基本的に全員が魔法使いだけれど、ママ──さっきのおばさんだ──のはとこだけがマグルの会計士で、ロン達の家族はその人のことを話題にしないようにしているらしい。

そしてロンには上の兄弟が五人もいて、みんなホグワーツに入学しているらしい(ついでに下には妹が一人いるらしい)。上のお兄さん達はみんな成績優秀で、全員がグリフィンドールらしい。ロンにはそれがとてもプレッシャーであるらしかった。

僕はそんな彼の話を聞いて、家族みんなが魔法使いということはきっと色々魔法を知っているんだろうととても羨ましく思った。

 

そんなことをロンと話していると──ロンとの会話は波長が合って、とても話が進んだ──車内販売の魔女が通り過ぎたので、僕は腕にいっぱいいろんなお菓子を買って、ロンと分け合うことにした。

 

魔法界のいろんなお菓子をロンに教わりながら食べて、蛙チョコレートについてきたアルバス・ダンブルドアと言う魔法使いのカードの中の絵が動いていることに驚いて、そんな風にしているとコンパートメントの扉をノックする音がした。

僕が返事をすると、コンパートメントの扉が開いて、綺麗に撫でつけられたプラチナブロンドが現れた。

 

「やあ、やっぱりまた会ったね。このコンパートメントの前を通りかかったら聞き覚えのある声が聞こえたものだから──お邪魔だったかい?」

 

「もちろんそんなことないさ。僕はまた会えて嬉しいよ、マルフォイ」

 

そう言った僕の言葉に被せるように、ロンがうへえとこぼした。

 

「誰かと思えばマルフォイのお坊ちゃんじゃないか。金貨を鼻に引っ掛けてるって噂は本当だったんだね、マーリンの髭!」

 

「やあ、そう言う君は名乗る必要はないよ。赤毛にそばかす、ウィーズリーの六男坊だろう?君のお父上には是非伝えておいて欲しいんだ、ティーポットカバーは頭に被るものではありませんよ、とね!」

 

確かにマルフォイの服──ウエストに切り替えがあり、背面にドレープを寄せたジャケットにハーフパンツ、ハイソックスにソックスガーター、おまけに手元にはステッキ──という服装は一目見て高価とわかりかつ華美に過ぎ、汽車の中のみならずロンドンの街中にいても浮いてしまうだろうと言うことは明らかではあった。しかし繊細な人形めいたマルフォイの顔立ちには良く似合っており、面と向かって悪罵を投げつけるようなものではなかったので、僕は驚いてしまった。

 

それに何より、さっきまで朗らかで明るかったロンが刺々しい声でそんな風に突っかかる理由がさっぱりわからない。マルフォイの返答の方も僕と話していた時の様子からはかけ離れていて、僕はとても気まずくなってしまった。

そんな僕に気がついたのか、ロンは少し申し訳なさそうに口を開いた。

 

「や、ごめんねハリー。でもコイツは──マルフォイはさ、ほら、スリザリンだから」

 

「そしてウィーズリーはグリフィンドールだからね。先祖代々犬猿の仲、と言うわけだ。ハリーには言っていなかったけれど、グリフィンドールとスリザリンはいつの時代も不仲なので有名なんだ」

 

初めて聞く話に僕は驚いた。僕は両親と同じグリフィンドールに入りたいと思っているのだけれど、そうなるとマルフォイがスリザリンになれば友人として付き合っていくのは難しいのだろうか?それは少し残念だ。魔法界の人の中で初めて、僕をただのハリーとして見てくれた奴だったのに。

 

「大体、スリザリンなんて最低な寮さ。歴代でも闇の魔法使いが一番多いのはスリザリンだし、それこそ『例のあの人』だってスリザリンさ!」

 

「グリフィンドールからだって闇の魔法使いは出ているさ。それに忘れたのかい?かのシリウス・ブラックもグリフィンドールだったということを?」

 

僕が寮間の友情について考えている間にも、ロンとマルフォイの言葉の応酬は続く。ただ、会話の内容や二人が先程言っていた言葉から思うほど二人の語気は強くなく、むしろ友人間の軽口のようだった。

丁度そのときまたコンパートメントのドアが開いて、丸顔の男の子が泣きべそをかきながら入って来た。

 

「ごめんね、僕のヒキガエルを見かけなかった?」

 

僕たちが首を横に振ると、男の子はめそめそと泣き出した。

 

「いなくなっちゃった。僕から逃げてばっかりいるんだ!」

 

「きっと出て来るよ」

 

と僕が返すと、男の子は

 

「うん。もし見かけたら⋯⋯」

 

としょげかえって言って、コンパートメントを出て行った。

それを見ていたロンが言った。

 

「何でそんな事気にするのかなぁ。僕がヒキガエルなんて持ってたら、すぐにでもなくしちゃいたいけど。ま、僕だってスキャバーズを連れて来たんだからあんま人のこと言えないけどね」

 

ロンはそう言ってポケットから太ったねずみを取り出した。

 

「おや、君のペットはねずみなんだね、ロナウド・ウィーズリー。狭いお家に群がって住む似た者同士だからかい?」

 

「うるさいなマルフォイ。大体君の家だって結構な田舎なんだろ。広いばっかのお家を自慢するの、虚しいとは思わないのかい?」

 

本当に隙を見つければすぐに煽るなあと側から見ている僕は思った。

膝の上に乗せられてもなおぐぅぐぅと眠り続けるねずみを見ながらロンはぼやいた。

 

「死んでたってきっと見分けつかないよ。昨日さ、ちょっとは面白くしてやろうとして黄色に変えようとしたんだ。けど上手くいかなくてさ。」

 

「色を変えるって、どんなふうに?」

 

何だか魔法っぽいことを言うロンに、僕はちょっぴり嬉しくなって聞いてみた。杖を一振りするだけで毛並みの色を変えられるって、とってもロマンじゃないか?それに色を変えられるなら、ダドリーを真紫に染めてみたりしたら楽しそうだろう?

 

「それじゃやって見せようか。見ててね──」

 

そういうとロンは、くたびれたような杖をトランクから引っ張り出した。端から何やらきらきらした白いものが覗いている。

 

「一角獣のたてがみはみ出てるけど、まぁいっか⋯⋯」

 

ロンが杖を振り上げた途端、またコンパートメントの扉が開いた。新装開店直後のお店みたいだなと僕は思った。さっきのカエルの子が、今度はもうローブを着込んだ女の子を連れて立っていた。

 

「誰かヒキガエルを見なかった?ネビルのがいなくなったの」

 

女の子は栗色のくるくるした髪の毛をしていて、前歯がちょっぴり出ている。なんとなく威張ったような話し方だなあと僕は思った。

ロンが

 

「見なかったってさっき言ったよ」

 

と答えたが、その頃には彼女はロンが振り上げていた杖に夢中だった。

 

「あら、魔法をかけるの?それじゃ、私も見せてもらうわ」

 

彼女はそう言って座り込み、ロンはたじろいだ。

咳払いを一つ二つして、ロンは呪文を唱えた。

 

「お陽さま、雛菊、溶ろけたバター。デブで間抜けなねずみを黄色に変えよ」

 

そうロンが唱えたが、スキャバーズは相変わらず鼠色でぐっすり眠っていた。

 

「その呪文、間違ってないの?」

 

と女の子が聞いた。

 

「まあ、あんまり上手くいかなかったわね。私も練習に簡単な呪文を幾つか試したけれど、みんな上手くいったわ。私の家族に魔法族は誰もいないの、だから手紙をもらって驚いたわ。でももちろん嬉しかったけど。だって、最高の魔法学校だって聞いているもの⋯⋯。教科書はもちろん全部暗記したわ。それだけで足りると良いのだけれど⋯⋯。私、ハーマイオニー・グレンジャー。あなた方は?」

 

女の子は立て板に水でこれだけのことを言ってのけた。僕たちが呆気に取られている間に、マルフォイが答えた。

 

「初めまして、僕はドラコ・マルフォイ。僕は両親とも魔法使いだったけれど──母上曰く、初めの方の授業は魔法を知らない子達に合わせてするそうだから問題はないと思うよ。まあ、それで母上は退屈だったと大変に言っていらしたけれどもね。

ついでに──そう、『コロバリア』」

 

マルフォイがいつの間にか取り出していた杖をねずみに向けて呪文を唱えると、スキャバーズは鮮やかなピーコック・グリーンに染まった。目の覚めるような鮮やかな緑色に変えられた本人(本ねずみ)は、やっぱり気持ちよさそうに眠っていた。

 

「あら、ありがとうマルフォイ。そう聞いてますます楽しみになったわ。それと、呪文、やっぱりよく知ってるのね」

 

「出た、イヤミだよ。スリザリンってそういうところがあるよなって、フレッドとジョージの言葉通りだ。っていうかマルフォイ、お前僕のスキャバーズをちゃんと戻してくれるんだろうね!」

 

と、ロンはひとしきりマルフォイに噛みついた後、ハーマイオニーに向かって名乗った。

 

「僕はロン。ロナウド・ウィーズリー」

 

「ハリー・ポッターだよ、どうぞよろしく」

 

僕は、自分と同じくマグルに育てられた彼女なら僕の名前を知らないと思って名乗ったのだが、そういうわけでもなかったらしい。

 

「ほんとに?私もあなたのこと全部知ってるわ──参考書を二、三冊読んだの。あなたのこと、『近代魔法史』『黒魔術の栄枯盛衰』『二十世紀の魔法大事件』なんかに書いてあったわ」

 

「僕が?」

 

呆然とした。だって、僕は何にも知らないのに、何だか大層な本に名前が載っているというのだ!

 

「まあ、知らなかったの。私があなただったら、できるだけ全部調べるけど。三人とも、どの寮に入るのかわかってる?私、いろいろ調べたんだけど、絶対グリフィンドールがいいなって思うの。ダンブルドアもグリフィンドール出身だって書いてたし。でもレイブンクローも悪くないかも──。とにかく、あなた達ももう着替えた方が良いと思うわ、もうすぐ着く筈だもの。それじゃ、私はもう行くわ、ネビルのヒキガエルを探さなきゃ」

 

そう言ってハーマイオニーは、ネビルを連れてコンパートメントから出ていった。

 

「どの寮に入るにせよ、あの子のいないとこがいいな」

 

とロンが言った。

 

「嵐のような女の子だったな」

 

とマルフォイも言った。

 

三人で洋服を脱ぎ、僕とマルフォイは仕立てたばかりの──ロンはお下がりだった──ホグワーツ・ローブを着込みながら、ロンに尋ねた。

 

「そう言えば、ロンのお兄さんはみんなグリフィンドールなんだよね?その人たちって卒業したら何してるの?」

 

「ウン、そう。チャーリーはルーマニアでドラゴンの研究。ビルはアフリカで何かグリンゴッツの仕事してるってさ」

 

「グリンゴッツと言えば、聞いたかい?盗みが入ったそうだよ、それも特別金庫にね。こんなことが続くようなら資産を移すことも考えねばならないと、父上はお怒りさ。『日刊預言者新聞』にも載っていたんじゃないかな。いや、マグルの方には配達されないか」

 

マルフォイはそう言って、最後にちらっと僕の方を見た。僕は驚いて目を丸くした。

 

「もちろん知ってるさ!グリンゴッツに忍び込むなんて、きっと強力な闇の魔法使いだろうってパパは言ってる。でもなーんにも盗ってないんだってさ」

 

「いや、父上から聞いた話だから、口外しないでほしいんだが⋯⋯。なんでも盗みが入った金庫は空だったそうなんだ」

 

「マジで⁉︎ヒェー、コイツは驚き!やっぱそんな頭おかしいことする奴は、陰に『例のあの人』がいるんだろうな。いっつもみんなそう言って怖がってるし」

 

その会話が僕の頭の中をぐるぐる回っていた。『例のあの人』と聞くたびに、恐怖が胸を刺すようになってきていた。これも、これから僕が魔法界で生きていくってことなんだとは思ったが、でも何も考えずに『ヴォルデモート』と言えた頃の方が遥かに気楽だった。

 

「君、クィディッチはどこのチームのファン?」

 

とロンが尋ねてきた。僕がぐるぐるしている間に、とっくに話は終わっていたようだった。

 

「うーん、僕クィディッチのチームひとつも知らないや。この前マルフォイに教えてもらったばっかりなんだよね」

 

「ひえー!そっか、マグルにはクィディッチもないんだ!じゃあ何してんの?マグルのスポーツって、もしかしてないのかい?」

 

「まさかウィーズリーはマグルも箒を使えると思っていたのかい?これは驚きだね」

 

「マルフォイは人の話にケチをつけることしかできないのかい?それこそお里が知れるってものだね!」

 

ロンは至極大真面目に、クィディッチがないマグルのスポーツを哀れむような顔をしていたので、僕は何だか面白くなって、魔法族二人にマグルのスポーツを教えてあげることにした。

僕はクリケット、サッカー、ラグビーと色々説明してみたが、ロンとマルフォイの反応はあまり芳しいものではなかった。どうにも平面で完結するスポーツというものがしっくりこないらしかった。

 

「だって、地べたでボール蹴ったり取っ組み合ったりするだけかい?つまんなくないの?」

 

「何だか随分と──あー、原始的なんだね?」

 

と言った具合だ。僕はやっぱりロンとマルフォイは似た者同士だと思った。

そうして僕が膨れっ面をしていると、またコンパートメントの扉が開いた。いっそ面白くなってそっちを振り向くと、縦にも横にも大きな男の子が二人並んでいた。

 

「ドラコ、探した」

 

「ああ悪いね。どうも話が弾んだものだから⋯⋯。ハリー、ロン、右側に居るのがクラッブで、左側がゴイルだ。三人でよく遊んでいるんだ。──クラッブ、ゴイル、こっちの黒髪の子がハリー・ポッターで、背の高い赤毛の方がロナウド・ウィーズリーだ。挨拶を」

 

「初めまして、ポッター。俺はビンセント・クラッブ」

「グレゴリー・ゴイル。よろしく」

 

厳つい外見に見合った低い声と、見合わないほど幼げな喋り方の二人だった。僕はちょっと億劫になりながらも挨拶を返した。

 

「初めまして、僕はハリー・ポッター。英雄ってよく言われるけど何も知らないんだ。どうぞよろしく」

 

「ロナウド・ウィーズリー。よろしく──よろしくするような機会があれば、ね」

 

「それでは、僕はこの二人と一緒に先に行ってるよ。ホグワーツでもまた話す機会のあることを願おう。また後でね」

 

マルフォイはそう言い残し、二人を引き連れてコンパートメントから出て行った。

 

「マルフォイには悪いけどさ、あの二人ちょっとヘンだったよな?」

 

「ちょっとね。あとあのポケットに詰め込んでいたの、あれケーキじゃなかった?」

 

そんな会話をして、僕とロンも彼らから少し遅れてコンパートメントを去った。

通路には人が真っ黒の群れになっていて、僕達はもっとさっさと出ておけばよかったと軽く後悔しながら、その中に突っ込んだ。

 

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