皆さまありがとうございます。
僕たち三人組、赤色が二人に緑色が一人というホグワーツ内ではかなり珍しい取り合わせの集まりは、周りの好奇の目を集めながら校庭をまっすぐ横切った。『禁じられた森』の端にある小屋にハグリッドは住んでいる。僕がその扉をノックすると、中からめちゃくちゃに扉を引っ掻く音と、低く唸るような吠え声が数回聞こえた。
「退がれ、ファング、退がれ」
ハグリッドの大声が扉越しに響いた。扉が少し開いて、隙間から大きな髭もじゃの顔が現れた。
「待て待て、退がれファング──お、お前さんは⋯⋯」
ハグリッドは僕とロンの後ろにいるマルフォイに少しびっくりした様子を見せながらも、巨大な黒いボアーハウンド犬の首輪を押さえて僕たちを招き入れた。
「寛いでくれや」
ハグリッドがファングを離すと、彼は一直線にロンに飛びかかって耳を舐めはじめた。そんなファングの首筋あたりをマルフォイが撫でくりまわしたが、彼は全く構う様子がなかった。ハグリッドとおんなじで、見た目に反して全く怖くないな、と僕は思った。
「僕と同じグリフィンドールなのがロンで、スリザリンの方がマルフォイだよ」
と僕は紹介した。さっきの今で、マルフォイに関しては少し声が尖ってしまったかもなと思った。
「お、そうかい。そっちのはウィーズリーの六男坊だな。お前の双子の兄貴たちを追っ払うのに、俺は人生の半分を費やしてるようなモンだ。で、そっちのは、お前さん、ルシウスの息子か?」
ハグリッドはそう言いながら、大きなティーポットからお茶を淹れて、ロックケーキを切り分けてくれた。
「ええ、そうです。父上はあなたについても良く話して下さいましたよ、ルビウス・ハグリッド」
「やめろやめろ、その喋り方は鳥肌が立っちまう。普通に喋ってくれや。どうせルシウスからは碌な話を聞いちゃいないだろう?」
「そんな、まさか。魔法生物飼育において極めて優秀な方と」
意外にも弾んでいるマルフォイとハグリッドの会話を聞きながら、僕たちはロックケーキに手をつけた。一口齧ってみて、まるで歯が折れそうなくらい硬いそれに、二人でなんとか美味しそうなふりをした。
ひとしきりマルフォイが喋り終えたので、今度は僕たちの番だった。フィルチやミセス・ノリスの愚痴でひとしきり盛り上がった。ちなみにマルフォイはその話の間ずっとファングと戯れていて、ケーキに手をつけようとはしなかった。澄ました顔に僕はちょっとむかついた。まったく、要領の良いことで!
さっきまでの魔法薬学の話になった。ハグリッドはさっきのロンと同じように、気にするなと言った。
「あの人は生徒という生徒がみんな嫌いなんだ」
「でも僕のこと、本当に憎んでいるみたい」
「馬鹿な、なんで憎まなきゃならん?」
そう言いながらも、ハグリッドはまともに僕の目を見ようとはしなかった。僕の膝で眠り出したファングを撫でながら、マルフォイはぽつりと溢した。
「でも確かに、普段の教授よりは気が立っていらしたような気がする⋯⋯」
「はん、そんなの『スリザリンの生徒に対するいつも』だろ。お前は特に贔屓されてるじゃんか、参考にならないよ」
とロンが返すと、それはそうなんだけれどもねとマルフォイはしっくりこないとでも言いたげな顔をした。
「チャーリーの兄貴はどうしてる?」
ハグリッドが話題を変えるように尋ねた。
「俺は奴さんが気に入っとった。──動物にかけてはあいつは凄かった」
ロンがチャーリーのドラゴンの仕事のことを話している間、僕はテーブルの上のティーポット・カバーの影に一枚の紙切れを見つけた。『日刊預言者新聞』の切り抜きだった。グリンゴッツ侵入を知らせる記事だ。日付が七月三十一日になっている。ロンもマルフォイも、日付までは言わなかった。その日は、僕とハグリッドがグリンゴッツを訪れた日だ。
「ハグリッド!グリンゴッツ侵入があったのは僕の誕生日だ!僕たちがあそこにいる間に起きたのかもしれないよ!」
今度は間違いなく、ハグリッドは僕から目を逸らした。ハグリッドは喉の奥で唸りながら、僕らに再びロックケーキを勧めた。僕は構わず記事を読み直した。
ハグリッドはあの日、七一三番金庫を空にしていた。荒らされた金庫は、侵入されたその日に空になっていたとマルフォイは言っていた。泥棒が探していたのはあの小さな包みだったのだろうか。
夕食の時間に遅れないよう、僕たちは小屋を辞して城へ向かって歩いた。断りきれなかったので、全員のポケットはロックケーキでぱんぱんに膨らんでいた。少なくともハリーにとっては、この一週間でもっともいろんなことを考えていた。ハグリッドはあの包みを間一髪で引き取ったのだろうか?それならばどこにあるのだろう?スネイプについて、僕に何を隠しているんだろうか?
そんなことがあってからしばらくして、グリフィンドールの談話室に『お知らせ』が張り出されてから、何となくみんな浮き足だった雰囲気があった。そこには木曜日から飛行訓練を、スリザリンと合同で行う旨が記されていた。空を飛べることについては僕も単純にとても楽しみだったが、スリザリンと合同授業なのはうへえと思った。
合同授業が告知されてから、色んなところでスリザリン生が箒に乗った経験を自慢げに語るのが耳に入るのにも気が滅入った。魔法薬学の時のように──あれは理不尽だったと今も思っているけれど──、みんなの前で失敗してしまうのは嫌だった。たまたま一緒になったマルフォイにそう言うと、彼は苦笑しつつ返した。
「まあ大丈夫だと思うよ。彼らも君が思うほど豊かに経験を積んでいる訳ではないさ。それに、飛行術は経験よりセンスだよハリー」
「余計に心配だよ、僕にそんなものがあるとは思えないもの」
マルフォイはそう言ってくれたが、その彼もロンと一緒に『初めて空を飛ぶ魔法使いの子供にありがちなこと』でとても盛り上がっていて、僕はちょっぴり疎外感を覚えたのだった。
ちなみに飛行術に関して、余裕がないのは何も僕だけではなかった。というか、マグル生まれの魔法使いや魔女達はほとんどが全員そうだった。他の授業では常に万全なハーマイオニーも、こればっかりは不安でたまらないらしく、『クィディッチ今昔』で仕入れた知識をずっとぶつぶつ呟いていた。
そしてようやく待ちに待った木曜日が訪れた。僕たちが朝食を摂っていると、ふくろうがネビルのところに何か小さな包みを運んできた。おばあさんからのそれをネビルはウキウキと開けて、白い煙のようなものが詰まったビー玉くらいのサイズのガラス玉を取り出した。
「『思い出し玉』だ!僕が忘れっぽいの、おばあちゃん知ってるから⋯⋯。何か忘れてると、この玉が教えてくれるんだ」
そう言ってネビルが玉をきゅっと握ると、それは真っ赤に光り出した。
「あれれ⋯⋯、こうなったら何か忘れてるってことなんだけど⋯⋯」
その様子を見た向こうのテーブルのスリザリン生が、くすくす笑っているのが僕には見えた。
その日の午後三時半、僕とロンは他のグリフィンドール生と一緒に校庭に立っていた。スリザリン寮生は僕たちより以前に到着していて、目の前には二十本の箒が地面に整然と並べられていた。僕はフレッドとジョージが学校の箒についてぼやいていたのを思い出した。高いところへ上がると震え始めてしまう箒とか、どうしても少し左に曲がってしまう癖のある箒とか。
マダム・フーチが来た。白髪を短く刈って、鷹のような黄色い目をしていた。
「何をぼやぼやしているんですか。みんな箒の側に立って、さあ早く」
僕は自分の箒をちらりと見下ろした。古ぼけて、小枝が何本かとんでもない方向へ飛び出している。
「右手を箒の上に突き出して。そして『上がれ』と言う」
マダム・フーチの言葉に従い、みんな口々に『上がれ』と唱えた。僕の箒はスムーズに右手に収まったが、飛び上がった箒は少なかった。マルフォイとロンの箒は僕と同じく右手の中だったが、ハーマイオニーの箒は地面を少し転がっただけで、ネビルのそれに至ってはぴくりともしていなかった。多分箒も馬と同じで、乗り手が怖がっているのが分かるんだ。ネビルの震え声じゃ、地面をしっかり踏み締めていたいと思っているのが丸わかりだもの。
次にマダム・フーチは、滑り落ちないように箒に跨る方法をやって見せ、生徒たちの間を回ってちゃんと出来ているかを確認した。
「さあ、私が笛を吹いたら地面を強く蹴って下さい。箒がぐらつかないようにしっかり押さえて、二メートルほど浮上したら、少し前屈みになってすぐに降りてきて下さい。笛を吹いたら、ですよ。一、二の──」
ところが、ネビルは緊張するやら怖気付くやら、自分だけ地面に置いてけぼりを喰らいたくないやらで、マダム・フーチの唇が笛に触れる前に思い切り地面を蹴ってしまった。
「こら、戻って来なさい!」
教授の言葉を聞く余裕などネビルにはなく、シャンパンのコルク栓が抜けたように勢いよく飛んでいった。四メートル──六メートル──高く高く吹き上がって行くネビルは今にも泣き出しそうな顔をしている。僕がそれをただ茫然と見ていると、黒い影が勢いよく視界の端を過ぎった。それは素晴らしいスピードでネビルのところまで飛び上がり、その青白い手が彼の箒をしっかり掴んだ。マルフォイに掴まれたネビルの箒は、初めこそ彼も巻き込んで暴れようとしていたが、やがて大人しくなった。
「良いかいロングボトム、落ち着いて──そう、ゆっくり──ゆっくり下へ──」
マルフォイに誘導されて、少しばかり落ち着きを取り戻したネビルは、ゆっくりと地面に降りて来た。硬い地面に足が触れた途端、緊張の糸が切れたらしい彼は、泣きながらマルフォイの腕にしがみついた。もぎり取ろうとしているのではと思ってしまうほど腕をぎっちり締め上げられて、マルフォイは割と本気で痛そうな顔をしていた。
「大丈夫ですかロングボトム?」
マダム・フーチは真っ青になってネビルに駆け寄り、全身をチェックして怪我がないことを確認した。
「見たところ怪我はなさそうだけど、万が一ということもあるわ。医務室へ行きましょう。一人で歩けますか?」
ネビルはゼンマイ仕掛けのおもちゃのように首を勢いよく左右に振った。それを見たマダム・フーチは、マルフォイの方を向いて言った。
「本来私の指示に従わず箒に乗る行為は減点の対象ですが、級友の危機を救うためという理由に免じて処罰無しとします。さあマルフォイ、私はロングボトムを連れて医務室へと向かいますが、あなたも彼に腕を貸してやって下さい」
マダム・フーチはそう言ってから僕たちの方を振り向いた。
「私たちはロングボトムを医務室に連れて行きますから、その間誰も動いてはいけません。箒もそのままにしておくように。さもないと、クィディッチの『ク』を言う前にホグワーツから出て行ってもらいますよ」
そうしてマダム・フーチの姿が見えなくなると、スリザリン生たちは大きく笑い出した。
「あいつ、見たか?あの大間抜けめ!」
「ドラコも甘いんだから。あんな純血の面汚し、わざわざ助けてやる必要なんてないのにさ」
「ちょっと、あんたたちそれは酷いんじゃない?誰だって失敗くらいあるわ!」
パーバティ・パチルがそう言ってスリザリン生たちを咎めた。
「へー、パーバティったら、まさかあなたがチビデブの泣き虫小僧に気があるなんて知らなかったわ!」
パグみたいな顔をした女の子、パンジー・パーキンソンがそう冷かした。
「おい見ろよこれ!ロングボトムの馬鹿玉だ!」
そう言ってスリザリンの男子生徒が掲げたのは、今朝ネビルが祖母からもらった『思い出し玉』だった。
「返せよ。それはネビルのものだ」
思いの外静かな声が出た。みんなが口を閉ざしてこちらを見ていた。玉を拾った生徒はにやりと笑って言った。
「それじゃ、ロングボトムが後で取りに来られる場所に置いておこう」
彼はそう言って、箒に跨り飛び上がった。
彼は樫の木の梢の高さまで舞い上がり、そこから僕に呼びかけた。
「ここまで取りに来いよ、ポッター!」
僕は箒に跨った。
「ダメ!フーチ教授が仰っていたでしょ、動いちゃいけないって!私たち、みんなが迷惑するのよ!」
ハーマイオニーが叫んだが、僕はそれを無視した。どくどくと血が騒ぐのを感じた。箒に跨り地面を強く蹴ると、ハリーは急上昇した。高く高く、風を切り、髪が靡く。ローブがはためく。強く激しい喜びが押し寄せてくる。
──僕には教えてもらわなくても出来ることがあったんだ。簡単だよ。飛ぶってなんて素晴らしいんだ!もっともっと、高いところまで行こう。
僕は箒を引っ張り上げた。下からは女の子たちが息を呑む音、あるいはきゃあきゃあと騒ぐ声、ロンの歓声が聞こえた。僕は空中でくるりと向きを変え、スリザリンの少年と向き合った。
「こっちへ渡せよ。でないと箒から突き落としてやる」
「へえ、そうかい?」
彼はそう言って馬鹿にするように笑った後、
「そんなに欲しいならあげるよ。ほら、取ってこい!」
と言って、『思い出し玉』を空高く放り投げて全速力で地面へと戻っていった。
僕には高く上がった玉が、次に落下し始めるのがまるでスローモーションのようによく見えた。僕は前屈みになって、箒の柄を地面へ向けた。僕はそのまま一直線に急降下した。獲物を見定めた鷲でも、今の僕には追いつくことすらも出来ないさ。そんなスピードで地面に向かう僕への悲鳴が、風の鳴る音と混ざり合って心地良い。僕は手を伸ばして玉を掴み、鼻先が地面に触れそうなほどぎりぎりのところで箒の先を引き上げ、水平に立て直し、そのまま草の上に転がるように軟着陸した。『思い出し玉』はしっかりと右手の中に収まっていた。
「ハリー・ポッター⋯⋯!」
マクゴナガル教授が走って来た。まずったな、と僕は思った。マダム・フーチの言葉が蘇る。『ホグワーツから出て行ってもらう』⋯⋯。
「まさか──こんなことはホグワーツでは一度も⋯⋯」
マクゴナガル教授はショックで言葉も出ないようだった。眼鏡が光を反射して、彼女の目は見えない。
「よくもまあ、なんて大それたことを⋯⋯首の骨を折ったかもしれないのに⋯⋯!」
「教授、ハリーが悪いんじゃないんです⋯⋯」
「お黙りなさい、ミス・パチル」
「でも、スリザリンの──」
「くどいですよ、ミスター・ウィーズリー。ポッター、さあ、一緒にいらっしゃい」
マクゴナガル教授は早足で城に向かって歩き出し、僕はとぼとぼとその後ろに続いた。遠くの方で例のスリザリン生が勝ち誇った顔をしているのが目に入った。僕は退学になるんだ。わかっていて、せめて弁解したかったが、どうしてか声が出ない。マクゴナガル教授はほとんど飛ぶような早足で、僕はほとんど駆け足になった。
とうとうやってしまった。二週間持たなかった。僕がダーズリー家の玄関を叩いたら、あの人たちはどんな顔をするだろう?
正面玄関を上がり、大理石の階段を上がり、その間も教授は一言も言葉を発しなかった。
やがてマクゴナガル教授はとある教室の前で立ち止まり、扉を開いて中に首を突っ込んだ。
「フリットウィック教授、申し訳ありませんが、少しウッドをお借りできませんか?」
ウッド?木の棒ってこと?それで僕を引っ叩くのかな。何回だって叩かれて良いから、それで勘弁してくれないかな。
しかし、ウッドは人間だった。逞しい五年生の男子生徒で、何事だろうと言う顔をしていた。
「二人とも、私についていらっしゃい」
そう言うなり、教授は再び廊下を歩き出した。ウッドは珍しいものでも見るかのように僕を見つめていた。
「お入りなさい」
マクゴナガル教授は人気のない教室を指差した。中ではピーブズが黒板に下品な言葉を書き殴っていた。
「出ていきなさい、ピーブズ!」
教授に一喝されたピーブズは、不満げに大きな音を鳴らしながらもすっと姿を消した。マクゴナガル教授はその後ろからドアをぴしゃりと閉めて、僕らの方へ向き直った。
「ポッター、こちら、オリバー・ウッドです。ウッド、シーカーを見つけましたよ」
狐に摘まれたようになっていたウッドの表情が綻んだ。
「本当ですか?」
「間違いありません」
教授は重々しく断言した。
「この子は生まれつきそうなのです。あんなものを私は初めて見ました。ポッター、初めてなのでしょう?箒に乗ったのは」
僕は黙って頷いた。事態はさっぱりわからないが、どうやら退学処分は免れられそうだ。教授はウッドに説明を続けた。
「この子は今手に持っている玉を、十六メートルも急降下して掴みました。かすり傷ひとつ負わずに、ですよ。チャーリー・ウィーズリーにだってそんなことは出来ませんでしたよ」
ウッドは夢が一挙に実現したと言う顔をした。
「ポッター、クィディッチの試合を見たことがあるかい?」
「ウッドはクィディッチのグリフィンドール・チームのキャプテンなんです」
マクゴナガル教授が教えてくれた。
「体格もシーカーにぴったりだ」
ウッドは僕の周りをうろうろと歩きながら、しきりに僕のことを観察している。
「身軽だし、すばしこいし⋯⋯。相応しい箒を持たせなくてはいけませんね、先生⋯⋯。ニンバス2000とか、クイーンスイープの7番なんて向いてるんじゃないですか?」
「私からダンブルドア学長に話してみましょう、一年生の規則を曲げられるかどうか。是が非でも去年より強いチームにしなくては。あの最終試合でスリザリンにぺしゃんこにされて、私はあれから何週間もセブルス・スネイプの顔をまともに見られませんでしたよ──」
マクゴナガル教授はそう言って、とても厳格な目で僕を見た。
「ポッター、あなたが厳しい練習を積んでいるという報告を聞きたいものです。さもないと、処罰について考え直すかもしれませんよ」
それから突然教授はにこっと笑った。
「あなたのお父様がどれほどお喜びになったことか。お父様も素晴らしい選手でした」
「まさか!」
夕食時、僕がグラウンドを離れてから何があったかをロンに伝えた。ロンはステーキ・キドニーパイを口に入れようとしたところだったが、そんなことはすっかり忘れて叫んだ。
「シーカーだって?だけど一年生は絶対ダメだって⋯⋯!なら、君は最年少の寮代表選手だよ、ここ何年来かな⋯⋯」
「⋯⋯百年だって、ウッドがそう言ってたよ」
僕はパイを掻き込むように頬張った。大興奮の午後だったので、ひどくお腹が空いていた。
ロンはあまりの驚きと感動に、ただぼぅっと僕を見つめるばかりだった。
「来週から練習が始まるんだ。でもみんなには言うなよ。ウッドは秘密にしておきたいんだって」
その時、双子のウィーズリーがホールに入って来て、僕の方に足早に寄って来た。
「すごいな」
ジョージが低い声で言った。
「ウッドから聞いたよ。僕たちも選手だ──ビーターだぜ」
「今年のクィディッチ・カップは頂きだぜ」
とフレッドが言った。
「チャーリーが居なくなってから、一度も獲ってないんだよ。けど、今年は抜群のチームになりそうだ。君ってよっぽどすごいんだな、ウッドときたら小躍りしてたぜ」
「じゃあな、僕たち行かなくちゃ。リー・ジョーダンが学校を出る秘密の抜け道を見つけたって言うんだ」
「それって僕たちが最初の週に見つけちまったやつだと思うけどね。きっと、『おべんちゃらのグレゴリー』の銅像の後ろにあるやつさ。じゃ、またな」
フレッドとジョージが消えるや否や、今度はマルフォイが来た。
「やあ聞いたよハリー。大活躍だったんだって?」
「うん、そうなんだ。あのねマルフォイ──」
「聞けよマルフォイ!ハリーってば、百年ぶりの一年生寮代表選手だぜ!」
僕の言葉を遮って、ロンが自慢げに囁いた。マルフォイが白銀に縁取られた目を見開いた。
「本当に?ハリー、これは本当に快挙だよ。そんなに素晴らしい飛行だったなら、僕が間近で見られなかったのが残念だね」
「ありがとう。でもマルフォイも凄かったよ」
「あんなもの、なんてことないさ」
と彼は言ったが、その声は少し嬉しそうだった。
「しかし残念だ。この学年で最初に寮代表選手になるのは僕だと思っていたのに」
「はん、スネイプに頼み込んでかい?僕を代表に選んで下さい教授って?」
ロンは条件反射のようにそう煽ったが、実際マルフォイのその自信はそんなに的外れでないくらいには、彼の飛行は上手かったと僕は思った。
「でも実際あんなに飛べるんだから、お前もスネイプに言われたりなかったのかい?あいつハリーを目の敵にしてるし、ありそうだけどなー」
「スネイプ教授がわざわざダンブルドア学長に直談判してまで一年生をチームに入れるほど、クィディッチがお好きだと思うかい?」
「んにゃ、全く思わないね」
「そういうことだよ」
ドラコはそう言ってから、そうだ、と思いついたように言った。
「ハリー、ウィーズリー、後で天文台の方に来られるかい?あそこは今日は誰も使わないはずなんだ」
僕とロンは顔を見合わせた。夕食が終わった後となると、消灯時間まで結構ぎりぎりだ。時間を過ぎて外を歩いているのをフィルチに見つかったら、それこそ罰則が待っている。僕らの戸惑いに気づかないマルフォイは、
「それじゃ、後でまた」
と囁いて、さっさとスリザリンのテーブルへと歩いて行ってしまった。
「あいつ、なんかちょっと強引なところあるよな」
ロンの呟きに僕も同意した。
食事が終わった僕たちが天文台へと辿り着くと、マルフォイは既に居て、望遠鏡を手持ち無沙汰に触っていた。当たり前ではあるが夜の天文台は肌寒く、授業でもないのに長居したい場所では到底なかった。
「こんなところまで呼び出して、一体何の用なの?マルフォイ」
「てかマルフォイ、食べんの早過ぎないかい?僕たちより食べ始めるの遅かったじゃないか」
僕らの言葉にマルフォイはちょっと笑って言った。
「僕は君たちと違って、ホグワーツ内で迷うことはもうないからね。それよりも、だ。これは今朝父上に教えていただいた特別な情報なのだけれど⋯⋯」
マルフォイはそう言いながら少しずつ声を潜め、僕たちを手招いた。それに従って、僕たちもマルフォイの近くへ移動した。
「四階の、立ち入り禁止の廊下。入学式でダンブルドア教授が仰っていたあそこだね。あの中に仕舞われているのは、グリンゴッツであわや盗まれかけた金庫の中身だそうなんだ」
僕とロンは目を見開いて顔を見合わせた。こんなに近くにあったなんて!わざわざ廊下ごと立ち入り禁止にするくらいなんだから、よっぽど貴重で大切なものに違いないや、と僕は思った。
ロンは興奮気味に囁いた(マルフォイに釣られて、僕たちは全員ひそひそ声になっていた)。
「グリンゴッツに泥棒するようなやつが狙ってる宝物があそこにあるって?マーリンの髭!こないだ僕たちあそこの扉開けようとしてたぜ、な、ハリー」
あの時は道に迷って、あそこがその部屋だと知らずに開けようとしていた。でも今は、わかった上で同じことをやってみたい気持ちでいっぱいだった。
「気になるだろう?僕もどんなものか見てみたいんだ。父上はこれ以上のことは教えてくださらなかったからね。だからね、ここからが提案なんだけど──」
マルフォイはそう言って、僕たちの顔を順に眺めて言った。
「今日の真夜中、こっそり忍び込まないかい?」
僕たちは再びびっくり仰天してしまった。寮の得点にこだわると自分で宣言していた彼が、何でわざわざ減点されかねないことをするんだ?
「見つかったら大変だって顔だね?安心してくれ。僕たちスリザリン生には、代々伝わるホグワーツで暮らしていく上での知恵、スリザリン・ルールというものが伝わっているんだ」
僕は純粋にへぇと感心した。純血の──マグルの血が入っていないってことだと、ロンが言っていた──魔法使いが多く、先祖代々全員がスリザリンだと言う家も多いから出来ることだなあと思った。
「その1652条に、良いかい、曜日ごとのフィルチの巡回通路の情報がある。今日、つまり金曜日ならあの廊下まで彼に会わずに行けるんだ」
その一言で、僕は俄然やる気になった。だって、夜の学校を友達と三人で探検して、おまけに素晴らしい宝物を見られるかもしれないなんて、とっても楽しそうじゃないか?
それはロンも同じ意見だったらしい。僕たちは顔を見合わせると、揃って一つ頷いて、一旦それぞれの寮へ帰ることにした。天文台からグリフィンドールへの道がいまだに少し危うい僕とロンは、ことさら急ぎつつも慎重に天文台を後にしたのだった。
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