ハリー・ポッターと綺麗なマルフォイ   作:ゆかりです。

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賢者の石④

僕たちがグリフィンドールに帰り着いたのは、消灯時間の本当に寸前だった。あわてて『太った婦人」に合言葉を唱え、間一髪でグリフィンドールの談話室に滑り込んだ。暖かい室内や明るく燃える暖炉の火が、寒々しい天文台で震えていた僕たちにはとてもありがたかった。僕たちが肘掛け椅子にすわりこむと、ハーマイオニーが声をかけてきた。

 

「ああよかった。消灯時間を過ぎても帰ってこなかったら、どうしようかと思っていたの」

 

落ち着いて談話室を見直すと、ハーマイオニーの他にはほんの数人しか残っていなかった。彼女は普段、かなり早めに寝室に引っ込む方だ。きっとわざわざ僕たちを待っていたんだ、と解った。

 

「勝手に箒に乗ったことは特に処罰なく許してくださったのよね?減点とか──退学とか──。ほんとによかったわ!」

 

「うん。マクゴナガル教授、これからの態度によっては考えるけど、今回は不問ですって」

 

僕はかなり濁して伝えた。

 

「それ言うためにわざわざ僕たちを待っていたのかい?こんな時間まで?」

 

ロンが言うと、ハーマイオニーは勿論違うわ、と言って首を振った。くるくるの髪がふわふわと揺れた。

 

「あなたたち、スリザリンのマルフォイと何か話していたでしょう。わざわざ場所を移した内緒話なんてきっと録なものじゃなさそうだもの。どんな話だったのか確認しておこうと思って」

 

「お断りだよ、誰が言うもんか。ハーマイオニー、大体君ってなんでそんなに偉そうなんだい?」

 

ハーマイオニーの言葉に、ロンがそう返した。それを聞いた彼女は、その意思の強そうな眉をさらにきゅっと寄せて語気を強めた。

 

「なんで?なんでって、そんなのあなた達を放置していると、今にグリフィンドールの得点がなくなっちゃいそうだからよ!箒がお咎めなしになったのだって偶然だわ。それなのにこれ以上減点されるようなことをされたくないのよ!」

 

ハーマイオニーはそう言って一旦言葉を切り、まあでも、と続けた。

 

「言いたくないなら無理に聞かないわ。でも、なにがグリフィンドールのためになるか、きちんと考えてね」

 

そう言って女子寮へ続く扉の向こうに消えて行った。

僕たちは顔を見合わせて首をすくめたが、今夜の冒険を中止するつもりなんてかけらもないのはその顔が雄弁に語っていた。要は見つからなければ良いのさ、僕たちはそう言って、一旦自分たちの寝室へと帰った。

 

 

シーツにくるまって目を冴え冴えとさせながら時間が過ぎ去るのを待ち、やっとマルフォイとの約束の時間が迫ってきた。僕とロンは同室の二人を起こしてしまわないよう、細心の注意を払って部屋を出た。息を潜めて階段を降り、談話室へと入った。暖炉にはまだわずかに残り火が燃え、肘掛け椅子が弓なりの黒い影に見えた。出口の肖像画の穴によじ登ろうとした時、一番近くの椅子から声がした。

 

「ハリー、あなたが本当にこんなことをするとは思わなかったわ」

 

ランプがふっと点いた。ハーマイオニーだ。ピンクのガウンを着て、顔を顰めていた。

 

「私さっき言ったじゃない、グリフィンドールのことを考えてって。こんな夜中に寮を抜け出して、見つかったら一体何点引かれると思っているの?私が変身術を知っていたおかげでマクゴナガル教授が下さった点数を、あなた達が台無しにするんだわ」

 

「また君か!良いから早くベッドに戻れよ。見つからなけりゃいいんだろ」

 

ハーマイオニーの言葉にロンが言い返した。

 

「本当はあなたのお兄さんに言おうかと思っていたのよ、ロン。監督生だから、絶対止めてくれるわ。でも私はさっき忠告したし、流石にそんな馬鹿はしないと思ったのに!」

 

「行こう」

 

僕はハーマイオニーの話を遮るようにロンに声をかけて、二人で『太った婦人』の肖像画を裏から押し開き、その穴を乗り越えた。

しかし、ハーマイオニーはそんなことで諦めるような女の子ではなかった。ロンに続いて穴を乗り越え、僕たちに向かって怒ったアヒルのようにガーガー言い続けた。僕には世の中にこんなお節介がいるだなんて信じられなかった。

 

「あなた達はお家に帰る汽車に乗るだけかも知れないけど、私は今年もスリザリンに寮杯を持っていかれるだなんて嫌よ。ねえ、ちょっと!」

 

「お言葉ですけどね」

 

ロンはわざとらしい調子で言った。

 

「これを提案したのはそのスリザリンのマルフォイなのさ。奴がフィルチに見つからないルートがあるって言ったんだ。見つかったらあいつも減点だ、そんなことにはならないさ」

 

「そんなの当てにならないわ!」

 

ハーマイオニーは鋭く言い返した。囁き声ではあったが、ほとんど叫ぶような調子だった。

 

「どうして彼の言うことが全部本当だって信じられるの?百パーセント見つからないなんてありえないし、──それに、彼だってスリザリンよ!」

 

「もう良いよ」

 

僕は言った。早くしないと時間に遅れそうだし、ハーマイオニーはうるさいしでいらいらしていた。

 

「ここにいる時点で君だって一緒だろ。良いからもう早く帰りなよ」

 

「ええ、そうさせてもらうわ。あなたたちがここまでわからないだなんて思わなかっ──」

 

そう言ったハーマイオニーが中へ戻ろうと後ろを振り向くと、肖像画は背景だけになっていた。太った婦人は夜のお出かけで、ハーマイオニーはグリフィンドール塔から締め出されてしまったのだ。

 

「ねえ、どうしてくれるの?」

 

ハーマイオニーはきっとこちらを向いて問い詰めてきた。

 

「知ったことかよ」

 

ロンが答えた。

 

「僕たちはもう行かないと。遅れちゃうよ」

 

そう言っていくらも行かないうちに、ハーマイオニーが追いついてきた。

 

「私も行くわ」

 

「嫌だ。来ないでよ」

 

「ここに突っ立ってフィルチに捕まるのを待っていろって言うの?三人とも見つかったら、私、本当のことを言うわ、私はあなた達を止めようとしたって。

あなたたち、私の証人になるのよ」

 

「君、相当な神経してるぜ⋯⋯」

 

ロンの声が大きく響いた。

 

「しっ。二人とも静かに。何か聞こえるぞ」

 

僕はそう言って耳を澄ませた。何かを嗅ぎ回っているような音だ。

 

「ミセス・ノリスか?」

 

暗闇を透かし見るようにしながら、ロンが声を潜めて言った。

しかし音の正体はミセス・ノリスではなく、丸くなって床で眠っているネビルだった。嗅ぎ回るような音は彼の寝息だった。ぐっすりと熟睡しているように見えたが、僕たちが忍び寄ると彼はびくっとして目を覚ました。

 

「よかった、見つけてくれて!僕もう何時間もここにいるんだよ。ベッドに戻ろうとしたら、新しくなった合言葉忘れちゃったんだ」

 

「しっ、もっと小さい声で話せよ、ネビル。合言葉は『豚の鼻』だけど、今は役に立ちやしない。『太った婦人』がどっか行っちゃったんだ」

 

「身体の具合はどう?怪我はなかった?」

 

僕は尋ねた。最後に見た真っ青の顔とは対照的に、今のネビルは元気そうだった。

 

「ぜーんぜん。僕箒に必死でしがみついてただけだったから、かえって怪我せず済んだって。今度マルフォイにちゃんとお礼言わなきゃ」

 

「良かったね。──悪いけどネビル、僕たちはこれから行くところがあるんだ。また後でね」

 

「そんな、置いてかないで!ここに一人でいるの、僕もう嫌だよ。さっき『血みどろ男爵』がもう二回もここ通ったんだよ!」

 

ロンは腕時計に目をやり、それから物凄い顔でハーマイオニーとネビルを見た。

 

「もし君たちのせいで僕らが捕まるようなことになったら、クィレルに聞いた『悪霊の呪い』を覚えて君たちにかけるまでは僕、絶対に許さないからな」

 

ハーマイオニーは口を開きかけた。『悪霊の呪い』の使い方について、きっちりロンに教えようとしたのかもしれない。でも僕はしーっと口を噤ませて、目配せでみんなに進んでほしいと合図した。

 

グリフィンドール塔とスリザリンの寮の、その丁度中間辺りで僕たちはマルフォイと合流した。彼は手持ち無沙汰なふうに腕を組んで僕たちを待っていたが、人数が倍に膨れた僕たちを見て、少し驚いたような顔をした。彼は小さく囁いた。

 

「やあ。さっきぶりだね、ハリーとウィーズリー。ミス・グレンジャーとロングボトムにも話したのかい?」

 

「違うさ。ネビルは締め出しくらって、ハーマイオニーは余計なお節介の結果さ」

 

「あら、随分なお言葉ね、ロン。大体わからないわ、校則を破ってまで、どうして夜中に出歩かなくちゃいけないの?」

 

ハーマイオニーの言葉の後半はマルフォイへと向けられていた。勿論あなたにも、むしろあなたに対して一番、私は怒っているのよと言わんばかりの口ぶりだった。

 

「さあ、それを今から確かめに行くのさ。さあ、こっちだ。ついてきて」

 

僕たちはマルフォイの案内に従って歩いた。ネビルが改めてマルフォイにお礼を言った以外には、誰も何も話さなかった。廊下を三つも四つも遠回りしたかと思えば、ふいにタペストリーを捲り、その裏にある抜け道を通り抜けたりした。僕はとてもわくわくした。できるだけ音を立てないように、ぎりぎり前にいるマルフォイが見えるくらいの暗闇の中を進むのはとてもスリリングで、僕の鼓動はどくどくと力強く心地よいリズムを刻んでいた。

しばらくそうやって歩いて、やがて時間の感覚がなくなってきた頃、お目当ての四階右端の扉の側に辿り着いた。ハーマイオニーが僕らの目的地に気付いた。

 

「あなた達、一体いくつ校則違反を重ねる気なの!?これが見つかったら、私達、本当にただじゃ済まないわ!」

 

「え、え、何なの?ここ、まさか、立ち入り禁止の──」

 

ネビルがそう言った時、僕の視界の端にきらりときらめくものが映った。思わずそちらを見ると、低い位置で出っ張った目が爛々と輝いていた。

 

「まずい!ミセス・ノリスだ!」

 

僕たちは慌てて、もうすぐ側にあった例の扉を開こうとした。

 

「開かない!」

 

「そうじゃん!鍵!どうすんの⁉︎」

 

「ああもう何やってるの⁉︎ロン、退いて!『アロホモラ』!」

 

ハーマイオニーが開いた扉に僕たちは雪崩れ込んだ。一番最後に入ったマルフォイが間髪入れずに扉を閉め、僕たちは壁にもたれかかるように崩れ落ちた。

 

「フィルチは今頃東廊下の方を見回っているはずさ。ミセス・ノリスがいくら頭が良くても、ここまで引っ張っては来られないだろう。それにしたって、今日に限ってミセス・ノリスがこっちに来ているなんて、それはないだろう⋯⋯」

 

「だから私は忠告したわ!百パーセントなんてないってね!」

 

「ハーマイオニー、君っていちいちうるさいな!大体君だって結局自分で来たんじゃないか⁉︎」

 

三人がこうやって言っている間にも、ネビルはずっと僕のガウンの袖を引っ張っていた。

 

「もう大丈夫だよネビル──悪いけど、手を離してくれないかい?」

 

そう言ってもネビルは手を離してくれなかったし、なんなら引っ張る力を強めてきた。

 

「え?なに?」

 

仕方なく僕は振り返った──そしてはっきりと見た。「何か」を。しばらくの間、僕は、自分は悪夢にうなされているに違いないと思い込んでいた。──あんまりだ、今この時までは、人生最良の日の一つに数えられるくらいの日だったのに。

ここは僕たちが思っていたような部屋ではなく、廊下だった。僕は、なぜここが立ち入り禁止になっていたのかを瞬時に理解した。

僕たちが真正面に見たのは、怪獣のような犬の目だった──床から天井までの空間全部がその犬で埋まっていた。頭が三つ。ひん剥かれた三組の血走った目。三つの鼻がそれぞれ別方向にひくひくと動いていた。三つの口から黄色く鋭い牙を剥き出し、その間からは縄のように太く糸を引いて涎が垂れていた。

 

怪物犬はじっと立ったまま、その六つの目全てで僕たちを睨め回していた。まだ僕たちが生きているのは、急に現れた人間に怪物犬が不意を突かれたからだ。しかし、僕たちにとって残酷なことに、彼のその戸惑いはもう消えてしまったようだった。雷のような唸り声がそれを正確に告げていた。

僕は後ろ手に扉をまさぐった──フィルチか死か、間違いなくフィルチの方がましだ。僕は見つけたノブを捻った。

 

僕たちはさっきとは反対方向へ倒れ込んだ。僕は後ろ手に扉を勢いよく閉め、みんな飛ぶように寮への道を走った。足音が大きく響いたが、誰一人としてそんなことに注意は払わなかった。とにかくあの怪物犬から遠い所へ行きたかった。最短距離を駆け抜けて、僕とロン、ネビルとハーマイオニーは『太った婦人』の肖像画まで辿り着いた。幸いなことにして、フィルチには出くわさずに済んだ。

 

「まあまあ一体どこへ行っていたの?」

 

僕たちの着崩れた服装や、紅潮して汗だくの顔を見て、『婦人』は驚いたように尋ねた。

 

「何でもないよ、『豚の鼻』、『豚の鼻』」

 

息も絶え絶えに僕がそう唱えると、肖像画がぱっと開いた。四人はやっとの思いで談話室に入り、がたがたと体を震わせながら肘掛け椅子にへたり込んだ。みんな息も絶え絶えで、口を開けるようになるまでに、大分長い時間を要した。ネビルときたら、もう一生口がきけないのではないかと思うほどだった。

 

「あんな怪物を学校の中に閉じ込めておくなんて、教授たちは何を考えてるんだろう」

 

やっとのことでロンはそう言った。

 

「世の中に運動不足の犬がいるとしたら、まさにあれがそうだね」

 

ハーマイオニーには息も不機嫌さも同時に戻ってきたようだった。

 

「あなたたち、どこに目をつけているの?」

 

つっかかるような調子で続けた。

 

「あの犬が何の上に立ってたか、見なかったの?」

 

「床の上じゃなかった?」

 

僕は一応意見を述べた。

 

「僕、足元を見てる余裕なんてなかったよ。頭三つ見てるだけで精一杯だったもの」

 

ハーマイオニーは立ち上がって僕たちを睨みつけた。

 

「違うわ、床じゃなかった。仕掛け扉の上に立っていたのよ。何かを守っているに違いないわ」

 

そう断言して、ハーマイオニーは続けた。少しずつ声のトーンが高くなっていった。

 

「あなたたち、さぞかしご満足でしょうよ。マルフォイの誘いに乗った挙句、もしかしたらみんな殺されていたかもしれないのに──もっと悪いことに、退学になったかもしれないのよ。もう一度だけ警告しておきますけど、もっとちゃんと考えて行動するべきだわ。それじゃ、みなさま、お差し支えなければ私は休ませて頂くわ」

 

ロンはぽかんと口を空けてハーマイオニーを見送った。

 

「お差し支え、なんてある訳ないよな。あれじゃ、まるで僕たちがあいつを引っ張り込んだみたいじゃないか、ねえ?」

 

僕にはハーマイオニーの言ったことが別の意味で引っ掛かっていた。ベッドに入ってからも、僕はずっとそのことについて考えていた。犬が何かを守っている⋯⋯、ダイアゴン横丁で、ハグリッドはなんて言っていたっけ?

 

「グリンゴッツは何かを隠すには最適な場所だ──多分、ホグワーツ以外ではな」

 

七一三番金庫から持ってきたあの汚い小さな包みが今どこにあるのか、僕にはそれがわかったような気がした。

 

 

次の日の僕とロンは、昨日の疲れは残っていたが、それを差し引いてもとても上機嫌だった。朝になってみると、あの三つ首の犬に遭遇したことも含め、昨日の夜は素晴らしい冒険の一夜だったと思えた。僕もロンも、次の冒険が待ち遠しいような気持ちになっていた。朝の大広間ですれ違ったマルフォイは一見普段と変わらないように見えたが、僕とロンが声をかけると、見てわかるくらいに嬉しそうな顔をした。とりあえず、僕はロンとマルフォイに例の包みのこと、それがグリンゴッツからホグワーツに移されたのではないかと言うことを話した。あんなに厳重な警備が必要になるものとは何だろうという、それが三人の話題の中心になった。

 

「それに魅せられる人がいるくらい、価値あるものなんだろうね」

 

とマルフォイが言った。

 

「ものすごく大切か、ものすごく危険な物だな」

 

とロンは言った。

 

「その両方かも」

 

と僕は言った。

謎の包みについては、大体五センチくらいのものだろうと言うことしかヒントがないので、それ以上の推測は不可能だった。

三頭犬と仕掛け扉の下に何が隠されているのかについて、ハーマイオニーとネビルは全く興味を示さなかった。ネビルにとっては、二度とあの犬に近づかないと言うことだけが重要なようだった。

ハーマイオニーは僕たち三人とはあれから口もきかなかったし、彼女は授業において、マルフォイ相手には死んでも負けないと言わんばかりに、より一層張り合うようになった。僕とロンにとっては、偉そうな知ったかぶり屋にあれこれ指図されないで済むのはむしろありがたかった。

 

そんな風にして一週間が経った。僕たちが大広間でいつものように朝食を摂っていると、これもいつものようにふくろうが群れをなして飛んできた。六羽のオオコノハズクが運んできた、細長い包みが取り分け人目を惹いた。僕も興味津々で、あの大きな包みはなんだろうと見ていたが、驚いたことに、彼らは僕の方へ向かってきているようだった。コノハズクたちは僕の真正面に舞い降りて、その大きな包みをテーブルの上へ落とした。衝撃で僕の食べていたベーコンが飛び跳ね、床に着地した。六羽がまだ飛び去るか去らないかという内に、もう一羽が包みの上に手紙を落とした。

僕は急いで手紙を開けたが、結果的にそれは大正解だった。

 

“包みをここで開けないように。

中身は新品のニンバス2000です。

あなたが箒を持ったと他の生徒に知られてしまうと、みんなが箒を欲しがってしまいますので、絶対に気づかれないように。

今夜七時、クィディッチ競技場でウッドが待っています。最初の練習です。

──M.マクゴナガル教授”

 

手紙をロンに渡しながら、僕は喜びを隠しきれなかった。

 

「ニンバス2000だって!僕、触ったことすらないよ」

 

ロンが羨ましげにそう言った。

一時間目が始まる前に二人だけで箒を見ようと急いで大広間を出たが、玄関ホールを通りがかった時、マルフォイが声を掛けてきた。

 

「おはよう、ハリー、ウィーズリー。その包みは──箒かい?寮代表選手は学校から箒が用意されるものね」

 

「そうだよ、今からロンと二人で開けようと思って」

 

「なんと驚けニンバス2000だぜ!君、家に何持ってるって言ってた?コメット260だっけ?」

 

ロンはにやにやしながらそう言って、僕に、

 

「コメットって見た目はいいけどニンバスとは格が違うんだよ」

 

と言った。

 

「黙れよウィーズリー。柄の半分さえも買えない自分が虚しくはならないのかい?」

 

すかさず言い返したマルフォイに、君も一緒に見るかい?と僕は声をかけてみた。

 

「いや、遠慮しておくよ。グリフィンドール寮で存分に堪能してくれ」

 

とマルフォイはそう言って、僕たちとは反対方向へ歩き去った。

僕たちは大理石の階段を上って寮を目指した。

 

「でも、こうなると、スリザリンの連中にも感謝しなくちゃいけないな。ネビルには申し訳ないけど、あいつらが『思い出し玉』をかすめていかなかったら、僕はチームには入れてもらえなかったし⋯⋯」

 

「それじゃ、校則を破ってご褒美を貰ったと思ってるのね」

 

背後から怒った声がした。振り返ると、ハーマイオニーが階段を上ってきていた。僕の持っている包みを不倶戴天の敵のように睨みつけていた。

 

「あれ、僕たちと口をきかないんじゃなかったの?」

 

と僕は言った。楽しい気分に水を差されて腹が立った。

 

「そうだよ、今更変えないでよ。僕たちにとっちゃありがたいんだから」

 

とロンは言った。

ハーマイオニーはつんとそっぽを向いて行ってしまった。

 

 

残念ながら僕とロンが寝室に辿り着いた頃には授業開始時間ぎりぎりで、僕たちはしぶしぶ開封を後回しにして授業に向かった。僕は一日中授業に集中できなかった。教授達が僕を指名しなかったのは幸運だった。気がつくとベッドの下に置いてある箒のことや、今夜練習することになっているクィディッチ競技場のことを考えてしまっていた。

 

夕食はなんだったのかもわからないまま掻き込んで、僕とロンは足早に寝室へと戻った。シーツの上に姿を現した箒を見て、ロンは感嘆の溜息をついた。箒のことは何も知らない僕でさえ、素晴らしい箒だと思った。すらりとしたシルエット、美しい艶。柄の先端には、金色の文字で“ニンバス2000”と書かれていた。

 

七時近く、夕暮れの薄明かりの中、僕はクィディッチ競技場まで急いだ。競技場のグラウンド周りには何百という座席が迫り上がるように設置されていて、観客が高いところから観戦できるようになっていた。グラウンドの両端には各々十六メートルの金の柱が立っていた。先端は輪になっていて、これがマルフォイが言っていたゴールだとわかった。

ウッドが来る前にどうしてもまた飛んでみたくなった僕は、箒に跨り地面を蹴った。なんていい気分なんだろう!僕はゴールポストの間を縫うように飛んでみたり、グラウンドに急降下したと思えば地面に激突する寸前で空高く急上昇したりした。ニンバス2000はちょっと触れるだけで、僕の思うがままに動いてくれた。

 

「おーいポッター、降りて来い!」

 

オリバー・ウッドがやって来た。大きな木製の箱を小脇に抱えている。彼のすぐ側に、僕はぴたりと着地した。

 

「お見事」

 

ウッドは目を輝かせていた。

 

「マクゴナガル教授の言っていらした意味がわかった⋯⋯君はまさに生まれつきの才能がある。今夜はルールを教えよう。それから週三回のチーム練習に参加だ」

 

そして、ウッドは箱を開け、四つのボールを見せながら、改めてクィディッチのルールについて教えてくれた。

両チーム七人で、その内チェイサーが三人、ビーターが二人、キーパーとシーカーが一人ずつ。チェイサーは赤いクアッフルを相手のゴールポストに入れて得点する。ビーターは黒い暴れ玉、ブラッジャーから味方を守り、敵へと打ち返す。キーパーは味方のゴールポストにクアッフルを入れないよう飛び回る。

 

「これが、いいかい」

 

ウッドは箱に手を突っ込んで、四つ目の、最後のボールを取り出した。他の二種類に比べると随分小さく、大きめの胡桃くらいだった。眩い金色で、小さな銀色の羽をひらめかせている。

 

「金のスニッチだ。一番重要なボールだよ。とにかく早いし見えにくいから、捕まえるのは非常に難しい。シーカーの役目はこれを獲ることだ。君はチェイサー、ビーター、クアッフル、ブラッジャーの間を縫って、敵のシーカーより先にこいつを獲らなくてはいけない。なにしろシーカーがスニッチを獲ると百五十点入る。勝利はほとんど決まったようなものだ──厳密には、スニッチを獲っても負けた試合は、特にプロには多いけど──、だから何としてでも敵はシーカーを妨害しようとする。スニッチが捕まらない限り試合は終わらない。いつまでも続く──確か最長記録は三ヶ月だったと思う。交代選手を次々投入して、正選手は交代で眠ったということだ。ま、こんなところかな。質問はあるかい?」

 

僕は首を振った。やるべきことはわかった。それができるのかどうかだけが問題だった。

 

「スニッチを使った練習はまだやらない」

 

ウッドはスニッチを慎重に箱へと仕舞い込んだ。

 

「もう遅いからなくすといけないし。代わりにこれで練習しよう」

 

ウッドはポケットからゴルフボールの袋を取り出した。数分後、二人は空地にいた。ウッドはゴルフボールをありとあらゆる方向に投げ、僕にキャッチさせた。

僕が一つも逃すことなく捕まえたので、ウッドは大喜びだった。三十分もするとすっかり暗くなり、もう続けることは不可能だった。

 

「あのクィディッチ・カップに、今年こそはグリフィンドールの文字が入るぞ」

 

城に向かって疲れた足取りで歩きながらも、ウッドは嬉しそうに言った。

 

「君はチャーリーより上手くなるかもしれないな。あの人だって、ドラゴンを追っかける仕事を始めなければ、今頃イギリスのナショナル・チームでプレイしていただろうに」

 

 

毎日たっぷりの宿題がある上、週三回のクィディッチ練習で忙しくなった。そのせいか、気がつけば、僕がホグワーツに来てからもう二ヶ月も経っていた。今ではプリベット通りよりも城の方が自分の家だという気がしていた。授業の方も、基礎がだいぶわかって来たので面白くなってきた。

 

ある朝起きると、みんなが浮き足だってそわそわしているようだった。僕はカレンダーを見て思い出した──今日はハロウィンだ!ハロウィンの日の夕食はとりわけ豪華なんだと、僕はパーシーに教えてもらっていた。僕は嬉しくなって、足取りも軽く授業へ向かったのだった。

 




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