皆さまありがとうございます。
夜が明けて、晴れ渡った寒い朝が訪れた。大広間はこんがり焼けたソーセージの美味しそうな匂いと、クィディッチの好試合を期待する騒めきに満たされていた。
「朝食、しっかり食べないと」
「何も食べたくないよ」
「トーストをちょっとだけでも」
ハーマイオニーは辛抱強く、優しく言った。
「お腹空いてないんだよ」
僕は短く返した。後一時間もすればグラウンドに入場すると思うと、最悪の気分だった。
「おはようハリー。君が良いプレイをすることを祈っているよ。勿論、勝利はスリザリンのものだが」
通りすがりにマルフォイが囁いた。
「ハリー、力をつけておけよ。シーカーは真っ先に敵に狙われるぞ」
シェーマス・フィネガンが忠告した。
「わざわざご親切に」
シェーマスが自分の皿のソーセージにケチャップを山盛りにするのを眺めながら、僕はそう言葉を返した。
十一時には学校中がクィディッチ競技場の観客席に詰めかけていた。双眼鏡を持った生徒たちも沢山いた。観客席は空中高くに設けられてはいたが、それでも試合の動きが見えにくいことは多々あったらしかった。
ロンとハーマイオニーはネビル、シェーマス、それからウェストハム・サッカーチームのファンであるディーンたちと一緒に最上段に陣取っていた。僕へのサプライズとして、大きな横断幕を作ってくれていた。
一方、更衣室では、選手たちがクィディッチ用のローブに着替えていた。僕たちグリフィンドールが真紅、スリザリンは鮮やかなエメラルド・グリーンだった。
ウッドが咳払いをして、グリフィンドール・チームのみんなを静かにさせた。
「いいか野郎ども」
「あら、女性もいるのよ」
チェイサーのアンジェリーナ・ジョンソンが混ぜっかえした。
「そして女性諸君」
ウッドは大真面目に付け加えた。
「いよいよだ」
「大試合だぞ!」
フレッド・ウィーズリーが声を張り上げた。
「待ち望んでいた試合だ」
ジョージ・ウィーズリーが続けた。
「オリバーのスピーチなら空で言えるよ。僕らは去年もチームにいたからね」
フレッドは僕に話しかけた。
「黙れよ、そこの二人。
今年はここ何年振りかの最高のグリフィンドール・チームだ。この試合は間違いなく頂きだ」
そしてウッドは、「負けたら承知しないぞ」とでも言うような鋭い目で全員を見つめた。
「よーし、さあ時間だ。全員、頑張れよ」
僕たちは更衣室を出た。膝が震えないことを祈りつつ、大歓声に迎えられてグラウンドに立った。
マダム・フーチが審判だった。競技場の真ん中で、箒を手に僕たちを待っていた。
「さあ皆さん、正々堂々戦いましょう」
マダム・フーチのその言葉は、どうもスリザリンのキャプテン、マーカス・フリントへ向けられているようだった。彼って、トロールの血を引いているみたいだ、と僕は思った。ふと横断幕が目に入った。『ポッターを大統領に!』僕は心が躍り、勇気が湧いて来た。
「箒に乗って。用意!」
僕はニンバス2000に跨った。銀の笛が高らかに鳴った。十五本の箒が空へと舞い上がる。高く、さらに高く。試合開始だ。
「さて、クアッフルはグリフィンドールのアンジェリーナ・ジョンソンが取りました!なんて素晴らしいチェイサーでしょう──その上かなり魅力的であります!」
「ジョーダン!」
「失礼しました、教授」
双子のウィーズリーの親友、リー・ジョーダンが、マクゴナガル教授の厳しい監視を受けながら実況放送している。
「ジョンソン選手、突っ走っております。アリシア・スピネットに綺麗なパス。オリバー・ウッドは良い選手を見つけたものです。去年はまだ補欠でした──ジョンソンにクアッフルが返る、そして──あ、ダメです。スリザリンがクアッフルを奪いました。キャプテンのマーカス・フリントが取って急加速──鷲のように舞い上がっております──ゴールを決めるか──いや、グリフィンドールのキーパー、ウッドが素晴らしい動きで止めました。クアッフルは再びグリフィンドールへ──あ、あれはグリフィンドールのチェイサー、ケイティ・ベルです。フリントの周りで素晴らしい急降下です。ゴールに向かって飛びます──あいたっ!これは痛かった!ブラッジャーが後頭部にぶつかりました──クアッフルはスリザリンに取られました。今度はエイドリアン・ピュシーがゴールに向かって進んでいます。しかし、これは別のブラッジャーに阻まれました──フレッドなのかジョージなのか見分けはつきませんが、ウィーズリーのどちらかが狙い撃ちをかけました──グリフィンドール、ビーターのファインプレイですね。そしてクアッフルは再びジョンソンの手に。前方には誰もいません。さあ飛び出しました──ジョンソン選手、飛びます──ブラッジャーがものすごいスピードで襲うのを交わします──ゴールは目の前だ──頑張れ、今だ、アンジェリーナ──キーパーのブレッチリーが飛びつく──が、ミスした──グリフィンドール先取点!」
グリフィンドールの大歓声が寒空いっぱいに広がった。スリザリン側から、野次と溜息が上がった。
僕は上空でスニッチを探して目を凝らしながら、試合を下に見て縦横無尽に飛び回っていた。これが僕とウッドが立てた作戦だった。
「スニッチが目に入るまでは、みんなから離れているんだ。後でどうしたって攻撃される。それまでは手を出されるな」
アンジェリーナが点を入れた時、僕は二、三回宙返りをして嬉しさを発散させたが、すぐにまたスニッチ探しに戻った。一度ブラッジャーが僕を攻撃しかけたが、僕はひらりとそれをかわした。ブラッジャーを追いかけてやってきたフレッドが、
「ハリー、大丈夫かい?」
と言いながら、暴れ球をマーカス・フリントめがけて勢いよく叩きつけた。
そんな風に試合を観察していた僕は、ようやくスニッチを見つけた。金色の光線を追って僕は急降下した。スリザリンのシーカー、テレンス・ヒッグズもそれを見つけ、二人は追いつ追われつの大接戦を演じた。僕の方がヒッグズよりも早かった。僕がスパートをかけると同時に、フリントが僕にぶつかって来た。衝撃で僕はスニッチを見失った。
僕はまた上空へと昇った。反則だと騒ぐグリフィンドール生の声が聞こえた。グリフィンドール・チームは与えられたペナルティ・シュートで見事点を取った。それを見ていた僕の箒が、急に肝を冷やすような揺れ方をした。一瞬、落ちるかと思った。僕は両手と膝で箒をしっかりと押さえた。こんなことは初めてだ。
また箒の制御が効かなくなってきた。しかし、ニンバス2000が急に乗り手を振り落とそうとするはずがない。僕はグリフィンドールのゴール・ポストの方へ行こうとした。ウッドにタイムを取ってもらうか、どうしようか、僕は決めかねていた。ところが気がつくと箒はまったく言うことを聞かなくなっていた。方向転換も僕の意思では出来ない。空中を暴れ回り、ときおり大きく震え、僕はあわや振り落とされるところだった。
リーは変わらず実況放送を続けている。スリザリンの得点に、落胆したような声を上げている。僕が陥っている異常事態には気づいていないようだった。と、箒が激しくぐるぐると回り出した。僕はかろうじてしがみついていたが、とうとう片手だけで箒の柄にぶら下がる形になった。
双子のウィーズリーが僕を自分の箒に乗り移らせてくれようとしたが、彼らが近づくたび箒は僕の意思とは関係なく上昇し続けてしまっていた。もう限界だ、落ちる──僕がそう思った時、箒の制御が僕に返って来た。再び箒に跨がった僕は、息つく間もなく勢いよく急降下した──スニッチに手が届きそうだ──すり抜けた──僕は咄嗟に口を大きく開いた。そのまま四つん這いになって着地した僕は、口を押さえて中のものを吐き出した。
「スニッチを取ったぞ!」
僕は頭上高くスニッチを掲げ、大混乱とグリフィンドールの喝采の中試合は終わった。
数十分後、僕は試合の後にも続いた騒ぎの渦中にはいなかった。ロン、ハーマイオニー、マルフォイと一緒にハグリッドの小屋で、濃い紅茶を淹れてもらっていたのだ。ちなみにマルフォイは、着替えを終えて競技場を出た僕に、
「おめでとう、ハリー。とても悔しいが、君の技術と機転は素晴らしいものだった。来年はスリザリンが勝利を奪い返すがね──怪我はないかい?体調に異変は?」
と言った。僕は空中で揉みくちゃにされはしたが、怪我らしい怪我はなかった。
「大丈夫だよ」
「やっぱ君、すごいよ!チャーリーだってあんな事があったらスニッチは取れてないさ!君って本当に天才だよ!」
ロンが興奮したように言った。その丸い目を大きく見開き、きらきらと輝かせている。
「ありがとう」
「本当に──本当に、素晴らしかったわ。無事で本当に良かった⋯⋯」
ハーマイオニーは喜びと安堵で今にも泣きそうな顔で言った。
「ありがとう、ハーマイオニーも」
そして僕たちはハグリッドの小屋へ訪れたのだった。
マルフォイが濃すぎるくらいの紅茶にロックケーキを浸して食べると言う画期的な方法を実践していたので(行儀は悪いけれどもね、父上には秘密にしてくれ)、僕たちも真似をしながら先ほどの箒の暴走のことについて話した。
「スネイプだったんだよ」
とロンが説明した。
「ハーマイオニーも僕も見たんだ。君の箒にぶつぶつ呪いをかけていた。ずっと君から目を離さずにね」
「そう。そして、私があの人のローブに火をつけたらハリーの箒の暴走はとまったのよ。こんなの、決定的だと思わない?」
「そんなはずはない」
とマルフォイが反論した。
「教授がハリーをお嫌いになっていらっしゃるのはおそらく事実だが、あの人が本気でハリーを傷つけようとなさるならこんな人目につくやり方はしない。マクゴナガル教授と違って、クィディッチの勝敗にそこまで興味のある方でもないし──」
「マルフォイの言う通りだ」
ハグリッドはマルフォイに賛同した。
「何でスネイプがそんなことをせにゃならん?」
僕たち三人は互いに顔を見合わせた。彼が怪しいと言う理由をどうやって伝えようか迷っていたが、僕は本当のことを言おうと決めた。
「僕たち、スネイプの怪しい行動を見たんだ。ハロウィンの日、マルフォイだって見ていただろ?あいつ、三頭犬の裏を搔こうとして噛まれたんだよ。脚が傷だらけになってるの、僕はこの目で見たんだ。何か知らないけど、あの犬が守っているものをスネイプが盗ろうとしたんじゃないかって思うんだ」
ハグリッドはティーポットを落とした。がしゃんという派手な音がして、赤味の強い液体が床に広がった。
「何でお前さんらがフラッフィーを知っとるんだ?」
「フラッフィー?」
「そう、あいつの名前だ──去年パブで会ったギリシャ人の奴から買ったんだ──俺がダンブルドア教授に貸した──。あれを守るためにな」
「あれって何?」
僕は身を乗り出した。ハグリッドは視線を逸らした。
「もうこれ以上聞かんでくれ。重大機密なんだ、これは」
ハグリッドはぶっきらぼうに言った。
「だけど、スネイプが盗もうとしたんだよ」
ハグリッドはまた馬鹿な、と繰り返した。
「スネイプはホグワーツの教師だ。そんなことする訳がなかろう」
「なら、どうしてハリーを殺そうとしたの?」
ハーマイオニーが声を大きくした。午後の出来事が、スネイプに対するハーマイオニーの考え方を変えさせたようだった。
「ハグリッド、私、呪いをかけてるかどうか一目で分かるわ。沢山本を読んだんだから!じーっと目を逸らさずに対象を見つめ続けるの。スネイプは瞬き一つしなかったわ、この目で見たんだから!」
「お前さんらは間違っとる!俺が断言する」
ハグリッドは譲らなかった。マルフォイも、いくぶん自信のない顔をしながらも、
「僕も、君たちは間違っていると思う」
と言った。少しむきになったような声色だった。
「俺はハリーの箒が何であんな動きをしたんかはわからん。だがスネイプは生徒を殺そうとしたりはせん。三人とも、ついでにマルフォイも、よく聞け。お前さんたちは関係のないことに首を突っ込んどる。危険だ。あの犬のことも、それが守っとる物の事も忘れるんだ。あれはダンブルドア教授とニコラス・フラメルの──」
「あっ!」
僕は聞き逃さなかった。
「ニコラス・フラメルって人が関係してるんだね?」
ハグリッドは口を滑らせた自分自身に強烈に腹を立てているようだった。
ハグリッドの小屋で僕たちがニコラス・フラメルの名前を聞いた日から数日が経った。僕たち三人はニコラス・フラメルのことを調べる事がスネイプの目的を知るための近道だと彼のことを探っていたが、なかなか思うような成果は出なかった。そんな僕たちを見ているマルフォイは何となく不機嫌で、かつそわそわとした様子だった。
僕たち三人が変身術を受けるために教室を移動していると、青白い手に引っ張り込まれた。普段使う廊下から角を一つ曲がっただけなのに、その通路には僕たちとマルフォイしか存在しておらず、改めてホグワーツの広さを実感した。
「いいかい、」
マルフォイは彼にしては珍しいくらいに早口に、ほとんど吐息のような囁き声で話した。
「ニコラス・フラメルは錬金術の
もちろん、僕たちは変身術の授業にまったく集中できなかった。授業が終わると、僕たちは談話室で、三人寄り集まって話した。ハーマイオニーは嘆いた。
「この本で探してみようなんて考えつきもしなかったわ」
ハーマイオニーがそう言って、巨大な古い本を抱えて戻って来た。
「ちょっと軽い読書をしようと思って、随分前に図書館から借り出してきたの」
「軽い?」
ロンが口走ったのを、ハーマイオニーは華麗に無視した。素晴らしい勢いでページを捲り、
「これだわ!これよ!」
と言った。
僕たちはそのページを覗き込んだ。
“錬金術とは、『賢者の石』と言われる恐るべき力を持つ伝説の物質を創造することを目的とする古代の学問であった。この『賢者の石』は、いかなる金属をも黄金へと変える力があり、また、飲めば不老不死となる『命の水』の源でもあった。
『賢者の石』については何世紀にも渡って多くの報告がなされているが、現存する唯一の石は著名な錬金術師であり、オペラ愛好家でもあるニコラス・フラメル氏が所有している。フラメル氏は昨年六六五歳の誕生日を迎え、デボン州でペレネレ夫人(六五八歳)と静かに暮らしている”
僕たちが本を読み終わると、ハーマイオニーは勢い込んで言った。
「ね?マルフォイも言っていたけど、あの犬は『賢者の石』を守っているに違いないわ!フラメルがダンブルドア教授に保管してくれって頼んだのよ。だって二人は友達だもの。彼は誰かが『賢者の石』を狙っているのを知っていたのよ。だからグリンゴッツから石を移して欲しかったんだわ!」
「マルフォイはああ言ったけど、正直ますますスネイプが疑わしいや。そうは思わないかい?」
ロンが言った。
「僕もそう思うよ、ロン。金を作る石、永遠の命を与える石!そんなの誰だって欲しいもの」
僕も言った。ハーマイオニーも頷いた。僕とロンとハーマイオニーの間では、スネイプが『賢者の石』を狙っていると言うのが共通の意見だった。でも、それをスネイプから守るためにどうしたらいいのかということについては一向に良い案が出なかった。
そんな僕たちではあったが、マルフォイの前ではそんな様子は極力見せないようにした。『賢者の石』の事は極力話題にも出さないようにして、僕たちは今まで通りに過ごした。幸いなことにもうすぐクリスマスで、周りのみんなもウィンターホリデーの話題で持ちきりだったから、それはそんなに難しいことではなかった。
「それじゃあ、君たちはウィンターホリデーの間もホグワーツに残るのかい?」
マルフォイは本当に驚いたという顔をした。
「うん。ダーズリー、つまり、僕を育ててくれたマグルだけど、あいつらは僕の事が嫌いなんだ。本当ならサマーホリデーだって帰りたくないくらいさ!」
と僕は言った。ダーズリー夫妻やダドリーのいないクリスマスを過ごせるだなんて本当に夢みたいだった。クリスマスにホグワーツに残る生徒が少ないというのも、なんだか特別みたいでわくわくした。
「ご存知の通り、うちはきょうだいがいっぱいだからね。それでなくてもボロい家だし。帰ったってろくな扱いはされないし、ホグワーツに残ってた方がずっとマシさ。フレッドとジョージもそうするらしいよ」
ロンも言った。しかし、ホグワーツ内でこういう生徒は少数派だった。グリフィンドール寮の一年生でホグワーツに残るのは僕とロンの二人きりだった。ハーマイオニーも両親の元へ帰るらしかった。
マルフォイは違う星から来た生き物を見つめるような目で僕たちを見て言った。
「へえ、君たちってやっぱり、何だかとても変わっているね!僕は父上と母上と三人水入らずのクリスマスさ。例年ならこの時期には、パーティをいくつも開くのだけれど、今年は僕がホグワーツに入って初めての長期休暇だからね」
マルフォイは少し自慢げだった。クリスマスを楽しめない僕たちを少し馬鹿にするとも取れる調子で話した後、一転して声に疲れを滲ませて続けた。
「とは言え、母上とずっと一緒にいることになるから、きっと一日に五度も十度も着替えることになるよ。それは少し面倒だけどね」
マルフォイの母親は年季の入った仕立て道楽らしかった。僕の部屋のクローゼットの中身だけでも、ロンドンに店を開けるさ、とマルフォイは言った。
そんな話をしながら歩いていると、ハグリッドがもみの木を担いで大広間に向かうのが見えた。ハーマイオニーも籠いっぱいに何かきらきらしたものを抱え、ハグリッドに着いて歩いていた。僕は尋ねた。
「ハグリッド、それってクリスマスツリー?」
「おうそうだ。ハーマイオニーにも手伝って貰っちょるんだ。お前さんらも来るとええぞ」
ハグリッドの言葉に従い、僕たちも大広間へと向かった。マルフォイがさりげなくハーマイオニーからオーナメントの籠を取り上げていた。ロンは大げさに囁いた。
「ワーオ、キザ野郎って感じ」
僕たちが大広間に入ると、マクゴナガル教授とフリットウィック教授が忙しくクリスマスの飾りつけをしているところだった。
「ああ、ハグリッド、最後のもみの木ね──あそこの角に置いてちょうだい。ミスター・マルフォイも、オーナメントをありがとうございます」
広間は素晴らしい眺めだった。柊や宿木が縄のように編まれて壁を飾り、大きなクリスマスツリーが十二本も聳え立っていた。小さな氷柱をきらきらと輝かせるツリーがあれば、何百という蝋燭が灯されたツリーもあった。
「お休みまであと何日だ?」
ハグリッドが僕たちに尋ねた。
「あと一日よ」
ハーマイオニーは答えた。
フリットウィック教授が杖から黄金のふわふわした泡を生み出し、新しいツリーに飾りつけるのに見惚れていたロンが我に帰って言った。
「僕、ホグワーツのクリスマスをとっても楽しみにしてたんだ」
次の授業が違うので、僕たち三人はマルフォイと別れた。
薬草学が終わると、三人は図書室に直行した。スネイプが何故『賢者の石』を盗もうとしているのか、はっきりとしたことはわからないが、何かしら良くないことに使われるのは確かだ。どうにか奴を止めるための方法を探しに、ここ数日の僕たちは隙さえあれば図書室を探索しているのだった。ホグワーツの図書室は広大で、ちょっとした図書館と言っても疑われる事はないくらいだった。
「でも、」
ありえないほど分厚い、革表紙の本を開きながら、ハーマイオニーは言った。
「しょせん一年生の私たちが、ちょっと頑張ったくらいでホグワーツの教授を止められるかしら?」
彼女の疑問は尤もだった──というか、彼女を含む全員が最初からわかっていた。わかっていて、それでもじっとしていられなくて、こうして難しい本を読み漁っているのだ。
「そんなこと、初めからわかってたことだろ」
とロンが言った。
「でも僕らがやらなくちゃ。教授たちはみんな、僕たちよりスネイプを信用するよ」
彼らの会話をよそに、僕は閲覧禁止の書棚に何となく近づいた。ここに収められた本のような魔法が使えたら、どうにか出来るんじゃないかとここ数日の僕は思っていた。しかし残念ながら、ここの本を読むには先生のサイン入り許可証が必要だったし、絶対に許可は貰えないとわかっていた。ここにはホグワーツでは教えられない強力な闇の魔術に関する本があり、上級生が『闇の魔術に対する上級防衛術』を学ぶ時のみ、閲覧が許されていた。
「君、何をしているの?」
後ろから声をかけられた。司書のマダム・ピンスだった。
「いえ、別に」
「それなら、ここから出た方がいいわね。さあ、出て──出なさい!」
マダム・ピンスは毛ばたきを僕に向けて振った。
もっと気の利いた言い訳を考えたらよかったのに、と思いながら僕は図書室を出た。
図書室の外の廊下で2人を待った。二人が何か見つけてくることを、僕はあまり期待していなかった。もうずっと収穫なしだった。もっとも、授業の合間の短い時間にしか探せなかったので、無理もないことではあった。できることなら、マダム・ピンスのしつこい監視抜きでゆっくりと探したかった。
五分後、二人も首を横に振りながら出て来た。三人は寮へと戻った。
「私が家に帰っている間も続けて探すでしょ?何か見つけたらふくろうで教えてね」
「勿論さ。君は休暇を楽しんで」
とロンは言った。
「ありがとう」
とハーマイオニーは笑った。
ウィンターホリデーに入ると、楽しいことがいっぱいで、僕もロンも『賢者の石』のことなんて後回しになってしまった。寝室には二人しかいなかったし、談話室もいつもより閑散として、暖炉のそばの居心地の良い肘掛け椅子──いつも上級生に取られてしまう──に座ることができた。二人して何時間もそこに座り込んで、およそ串に刺して食べられるものは何でも火に炙って食べた。パン、トースト用のクランペット、マシュマロ──こんなに楽しいウィンターホリデーは初めてだった。
ロンは僕に魔法使いのチェスを手解きしてくれた。マグルのチェスとルールは全く同じだったが、駒が生きているというところが違っていた。プレイしていると、まるで軍を率いる将軍になった気分だった。ロンのチェスの駒は古くて、なんとなくぼやけた印象だった。しかし、それは全く弱みにはならなかった。彼は駒を知り尽くしていて、駒は命令に忠実に動いた。
僕はシェーマス・フィネガンから借りた駒で戦っていたが、駒は僕のことを全く信用していなかった。駒は口々に新米プレイヤーに向かって勝手なことを叫び、僕をひどく困惑させた。
「私をそこに進めないで!あそこに敵のナイトがいるのが見えないのかい?あっちの駒を進めてよ、あれなら取られても構わないから」
クリスマス・イブの夜、僕は中々寝付けなかった。この数日は、本当に、僕にとって一番楽しい日々だった。ダーズリー夫妻はおらず、ダドリーの癇癪も聞こえてこず、毎日の授業に四苦八苦することもない!これで明日の朝、枕元にプレゼントが置かれていたら、もっと最高なのに。僕はそんなことを考えながらシーツの中をもぞもぞしていたが、やがて眠りに落ちていた。とても暖かく、心地よい眠りだった。
ロンハードラアス!ロンハードラアスです!
ここまで読んでいただいてありがとうございます。
よろしければ感想、評価など頂ければとても励みになります。
しゃーねーなと言う方は是非送ってやってください。