皆さまありがとうございます。
誤字報告をありがとうございました。
確認しているつもりではありますが、きっと見逃しが多いと思いますので、気付いた方もしよろしければ報告の方頂ければ幸いです。
『みぞの鏡』を二度と探さないようにとダンブルドア学長に言われ、それからクリスマス休暇が終わるまで透明マントはトランクの底に仕舞い込んだままにしていた。僕は鏡のことを忘れようとしたが、中々上手く行かず、毎晩夢に見た。
「ほら、ダンブルドアの言う通りだよ。鏡を見て気が変になる人がいるって」
ロンが言った。
新学期が始まる一日前、ハーマイオニーとマルフォイも帰って来た。彼らにも鏡のことを話した。ハーマイオニーは、僕が三晩も続けてベッドを抜け出し、校内をうろうろしたと聞いて驚き呆れた(もしフィルチに捕まっていたら!)。一方で、どうせそういうことだったなら閲覧禁止の棚をもっと探せればと悔しそうにしていた。マルフォイの方はなんとも言えない様子で、ただ、
「見つかったのがダンブルドア学長で良かった」
と言った。
「お前も両親にちやほやされてるところが映りそうだよな」
「だったらなんだい?君だって似たようなものだったんだろう?」
ロンが揶揄うように言って、マルフォイは少しムキになってそう返した。
新学期が始まると、僕たち三人は十分の休み時間にひたすらに本を漁る作業を再開した。マルフォイは前学期末から付き合いの悪くなった僕らを疑問に思いつつも、勉強に力を入れるのは良いことだと自分を納得させたようだった。僕はそれに加えてクィディッチの練習も始まり、二人よりも更に時間がなかった。
ウッドのしごきは前よりも厳しくなった。双子のウィーズリーはウッドはほとんど狂ってる、と文句を言ったが、僕は嬉しかった。次の試合で勝てば寮対抗杯をスリザリンから取り戻せる、ということももちろんあったが、練習で疲れた後はあまり悪夢を見なくなると言うのも僕にはありがたかった。
ひときわ激しい雨の中練習していると、ウッドが僕たちにとても悪いニュースを齎した。スネイプがクィディッチの審判をすると言い出したそうだ。それを聞いたジョージは地面に降り立ち、勢い込んで言った。
「スネイプがクィディッチの審判をやったことがあるか?僕たちがスリザリンに勝つかもしれないとなったら、きっとフェアじゃなくなるぜ」
チーム全員がジョージの傍に着地して文句を言い始めた。
「あいつが審判に決まったのは僕のせいじゃない。僕らに出来るのは、あいつにつけ込む口実を与えないよう、厳正なフェアプレイをすると言うことだけだ」
それはそうだ、と僕は思った。しかし僕には、クィディッチの試合中スネイプに傍にいられると困る理由がもう一つあった⋯⋯。
練習が終わると僕は真っ直ぐグリフィンドールの談話室へと戻った。ロンとハーマイオニーはチェスの真っ最中だった。チェスだけはハーマイオニーもロンには敵わなかったが、彼女にとっても負けるのはいいことだと言うのが僕とロンに共通する意見だった。
「今は話しかけないで」
僕が傍に座るなりロンはそう言った。
「集中しなくちゃ⋯⋯なんかあった?なんて顔してるんだい」
僕は他の人に聞こえないよう、スネイプが突然クィディッチの審判をやりたいと言い出した、という不吉なニュースを伝えた。
「試合に出ちゃ駄目よ」
「病気だって言えば」
「脚を折ったことにすれば」
「いっそ本当に脚を折ってしまえ」
ロンとハーマイオニーは交互に言った。
「出来ないよ。シーカーの補欠はいないんだ。僕が出ないとグリフィンドールはプレイできなくなってしまう」
僕がそう言った時、ネビルが半泣きで寮に駆け戻ってきた。彼がそうやって戻ってくるのはそこまで珍しいことでもなかったので、みんな無反応だったが、ハーマイオニーはすぐ立ち上がって彼を迎えに行った。
「どうしたの?」
僕とロンの間にネビルを座らせながらハーマイオニーは尋ねた。
「あの、ね、僕、魔法薬学の予習しなきゃって、次の授業では失敗したくなくて」
ネビルは声を震わせながら言った。確かに彼は魔法薬学の時、毎回のように失敗しては減点されていた。
「だけど、教科書読んでもわかんなくて、マルフォイが近くにいたから、あいつ魔法薬学得意でしょ?だから聞きに行ったんだけど⋯⋯」
ネビルはそこまで言って、もうこれ以上言いたくないと言うように目を伏せて言葉を切った。言いたくなければ言わなくていいよ、僕はそう言って彼の背中をさすった。
「そうさ、大体失敗するのはネビルのせいだけじゃないよ。スネイプもねちっこいし、スリザリンの連中ったらないさ!」
ロンもそう言った。いつもいつもネビルが何か失敗をするたびにスネイプは陰湿にあげつらうし、スリザリン生は聞こえよがしにくすくす笑うのだった。マルフォイにどうにか出来ないのかいと文句を言ってみたこともあったが、彼もただ首を横に振っていた。
「はい、これを飲んで落ち着くといいわ」
ハーマイオニーはそう言って、淹れてきたココアのカップをネビルに握らせた。彼はありがとうと言って、再び口を開いた。
「それでね、マルフォイは教えてくれようとしたんだけど、周りにいた奴らが⋯⋯。『ぐずののろまのロングボトム君、君みたいな奴は魔法薬学より先に勉強しなくてはいけないことが山積みなんじゃないかい?』って、『そう言うなよ、彼だってかわいそうさ⋯⋯
彼はとうとう泣き出してしまった。袖で涙を拭いながらもネビルは続けた。
「マルフォイが『程度の低い悪口で純血の名前を貶めるな』って、そう言ってスリザリンのやつらを黙らせてくれて。僕に蛙チョコくれて、もう寮に戻るといいよって。僕、僕が馬鹿にされたのに、ただマルフォイに助けてもらっただけで⋯⋯」
ネビルはそこまで言って、ココアを啜った。
「⋯⋯美味しい、ありがとう、ハーマイオニー」
「そいつらが十人束になったって君には及ばないよ。組分け帽子に選ばれて君はグリフィンドールに入ったんだろう?そいつらはどうだい、腐れスリザリンに入れられたよ」
「そうさ、バカの言うこと気にしてたって仕方ないよ。マルフォイに貰った蛙チョコも食べて、今日はゆっくり眠るといいよ」
僕とロンは言った。ネビルは弱々しく微笑んで、ポケットから取り出した蛙チョコレートの包み紙を剥がして齧った。
「みんな、ありがとう⋯⋯僕、もう寝るよ⋯⋯ハリー、カードあげる。集めてるんだろう?」
蛙チョコレートの大箱をハーマイオニーに貰って以来、僕がなんとなくカードを集めているのをネビルは覚えていたようだった。
「ありがとう、おやすみ」
僕はそう言って彼を見送った。
貰ったカードはアルバス・ダンブルドアだった。僕は彼本人に励まされたような気がした。
「僕、試合に出るよ」
僕はハーマイオニーとロンに宣言した。
「出なかったら、スリザリンの連中はスネイプが怖くて試合に出なかったと思うだろう。目にもの見せてやる⋯⋯僕たちが勝って、連中の顔から笑いを拭い去ってやる」
「グラウンドに落ちたあなたを、私たちが拭い去るような羽目にならなければね」
とハーマイオニーが言った。
二人に向かってそう言ったものの、試合が近づくにつれ僕は不安になってきた。他の選手もあまり冷静ではいられなかった。七年近くスリザリンに取られっぱなしだった優勝杯を、手にすることができたらどんなに素晴らしいだろう。けれど、審判が公正でないのなら、それは実現可能なことなのだろうか?
思い過ごしかもしれないが、僕はどこへ行ってもスネイプと出くわすような気がした。僕がひとりぼっちになった時捕まえてやろうと、後をつけているのではないかと思うことが時々あった。魔法薬学の授業は毎週拷問にかけられているようだった。スネイプは相変わらず僕にとても辛く当たった。僕たちが『賢者の石』のことを知ったと気づいているのだろうか?そんなことはないと思いながらも、時々僕はスネイプには人の心が読めるのではないかという恐ろしい思いに囚われてしまうのだった。
ようやく、あるいはとうとう、試合の日が訪れてしまった。僕は朝からそわそわと落ち着きがなかった。昼過ぎにロンとハーマイオニーから「幸運を祈る」と見送られた僕は、ほとんど意気の上がらないままクィディッチのユニフォームを着てニンバス2000を手に取った。
(そしてこれは後から聞いた話だが、観客席に座ったロンとハーマイオニーはこの日のために『脚縛りの術』を練習してきていて、スネイプが何か怪しいそぶりをしたらすぐにでもこの術をかけてやるべく構えていたそうだった。)
一方、僕は更衣室でウッドと話していた。
「ポッター、プレッシャーをかけるつもりはないが、この試合こそ、とにかく早くスニッチを捕まえて欲しいんだ。スネイプにハッフルパフを贔屓する余裕を与えずに試合を終わらせてくれ」
「学校中が観戦に出てきたぜ」
フレッド・ウィーズリーが扉から覗きながら言った。
「こりゃ驚いた⋯⋯ダンブルドアまで見に来てる」
僕の心臓は宙返りした。
「ダンブルドア?」
僕はドアに駆け寄って確かめた。フレッドの言う通りだ。あの銀色の髭は間違いようがない。
僕はほっとして笑い出しそうになった。助かった。ダンブルドアの見ている前で、スネイプが僕を傷付けるなんて出来るはずがない。
選手たちが競技場に入場し、整列した。いつにも増して不機嫌そうなスネイプの合図で僕たちは飛び上がった。観客席からの歓声に包まれながら、僕はスニッチを探した──見つけた。僕は瞬時に急降下し、小さな金色に手を伸ばした。スネイプのすぐ耳元を掠め、その数秒後に意気揚々と右手を突き上げた。手の中にはスニッチがしっかりと握りしめられていた。
スタンドがどっと沸き上がった。こんなに早くスニッチを捕まえるなんて前代未聞だという悲鳴のような歓声がこだました。
僕は地上から三十センチのところで箒から飛び降りた。やった!試合終了だ。自分でも信じられなかった。試合開始から五分も経っていなかった。グリフィンドールの選手たちが次々にグラウンドに降りて来て、続いて審判のスネイプも僕の横に立った。誰かが僕の肩に手を置いた。見上げるとダンブルドア教授が微笑んでいた。
「良くやった」
ダンブルドア学長は僕だけに聞こえるよう囁いた。
「君があの鏡のことをくよくよ考えず、一生懸命ここまでやってきたのは偉い⋯⋯素晴らしい⋯⋯」
スネイプは苦々しげに地面に唾を吐いた。
しばらくして、僕はニンバス2000を箒置き場に戻すため、一人で更衣室を出た。こんなに幸せな気分になったことはなかった。本当に誇りに出来ることを成し遂げた──名前だけが有名だなんてもう誰も言わないだろう。夕方の空気がこんなにも甘く感じられたことはなかった。湿った芝生の上を歩いていると、僕の脳内にこの一時間の出来事が甦ってきた。幸せにぼうっとなった一時間だった。グリフィンドールの寮生が駆け寄って来て僕を肩車し、ロンとハーマイオニーが遠くの方で飛び跳ねて喜んでいるのが見えた。ロンは喜びのあまり酷い鼻血を流しながら歓声を上げていた。マルフォイは芯から悔しそうだった。
僕は箒置き場に辿り着いた。扉に寄り掛かってホグワーツを見上げると、窓という窓が夕陽に照らされて赤く輝いていた。グリフィンドールが首位に立った。僕、やったんだ。あいつらに目にもの見せてやった──。
その時、城の正面階段をフードを被った人物が急ぎ足で降りていくのが見えた。明らかに人目を避けている様子だった。禁じられた森の方へ足早に歩いて行った。僕の勝利の熱はあっという間に吹き飛んだ。あの特徴的な歩き方が誰なのか僕にはわかる。スネイプだ。他の人たちが夕食を食べている時にこっそり森に行くとは──一体何事だろう?
僕は再びニンバス2000で飛び上がった。城の上まで飛び上がると、スネイプが森の中まで駆け込んで行くのが見えた。僕は跡をつけた。
鬱蒼と繁る木に僕はスネイプを見失った。段々と硬度を下げ、木の梢に触るほどの高さになった時、話し声が聞こえた。僕は声のする方へと移動し、ひときわ高いぶなの木の枝に音を立てずに降りた。そっと下を見下ろすと、木の下にはスネイプと、クィレルがいた。クィレルはいつにも増して吃っていた。
「⋯⋯な、なんで⋯⋯よりによって、こ、こんな場所で⋯⋯セブルス、君にあ、会わなくちゃいけないんだ」
「このことは二人だけの問題にしようと思いましてね」
スネイプの声は氷のようだった。
「生徒諸君には『賢者の石』のことを知られてはまずいのでね」
僕は身を乗り出した。クィレルは何かもごもご言っていた。スネイプはそれを遮った。
「ハグリッドが用意したあの猛獣をどう出し抜くか、もうわかったのかね」
「で、でもセブルス⋯⋯私は⋯⋯」
「クィレル、吾輩を敵に回したくないのなら」
スネイプはその言葉と共にずいと一歩前に出た。
「ど、どういうことなのか、私には⋯⋯」
「吾輩が何を言いたいのか、よくわかっていると思うが」
丁度その時ふくろうが大きな声で鳴いたので、限界まで身を乗り出していた僕は危うく木から落ちそうになった。なんとかバランスをとり、スネイプの次の言葉を聞き取った。
「⋯⋯あなたの怪しげなまやかしについて聞かせていただきましょうか」
「で、でも私は、な、何も⋯⋯」
「いいでしょう」
スネイプはまたしてもクィレルの言葉を遮った。
「それでは、また近々お話をすることになりますな。もう一度よく考えて、どちらに忠誠を尽くすのかを決めておいていただきましょう」
スネイプはまたフードをすっぽりかぶり、大股に立ち去った。もう暗くなっていたが、僕にはその場に石のように立ち尽くすクィレルの姿が見えた。
「ハリーったら、いったいどこにいたのよ?」
ハーマイオニーが甲高い声を出した。
「ああ、それにしても素晴らしかったわ、ハリー!スニッチを捕まえる速さったら!本当に──私たちが首位よ!」
「僕らが勝った!君が勝った!僕らの勝ちだ!」
ロンは僕の背を力強く叩きながら言った。
「マルフォイの悔しそうな顔、君も見たかい?クラッブとゴイルもしょげかえってさ、傑作だったぜ!僕ら、スリザリンに目にもの見せてやった!みんな談話室で君を待ってるんだ。パーティをやってるんだよ。フレッドとジョージがケーキやら何やら、厨房から失敬して来たのさ」
「それどころじゃない」
僕は息もつかずに言った。
「どこか、誰もいない部屋で話そう。大変なことが起きたんだ⋯⋯」
僕はピーブズがいないことを確かめてから部屋のドアをぴたりと閉じ、今見てきたことを二人に話した。
「僕らは正しかった。やっぱりスネイプは『賢者の石』を狙っていたんだ。それを手に入れるのを手伝って、クィレルを脅してるのを僕は見た──スネイプはフラッフィーを出し抜く方法について聞いてた⋯⋯それと、クィレルの『怪しげなまやかし』のことも何か話してた⋯⋯フラッフィー以外にも何か別のものが石を守っているんだと思う。きっと、人を惑わすような魔法がいっぱいかけてあるんだよ。クィレルが闇の魔術に対抗する魔法をかけて、スネイプはそれを破らなくちゃいけないのかも⋯⋯ 」
「それじゃ、『賢者の石』が安全なのは、クィレルがスネイプに抵抗している間だけということになるわ」
ハーマイオニーが警告した。
「それじゃ、三日と持たないな。石はすぐ無くなっちまうよ」
とロンが言った。
しかしクィレルは僕たちが思っていた以上の粘りを見せた。それから何週間が経っても、口を割った様子はなかった。ますます青白く、やつれて見えはしたが。
僕たちも何か協力したいところだったが、なぜ僕たちがそのことについて知っているかを誤魔化す口実が思い当たらなかったし、何よりハーマイオニーが試験勉強に躍起になっていた。それだけなら別に気にすることではなかったが、彼女は僕たちにも同じことをするようしつこく勧めてきた。
「ハーマイオニー、試験はまだズーッと先だよ」
「十週間先でしょ。ズーッとじゃないわ。ニコラス・フラメルの時間にしたらほんの一秒でしょう」
ハーマイオニーは厳しい。
「それに、マルフォイだって本格的に試験モードに入っていたわ。クラッブとゴイルに『忘れ薬』の調合法を講釈していたの、私聞いたの」
成績でスリザリンに遅れをとるわけにはいかないでしょ、と彼女は言った。ハーマイオニーはマルフォイを成績を巡る仮想敵にしているフシがあった。
「僕たち、六百歳じゃないんだぜ」
ロンはそう反論した。
「それに、何のために復習するんだよ。君はもう全部知ってるじゃないか」
「何のためですって?気は確か?二年生に進級するためには試験をパスしなければいけないのよ、それに、試験の結果は貼り出されるのよ。大切な試験なのに、私としたことが⋯⋯もう一月は前から勉強しておくべきだったわ」
ありがたくないことに、教授たちもハーマイオニーと同意見のようだった。山のような宿題が出て、復活祭の休みは、クリスマス休暇ほど楽しくはなかった。マルフォイの羽根ペンは早速その素晴らしい書き味を見せてくれた(ちなみにハーマイオニーも同じものを使っていた。羽根の色は美しいブルーだった)が、僕たちは早くも嫌になりそうだった。
「こんなのとっても覚えきれないよ」
ロンはそう言いながらペンを投げ出し、図書室の窓から外を恨めしげに見た。と、
「ハグリッド!図書室で何してるんだい?」
と言った。
その声に『薬草ときのこ百種』で『ハナハッカ』の項を探していた僕も顔を上げた。
ハグリッドは妙にバツが悪そうにしていた。背中に何か隠している。
「いや、ちーと見とるだけだ」
そのごまかし声は上擦って、たちまち僕たちの興味を惹いた。
「お前さんたちは何をしとるんだ?」
ハグリッドは突然疑わしげに尋ねた。
「まさか、ニコラス・フラメルについて調べてるんじゃなかろうな」
「そんなの、もうとっくの昔にわかったさ」
ロンは得意げに言った。
「それだけじゃない。あの犬が何を守っているのかも知ってるよ。『賢者のい──』」
「しーっ!」
ハグリッドは急いで周りを見渡した。
「そんなことは大声で言いふらしちゃいかん。お前さんたち、まったくどうかしちまったんじゃないか」
「ちょうどよかった。ハグリッドに聞きたいことがあるんだけど。フラッフィー以外にあの石を守ってるのは何なの」
僕は尋ねた。
「しーっ!いいか──後で小屋に来てくれや。ただし、教えるなんて約束はできねえぞ。ここでそんなことを喋りまくられちゃ困る。生徒が知っとるはずはねーんだから。俺が喋ったと思われるだろうが⋯⋯」
「じゃ、後で行くよ」
僕は言った。
「ああ、そうだ。マルフォイの小僧は連れて来るんじゃねえぞ。ルシウスに知られるわけにはいかんからな」
ハグリッドはそう言ってもぞもぞと出て行った。
「ハグリッドったら、背中に何を隠していたのかしら?」
ハーマイオニーが考え込んだ。
「もしかしたら、石と関係があると思わない?」
「僕、ハグリッドがどの書棚のところにいたか見てくる」
勉強にうんざりしていたロンが言った。彼はほどなく戻ってきた。
「ドラゴンだよ!」
ロンは声を潜めた。
「ハグリッドはドラゴンの本を探していたんだ──『イギリスとアイルランドの
「初めてハグリッドに会った時、ずーっと前からドラゴンを飼いたいと思ってたって、そう言ってたよ」
僕はハグリッドと初めて会った時のことを思い出しながら言った。
「でも、僕たちの世界じゃ法律違反だよ。一七〇九年のワーロック法で、ドラゴン飼育は違法になったんだ。みんな知ってる。もし家の裏庭でドラゴンを飼ってたら、どうしたってマグルが僕たちのことに気づくだろ──どっちみちドラゴンを手懐けるのは無理だし。凶暴だからね。チャーリーがルーマニアで野生のドラゴンにやられた火傷を見せてやりたいよ」
「だけどまさかイギリスに野生のドラゴンなんていないだろう?」
と僕は聞いた。
「いるともさ」
ロンは答えた。
「ウェールズ・グリーン普通種とか、ヘブリディーズ諸島ブラック種とか。そいつらの噂を揉み消すのに魔法省は苦労してるんだ。もしマグルがそいつらを見つけちゃったら、こっちはその度にそれを忘れさせる魔法をかけなきゃいけないからね。そういや、そのための忘却術師を雇う為のお金がマルフォイのパパから出てるとか、僕のパパが言ってたかも」
「そんな、まさか、ハグリッドはそんなことしないわよね」
ハーマイオニーが言った。
一時間後、僕たちがハグリッドの小屋を訪ねると、驚いたことにカーテンが全部閉まっていた。中に入ると、窒息しそうなほどに暑かった。こんなに暑い日だというのに、暖炉には轟々と炎が燃え盛っている。
「それで、お前さんたち、何か聞きたいんだったな?」
僕は単刀直入に尋ねることにした。
「うん。フラッフィー以外に『賢者の石』を守っているのは誰か、ハグリッドに教えてもらえたらなって思って」
ハグリッドは盛大な顰め面をした。
「もちろんそんなことはできん。まず俺自身が知らんし、お前さん達が知るべきことでもない。だから俺が知っとったとしても言わん。石がここにあるにはそれなりの訳があるんだ。グリンゴッツから盗まれそうになってなあ──もうすでにそれも気づいておるんだろうが?大体フラッフィーのことも、一体どうしてお前さんたちが知っとるんだ」
「ねえ、ハグリッド。私たちに言いたくないだけでしょう?でも、絶対知ってるのよね。だって、ここで起きていることであなたの知らないことなんてないんですもの」
ハーマイオニーが煽てた。
ハグリッドの髭がぴくぴく動き、髭の中の口がにこりとしたのがわかった。ハーマイオニーは的確に追い討ちをかけた。
「私たち、石が盗まれないように、誰が、どうやって守りを固めたのかなあって考えてるだけなのよ。ダンブルドア学長が信頼して助けを求めるのは誰なのかしらね。ハグリッド以外に」
最後の言葉を聞くとハグリッドは胸をそらした。僕とロンはよくやったとハーマイオニーに目配せをした。
「まあ、それくらいなら言っても構わんじゃろう⋯⋯さてと⋯⋯、俺からフラッフィーを借りて⋯⋯何人かの教授が魔法の罠をかけて⋯⋯スプラウト教授⋯⋯フリットウィック教授⋯⋯マクゴナガル教授⋯⋯」
ハグリッドは指を折って名前を挙げはじめた。
「それからクィレル教授、もちろんダンブルドア学長先生もちょっと細工したし、待てよ、誰か忘れておるな。そうそう、スネイプ教授」
「
「ああ、そうだ。まだあのことにこだわっておるのか?スネイプは石を守る方の手助けをしたんだ。盗もうとするはずがない」
僕たち三人は同じことを考えていた。もしスネイプが石を守る側にいたなら、他の教授がどんなやり方で守っているのかも簡単にわかるはずだ。多分全部解ったんだ──クィレルの呪文とフラッフィーを出し抜く方法以外は。
「ハグリッドだけがフラッフィーを大人しくさせられるんだよね?誰にも教えたりはしてないよね?たとえ教授にだって」
僕は確認した。
「俺とダンブルドア学長先生以外は誰一人として知らん」
ハグリッドは得意げに言った。
「そう、それなら一安心だ」
僕は他の二人に向かってそう呟いた。
「ハグリッド、窓を開けてもいい?僕たち茹だっちゃうよ」
「悪いな、それは出来ん」
ハグリッドがちらりと暖炉を窺ったのに僕は気付いた。
「ハグリッド──あれは何?」
聞くまでもなく僕には解っていた。炎の真ん中、薬缶の下に大きく黒い卵があった。
「えーと、あれは⋯⋯その⋯⋯」
ハグリッドは落ち着かない様子で髭をいじっていた。
「ハグリッド、どこで手に入れたの?すごく高かったでしょ」
ロンはそう言いながら、火の傍に屈み込んで卵をよく見ようとした。
「賭けに勝ったんだ。昨日の晩、ホグズミードまで行って、ちいと酒を呑んで、知らん奴とトランプをしてな。はっきり言えば、そいつは厄介払いをして喜んじょったな」
「だけど、もし卵が孵ったらどうするつもりなの?」
ハーマイオニーが尋ねた。
「それで、ちいと読んどるんだがな」
ハグリッドは枕の下から大きな本を取り出した。
「図書館から借りたんだ。『趣味と実益を兼ねたドラゴンの育て方』──もちろん、ちいと古いが、何でも書いとる。母竜が息を吹きかけるように卵は火の中に置け。なあ?それから、と⋯⋯孵った時にはブランデーと鶏の血を混ぜて三十分ごとにバケツ一杯飲ませろとか。それとここを見てみろや──卵の見分け方──俺のはノルウェー・リッジバックという種類らしい。こいつが珍しいやつでな」
ハグリッドの方は大満足と言いたげだったが、ハーマイオニーは違った。
「ハグリッド、この家は木製なのよ」
ハグリッドはどこ吹く風で、るんるんと鼻歌混じりに火を焚べていた。
結局、もう一つ心配事を抱えることになってしまった。僕たちは談話室の隅で、これ以上できないというくらいこそこそと話した。
「ハグリッドは本気でドラゴンを育てる気だ──そんなこと、あそこでできると思うかい?」
僕が言うと、ロンは出来るわけないよと言った。
「ドラゴンが何メートルになると思ってるのさ。凶暴だし、言うこと聞かないし、馬鹿みたいに食べる。こんなところで飼えるなら、チャーリーはあんな仕事してないよ」
「ハグリッドはきっと、夢が叶いそうだからって目が曇ってるんだわ──私たち、これから彼になんて言うべきかしら?」
「さあね──。とにかく、無理だって言い続けるしかないよ。ああなったら理屈は聞かないんだ、パパもそうだもの。ちゃんと頭に届くまで無理だって言い続けるしかないのさ」
ロンは言った。そうするしかないかと僕たちがひとまずまとまったところで、僕はマルフォイのことを思い出した。
「ねえ、このこと、マルフォイにはこのまま秘密にしておくのかい?このところずっと、あいつだけ除け者になってるみたいだよ」
別に彼を仲間外れにするつもりはないのだが、スネイプのことを彼に言えない以上はどうしてもそうなってしまうことが多かったのだ。その上でさらに秘密を増やすのは、何だか友情に悖るとでも言うような気持ちになった。
「いや、言わなくていいと思う」
ロンは言った。
「あいつの父親にドラゴンの事を知られたら本当に面倒だよ。それに、もしマルフォイがドラゴンの事を知っててパパに言わなかったってなったらきっとすごくまずい事になる。マルフォイはあんなんだけど、あいつなりに色々大変なんだよ。僕のパパはあいつの親父と犬猿の仲ってやつだから、色々聞いたことあるんだ。僕たちのせいであいつが怒られるのはなんだか寝覚めが悪いじゃんか」
ロンがそう言って、マルフォイをひどく心配するので(本人は頑として認めないけど、これってそういうことだよね)、ドラゴンの問題は僕たち三人とハグリッドの秘密にすると言うことに決めて、僕たちはそれぞれのベッドへ向かったのだった。
グリフィンドール三人とマルフォイは友人ですが、クィディッチと寮対抗杯に関してはバチバチの本気で争う仲です。
その上でお互いに大切な友人ではあるはずなのですが、どうもマルフォイに言えない・言いにくい事が増えている様子。