ハリー・ポッターと綺麗なマルフォイ   作:ゆかりです。

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賢者の石⑨

“いよいよ孵るぞ”

 

ある朝、僕たちが大広間で朝食を摂っていると、たった一文の手紙がハグリッドから届いた。それを読んだロンは薬草学の授業をさぼってすぐ小屋へ向かおうとしたが、ハーマイオニーは頑としてそれを受け付けなかった。

 

「だって、ハーマイオニー、ドラゴンの卵が孵るところなんて、一生に何度も見られると思うかい?」

 

「授業があるでしょ。試験前にサボるなんて正気じゃないわ⋯⋯それに、もしそれがきっかけでハグリッドがやろうとしている事がばれたら、あの人ひどく困ることになるわ⋯⋯」

 

「ねえハーマイオニー、静かに!」

 

僕は小声で彼女を止めた。マルフォイがほんの数メートル先にいたのだ。僕が過敏になっているだけかもしれないが、彼は立ち止まって僕たちの会話に聞き耳を立てていたように思えた。何となく後ろめたいから悪い方に考えてしまうだけだ、と僕は思いたかったが、それにしては彼は気にかかる表情をしていた。僕がそうやって考え込んでいた間に、マルフォイはローブを翻してスリザリン生の集団の方へ歩いて行ってしまった。

ロンとハーマイオニーは、声のボリュームこそ落としてはいたものの、薬草学の教室へ行くまでの間ずっと言い争っていた。とうとうハーマイオニーが折れて、午前中の休憩時間に三人で急いで小屋へ行ってみようということになった。授業の終わりを告げるベルが聞こえるや否や、僕たちは移殖ごてを放り投げ、校庭を横切って庭の外れへと急いだ。そういえば、初めてこの道を通った時にはハーマイオニーではなくマルフォイが一緒だったんだっけ。

 

ハグリッドは興奮で、髭に覆われたその顔を紅潮させていた。

 

「もうすぐ出てくるぞ」

 

彼はそう言いながら僕たちを小屋へと招き入れた。

卵はテーブルの上に置かれ、深い亀裂が入っていた。中で何かが動いている。こつん、こつんという音が卵の中から聞こえた。みんながテーブルのそばに座り、息を潜めて見守っていた。

突然、黒板を引っ掻くような音がして卵が割れ、赤ん坊のドラゴンが机の上に姿を現した。僕にはとても可愛いとは思えない、皺くちゃの黒い蝙蝠傘のような外見をしていた。痩せっぽちの真っ黒な胴体、それには到底不似合いな巨大で骨っぽい翼、長い鼻には鼻の中が目立ち、瘤のような角とオレンジ色の出っ張った目を持っていた。

赤ちゃんドラゴンがくしゃみをすると、鼻から火花が散った。

 

「素晴らしく美しいだろう?」

 

ハグリッドは感嘆のあまり声が出ないといった様子でそう囁きながら、手を差し伸べてドラゴンの頭を撫でようとした。するとドラゴンは、尖った牙を光らせてハグリッドの指に噛みついた。

 

「こりゃすごい、ちゃんとママちゃんがわかるんじゃ!」

 

「ハグリッド、ノルウェー・リッジバック種ってどれくらいの早さで大きくなるの?」

 

ハーマイオニーが聞いた。

答えようとした途端、ハグリッドの顔から血の気が引いた──弾かれたように立ち上がり、窓際に駆け寄った。

 

「どうしたの?」

 

「カーテンの隙間から誰かが見ておった⋯⋯金髪だ⋯⋯学校の方へ走って行った⋯⋯」

 

僕は急いで扉に駆け寄り、外を見た。遠目ではっきりとはわからないが、確かに黒いローブの上には淡い金色の頭が載っているように見えた。

 

 

次の週、マルフォイが僕たちによそよそしくなったように思えた。朝すれ違ったり、スリザリンとの合同授業だったり、そういう時もマルフォイの方から声をかけてくる事がなくなったし、視線も合わなくなった。やっぱりあれはマルフォイだったのかも、と僕たちは思った。

今日もハグリッドの小屋へと向かいながら、僕たちは話し合った。

 

「ドラゴンのことを教えなかったの、やっぱり怒ってるのかなあ」

 

ロンは言った。マルフォイにドラゴンのことを教えないと言い出したのは彼自身な分、気にかかっているようだった。僕も、友達の秘密から一人除け者にされたようで、嫌だったかもしれないなとは思った。

 

「でも私たちが彼に教えなかったのは間違いじゃなかったと思うわ。もし何かあって困るのは私たちよりハグリッドとマルフォイじゃない?」

 

ハーマイオニーが言った。

 

「そうさ。それに今更教えたって、一度秘密にしたって事実が変わるわけじゃないし、そもそも本当にマルフォイがドラゴンを見たのかもわからないし。それでも気になるんなら、ドラゴンの問題が全部片付いてからでいいんじゃないかい?」

 

僕もそう言い終えたところで、僕たちはちょうど小屋の扉を開いた。

分厚いカーテンが引かれ、光の差し込まない部屋の中で、相変わらず炎だけが轟々と燃え盛っていた。僕たちは毎日のようにここに通い詰め、ハグリッドを説得しようとしていたが、今のところ成功とは言いがたい有様だった。

 

「外に放せば?自由にしてあげれば?」

 

僕はそう言って促した。

 

「そんなことはできん。こんなにちっちゃいんだ。死んじまう」

 

ドラゴンはたった一週間で三倍に成長していた。鼻の穴からはしょっちゅう煙を噴き出している。ハグリッドはドラゴンの面倒を見るのに忙しく、他の家畜たちの世話は疎かになっていた。ブランデーの空瓶や鶏の羽がそこら中の床の上に散らかっていた。

 

「この子をノーバートと呼ぶことにしたんだ」

 

ドラゴンを見るハグリッドの目は潤んでいる。

 

「もう俺がはっきりわかるらしい。見ててごらん。ノーバートや、ノーバート!ママちゃんはどこ?」

 

「狂ってるぜ」

 

ロンは僕にそう囁いた。

 

「ハグリッド、二週間もしたら、ノーバートはこの家くらい大きくなるんだよ。この前みたいに誰かに見られるかもしれないし、そうしたらダンブルドア学長に言いつけられるかも」

 

僕は大声でそう言った。

 

「そ、そりゃ⋯⋯俺もずっと飼っておけんくらいのことはわかっとる。だけんどほっぽり出すなんてことはできん。どうしてもできん」

 

ハグリッドは唇を噛んだ。

僕はふと閃いたことがあった。

 

「チャーリー!」

 

「君()、狂っちゃったのかい。僕はロンだよ、わかる?」

 

「違うよ──チャーリーだ、君のお兄さんのチャーリー!ルーマニアでドラゴンの研究をしている──チャーリーにノーバートを預ければいい。面倒を見て、自然に帰してくれるよ」

 

「名案!ハグリッド、どうだい?」

 

ロンも賛成した。

ハグリッドははじめこそ渋っていたが、とうとう、チャーリーにドラゴンを頼みたいというふくろう便を送ることに同意した。

 

 

その次の週はのろのろと過ぎた。水曜日の夜、みんながとっくに寝静まり、僕とハーマイオニーの二人だけが談話室に残っていた。壁の掛け時計が零時を告げた時、肖像画の扉が突如として開き、ロンがどこからともなく現れた。僕が貸した透明マントを脱いだのだ。僕たちは一人ずつ交代でノーバートの餌やりを手伝っていたのだ。ヤツは死んだ鼠を木箱に何杯も食べるようになっていた。

 

「噛まれちゃったよ」

 

ロンは血に染まったハンカチで包まれた手を差し出して見せた。

 

「一週間は羽根ペンを持てないぜ。まったく、あんな恐ろしい生き物は今まで見たことないよ。なのにハグリッドの言う事を聞いていたら、ふわふわした子うさぎかと思っちゃうよ。ヤツが僕の手を噛んだっていうのに、僕がヤツを怖がらせたからだって叱るんだ。僕が帰る時、子守唄を歌ってやってたよ」

 

暗闇の中で窓を叩く音がした。

 

「ヘドウィグだ!」

 

僕は急いでふくろうを中に入れた。

 

「チャーリーからの返事を持って来たんだ!」

 

三つの頭が手紙を覗き込んだ。

 

“ロン、元気かい?

手紙をありがとう。喜んでノルウェー・リッジバックを引き受けるよ。だけどここに連れてくるのはそう簡単じゃない。来週、僕の友達が訪ねてくることになっているから、彼らに頼んでこっちに連れて来てもらうのが一番いいと思う。問題は、彼らが法律違反のドラゴンを運んでいるところを見られてはいけないと言うことだ。

土曜日の真夜中、一番高い塔にリッジバックを連れて来られるかい?そうしたら、彼らがそこで君たちと会って、暗いうちにドラゴンを運び出せる。

出来るだけ早く返事をくれ。

頑張れよ。

──チャーリーより”

 

三人は互いに顔を見合わせた。

 

「透明マントがある」

 

僕は言った。

 

「出来なくはないよ⋯⋯僕ともう一人と、ノーバートくらいなら隠せるんじゃないかな?」

 

僕の提案に、他の二人もすぐ同意した。ノーバートを追っ払うことができるなら何でもすると言う気持ちだった。他の生徒にバレないよう気を遣いながらノーバートの世話の手伝いをするのはとても大変だったし、友人に隠し事をしていると思うととても心が重かったのだ。

 

何とかなると明るい気持ちになったのもつかの間、障害が起きてしまった。翌朝、ロンの手は二倍くらいの大きさに腫れ上がったのだ。ロンはドラゴンに噛まれたというのがバレることを恐れて、マダム・ポンフリーのところへ行くのを躊躇っていたが、昼過ぎにはそんなことを言っていられなくなった。傷口が気持ちの悪い緑色に変色し始めたのだ。どうやらノーバートの牙には毒があるらしかった。

その日の授業が終わった後、僕とハーマイオニーは医務室まで飛んでいった。ロンは酷い状態でベッドに横たわっていた。

 

「手だけじゃないんだ」

 

ロンは声を潜めていった。

 

「マルフォイも見舞いにきたんだけど、あいつ、何に噛まれたか本当のことを言えって僕に言うんだ。僕は犬だよって言ったんだけど、マルフォイは信じてなかった──一応僕が前に図書室で借りた本を持ってたから、そっちの話して凌いだけどさ。でも、この前ドラゴンを見てたのはやっぱりマルフォイだったみたいだ」

 

僕とハーマイオニーはロンを宥めようとした。

 

「土曜日の真夜中で全ては終わるわよ」

 

ハーマイオニーの慰めはロンを落ち着かせるどころか逆効果になった。ロンは突然ベッドに起き上がり、すごい汗を掻き始めた。

 

「土曜零時!」

 

ロンの声は掠れていた。

 

「ああ、どうしよう⋯⋯大変だ⋯⋯さっき、マルフォイに本を貸したんだよ。それ持って帰ってくれって思ったんだ──その本の中にチャーリーの手紙を挟んだままにしてあった⋯⋯今、思い出した⋯⋯僕たちがノーバートを処分する計画が、マルフォイにもバレちゃうよ」

 

僕とハーマイオニーがそれに答える間はなかった。マダム・ポンフリーが入って来て、『ロンは眠らなければいけないから』と僕たちを病室から追い出してしまったのだ。

 

「今更計画は変えられないよ」

 

僕はハーマイオニーにそう言った。

 

「チャーリーにまたふくろう便を送る暇はないし、ノーバートを何とかする最後のチャンスだし。マルフォイも計画を知ったところでわざわざ妨害はしてこないだろうしね」

 

僕たちに腹を立てることはあるだろうけど、と僕は言った。

ハグリッドのところへ行くと、大型ボアハウンド犬のファングが尻尾に包帯を巻かれて小屋の外に座り込んでいた。ハグリッドは窓を開け、中から僕たちに話しかけた。

 

「中には入れてやれない」

 

ハグリッドは息を荒げている。

 

「ノーバートは難しい時期でな⋯⋯いや、決して俺の手に負えないほどではないが」

 

チャーリーからの手紙の内容を話すと、ハグリッドは目に涙をいっぱい溜めた──ノーバートがハグリッドの脚に噛みついたせいかも知れないが。

 

「うわっ!いや、俺は大丈夫だ。ちょいとブーツを噛んだだけだ⋯⋯戯れとるんだ⋯⋯だって、まだ赤ん坊だからな」

 

その「赤ん坊」が尻尾で壁を叩いた音がここからも聞こえて、小屋の窓もがたがたと揺れていた。僕たちは一刻も早く土曜日が来てくれることを願いながら城へと帰った。

 

 

いよいよハグリッドがノーバートに別れを告げる日がやって来た。僕たちはそれぞれ自分の心配で手一杯で、ハグリッドを気の毒に思う余裕はなかった。暗く曇った夜だった。ピーブズが入口のホールで壁にボールを打ちつけてテニスをしていたので、僕とハーマイオニーはそれが終わるまで出られず、ハグリッドの小屋に着いたのは予定より少し遅い時間になった。

ハグリッドはノーバートを大きな木箱に入れて準備を済ませていた。

 

「長旅だから、鼠を沢山入れといたし、ブランデーも入れといたよ」

 

ハグリッドの声はくぐもっていた。

 

「寂しいといけないから、テディベアも入れてやった」

 

箱の中からは何かを引き裂くような物音がした。僕には縫いぐるみの頭が引きちぎられる音に聞こえた。

 

「ノーバート、バイバイだよ」

 

僕とハーマイオニーが透明マントを箱に被せ、自分たちもその下に隠れると、ハグリッドはしゃくり上げた。

 

「ママちゃんは決してお前を忘れないよ」

 

どうやって箱を城に持ち帰ったか、僕たちは覚えていなかった。入口のホールの階段を上がり、暗い廊下を渡り、僕たちが息を切らしてノーバートを運ぶ間、刻一刻と零時が近づいていた。一つ階段を上がるとまた次の階段──マルフォイに教えてもらった抜け道を使っても、作業はあまり楽にはならなかった。

 

「もうすぐだ!」

 

塔のてっぺんに繋がる螺旋階段を登り終え、夜の冷たい外気の中に一歩を踏み出し、僕とハーマイオニーはやっと透明マントを脱いだ。普通に息が出来るのが嬉しかった。ハーマイオニーも小躍りしそうなほどだった。

 

十分ほどそうして待っていると、四本の箒が闇の中から舞い降りてきた。

チャーリーの友人たちは陽気な仲間だった。四人でドラゴンを牽引できるよう工夫した道具を見せてくれた。僕とハーマイオニーも含めた六人がかりでノーバートをしっかりと繋ぎ止め、僕とハーマイオニーは四人と握手し、お礼を言った。

ついにノーバートは出発した。その姿はだんだん遠くなり、そして見えなくなった。ノーバートが手を離れ、荷も軽く、心も軽く、僕たちは螺旋階段を降りた。ドラゴンはもういない──マルフォイへの隠し事のうちかなり大きな部分が消える──こんな幸せに水を差すものがあるだろうか?果たしてその答えは、階段の下で待っていた。廊下に足を踏み入れた途端、フィルチの顔が暗闇の中からぬっと現れた。

 

「さて、さて、さて」

 

フィルチは囁くように言った。

僕たちは透明マントを塔のてっぺんに忘れてきてしまっていた。

 

「これはマルフォイの言った通りでしたねえ」

 

 

最悪の事態になった。

フィルチは僕とハーマイオニーを二階のマクゴナガル教授の研究室へと連れていった。二人とも一言も喋らず、そこに座って教授を待った。ハーマイオニーは震えていた。僕の頭の中では、言い訳、マルフォイへの怒り、アリバイ、戸惑い、とんでもないごまかしの作り話が、次から次へと浮かんでは消えた。考えれば考えるほど何もわからなくなった。絶体絶命だ。透明マントを忘れるなんて、なんというドジなんだ?いや、マルフォイがバラしたのなら、透明マントの有無は関係なかったかも知れない。そんなはずはない、いくらマルフォイの告げ口があっても、僕たちの姿を見られていなければこんなことにはならなかったはずだ。真夜中にベッドを抜け出してうろうろするなんて、たとえどんな理由があったってマクゴナガル教授は許さないだろう。その上、ノーバートと透明マントだ。もう荷物を纏める以外の末路はなさそうだ。

最悪の事態なら、これ以上悪くなることはない?とんでもない。なんと、マクゴナガル教授はネビルを引き連れて現れたのだ。

 

「ハリー!」

 

ネビルは僕たちを見つけた途端、弾かれたように口を開いた。

 

「探してたんだよ、注意しろって教えてあげようと思って。マルフォイが君たちのこと教授に言うって言ってたから。あいつ怒ってたんだ、君がドラゴ⋯⋯」

 

僕は激しく頭を振ってネビルを黙らせたが、マクゴナガル教授に見られてしまった。三人を見下ろす先生の鼻から、今にもノーバートより激しい炎が噴き出しそうだった。

 

「まさか、みなさんがこんなことをするとは、全く信じられません。ミスター・フィルチは、あなたたちが天文台の塔に居たと言っています。明け方の一時にですよ。どういうことですか?」

 

ハーマイオニーが教授からの質問に答えられなかったのは、これが初めてだった。まるで銅像のように身動き一つせず、スリッパの爪先を見つめている。

 

「何があったか、私には良く解っています」

 

マクゴナガル教授が言った。

 

「別に天才でなくとも察しはつきます。あなたがたはドラゴンなんて嘘っぱちを吹聴してマルフォイをベッドから誘き出し、問題を起こさせようとしたのでしょう?彼がそんなことをせず、私に告げ口したのはあなた方にとって不測の展開でしたか?恐らくここにいるネビル・ロングボトムが、そんな話を本気で信じて忠告しようとしたのも滑稽だと思っているのでしょうね?」

 

僕はネビルの視線を捉え、教授の言っていることとは違うんだよと目で教えようとした。ネビルはショックを受けてしょげかえっていた。可哀想なネビル、ヘマばかりして⋯⋯危険を知らせようと、この暗闇の中僕たちを探すなんて、彼にしてみればどれほど大変なことだったか、僕にはわかっていた。

 

「呆れ果てたことです」

 

教授は話し続けている。

 

「一晩に三人もベッドを抜け出すなんて!こんなことは前代未聞です!ミス・グレンジャー、あなたはもう少し賢いと思っていました。ミスター・ポッター、グリフィンドールはあなたにとってもっと価値のあるものではないのですか。三人とも処罰です──ええ、あなたもですよ、ミスター・ロングボトム。どんな事情があれ、夜に学校を歩き回る権利は一切ありません。特にこの頃は危険なのですから⋯⋯五十点。グリフィンドールから減点です」

 

()()?」

 

僕は息を呑んだ──寮対抗のリードを失ってしまう。せっかくこの前のクィディッチで僕が獲得したリードを。

 

()()()()()です」

 

マクゴナガル教授は高い鼻から荒々しく息を吐いた。

 

「教授⋯⋯、お願いですから⋯⋯」

 

「そんな、ひどい⋯⋯」

 

「ポッター、酷いか酷くないかは私が決めます。さあ、全員ベッドに戻りなさい。グリフィンドールの寮生をこんなに恥ずかしく思ったことはありません」

 

一五〇点を失ってしまった。グリフィンドールは最下位に落ちた。たった一晩で、グリフィンドールが寮杯を獲るチャンスを潰してしまった。鉛を飲み込んだような気分だった。一体どうやったら挽回できるんだ?

僕は一晩中眠れなかった。ネビルが枕に顔を埋めて、長い間泣いているのが聞こえた。慰めの言葉もなかった。自分と同じように、ネビルも夜が明けるのが恐ろしいに違いない。グリフィンドールのみんなが僕たちのしたことを知ったらどうなるだろう?

 

翌日、寮の得点を記録している大きな砂時計の傍を通ったグリフィンドール寮生は、真っ先にこれは掲示の間違いだと思ったらしかった。何故急に昨日より一五〇点も減っているんだ?そんな疑問に、やがて答えを埋める噂話が広がっていた。

──ハリー・ポッターが、あの有名なハリー・ポッターが、クィディッチの試合で二回も続けてヒーローになったポッターが、寮の点をこんなに減らしてしまったらしい。何人かの馬鹿な一年生と一緒に。

 

学校で最も人気があり、賞賛の的だった僕は、一夜にして突然一番の嫌われ者になった。レイブンクローやハッフルパフの寮生でさえ敵に回った。みんなスリザリンから寮杯が奪われるのを楽しみにしていたからだ。どこへ行っても、みんなが僕を指差し、声を低くすることもせずおおっぴらに悪口を言った。一方マルフォイ以外のスリザリン生は、僕が通るたびに拍手をし、口笛を吹き、

 

「ポッター、ありがとうよ!借りができたぜ!」

 

と囃し立てた。

ロンだけが僕の味方だった。

 

「数週間もすれば、みんな忘れるよ。フレッドやジョージなんか、ここに入寮してからずーっと点を引かれっぱなしさ。それでもみんなに好かれてるよ」

 

「だけど、一回で一五〇点も引かれたりはしなかっただろう?」

 

僕は惨めだった。

 

「ウン⋯⋯それはそうだけど」

 

ロンも認めざるを得ない様子だった。

ダメージを挽回するにはもう遅すぎたが、僕はもう二度と関係のないことに首を突っ込むのは止めようと心に誓った。こそこそ余計なことをするのはもう沢山だ。自分の今までの行動に責任を感じ、ウッドにクィディッチ・チームを辞めさせて欲しいと申し出た。

 

「辞める?」

 

ウッドの雷が落ちた。

 

「それが何になる?クィディッチで勝たなければ、どうやって寮の点を取り戻せるんだ?」

 

しかし、もうクィディッチでさえ楽しくはなかった。練習中、他の選手は僕に話しかけなかったし、どうしても何か話をしなければならない時にも『シーカー』としか呼ばなかった。

ハーマイオニーとネビルも苦しんでいたが、僕ほど有名ではない分、僕ほど辛い目には合わなかった。ただ、ハーマイオニーは教室でみんなの注目を引くことをやめ、俯いたまま黙々と勉強していた。

 

僕たちがそんな日々を過ごしていた時、朝食後にマルフォイとすれ違った。彼は他のスリザリン生とは違い、僕たちを囃し立てようとはしなかった──というより、ドラゴンのことがあって以来、僕たちは初めてマルフォイの顔を見た。彼は気まずそうな顔をしていた──それを見て、僕の怒りが膨れ上がった。

 

「マルフォイ。君は──」

 

「待ってくれ、その話はここじゃまずいだろう?使われていない部屋がある。そこで話そう」

 

僕とロンとハーマイオニー、それにマルフォイは、人の気配のない教室に移動して対峙した。

 

「あの夜、僕たちの計画をマクゴナガル教授やフィルチにばらしたのは君なんだろ、マルフォイ。なんでそんなことをした?」

 

ロンが刺々しく口火を切った。

 

「ああそうだよ。何故?決まっている。校則違反だからさ」

 

マルフォイも冷たく答えた。どこか開き直ったような顔をして、さっきまでの気まずげな雰囲気はなりを潜めていた。

 

「確かに違反よ。だけど、ハグリッドのことをばらさずにノーバートをどうにかするにはああしか方法がなかったの!」

 

「知らないよそんなことは。僕はただ、校則違反は見逃せないと思っただけさ。グリフィンドールの点数も減らせるしね」

 

「嘘を吐けよ、どうせ最後のだけが本心だろ。全く、君みたいなのを友達だって思ってた僕たちが悪かったさ!」

 

()()?」

 

マルフォイは片眉を吊り上げた。

 

「僕たちも君のためにどうしたら良いのかって色々考えたこともあったけど──」

 

「何が友人だ白々しいにも程がある!」

 

マルフォイが突然声を高くした。

 

「僕も君たちを友人だと思っていたさ!だけどそれは僕の一方的な思い込みだった、そうだろう?前学期末から、おかしいとは思っていたんだ。だけれども、君たちは何も話してはくれなかった──()()()()ね。『ハグリッドのこと』だって、僕は何も知らなかった。そんな人間が君たちの友人を気取るのはさぞかし滑稽だったことだろうね!」

 

マルフォイはそう言った。僕たちはそんなことを考えたこともなかったので、呆気に取られてしまった。

彼は続けて言った。

 

「それなら僕だって君たちを友人とは思わないさ。()()()他寮生が減点行為をするなら、それを教授に告げ口するのは当たり前のことだろう?」

 

「悲劇のヒロイン気取ってんじゃねえぞ腐れスリザリン!」

 

ロンも負けじというようにヒートアップした。

 

「そんなことを言って、どうせ寮対抗杯(てんすう)のことばっかり考えていたんだろう!君の家は僕たちとは違う、だからこそ迷惑をかけないようにって気遣ったのに、それをだしにして友人を売るだなんてね!君は『スリザリン』で『マルフォイ』の割にはいい奴だって思っていたのにさ!」

 

「黙れよウィーズリー!僕こそ間違いだった、『血を裏切る者』に『穢れた血』が──」

 

その先の言葉は聞こえなかった。ロンがマルフォイをぶん殴ったからだ。ロンの表情は初めて見るくらいに険しく、殴られたマルフォイはさっきまでの怒りを忘れたかのように呆然としていた。ロンに殴られたことよりも、自分が何を言ったかが信じられないと言った風に僕には見えた。僕とハーマイオニーはぽかんと二人を見つめることしかできなかった。

 

「いい加減にしろよマルフォイ!結局おまえも『そう』なんだな!君を友達だと思った僕が馬鹿だった。やっぱりスリザリンなんて碌な寮じゃない──もう二度と僕たちの友人なんて名乗らないでくれよ!⋯⋯行こうぜ、ハリー、ハーマイオニー」

 

ちょうどその時、授業開始時間を告げる鐘が鳴り響いた。足音も荒々しく部屋を出ていったロンを、僕とハーマイオニーは何が何だかわからないまま追いかけた。最後に部屋の中をちらりと見ると、別人のように覇気のないマルフォイの背中が、ただぽつんと立っているのだけが残っていた。

 




ドラコ・めんどくさい・ルシウス・マルフォイ。
身内に優しく愛が重いのがスリザリンの気質なら、友人に裏切られたと感じたらその報復もえげつないのではと思います。

マルフォイはハーマイオニーを大事な友人だと思っていますが、それはそれとしてマグル生まれを『違うもの』としてナチュラルに見ているところがあります。今のところは。
ごりごりの純血主義ですが、それを普段表に出さない品性があるのが原作と違うところ。
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