しいていうなら井戸端会議のそいつがおまえ 作:魔物になりたい
迷路───
それは人を迷わせるために作られた道。元々は人を楽しませるために作られた娯楽施設のようなものだったという。スタートとゴールを決め、ゴールしたものに景品を与え満足感を得るためにあったという。
しかし、この迷路には悪意を煮詰めたような複雑さを兼ね備えていた……
子狸「むむっ……!」
王都「いや、ねーよ」
この迷路、なんと全長は10メートルもある。形は正方形であり、上から見たらまるで"回"という文字に似てる。スタートとゴールは角から対角線にあると言えばわかりやすいだろうか。
子狸「いや、待てよ……?」
少年は疑う。さっきからずっと左に曲がっているのに、同じ光景が繰り返されているのだ。
───隠し部屋に違いない
子狸「っ!?……そこだ!」
王都「ハズレ。……子狸さん。今向いてる方の右手を見てみては?」
子狸「……?」
右前足を確認する。何もない。いや、何もないがあるのだろうか?首を傾げ思考する……確かにその手にはパンが握られていた。……今朝方のことではあるが。
子狸「やられた……!?」
王都「何が?」
なんだったらパンではなくフライパンだった。
子狸「こうなったらやるしかない!パル!アルダ!」
王都「こらこら、魔法で横着しない。というかこれ、結界じゃなくてただの壁で囲った迷路なんだが……」
子狸「迷路だって……!?」
王都「最初からそう言ってるじゃん」
この迷路の入り口には看板があり、「ここは迷路です」と書いてある。その下には「左手を壁に付けて歩けばバカでもクリアできます」と、人のことをおちょくっているような文言が記載されている。
惜しむらくは、この少年がそのことを途中で思い出し、無限ループに陥ったことだろうか。
王都「ゴールすぐそこじゃん……」
子狸「人生にゴールなんてない」
王都「あのね、この迷路にはスタートとゴールが決められてるの」
子狸「……決められたレールを走る人生なんて!」
あまりにも単純な作りは逆に複雑に感じるのだろうか?ここ二時間ほどゴールに誘導しようと自棄になっていた王都のひとも、堪らず意義を唱えることにした。
*
六八八七、王都在住のとるにたらない不定形生物さん(出張中
おい
やっぱり子狸さんには難しい過ぎるだろ、最初は一本道で試すべきだったんだ
六八八八、海底洞窟在住のとるにたらない不定形生物さん
いやいや、迷路の楽しさはゴールした時の快感にあるんだ〜
とか言ってたのはおまえだろ
六八八九、王国在住の現実を生きる小人さん(出張中
……そもそも、看板がいらなかったのでは?
アレのせいで子狸さんが、グルグルするハメになったのは明白だろ
六八九〇、帝国在住の現実を生きる小人さん(出張中
は?
なら言わせてもらいますけどね、子狸さんが入る直前に
こっちの方がいいとか言って勝手に変えたのはおまえだろうが!
六八九一、王国在住の現実を生きる小人さん(出張中
それはセンスがないおまえが悪いだろうが!
なんだよ曲がり角総当たりすればゴールできるって!
これだから……いや、なんでもない
六八九二、帝国在住の現実を生きる小人さん(出張中
あ?やんのか?
六八九三、連合国在住の現実を生きる小人さん(出張中
まあまあ、落ち着いて
とりあえず子狸さんを脱出させる?方法を考えようぜ
六八九四、帝国在住の現実を生きる小人さん(出張中
なに素知らぬ顔をしてんだ、おまえがこの迷路に自爆装置を
仕掛けていたのはお見通しだぞ
六八九五、かまくら在住のとるにたらない不定形生物さん
えぇ……?
迷路に自爆装置?
六八九六、樹海在住の今をときめく亡霊さん(出張中
この人たち、やたらと自爆装置付けたがるよね……
六八九七、連合国在住の現実を生きる小人さん(出張中
おれじゃねーよ!
ただ置く場所に困ってちょっと場所を借りてただけだ!
六八九八、王都在住のとるにたらない不定形生物さん(出張中
自白してんじゃねーか……
もうやだこの人たち……
*
子狸「ん?」
王都「お?どうしたの、子狸さん?」
そこには赤くて丸い、親指サイズの……こう、まるでボタンのような何かが壁にくっついていた。
さっきまでなかったはずだ……いや、なかっただろうか……ここまで目立つ色をしているのに気付かない訳がない。
ボタン?の周辺には小さく「ドロー・メロ」と書かれている。言葉にならない単語の羅列であるが、押したら碌なことにならないのは確かである。
子狸「……」
王都「……」
沈黙が流れた。先程こきゅーとすで自爆装置云々としゃべっていたこともあり、触れないのが吉だろうが
子狸「かそくするおれ……?」
王都「子狸さん、めっ!」
子狸さんが興味を持ったこともあり、さっさと進むことにする王都のひと。
……進むと言っても今歩いている道は繋がっているので、またこのボタン?のところに戻ってくるのだが。
子狸「力が欲しいか……?」
王都「はいはい進みましょうね……うん?」
するとなんということだろう、にわかには信じがたいが……押せと言わんばかりに張り出している赤いボタンが……身をすくめるように引っ込んでいくのだ!何もしていないのにも関わらず!
王都「なっ……!」
子狸「およ?」
すぐに身構える、小さいという割にでっかいののことを疑うわけじゃないが……何か言い知れぬ恐怖を感じる。
ボタンが発光する……はち切れんばかりのエネルギーを携え、今にも爆発しそうな形相だ!
勇者「何してるの……?」
王都「……!罠だっ!」
子狸「あっ、お嬢!おはざーっす」
勇者「おはよう」
突然勇者さんが入ってきた。何を隠そう、この迷路は勇者さんに少しでも体力をつけてもらうため、アリア家に無断で設置されたものなのだ。ただ、屋敷内に作ると流石に大きすぎて入らない為、大きな庭に試作的に作られたのだが……途中で目的が変わったことは言うまでもない。
こきゅーとすを覗いた彼女が文句を言う。
勇者「他人の家を何勝手に迷路にしようとしてるの?」
王都「いかん!時間がないっ!」
子狸「おはよざます……」
魔物たちが最も欲しかった言葉をかけてくれる勇者さん。一つ残念なのは、勇者さんがもっと早い段階で話しかけてくれる段取りであった。流石の魔物たちも、お天道様が真上を越えてオレンジ色になっている今頃になるとは誰も予想できなかった……
山腹「よっ!今どんな感じ?」
王都「はっ倒すぞ」
勇者さんの側近である山腹のひとは、勇者さんの所在を聞かれるたびに「いやー、忙しんだよね」とか「成せばなる!為さねばなさらざる!」とか適当なことを言ってはぐらかした罪がある。もちろん魔物たちも勇者さんが惰眠を貪っていたであろうことはわかっていたが……この時間になるまで起こさなかったのは意図的でないかと疑っている。
寝起きの勇者さんが言う。
勇者「なにこれ」
王都「そうだ!?早く脱出しなければ!」
子狸「なんぞ?」
山腹「まぶしっ……もう、光量抑えろよなー」
そして、今!
まばゆい限りの光っているボタンが!
閃光と共に爆は……
小人ズ「サプラ〜イズ!」
王都「……」
子狸「……」
勇者「……」
山腹「……」
世の中には、引っ込みがつかないことがある。
時間をかければかけるほど、ハードルが上がっていく。
ただ、その事実だけがまざまざと突きつけられるようだった。
〜fin〜