しいていうなら井戸端会議のそいつがおまえ 作:魔物になりたい
単発だと思ったか?(予定外)
ポンポコハウスにて。
子狸「カレーが食べたい」
ふとした瞬間にすれ違いは起きるものだ。例え何を成し遂げようとも、どれほどの力を持っていようとも、他人である限り逃れられない……それがバウマフ家の元管理人だったとしてもだ……
父狸「そうか、なら今日はカレーパンを焼こう」
子狸「うん? うん……」
巫女「あれ、珍しい。あなたが食事に注文をつけるなんて」
今は朝食の時間だ。席のひとつには食器が伏せられている。唐突に「明日の朝にお邪魔するわ」とか言って結局来なかったマンガン電池さんの分だ。おそらくまた惰眠を貪っているのだろう……山腹のひと曰く、「解決とは納得することだ……真実である必要はない」らしい。夜遅くまで魔法の練習をしていたと主張したいようだ。
子狸「カレーが食べたい」
巫女「いやさっき聞いたって」
骨「いや、待て!……何か重要な問題を見落としてないか?」
王都「雰囲気でしゃべるのやめろ」
今日は骨のひとも一緒だ。勇者さんが来ると聞いて、ウキウキで奥義「骨スパイラル」を伝授しようとやって来たのに、本人が居なかったのだ。
*
一六九、墓地在住の今をときめく骸骨さん(出張中
子狸かよ
一七〇、山腹巣穴在住のとるにたらない不定形生物さん(出張中
子狸じゃねーよ!
一七一、湖畔在住の今をときめくしかばねさん(出張中
いや、本人が返答できない時点でね……
一七二、王都在住のとるにたらない不定形生物さん
行くって言って来ないとこなんかそっくりじゃねーか
一七三、山腹巣穴在住のとるにたらない不定形生物さん(出張中
う、うるさい!
まだ本気を出す場面じゃない、それだけだ……
一七四、古代遺跡在住のごく平凡な巨人兵さん
だいぶ苦しくなって来たな、おまえ言い訳……
一七五、湖畔在住の今をときめくしかばねさん(出張中
いい加減認めたらどうなの?
一七六、墓地在住の今をときめく骸骨さん(出張中
認めるも何も本人に直す気が一切ないっていうね
一七七、山腹巣穴在住のとるにたらない不定形生物さん(出張中
ふん、おれは褒めて伸ばす方針なんだよ
一七八、住所不定のどこにでもいるようなてふてふさん(出張中
大丈夫?それ子狸さんと同じ道を辿ってない?
一七九、王都在住のとるにたらない不定形生物さん
おい!
子狸さんを昼まで布団で丸くなってるやつと同じ扱いにするんじゃない!
一八〇、湖畔在住の今をときめくしかばねさん(出張中
どうしてこうなっちゃったんだろうね……
*
父狸「息子よ、まさかと思うが……ご飯にかけて食べたいというんじゃないだろうな?」
巫女「え、どゆこと?普通そっちがスタンダードじゃないの?」
この元管理人は自分の息子に対して疑心暗鬼だ。以前息子がした「ごはん派である」というカミングアウトを機に、ねちっこく追求してくるようになった。パン屋の子はパン屋ということわざがある、いやないのだが、彼はよくそのことわざ的なものを口にする。
子狸「……方法ビジットが仇になったか?……仇にね」
父狸「くっ……」
巫女「はい?」
*
一八一、かつて管理人だったもの
おまえら、どう思う?
一八二、墓地在住の今をときめく骸骨さん(出張中
どうって言われても……
伝わり方が悪かったって意味じゃない?
一八三、管理人だよ
どう見えるかだ
一八四、住所不定のどこにでもいるようなてふてふさん(出張中
お前のことです
一八五、管理人だよ
何が言いたい……?
一八六、王都在住のとるにたらない不定形生物さん
子狸さん子狸さん
方法ビジットってなに?
一八七、管理人だよ
え、いや……
緑のひと?
一八八、火山在住のごく平凡な火トカゲさん
え、おれ!?
一八九、古代遺跡在住のごく平凡な巨人兵さん
何をしたんだ
言え!
一九〇、火山在住のごく平凡な火トカゲさん
何もしてないけど……
子狸さん、おれがどうしたの……?
一九一、管理人だよ
そう、八宝菜なんだ
一九二、古代遺跡在住のごく平凡な巨人兵さん
うん、あれだよ……
緑のは八方美人なとこがあるから
カレーもごはんとパンにいい顔するっていう、みたいな……?
一九三、王都在住のとるにたらない不定形生物
おまえ……
あまり適当なことを言うな
なんと安直な……
一九四、管理人だよ
そう、それ
カレーって何にでも合うよね
うどんとか
一九五、王都在住のとるにたらない不定形生物
だがわかりやすいと言うのはいいことだ
八方美人ね……カレーってどっちかっていうと浮気症じゃねーの?
一九六、住所不定のどこにでもいるようなてふてふさん(出張中
王都の……見苦しいぞ
一九七、腹巣穴在住のとるにたらない不定形生物さん(出張中
さあ!
おまえもこっちにくるんだ!
*
子狸「そう!浮気症〜……まるで父さんみたいだ」
巫女「え」
父狸「ちょっと待て」
母狸「……あなた?」
父狸「……誤解だ」
子狸さんは父であるマリ・バウマフに憧れている節がある。色んな魔法を自在に扱うその後ろ姿を見て、カレーの幻影を見てしまったのかもしれない。
父狸「そうだな、息子よ……何か他に言いたいことはあるか?」
子狸「……それがひとにものを頼む態度か?」
子狸さんの反骨心が光る。
父狸「なんだと……?」
母狸「あなた」
父狸「くそ、ここまでか……」
巫女「なんで?どうせまた何か勘違いしてるだけですよ」
ただ自分に正直になれば良かったから、言い訳する必要を感じなかった。おそらく茨の道であるだろう……だが、その道を突き進まなければ前に進めない……そんな選択を迫られるときがいつかきっとくる。それは今なのではないか。
例えこの腕が捥げようとも……三時間お説教コースに突入しそうでもだ。
父狸「だから進むべくパンを焼く……パン屋だからな」
王都「上手くねーよ」
子狸「父さん……?どこに行くの?」
父狸「しばらく、ベーカリーを空ける……」
子狸「え、カレーパン食べたかったのに……」
王都「結局カレーパンなのかよ……」
すれ違いは起きるもの。しかし表の裏は裏だが、裏の裏は表なのだ。会話がすれ違っていてもお互いが納得できていたのなら……それが真実である必要はないのではなかろうか。
子狸「方法ビジット……どういう意味なんだ?」
巫女「あなたが言い出したんでしょ」
子狸「いや……パンの妖精がおれに囁いた」
王都「!?」
骨「!?」
〜fin〜