封印から開放されたら十年経ってたんっスけど……   作:テケテケ

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ラスボス(父親)封印して帰ってきたらなんか10年経ってるし、アタシのこと嫌ってた同期に泣かれたんですが、これ一体どういう状況っスか?

 

「いやあ、此処は何時まで経っても草の1つも生えないねえ。本当にどうなってんの?」

 

「悟、いいから口じゃなくて手を動かしなよ。」

 

「わあってるよ。つうか、ここまで綺麗になってんなら別にいいだろ?相変わらずの真面目ちゃんかよ……傑。」

 

「おそらく硝子達だろう……10年間、毎年毎年真っ先に此処を掃除してくれるからね。」

 

そう言って私は、此処を掃除したであろう同期の女と後輩、そして彼を慕っていた自分達の教え子達の姿を思い浮かべる。

 

十年……彼が死んでから十年もの年月が過ぎた。その年月は、当時の私の考えが、どれだけ浅はかであったと痛感させるには十分過ぎる時間だった。

 

藍染喜助(あいぜんきすけ)……当時最悪の呪詛師と恐れられた男の一人息子であった私達の同期。

 

私達は、呪詛師の息子というだけで、彼を悪だと決めつけて、勝手に冷酷で非道な人間だと解釈して、彼を私達から遠ざけて……そしてその結果、彼を孤独へと追い込んだ。

 

私達は、ただ目を背けていただけだったんだ。

 

殺されたと思っていた理子ちゃんは、喜助が秘密裏に保護していた。死体の代わりに、彼が製作した「義骸」を使い、その死を隠蔽することで。灰原達の時だって、君は自分の身を顧みず、彼らの命を救ってくれた。悟への任務が僕へ割り振られた時だって、君はその任務の半分を肩代わりしてくれた。美々子と菜々子の時だって、君は私が暴走しない様に立ち回ってくれた。

 

私も悟も硝子も……気付かない所で、君に助けられていた。

 

そう……思い返してみれば、君が噂で聞くような人間で無いことなんて、すぐに分かった筈だったんだ。

 

本当の彼は、誰よりも優しく、聡明で、仲間を思う男だった……私は、私達は、何時だって気が付くのが遅すぎる。

 

『お前がっ!お前達が兄さんを殺したんだ!!兄さんを独りにしてっ!兄さんだけに責任を背負わせてっ!!返せよっ!兄さんをっ……私達の兄さんを返せよぉぉっ……!!』

 

『あいつは馬鹿な奴だよ。ガキのくせして、全ての責任を独りで抱えやがって……素直に助けてくれって、そう泣き喚けば、俺も手を貸してやったのによ……まあ、そう出来ねえようにした一端は、テメエらガキ共のちっぽけなくだらねえプライドのせいでもあるがな……ハッ!これじゃ、どっちが猿だか区別がつかねえな?』

 

私が猿と侮蔑する者達から投げ掛けられた言葉も、その時ばかりは言い返すことが出来なかった。私達が彼に行ってきた所業は、どうやっても消すことは出来ない……事実、彼は消えた。最悪の呪詛師と共に、自身諸共道連れにする形で、私達の目の前で、空間の割れ目へと姿を消した。

 

『もし、ボクがアナタの息子じゃなかったら……ボクも彼らと馬鹿やって笑い合えていたのかもしれませんね……』

 

あの時、最期にお前が呟いた言葉は、呪いとなって10年経った今でも忘れることが出来ない。

 

……なあ喜助、君が居なくなってから10年が経ったんだ。私達も大人になった。あの後、私達も色々と考えて、今は教師として教鞭をとっているんだ……意外だろう?全部君のおかげだよ。これから先、私達のような呪術師を出さない為に……今でも猿は嫌いだけど、それよりも優先させるべきことを見つけたんだ。

 

謝って許されることじゃ無いことなんて理解している。償いきれるような罪で無いことも理解している。でも……それでもやっぱり、こう思わずにはいられない。

 

「悟……あの時、私達が少しでも喜助を理解しようとしていれば、結果は変わったのかもしれないな。」

 

「…………そんなこと、10年経った今でも後悔してるよ。」

 

そう言って俯く悟の顔を見て、私の中で降り積もる後悔の念が更に嵩を増やす。

 

「すまない……不躾なことを言ったね。」

 

「気にすんな。これは俺達が一生掛けて償ってく罪だ……そろそろ帰るぞ。」

 

悟は一言そう言うと、踵を返し山を下り始めた。

 

「……そうだね。」

 

私もそう言って、悟の後を追って友の眠る墓に背を向けるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

パキンッ……

 

2人の去った山奥で、空間の割れる音が静かに鳴った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よっし、今日はここまでだな。」

 

そう言ってそそくさと帰り支度を始めた真希さんに、一緒に実技を受けていた釘崎が怪訝な目を向けた。

 

「ねえ伏黒、何か今日の真希さん変じゃない?」

 

「……そうか?そんなことねえだろ。」

 

「ん?伏黒、あんたもなんかおかしいわね?何かソワソワしてるっていうか。」

 

「…………別に、気の所為だろ。」

 

こいつ……変な所で鋭いな。そんなことを考えていると、真希さんが俺に向けて言葉を掛けてきた。

 

「おい恵、お前も来るんだろ?いつもの所で集合な。」

 

「タイミング悪いです真希さん……」

 

真希さんからの言葉に、一斉に俺に集まる視線……

 

「やめろ釘崎、そんな目で俺を見るな。別にお前達が思ってるようなものではない。断じてない。」

 

「まだ何も言ってないわよ?てか、あんたそんなに喋れるキャラじゃないでしょ……ますます怪しいわね。」

 

そう言って俺を睨む釘崎……本当にやめろ。別にそんなんじゃねえ。真希さんも、急ぐ理由は分かりますけど助けて下さいよ……

 

「ハア〜〜〜……分かったよ。分かったから、そんな目で見るな……お前も連れて行くから。」

 

「何よ、分かってるじゃない。」

 

真希さんと一緒にお出かけなんて、そんな羨ましいこと独り占めさせないわよ!

 

そう言って俺の背中を叩く釘崎だが、痛いから止めて欲しい。

 

「それで?結局伏黒は今日何処に行くつもりだったん?」

 

釘崎の言葉に辺りが静まり返る……狗巻先輩やパンダ先輩は理由を知っているから言い辛いんだろう。

 

俺はもう一度、大きなため息をついて、釘崎からの質問に答えた。

 

「俺の……俺と真希さん達の父さん……いや違うな。兄代わりの人が住んでいた家だよ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おい恵、何で野薔薇も一緒に来てんだ?」

 

「しょうがないでしょ……釘崎がどうしても行きたいって聞かなかったんですから。ていうか、釘崎の目の前で、真希さんがあんな発言するからこうなったんでしょ。どうにかして下さい。」

 

「チッ……まあいいか。別に減るもんじゃねえし。」

 

そう言いながら、ガシガシと頭を掻く真希さん。原因を作ったのは貴方でしょうが。まあ言わないが。

 

「ハイハーイ!私も真希さんのお兄さんに挨拶がしたいです!」

 

釘崎の言葉に、真希さんの顔に影が落ちた。

 

「えっ、ど、どうしたんですか真希さん……?」

 

「……釘崎、あのな」

 

「……恵、もしかして野薔薇に話してないのか?」

 

「すみません……言い訳にしかなりませんけど、俺も急いでたんで……」

 

「あのなぁ……悟じゃねえんだから、そこら辺は話しとけよ恵。」

 

「ぐっ……」

 

五条先生とだけは一緒にされたくは無いが、こればかりは俺が悪いから言い返せない。急いでいたのは事実だし、説明を怠っていたのも事実だ。だけどしょうがないじゃないか。最近は任務が忙しくて、中々寄れなかったんだ。

 

俺が苦い顔をしていると、おそらく察したんだろう。釘崎がオズオズと口を開いた。

 

「あ、あの〜……もしかしてだけど……伏黒と真希さんのお兄さんって……」

 

「……ああ」

 

「待て恵……私が話す。」

 

俺の言葉を遮り、真希さんが言葉を綴る。

 

「お前らの察した通りだ。私の兄貴は、世間一般でいうと「死んだ扱い」になってる。」

 

私の兄貴の話をしよう……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私が兄貴と出会ったのは、今から11年前……私が5歳の時だった。その頃から禪院家での私達の扱いは酷いもんだった。人権なんて知ったこっちゃねえ、文字通り人らしい扱いなんてされた試しが無かった……そう、初めて兄貴と会ったあの日も、私は使用人達から執拗ないじめを受けていた。

 

もしも地獄があるとすれば、今私が生きているこの世こそが正しく地獄だ。

 

もういっそ、死んでしまった方が楽何じゃないか。

 

そんな考えが頭を過ぎった時、

 

「お嬢さん、大丈夫っスか?」

 

私の前に兄貴は現れた。

 

ナチュラルな色の抜けた金髪に人の良さそうな笑みを浮かべた男は、慣れた様子で私に目線の高さを合わせるようにしゃがむと、慣れた手付きで私の怪我を処置し始めた。

 

「あ、あの……」

 

「ん?」

 

「あ……ありがとう……」

 

私がお礼を言うと、

 

「何、気にすることはないっスよ。アタシがキミの怪我を放っておけなかっただけですから。」

 

そう言って、うっすらと微笑んだ。

 

頬が熱くなるのを感じた。これまで誰かに優しく接されたことなんて無かったし、ああやって笑顔を向けられたことなんて、真依以外に見たことが無かった。それがどこかむず痒くて、でも嬉しくて……思わず笑みが溢れてしまった。だけど、そんな私を良く思わなかったんだろう。

 

「いけません喜助様っ!そのような出来損ないを相手にしては、貴方まで穢れてしまいます!!」

 

「そうですっ!其処にいる者は呪力も持たない猿なのですよ!!」

 

さっきまで暖かかった心が急激に冷めていく……別に猿とか落ちこぼれとか言われるのは慣れている。だけど、さっきまで私に優しく接してくれたこの人に嫌われてしまうことが怖くて、あの優しい眼が、彼奴等みたいな冷たい眼に変わってしまうのが怖くて……私は兄貴の顔が見れなくなった。

 

「この()が猿……」

 

地の底から響いている様な、低く冷たい声……ああやっぱりこいつも、この家の人間と同じなんだ。

 

「……一体、貴方達は何を言っているんだ?」

 

…………そう思っていた。

 

「ヒッ……!!?」

 

「おや、聞こえなかったですか?もう一度言ってくれないかと聞いたんですよ。」

 

ただ声を発しただけ……それだけの筈なのに、周りの空気が使用人達を押し潰さんばかりに重くなる。その言葉の対象で無い私ですら、一瞬息の仕方を忘れてしまう程の重圧だ。今矛先を向けられている当人は溜まったものじゃ無かっただろう。

 

「ボクの聞き間違えで無ければ、貴方方は今この娘のことを猿と……そう呼んだように聞こえましたが、なら今この状況で、少し圧を与えただけで無様な姿を晒している貴方方は、一体何ですか?」

 

「……よく聞け。この娘は猿などでは断じて無い。一人の意思を持った人間で、貴様らなど足元にも及ばない強さを持った一人の女性だ。貴様ら如きが見下せる様な者じゃない……よく覚えておけ。」

 

「ヒィッ!?すっ、すみませんでしたっ!!」

 

そう言って怯えながら使用人達は逃げ出した。その姿が見えなくなると、兄貴はふう……と息を吐き、再び私に顔を向けた。

 

「いやあ、すみませんね。怖がらせちゃいましたか?」

 

其処にさっきまで使用人達に向けていた威圧的な表情は無かった。ただただ私を心配している様にハの字に歪められた両眉の下、不安そうに揺れながらも慈愛にみちた瞳が其処にあった。

 

「なん……で……」

 

「ん?」

 

「何で……私を助けたんだよ……」

 

「………」

 

「あいつらの言う通り、私には呪力も無けりゃ、呪霊すらも見えねえんだぞ……」

 

これまで溜め込んだ弱音がポツリと溢れる。自分で言っておいて虚しくなった……どうせ私は落ちこぼれだと、猿なのだと……私自身が認めてしまった様な気がした。

 

「アタシはそうは思わないっスけどね。」

 

だけど、兄貴は私の言葉を真っ向から否定した。

 

「…………え?」

 

「お嬢さん、名前は?」

 

「えっと……ま、真希……」

 

「真希さん……良い名前っスね。それでね真希さん、ボクが思うに、真希さんのそれは天与呪縛じゃないっスか?」

 

「……うん。」

 

天与呪縛「フィジカルギフテッド」、並外れた身体能力の代わりに、呪力が無い。そのことを兄貴に話すと、兄貴は「やっぱりか。」と、一つ大きなため息を吐いた。

 

「何だよ……やっぱりあんたも、私のことを猿って思うのかよ。」

 

「な〜んでそうなるっスか……真希さん、アナタのそれ、はっきり言うと天賦の才ですよ。」

 

「…………え?」

 

想像しない返答に、私は思わず固まった。この男は今、何て言った?天賦の才?呪力も無く、呪霊すらも見えない、こんな天与呪縛が?

 

「真希さん、呪術師として求められる能力は何か分かります?」

 

「えっと……それは」

 

「呪霊を祓える力っス。」

 

「っ……!」

 

そんなことは解ってる。だから呪霊の見えない私は、その能力すら無いということを、こいつは解っているのか。私は目の前の男を睨みつけた。

 

「そんなに見つめないで下さいよ。恐らく真希さんは、呪霊が見えないから、それすらも出来ないって言いたいんでしょう?」

 

「アタシが言いたいのは、そこじゃ無いっス。」

 

「寧ろその逆。真希さんは、他の人達と比べて前の方でスタート出来るって思ってるんスよ。」

 

「…………は?」

 

「呪霊が見えない?呪力が無いから呪霊を祓えない?そんなもの、呪具を使えばどうとでもなるっス。それこそ、呪力や術式を持っていても呪霊を祓えない術師なんてのもごまんといます。」

 

「それにね真希さん、アタシは以前、真希さんと同じ天与呪縛を持った方と一度、戦ったことがあるんス。」

 

「!?」

 

「その方は、呪力も術式が無いからこその闘い方で、そしてその刃は最強すらも一度殺してみせました……敵だったんですが、彼の強さには憧れました。だから真希さん、アナタは強くなれる。最強にも届き得る刃にもなれた彼と、同じ才能を持った真希さんなら、大切なものを護りたいと思う心を持っている真希さんなら……」

 

兄貴の言葉に、私は大きく目を見開いた……天賦の才だなんて、強くなれるなんて、生まれて初めて言われた言葉だった。

 

「真希さん……?」

 

「ぐすっ……」

 

「!!?!?」

 

「うっ……ひぐっ……ぐすっ……うええ……」

 

「うわあっ!?真希さんっ!?泣いてるんスか!!?アタシ何か気に障ること言ったっスか!?」

 

「ちっ、ぢがう〜〜っ……!!」

 

違う……そうじゃ無いんだ……嬉しかったんだ……その言葉一つ一つが、私という存在を肯定してくれるもので……それはまるで、私に生きてても良いって言ってくれているようで……

 

「ひぐっ……うわああああああんっ!!」

 

私は、目から溢れ出した涙を、止めることが出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「落ち着いたっスか真希さん?」

 

「ぐずっ……うん。」

 

一通り泣いた後、私は兄貴に抱き着いていた。兄貴が私の背中をポンポンと叩くのが心地良くて、かなり恥ずかしかったけど、そんな羞恥心よりも心地良さを優先した。

 

「いや〜、それにしても嬉しいっスね〜。」

 

「…………何がだよ。」

 

「初対面の子に、ここまで懐かれたことがっスよ。アタシって良く胡散臭いとか言われて警戒されちゃいますから。」

 

「ああ、確かに。」

 

「ちょっ!酷いっスよ真希さん!」

 

「プッ!冗談だよ。」

 

思わず吹き出してしまう。心から笑ったのなんて何時振りだろう。気が付けば私は、兄貴のことを心の底から信用していた。

 

「…………ねえ真希さん?」

 

「ん?何だよ?」

 

「真希さんは、この家から出て行きたいとか思わないっスか?」

 

「!?」

 

兄貴からの突然の言葉に、私は目を見開いた……そんなの

 

「出て行きたいに……決まってるだろ。」

 

私達のことを、両親でもすらも人とも思わない……毎日毎日息が詰って、息の仕方すらも忘れてしまう。頼れる人ら真依以外いなくて、生きた心地なんてこれっぽっちもしない。

 

「こんな家なんて……大っ嫌いだっ……!!」

 

「……うん、そうっスよね。」

 

兄貴はそう言って私の頭を優しく撫でながら、そのまま話を続けた。

 

「真希さん……真希さんさえ良ければなんですが、アタシの所へ来るつもりはありませんか?」

 

「……え?」

 

「勿論っ!真希さんのことが心配で、其処でアタシを監視している妹さんも一緒ですよ〜。」

 

「えっ!まっ真依っ!?」

 

「お姉ちゃんっ!!」

 

何時から居たのだろう、廊下の角からオズオズと顔を覗かせていた真依が私に向かって一直線に抱き着いてきた。

 

「ごめんなさいっ!お姉ちゃんごめんなさいっ!!私っ……私っ……!!」

 

おそらく真依が謝っているのは、使用人達に虐められていた私を助けられなかったことだろう。別に謝る必要なんて無いのに……

 

「良いんだよ真依。心配してくれてありがとな。」

 

私はそう言って真依の頭を撫でた。本当に、真依が無事で良かった……

 

「いや〜、美しき姉妹愛っスね〜。」

 

「うん、私の自慢の妹だ……ええと。」

 

「喜助っス。藍染喜助。出来れば下の名前で呼んで欲しいっス。」

 

「そっか……なあ喜助さん。」

 

「なんですか?」

 

「アンタの所に行ったら、私達は幸せになれるのか?」

 

私からの問いに、兄貴の表情が真剣味を帯びる。

 

「それは真希さんと真依さん次第っス。でも、少なくとも、こんな家の人達よりかは幸せに出来ると思います。」

 

「そっか……それじゃあもう一つ質問させてくれ。アンタの所へ行ったら、私は……強くなれるのか?」

 

「ええ、それは保証します。それにアタシ、真希さんにぴったりの先生を知ってますからね。」

 

そう言い切った兄貴の目に嘘は無かった……そっか。なら私の答えは決まってる。

 

「喜助さん、私達をアンタの所に連れてってくれ……私達を、この家から連れ出してくれ。」

 

私の言葉に満足したのか、兄貴は嬉しそうに笑って

 

「もちろんっス!!」

 

そう言って私達を抱き締めた……それが、私と兄貴が出会った時の話……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それから兄貴に連れ出されてから、兄貴や恵の親父に扱かれて、今の私があるんだよ。」

 

「…………真希さんにも、そんな過去があったんだ。」

 

「まあな。」

 

釘崎の顔色が優れない。それもそうだろう……俺だって、真希さんと初めて会った時には、そんな過去があるなんて知らなかった。だって、初めて会った時の真希さんと真依さんは、そんな過去があるなんて思わないくらい……

 

「あの……すんません真希さん……」

 

「あ?何だよ野薔薇。」

 

「真希さんは……その、喜助さんに連れ出せて貰って、幸せだったんですか……?」

 

「は〜〜〜?お前今の話聞いて分かんなかったのか?」

 

真希さんは、釘崎からの問いに、呆れながらも笑顔で答えた。

 

「そんなもん……幸せだったに決まってんだろ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ああ、そうさ……幸せだった(・・・)んだよ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『真希さん真依さん、今日は何処に行きましょっか?』

 

『『遊園地っ!!』』

 

『おっ、意見が揃ったっスね。それじゃあ今日は遊園地に行きましょうか。』

 

『『やったー!!』』

 

何時でも私達のことを最優先に考えてくれた。

 

 

『重心の移動が遅いっ!そんなんじゃすぐに殺られますよっ!!』

 

『分かってるよっ……!』

 

修行の時には厳しかったけど、その後にはアイスなんか買ってくれたりもした……

 

 

『真希さん、これあげるっス。』

 

『何だこのダセえ眼鏡?』

 

『酷いっ!?アタシの自信作なのに!!』

 

『はあ?このダサい眼鏡が?』

 

『泣くっスよ?まあいいか。取り敢えず着けて見て下さい。』

 

『たくっ、分かったよ……てこれ。』

 

『名付けて呪霊ガミエ〜ル君です!どうっスか?見えるようになりました?』

 

『見た目だけじゃなくて名前もダセえのかよ……まあ見えるけど……』

 

『それは良かったっス!』

 

『…………ありがとな。兄貴。』

 

『えっ!?今真希さんなんて言ったっスか!?』

 

『うっせバーカバーカ!!』

 

本当に幸せな毎日だった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ああ、本当に……幸せだったんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『え…………兄貴が……死んだ……?』

 

あんなことが……起こるまでは……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

場面は変わり里桜高校……母を喪い復讐に取り憑かれた少年こと吉野順平、そしてその復讐を止める為に対峙していた虎杖悠仁は窮地に追い込まれていた。

 

馬鹿か俺は!!継ぎ接ぎ顔の人型呪霊!!ナナミンが言ってたまんまじゃねえか!!

 

巨大な腕に取り押さえられ、身動きの取れなくなった虎杖、そしてその目の前で呆然としている順平に、一体の呪霊が静かに歩み寄る。

 

虎杖悠仁は知っている。呪霊の狡猾さを、残忍さを……

 

「逃げろ順平!!コイツとどんな関係かは知らん!!けど今は逃げてくれ!!頼む!!」

 

虎杖の慟哭にも似た叫びに、順平は困惑した。吉野順平にとって、この呪霊「真人」は、自身に呪術を教えてくれた師匠であり、自身の理解者足り得る存在。悪い人な訳が……

 

「順平はさ、まあ頭良いんだろうね。」

 

その時、順平の肩に真人が触れる。身体に触れられることなんて、指導を受けていた頃からよくされている……何てこと無い行動。ただ、この瞬間だけは、真人のこの行動に順平は酷い嫌悪感に駆られた。

 

「でも熟慮は時に短慮以上の愚行を招くものさ。君ってその典型!!」

 

身体が……動かない。

 

「順平って、君が馬鹿にしてる人間の……その次くらいに馬鹿だから。」

 

何で……どうして……そんな疑問と絶望が、頭の中を埋め尽くす。味方だと思っていた。初めて出来た理解者だと思っていた……裏切り、蔑まれ続けた人生で、母以外に初めて出来た心を許せる人だと思っていたのに……

 

「だから……死ぬんだよ。」

 

ああ……僕は結局、裏切られ続ける運命だったのか……我ながら、クソみたいな人生だ……

 

その時だった。

 

「剃刀紅姫」

 

順平と真人の間に衝撃が走り、真人の腕が両断された。

 

「なっ!?」

 

「うわあっ!!?」

 

「順平っ!!」

 

拘束が解かれた虎杖が順平に駆け寄り、斬撃が放たれたの方向に目を向けた。土煙のせいで冴えない視界の先から、カランカランと床を軽く叩く様な音と共に、気配が近付いてくる。虎杖は直ぐ様、順平を自分の背後に隠した。

 

「アンタ誰だ。」

 

虎杖の問い掛けに答える様に、土煙がサアッと晴れる。其処に現れたのは、色の抜けたボサボサの金髪に、片手に杖、下駄に甚平という、パッと見た感じだとだらしの無さそうな格好をした男だった。

 

「見た所高専生ですかね?そんなに警戒しなくても、アタシはキミの味方っスよ。」

 

男はそう答えるが、虎杖はそれでも警戒を解くことなく眼前の男を睨みつける。虎杖悠仁はこれまで、実戦経験こそ少ないながらも特級に位置づけられる呪霊を4体見てきた。それに自身を指導している人間も、自他共に認める呪術界最強「五条悟」に、その相棒である「夏油傑」、そして現在任務を同行させてもらっている「七海健人」に「灰原雄」……

 

惨忍な猛者に命を狙われ、優秀な猛者に指導を受け鍛えられた虎杖悠仁だからこそ分かる。

 

この男は猛者である。恐らく、この場に居る誰よりも……と。

 

「順平を助けてくれたのは感謝してる。ありがとう。でも、急に出て来た奴に味方って言われて、はいそうですかって言える程、俺も馬鹿じゃねえよ。」

 

「あ〜……確かにその通りっス。う〜ん、どうすれば信用して頂けますかねえ……あっ、そうだそうだ。」

 

男は何を考えたのか、懐をゴソゴソと漁り出すと、そこから一枚のカードを取り出した。

 

「取り敢えず、自己紹介はこちらでお願いします。」

 

「えっ、あ……どうも。」

 

虎杖がカードに目を移す。それは自分もよく知っているものだった。

 

「これ……高専の学生証……」

 

其処に載っていたのは、その男の顔写真と名前……そしてもう一つの情報、それに虎杖は目を見開いた。

 

「とっ、特級っ!?」

 

「ええ、まあ不相応とは思ってますが……一応特級呪術師やらせてもらってるっス。」

 

「うわわ!!ごっごめんなさーーーい!!」

 

それはそれは綺麗なお辞儀……それもそうだろう。さっきまで敵意抜き出しで対峙していた男が、まさか高専の先輩で、更に等級も特級と来たもんだ。そこに胡散臭いだのだらし無いだの勝手に思ってしまった。あまりに無礼過ぎる行為。罪悪感が半端ない……穴があったら入りたい……というか掘るか。

 

そんなことを考えながら、自身のフィジカルを無駄遣いしようとしている虎杖を、順平の問いが正気に戻した。

 

「悠仁、特級って?」

 

「スゴクツヨイヒト……」

 

「そ、そっか……というか何で悠仁はカタコトなの?」

 

「いや……さっきまでの自分に対する罪悪感が凄くて。」

 

「別に大丈夫っスよ〜。胡散臭いだのなんだの言われるのは慣れていますからね〜。」

 

「いやほんっとスンマセン……」

 

男……藍染喜助の気遣いが心を抉る。まあ当の本人は気遣いでも何でも無く、この状況が面白かったから誂っているだけだ。やはり特級、こいつも例に漏れずクズである。

 

先程までとは打って変わり、カオスと化した空間……しかし虎杖は忘れていた。さっきまで自身が対峙していた呪霊の存在を。

 

「クッ!ククッ!!まさか特級呪術師が来るなんて……俺はツイてるなっ!!」

 

「っ!?しまっ!!」

 

真人の刃物に変形した腕が虎杖へ迫る。突然のことに、流石の虎杖も反応が遅れてしまった。真人の腕が虎杖の腹部に迫る……間に合わない。虎杖は目を瞑った。その時だった。

 

「不意打ちとは物騒っスねえ……まあ、ボクも人のこと言えませんが。」

 

其処には先程まで自身の背後に立っていた喜助が、真人の腕を杖で受け止めていた。

 

「ツイてる……なんて言いながら、迷いなく彼を攻撃するんっスねえアナタ。」

 

「卑怯だと思うかい?」

 

「いいえ?弱い者から狙うのは闘いの定石です。ボクだってそうする。」

 

弱い者……その言葉に虎杖は苦い顔をする。自分が弱いことなんて、分かっていたつもりだったが、こうもバッサリ言われるとやはり辛い。

 

「へえ?君は人間にしては気が合いそうだ。」

 

喜助の言葉に満足したのか、真人はニタリと笑みを深める。

 

「フフッ……特級呪術師っていうのは、どのくらい強いのかな?」

 

真人は力強く踏み込み、喜助へと間合いを詰める……そして、喜助の腹部へと手を伸ばした。

 

「藍染さんっ!!」

 

虎杖は叫ぶ。真人に触れられるということが、一体どういうことなのかを知っているからだ。しかし、そんな悠仁に喜助は笑顔で答える。

 

「大丈夫ですよ悠仁さん。」

 

真人の手が、喜助の腹部に触れた。

 

「さて、君の魂は一体どんな形をしているのかな?」

 

「無為転変」

 

真人は惨忍に笑った……以前の七三呪術師との戦闘から学び、打ち込む呪力の量を増やした。これを喰らって無事に済む人間はいない……そう思っていた。

 

「…………何だ、コレ?」

 

「ね?だから言ったでしょう?大丈夫だって……さて、次はこちらの番です。」

 

目の前の男は、そう平然と言い放つと、片手に持った杖を真人に叩き付け、校外へと弾き飛ばした。

 

「えっ……?えっ?」

 

「ほら、悠仁さんもボーッとしないで!ラウンド2っスよ。」

 

「!!うっ、うすっ!!」

 

喜助からの言葉に、虎杖は急いで下へと飛び降りた。喜助はそれを見送ると、これまで呆然としていた順平に話しかけた。

 

「ああそれと順平さん……でしたか?」

 

「えっ……はい。」

 

「アナタのお母様は、生きてますよ。」

 

「……………え?」

 

「まあ、この話は後でっス。それじゃ!!」

 

「えっ!?ちょっまっ……!!」

 

喜助は言いたいことだけ言って、虎杖の後を追い、運動場へと飛び降りた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

運動場へ飛び降りた虎杖は、直ぐ様真人を祓うべく駆け出した。だがしかし、やはり特級呪霊……虎杖相手では祓い切れない……真人の攻撃が再び虎杖に迫る。しかし、これもまた新たに駆けつけた助っ人に阻まれた。

 

「大丈夫ですか虎杖君。」

 

「ナナミン!!」

 

「説教は後で、無事で何よりです。現状報告を。」

 

「あ、うん。無傷なのは、ナナミンの他に助けに来てくれた人のおかげなんだけどね。」

 

「助けに来てくれた人?」

 

「あれ?ナナミン知らないの?その人特級みたいだけど。」

 

「……?五条さんか夏油さんが来たのですか?」

 

「違う違う。確か藍染って人だけど。」

 

「……何?」

 

虎杖の言葉に、七海は目を見開いた。

 

「この状況で、その冗談は笑えませんよ虎杖君。」

 

「いやマジだって!ほらコレッ!!」

 

虎杖はそう言って、先程渡された学生証を七海に見せた。

 

「……これは。」

 

学生証を渡された七海は、あり得ないようなものを見るような目でそれを見つめた。

 

「虎杖君……これを何処で……」

 

「だーかーらーっ!!」

 

「アタシが渡したんスよ。」

 

「「っ!?」」

 

背後からの声に、二人は一斉に振り向いた。其処に現れた喜助に向かって、虎杖は駆け寄り、七海は信じられないと言った表情をしている。

 

「貴方は……」

 

「なあ聞いてくれよ藍染さん!ナナミンってば酷くね!?証拠まで見せたのに疑ってくんの!!」

 

「ナナミン……?」

 

虎杖の言葉に、今度は喜助が目を見開いた。喜助はその見開いた目を七海の方へ向けると、恐る恐る問い掛けた。

 

「もしかして……建人さん……っスか?」

 

「藍染……先輩……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私は人生において、悔やんでも悔やみきれない後悔がある……それは、私にとって唯一、信用も信頼も尊敬もしていた先輩のことだ。

 

藍染喜助……それがその先輩の名前だ。禪院家の分家である藍染家の当主であり、呪術界を震撼させた最悪の呪詛師の息子……高専に入った当初に聞いた情報はこんなもので、当然最初の評価は最悪だった。

 

『アナタ方が新入生ッスか?』

 

そう言って私達の前に現れた先輩は、髪もボサボサで眼の下にも隈を浮かべており見窄らしい。口調もおちゃらけており、何処か胡散臭い……はっきり言って、第一印象は最悪だった。

 

五条さんや夏油さんからも話をされたが、藍染先輩はいつも単独で任務を熟しているという。協調性に欠け、自己中心的、やはり蛙の子は蛙だと、五条さん達は言っていた……前者二つは、貴方達が言うかと思ったが、あのクズ二人がここまで言う程のクズ……私の藍染先輩に対する評価は更に悪くなった。

 

だが、人からの話を真に受けて、藍染先輩という一人の人間と向き合わなかったあの頃の私は、余りにも子供過ぎたと思い知らされた。

 

それから一年後……私は一緒に任務を受けていた灰原と共に、命の危機に陥った。

 

「クソッ……!これのどこが二級案件だっ……こいつは土地神っ、どう考えても一級案件だっ……!!」

 

恐らくは上層部の五条さんに対する嫌がらせだろう。私達が受けた任務は、明らかに等級違いのものだった。

 

「ハア……ハアッ……!!七海、此処は僕が食い止めるっ!七海はその内に先輩達に連絡をっ……!!」

 

「馬鹿を言うな灰原っ!!そんなことをしたらお前がっ!!」

 

灰原は自分を犠牲に私を逃がそうとするが、冗談じゃない。こんなくだらない理由で同期を死なせてたまるか。私は灰原の隣に立ち灘を構える。そんな私達が面白いのか、目の前の呪霊は不気味な笑い声をあげ、その腕を振り下ろした。

 

「クソッ……!!」

 

速い……反応が出来ない……死ぬ。そんな考えが頭を過ぎった瞬間だった。

 

「啼け 紅姫」

 

その人は颯爽と現れた。

 

「藍染……先輩……」

 

「すみません……遅れてしまいました。よく耐えてくれましたね……後はアタシに任せてください。」

 

先輩達の中でも、一番来ることの無いだろうと高を括っていた先輩の登場に、私は目を見開いた。

 

「な、何故……」

 

私達を助けに来てくれたのか……これまで先輩を侮辱してきた私達を……とそう言おうとした私の言葉を先輩が遮る。

 

「何故かって……それは当然でしょう?アナタ達はアタシの大切な後輩なんですから。」

 

先輩の返答に、私は更に驚いた。大切な後輩だって?噂のみで先輩を最低な人間だと決めつけていた私達を?だが先輩の私達に向ける眼は、嘘偽りの無いもので、それに先輩は本心で言っているものだと確信した。

 

「さて、それじゃあ建人さんに雄さん。少し下がってくれますか?直ぐに終わらせますんで。」

 

先輩は、それだけ言うと呪霊の方へ向き直った。

 

「そういうことっス。ちゃっちゃと終わらせて貰いますよ。」

 

「縛道の六十一 六杖光牢」

 

先輩がそう唱えた瞬間、呪霊が六本の光の板で挟まれ動きを止める。すると先輩はすかさず呪霊に向かい掌を向けた。

 

「アタシの術式は鬼道、簡単に言うと呪力を攻撃と防御、拘束に使うことができます。破道で攻撃、縛道で防御や拘束を行います。更に言うと、この破道・縛道には決められた詠唱があり、述式の発動の際に詠唱を行うことで述式を強化することができます。」

 

「さて、術式の開示も済みましたし、そろそろ終わりにさせてもらいます。」

 

「散在する獣の骨 尖塔・紅晶・鋼鉄の車輪 

動けば風 止まれば空 槍打つ音色が虚城に満ちる」

 

「破道の六十三 雷吼炮!!」

 

先輩が詠唱を唱え終わった瞬間、先輩から放たれた雷を纏った衝撃波。それは容赦なく呪霊を包み込むと、辺りの木々諸共呪霊は跡形も無く消し飛んだ。その光景に、思わず私は息を呑む。

 

「これが……特級呪術師……」

 

「す、凄い……」

 

五条さんや夏油さんもそうだが、私達と特級を冠する人達の実力はこうも離れているのかと、呆然としてしまう。

 

そんなことを考えていると、先輩は私達の元へゆっくりと歩み寄ると、目線を合わせるように私達の前で膝をついた。

 

「お待たせしました。さて、傷を治しましょうか。」

 

先輩はそう言って、私達の傷口に手を添える。

 

「これは……反転術式……」

 

「先輩って、反転術式も使えるんですね……」

 

「はい。アタシ達呪術師は、いつ死ぬか分かりませんからね。万一の場合に備えて身に付けた能力ですが、今日初めて人に使いましたが、成功したみたいで良かったです。」

 

初めて……そう言った先輩の表情には、微かながら悲しみの念が読み取れたが、今の私はそれを気にする余裕は無かった。

 

目の前で見せられた圧倒的な戦闘力の差、今されている反転術式……攻防共に抜け目ない先輩のそれに、最近最強に至った五条さんのことを思い出した私は、空を仰ぎ大きく息を吐いた。

 

「……もう、貴方と五条さんの二人だけで良くないですか?」

 

「七海……」

 

思わず出て来た言葉に、私はハッとなって口を塞いだ。藍染先輩も、今の言葉に驚いたのか、少し目を見開いている。

 

違うだろ。私が今言わなければいけないことは、それじゃないだろ。

 

「す、すみません……」

 

私の謝罪に、先輩は怒るわけでもなく、笑みを浮かべた。

 

「謝らないでください。先程の呪霊を見て分かります。恐らくは等級違いの任務を当てられたんっスよね?一応聞いておきますが、自ら志願したんですか?」

 

私は静かに首を振ると、先輩は「そうっスか。」と怒気を含んだ声で呟いた。

 

「それで建人さん、先程アナタが仰ったことですが、アタシはそうではない……と思います。」

 

「……それは何故」

 

「アタシ達呪術師は、呪霊を祓い非術師を護ることを生業にしてます。それは、分かりますね?」

 

「……はい。」

 

「アタシも五条さんも特級です。アナタ方の祓えない呪霊も祓えるでしょう。」

 

「っ!!」

 

先輩の言葉に苛立ちが募る。この人は先程言ったことを聞いていたのか?だから私は言っているのだろう。貴方達だけで良い……と。

 

「嫌味……ですか?」

 

「いいえ、アタシは事実を言ったまでです。」

 

「だったら!!」

 

「ですが、アタシと五条さんだけじゃ、救える命に限りがあります。」

 

「!?」

 

「呪霊は、強いものを祓っただけじゃ終わりません。どっちかと言うと、今現在起こっている怪奇事件による行方不明者や死傷者の殆どは、等級の低い呪霊によるものが殆どです。だからアタシは、建人さんや雄さんには感謝してるんっスよ?アタシだけじゃ救えなかった命を護ってくれてるんですから。」

 

「…………」

 

この時の私は恐らく、信じられないものを見るような目で先輩を見ていたと思う。だって、その先輩の姿や言動は、噂で聞いていた姿とは正反対だったから。

 

帰り際、「このことは他言無用でお願いします。」と言い残し、私達の前から姿を消した先輩が居た場所を見つめながら、灰原は私に話し掛けた。

 

「ねえ七海……藍染先輩って、僕達が思ってた人と全然違ったね。」

 

「……ああ。」

 

「ねえ七海、結局藍染先輩って、噂通りの人なのかな……」

 

「…………そんなの決まってる。」

 

「私達が今見た先輩が、本当の先輩だろ……」

 

「……うん、僕もそう思うよ。」

 

私達は会話を切り上げると、高専へ帰るべく帰路についた。

 

その日を境に、私と灰原の先輩との交流が増えた。その中で分かったことは、噂で聞く先輩と、実際の先輩は全くの別人だと言うことだ。確かに軽口は多いが、その軽口の裏ではいつも、私達の安否を気遣い、仲間を大切に思っているということが分かる。

 

実際、先輩は最近任務の増えた夏油さんの任務を、本人には内密で肩代わりしているし、家入さんに対しても、大量に運ばれて来た患者の半分を先輩が治療している。

 

……まあ、本人達は全く気が付いて無かったが。先輩を見ていると、一体いつ寝ているのか疑ってしまうくらいには多忙な毎日だ。私達を助けた時の見窄らしい姿も頷ける。

 

そして私が驚いたのは、あの噂を先輩が全く否定しないことだ。本人からすれば、事実とは正反対の噂を流されて溜まったものじゃ無いだろうに、先輩は何故かそれを否定しない。

 

私は一度、何故否定しないのか、こんな噂を流されて悔しく無いのか聞いたことがある。それに対し先輩は

 

「アタシには、絶対に殺さなきゃいけない人がいます。ソイツを倒すためには、仲間を作るわけにはいかないんですよ。だからアタシにとって、この噂は丁度いいんですよ。」

 

そう言って笑っていた。その言葉には、先輩の覚悟が詰まっていた。

 

恐らく先輩の言っている人物は、先輩の父親のことだろう……そして私はその時理解した。

 

この人は死ぬつもりなのだと……

 

最悪の呪詛師と呼ばれた先輩の父親……その人物を殺す為に、先輩は人との繋がる術を捨てた。ありのままの先輩を知れば、きっと五条さん達も絆されていた筈なのに……呪詛師に堕ちた父親のせいで、先輩は与えられた筈の未来を全てかなぐり捨てている。

 

そしてそれは、私の力ではどうすることも出来ないことなのだと……握りしめた拳に力が籠もる。

 

だが……一つの巨悪を祓う為に、己の全てを投げ捨ててでも抗うその姿は、間違い無く呪術師の鏡であり、その姿に私は憧れてしまった。

 

「藍染先輩……私は、先輩には死んで欲しくありません……」

 

私の言葉に、先輩は困った様に笑った。

 

死んで欲しく無い……先輩も灰原も、この腐った呪術界では絶滅危惧種の様な人種で、そんな人が死ぬのなんて耐えられないんです。

 

その日から藍染先輩は、私にとっての目標となり、唯一信用も信頼も尊敬もしていた先輩となっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だが私は忘れていたんだ……この腐った世界では、善人から直ぐに死んで行く……と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その日先輩は、夏油さんと合同任務に就いていた。出発前の夏油さんの凄く嫌そうな顔を見て、本当の先輩を知らないくせにと苛つき、怒鳴りそうになったが、藍染先輩に止められて何も言えなかった……

 

今思えば、あの時先輩を振り切ってでも、先輩の本質を皆に伝えていれば、あのようなことが起こることは無かったと思う。

 

……それが、先輩の覚悟を否定することになったとしても。

 

任務自体は直ぐに終わったのだろう。その日の夕暮れには先輩達を載せている車が高専前に停まっていた……其処には珍しく眠っている夏油さんと、恐らく任務先から連れ帰って来たのだろう、夏油さんと同じく眠っている幼い女の子二人が乗っていた。

 

だが、其処に藍染先輩の姿は無かった。

 

それに焦った私は、呑気に寝こけている夏油さんを叩き起こし、藍染先輩の所在を聞くべく詰め寄った。

 

「夏油さんっ!先輩はっ、藍染先輩は一体何処にっ!!」

 

「うん……?どうしたんだい七海?そんなに慌てて君らしくない。」

 

「今はそんなことどうでもいい!!私は先輩が何処に行ったのか聞いているんです!!」

 

「途中までは一緒に居たんだけど、車に乗っている最中に寝てしまってね……すまないが分からないんだ。」

 

「チッ……!!」

 

特級である夏油さんが、任務帰りだとしても途中で寝るのなんてあり得ない……恐らくは藍染先輩が何かしたのだろう。途轍もなく嫌な予感がする。

 

「しかし七海、別に良いんじゃないか?」

 

「……は?」

 

夏油さんの言葉に、思わず声が低くなる。

 

「彼の単独行動は、別に今に始まったことじゃないだろう?自己中心的な男さ。勝手に何処かに行ったのだって、特に理由も無いだろう。」

 

この人は、一体何を言っているんだ?先輩が自己中心的?違うだろ。何で私よりも先輩と居た時間の長い貴方達が、こんなにも先輩のことを知ろうとしないんだ。私は怒りで目の前が真っ赤に染まった。

 

「貴方はっ!!」

 

私が先輩に掴み掛かろうとすると、高専から夜蛾先生が駆け出して来た。

 

「傑っ!喜助はどうしたっ!!」

 

夜蛾先生はそう叫ぶと、夏油さんの肩を掴んだ。

 

「ど、どしたんですか先生?彼は高専へ帰る途中で、何処かに行ってしまったようですが……」

 

夏油さんがそう言うと、先生の顔から一気に血の気が引いた。

 

「いいかお前達、落ち着いて聞いて欲しい……」

 

夜蛾先生が口を開く……嫌な予感が脳を過る。まさか……

 

「喜助が……藍染惣右介と今、戦っている。」

 

その言葉を、私は信じたく無かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

急いで現場に駆け付けた時には、もう其処には既に絶望が広がっていた。辺りに飛び散った血痕……そして、水溜りかと錯覚してしまうくらいに流れ出た血の中心で、刀を貫かれた先輩……そしてその刀の持ち主であろう呪詛師の姿が其処にあった。

 

「「先輩っ!!」」

 

私と灰原は叫び、急いで先輩の元へ駆け出そうとしたが、それを夜蛾先生に阻まれた。

 

「退いて下さい先生っ!このままだと先輩がっ!!」

 

「駄目だっ!あいつは……惣右介はここに居る誰も手に負える相手じゃない!!」

 

「それでもっ!先輩は僕達の命の恩人なんですっ!!」

 

「待ってくれ灰原、一体どういうことだい?君達の命の恩人って……」

 

「その話は後にして下さいっ!!」

 

夏油さんが灰原に事情を聞こうとしたが、今はそんなことどうでもいい。そんなよりも先輩だ。刀に刺された先輩はピクリとも動かず、生きているのかも死んでいるのかも分からない……

 

「お願いします夜蛾先生っ!!」

 

「…………」

 

「どうして行かせてくれないんですか!!もしかして貴方もっ!先輩の噂を鵜呑みにしているのですか!!」

 

私の言葉に、灰原を除いた全員が、背後で息を飲みのが分かる……その事実に、思わず握る拳に力が籠もり、爪が皮膚を突き破り血が流れる。

 

「何故ですっ!貴方も仮にも教員でしょう!?そんな貴方がっ!「そんな訳無いだろうっ!!」っ……!!」

 

「あいつの非ぬ噂が流れていたのも知っていた!!勿論、止めようともしたっ!!……だが、あいつが言ったんだ。やめてくれ……とな。」

 

「藍染惣右介の術式は俺もよく知っている……「鏡花水月」、術式の発動を相手に視認させることで、相手の五感全てを自身の完全催眠下に置く……それがあいつの術式だ。」

 

「ハッ!何だそれ?雑魚術式じゃん。」

 

五条さんは鼻で笑うが、それを先生は即座に否定した。

 

「それは違うぞ悟。完全催眠に置くというのは、脳を騙すと言うことだ。術師にとって、脳を騙されるということは、即ち術式を乱される……それが命取りになるということは、お前達ならよく分かるだろ……」

 

「!?」

 

初めて知る呪詛師 藍染惣右介の術式……先輩は、そんな奴を相手取っていたのか……

 

「だったら!だったら何でそれを俺達に知らせなかったんだよ!!」

 

「知っていれば、何か対処が出来たか?奴を倒せていたのか?」

 

「「クッ……!!」」

 

「良くも悪くも、惣右介の狙いは初めから喜助のみだった。だから喜助も、任務を単独で行い、お前達に被害が出ない様にしようとしていたのだろう。」

 

「そんな……そんなのって……」

 

灰原の顔から血の気が引く……いや、灰原だけじゃ無い。この場に居る全員が、現実を直視出来ずにいるのだろう……特に酷いのが五条さん達三年生だ。それもそうだろう……三年も一緒に居た筈なのに、噂で聞いた表面上の藍染先輩しか知らず、その裏側にある先輩の本質を理解しようとしなかったから。

 

堪らず五条さんが藍染先輩の元へ向かおうと走り出した。

 

「喜助っ!!」

 

五条さんは先輩に手を伸ばそうとするが、それは見えない壁の様なものに阻まれた。

 

「っ……!!何だよ……コレッ……!!」

 

すると、私達の存在に気付いたのか、呪詛師の眼が私達を捉えた。

 

「おや。漸く来たようだね。すまないが、君達が侵入出来ないように結界を張らせてもらったよ。君達は其処で、この男が死んで行く姿を見ているといい。」

 

「惣右介っ……!!」

 

「久し振りだね正道。相変わらず元気そうで安心したよ。」

 

「お前っ……!!何故息子を手に掛けたっ!!」

 

「愚問だな正道。それは前にも言っただろう?大いなる計画には、多少の犠牲も厭わない……と。」

 

「お前はそんな男じゃ無かった筈だろう!!俺の憧れたお前はっ!!」

 

「それも昔言った筈だ。二度も言わせるな……憧れとは、理解から最も遠い感情だ……と。」

 

これが最悪の呪詛師……藍染惣右介。その身体から発される呪力に、身体が押し潰されてしまいそうだ。一瞬で理解した。この男は、生物としての格が違う……恐らくは五条さんでも、この男には勝てないだろう。

 

その時、先輩の指がピクリと動いた。

 

「「先輩っ!!」」

 

「「「「喜助っ!!」」」」

 

「な……んで、来ちゃったんですかね……」

 

先輩の、掠れ小さくなった声が鼓膜を揺らした。

 

「喜助っ!俺が今からこの結界壊してやっから!!だから頼むっ!それまで耐えてくれっ!!」

 

「そうだっ!私達最強が居れば、そんな男一瞬で倒せるっ!!だからっ!」

 

「「生きて帰るんだっ!!」」

 

そう叫んだ最強二人に、朧げな先輩の目が大きく見開いた……だが先輩は、何処か嬉しそうに笑うと、その瞳に悲しみを浮かべた。

 

「やめて……下さいよ……せっかく……覚悟した……のに……最期の最期に……決心……揺らいじゃうじゃ……ないっスか……」

 

最期……その言葉に目の前が真っ白になった。

 

「先輩……止めて下さい!!貴方は死んで良い人間じゃ無い!!」

 

情けなくも緩くなった涙腺を、どうにか引き締めて私は先輩に叫んだ。止めてくれ……死なないでくれ……非ぬ噂に翻弄された優しい人が、こんな死に方をするなんて許されて良い訳がない。だが、私の言葉とは裏腹に、先輩は詠唱を始めた。

 

「雷鳴の馬車 糸車の間隙 光もて此を六に別つ」

 

「縛道の六十一 六杖光牢」

 

六本の光の板が、先輩諸共藍染惣右介を包む。

 

「縛道の六十三 鎖条鎖縛」

 

間髪入れずに先輩は術式を発動する。先輩から放出された太い鎖が、先輩と呪詛師に絡みついた。

 

「成程、縛道で自身諸共私を拘束するか。だが、それでは倒せ無いことは、君がよく知っているのではないのかな?」

 

「ええ……勿論……アタシもそんなこと……理解してますよ……」

 

「破道も効かず……縛道も効かない……そんなアタシに……残された手が……あと一つだけ……あるんですよ……」

 

「…………何だと?」

 

「縛道の二十六 曲光……解除」

 

「こ……これはっ……!?」

 

其処に現れたのは二本の柱……何に使う物なのかは分からないが、急に焦りだした藍染惣右介を見ると、只の柱では無いのだろう。

 

「ここまで……気付かないように……立ち回るのには苦労しました……でも良かったっス……アナタが……気づかなったお陰で……これが使える……」

 

「貴様っ……!!」

 

焦る藍染惣右介に、それを見て安心したように頬を緩める先輩……先輩は詠唱を始めた。

 

「我が右手に界境を繋ぐ石 我が左手に実存を縛る刃」

 

「貴様っ……!!喜助っ!!お前は分かっているのか!?この呪術界の腐敗をっ!!」

 

「黒髪の羊飼い 縛り首の椅子」

 

「私は貴様を蔑如するっ!ここまでの知能と技術がありながらっ!!何故それを呪術界の改革の為に利用しない!!」

 

「叢雲来たりて 我・鴇を打つ」

 

詠唱が終わったのだろう……空間が裂け、其処に先の見えない闇が広がる。

 

「呪術界の改革ならしてるっスよ……アナタを祓うことです。」

 

「きっ……貴様ァァァッ……!!」

 

『もし、ボクがアナタの息子じゃなかったら……ボクも彼らと馬鹿やって笑い合えていたのかもしれませんね……』

 

空間はまるで呼吸をする様に、辺りの空気を吸い上げ始めた。

 

「藍染先輩っ!!」

 

私は結界を力一杯叩き付け、先輩の名を叫ぶ。すると先輩は、私へと目を向けると、優しく目を細めながら笑った。

 

「後のことは頼みましたよ……建人さん。」

 

その言葉を最期に、先輩は藍染惣右介と共に闇の中に吸い込まれて行った。

 

バキィッ!!

 

先輩が闇に消えた後、空間に出来た裂け目が閉じ、その空間を形成していたであろう柱と、私達を阻んでいた結界が音を立てて崩れ落ちた。

 

その日……藍染先輩は、私達の元から姿を消した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

先輩が姿を消した後、高専へと戻った私達は、夜蛾先生から藍染喜助という人間の真実を聞いた。やはり先輩に関する噂は、全て嘘でたらめだった。それを知った五条さんや夏油さんは、夜蛾先生に掴み掛かろうとしたが、私は夜蛾先生の前に立ち、その二人の行く道を塞いだ。二人は「何故喜助のことを教えてくれなかった。」とか「そのことを知っていれば、私達だって。」とかほざいていたが、自ら知ろうとしなかったのは先輩達であり、藍染先輩を追い詰めたのも先輩達でしょうと言うと、二人は悔しそうに下を向き、家入さんも思う所があるのだろう普段血色の悪い顔を更に青くしていた。

 

そんな中、二人の女の子が、夏油さんの元へ駆け寄ってきた。

 

「あの……夏油様……」

 

「……どうしたんだい?美々子、菜々子……」

 

「あの……これ……藍染様から貰ったの……夏油様にって……」

 

「!?……喜助が……?」

 

夏油さんが、恐る恐る美々子と菜々子と呼ばれた女の子達が持っている袋と機械を受け取る。袋の中を確認すると、其処には大量の飴玉と一通の手紙が入っていた。

 

「………これは」

 

手紙を読んだ夏油さんは、徐ろに袋から飴玉を取り出し口に含み、懐から呪霊玉を取り込むと、それをゴクリと呑み込んだ。あまりに突然の行動に、その場に居た全員が夏油さんに視線を寄越し固まっていると、夏油さんの瞳から大粒の涙がボロボロと流れ始めた。

 

「味が……しない……」

 

「は……?何言ってんだ傑……」

 

「味がっ……しないんだよっ!!」

 

夏油さんはそう言って五条さんの両肩を強く掴み揺さぶった。夏油さんの話によると、呪霊操術によって呪霊を取り込む際に出来る呪霊玉はとても食えたものでは無いらしく、本人曰く吐瀉物を処理した雑巾の味がするとのことだった。五条さんも初めて聞いたのだろう。その碧眼を大きく見開いている……当然だ。五条さんにとって唯一無二の親友が、そんな苦しみを抱えていたなんて、想像も付かなかったのだろう。

 

唯一人、藍染先輩を除いて……

 

五条さんが最強に成ってから、藍染先輩は夏油さんのことを特に気に掛けていたらしい。呪霊操術のことを調べ、そのデメリットを知り、そのデメリットを払拭する為に開発したのだろうと夜蛾先生は言った。

 

それだけじゃ無い。家入さんにも先輩は、負担を少しでも減らそうと、運ばれてくる患者の半分近くを請け負っていた……五条さんにも、親友を失わせない為に、五条さんに対する嫌がらせで割り当てられた夏油さんへの任務を、先輩は一心に引き受けていた。

 

それを聞いた夏油さん達は膝から崩れ落ちた。

 

全てが遅すぎた……非ぬ噂に翻弄され、藍染喜助という人間の本質を少したりとも見ようとしなかった……その結果、先輩は独り死んで行った……

 

ああ本当に……呪術師なんて、クソだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あれから十年……一度呪術師を辞めた私だったが、何の因果かまたこの腐った世界に戻って来てしまった。虎杖君には同じクソなら、より適正のある方をなどど言ったものの、やはり私も先輩の居たこの世界を見捨て切れなかったのだろう……とんだお笑い草だ。

 

先輩は死んだ……そう割り切っていた。

 

「もしかして……建人さん……っスか?」

 

「藍染……先輩……」

 

そこに現れた、あの日と変わらぬ容姿の先輩……

 

まさか……こんな日が来るなんて、夢にも思わなかったんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

皆さん、BLEACHという漫画をご存知だろうか?そう、黒装束を身に纏ったキャラ達がオサレな台詞叫びながらドンパチやってるアレだ。俺は前世、この漫画にどハマリしていた。小学生の頃なんて友達との遊びで「卍っ解っ!!」なんて叫んでいたのは今では遠い記憶だし、気道の詠唱覚える為に、英単語暗記するのそっちのけで記憶力無駄遣いしたのなんて記憶に新しい。おかげで英語のテスト赤点だったが……

 

突然であるが、俺……浦原喜助改め藍染喜助は転生者である。前世ではバリバリのヲタクで、何の恨みを買ったのか、背中から突然刺されて呆気なくポックリ逝った。

 

いや本当に、一体何の恨み買ったんだ俺?年齢=彼女無しだったし、人見知りのコミュ障だったんだぜ?人に恨み持たれるようなことした自覚無いし、友達だって居なかったんだぜ?……あれ?何か言ってて泣きそうになってきたぞ?

 

……まあそんなことは置いといて、背中ブスッからの呆気なくポックリ逝った俺何だが、目が覚めたらあら吃驚。ちっちゃなお手手にスベスベたまご肌……そう、俺は輪廻転生したのだ。

 

それから数年が経ち、一人でヨチヨチと歩き回れる歳になった頃、偶々見つけた鏡を覗き込んだ俺は、とんでもない事に気が付いた。

 

「ボク、もしかして成り代わってます?」

 

……と。日本人離れした色の抜けた金髪、子供らしく無い気怠げな目つき、名付けられた喜助という名前……そして無意識に変換されたボクという一人称に謎の敬語……

 

これ、浦原喜助ですやん!!というかっ!浦原さんの身体自己主張強すぎっ!!

 

その日、俺の叫びが屋敷に木霊した。

 

それから更に時が経つこと早数年。俺は無事?に中学生になった訳だが、ここまでで色々と分かったことがある。まずはこの世界なのだが、滅茶苦茶幽霊おる。初めの頃はBLEACHに転生したのかと疑ったが、仮面も穴も無かったので、その考えは直ぐに捨てたが、おそらく此処が何かしらの漫画の世界らしいということは分かった。だって出たんだもの……赤火砲が……なーんか幽霊に襲われてる時にノリで詠唱かましたら出ましたよ……ハイ。しかもばっちし人に見られました。

 

その人が言うには、俺が消し飛ばした幽霊は、呪霊という人の負の感情が集まって出来たものらしく、それを祓うのを生業にしてる人達のことを呪術師って言うらしい……へえ〜……

 

……あれ?これもしかして呪術廻戦?

 

なんてこったい!俺は膝から崩れ落ちた。

 

呪術廻戦っていや、あの推しが死ぬでお馴染みのトラウマ製造機じゃねえか!!やべえ俺死ぬ!?

 

更にやべえことに、俺の家系はどうやら呪術師の家系で、しかもそれなりに歴史のある家系らしく、俺が呪術師として生きることは、もう完全に決まっているらしい。

 

俺は両手で頭を抱えると、そのまま天を仰ぎ見た……それから、俺の呪術師人生が始まった。

 

そこから俺が中学を卒業するまで、まあ色々と分かったことがある。まず俺の実家がどうやらあの禪院家の分家であること……そうあの禪院。人権全無視クズ集団の巣窟でお馴染みのあの禪院家。神様、俺アンタに何かしました?

 

何回か実家代表で行ったことあるが、まあ人を見下すのがお好きなことで。多分だけど俺アンタ達より強いよ?こちとら浦原喜助スペックに特訓重ねてんだぞ?舐めんな?まあそのおかげで、真希さんと真依さんを家族に招き入れれたけども。

 

次に分かったことだが、一番の問題がこれだ。俺の実家である藍染家なんだが、とにかく嫌われている。どうやら、家から最悪の呪詛師が出たようで、しかもそいつが俺の実父と来たもんだ。そいつの名前が藍染惣右介……いや、浦原喜助が藍染惣右介の息子の世界線って一体どんなクロスオーバーだよ作者頭おかしいだろ!!

 

しかも藍染惣右介の狙いは俺らしく、どうやらそれも藍染家の風習なりが影響しているらしい。それを知った上層部が、俺を孤立させる為に非ぬ噂流してるせいで友達なんか出来た試しが無い。まあ俺も、主要キャラ巻き込みたく無かったから無理に関わろうとはしなかったが。

 

てな訳で、皆に避けられ続けた俺だが、時は進んで高専に入学した。ここでも噂のせいで周りから嫌われてた俺だったが、そのおかげで色々と好きに動けた。奥さん絡みで関わりのあった甚爾さんに一芝居打って貰って、盤星教に理子ちゃんそっくりな義骸渡して死んだことにして救済することも出来た。

 

そんなこんなで何かと原作ブレイクして来た俺なのだが、三年になった時、思わぬ誤算が生じた。後輩である建人さんと雄さんに慕われてしまったのだ。いつも通り助けたら直ぐに去ろうとは思っていたのだが、建人さんの「あの人達だけでいい。」発言を無視出来なかった俺がいらねえこと話してしまった結果がこれだ。いやあ、やっちまったよね。その時の俺は、藍染惣右介倒す為に道連れ特攻決めようと思ってたから、友達いない方が楽だったんだが……まあ、建人さんと雄さんが周りに言っていなかったのが不幸中の幸いだったかな。

 

そのおかげで、最期まで皆に勘繰られることなく、藍染惣右介と心中出来たと思っていた俺だったのだが、どうやら再びこの世に舞い戻って来たらしい……という訳で、何故か年齢はそのままに、十年後の世界に召喚された俺なのだが……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うわああああああああああああん!!!!!喜助が生きてるよおおおおおおおお!!!!」

 

「ひぐっ……えぐっ……ごめんよ喜助っ……ごめんよっ……」

 

「本当に藍染か……?本当に……?あっ、触れる……良かった……生きてる……ぐすっ……」

 

「先輩っ……先輩が本当に生きてるっ……!!七海っ!先輩が生きてるよっ……!!」

 

…………えーと?

 

「一体……何がどうなってるんっスか?」

 

俺にこべりつきながらギャン泣きし、目隠しをぐしゃぐしゃに濡らす五条悟に、同じくこべりつきながら呪文のように謝罪をしている夏油傑……俺の手やら顔やらをひたひたと触りながら、涙を流している家入硝子に、俺の頸動脈を的確に締め付ける形でホールドし耳元で叫び散らす灰原雄……お前ら俺のいない十年で一体何があった?

 

「建人さん?どうして皆さんこんなことになってるんですか?」

 

「貴方……それ本気で言ってますか?」

 

「あれ……?建人さん?どうしたんっスか?ネクタイなんか解いて?それに何で呪力が高まってるんです?」

 

「いえ何、脳足りんな先輩に、目が覚めるような一発をくれてやろうかと……」

 

「え……?それってヤバいやつじゃ無いっスか?」

 

「安心して下さい。今の私なら新記録を狙えそうな気がします……黒閃の。」

 

駄目だ会話が成立しない……ていうか

 

「それ死ぬやつっスよね!?ちょっ!待つっス!!また死ぬのは勘弁っス!!」

 

「そういう発言が脳足りんだと言ってるんですっ!!」

 

「十劃呪法 瓦落瓦落!!」

 

「ぶべらっ!!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いや本当にすみませんでした……」

 

いやマジで死ぬかと思った……建人さんマジで殴って来ましたやん……しかも本当に黒閃出たし。

 

「全く……どうして皆さんが泣いている原因が自分と理解出来ないのか……」

 

そう言ってため息をつく建人さんだが、そんなこと言っても仕方無くないか?

 

「死んだ所で影響無いでしょ?だってアタシ(俺)、嫌われてましたし……」

 

「「「「「…………は?」」」」」

 

「あれ?」

 

もしかして今の、口に出てました?皆さんすっごいことなってんですけど?建人さんと雄さんは人でも殺したんかって目をしてるし、さしす組なんてこの世の終わりかってくらい顔色悪くなってますよ?

 

困惑する俺の両肩を、建人さんと雄さんがガシリと掴んだ。肩から聞こえてはいけない音が鳴る。

 

「あの〜……建人さんに雄さん?二人とも顔が怖いっスよ?」

 

「「二度とそんなこと言わないで下さい。」」

 

「アッハイ」

 

即答した。後輩が怖かったです。

 

その後、建人さんと雄さんに俺の本当のことを話したことを説明された後、さしす組に再度泣きつかれた。

 

「別に説明しなくても良かったんですけどね……」

 

そう言った俺が、建人さんと雄さんに正座させられ徹夜説教コースに突入したのは、また別のお話。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やるでしょ。サプライズ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あらお出向かけ?気色悪い。」

 

「よーし、兄貴の墓前に備えるものが出来たな。覚悟しろよ真依?」

 

「ちょっ!?止めなさいよ真希っ!!」

 

私の返しに何時もの様に焦る真依……こいつ毎回思うがチョロすぎないか?ていうかお姉ちゃんって言えよ。

 

まあ今日の姉妹校交流会では敵ではあるけど、やっぱり実の妹とやり合うのは、ほんっっっっの少し気が引ける……まあ、思春期突入してからは姉妹喧嘩しょっちゅうしてたけど、それも仲の良い証拠か。

 

「真希先輩久し振り〜!!」

 

「お久しぶりです……」

 

「おう、美々子も菜々子も久し振りだな。」

 

美々子と菜々子、兄貴が死んだ日に、兄貴と傑に救われたという血の繋がらない双子の様に仲の良い奴ら。同じ双子姉妹仲間ということで休日なんかは良くショッピングとかにも行ったりしてる。

 

どれもこれも、兄貴が居なければ有り得なかった未来だったんだよな……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんなこんなで始まった売り言葉に買い言葉。こいつら暇かよ。早いとこ控え室言ってくんねえかな。

 

「はーい、内輪で喧嘩しない。まったくこの子らは……で、あの馬鹿は?」

 

「悟は遅刻だ。」

 

「悟(バカ)が時間通りに来るわけねーだろ。」

 

「五条の坊が時間通りに来たら、それこそ病気かと疑うだろ。」

 

「誰もバカが五条先生のこととは言ってませんよ。てか俺に起こされなきゃ遅刻してた奴が言うなクソ親父。」

 

馬鹿言え恵、この場においての馬鹿は悟か傑しかいねえだろ。

 

「てか歌姫先生こそ、あの馬鹿はどうしたんだよ。」

 

「あのクズも遅刻よ……全くあいつら……」

 

まさかバカをクズと変換されるとは思って無かった。この人マジで大変だな……

 

私が歌姫先生に同情していると、噂の馬鹿共が、アホみてえにでけえ箱を乗せた荷台を二つ転がしながら現れた。

 

「おまたー!!」

 

「待たせてしまってすまないね。」

 

「チッ……五条悟に夏油傑!」

 

歌姫先生が舌打ちを溢す。こいつらどんだけ嫌われてんだ?まあ、そんなことを気にも止めず私達に話し掛けてるところを見るに、こういう所なんだろうけど……

 

「やあやあ皆さんおそろいで。私、出張で海外に行ってましてね。」

 

「急に語り始めたぞ。」

 

「はいお土産。京都の皆にはとある部族のお守りを。歌姫のは無いよ。」

 

「いらねえよ!!」

 

「こら悟、そんなことしてはいけないよ。すまないね皆……私は海外に行っていないから、大したお土産では無いのだけど、はいこれ。最近さr……信者から貰った良く分からない人形だよ。あ、すみません歌姫さんの分は無いです。」

 

「だからいらねえよ!!」

 

こいつ今完全に猿って言おうとしたな……ついでに生徒を廃品処理に使うなよこいつ等……

 

「そして東京都の皆にはコチラ!!」

 

そう言って悟が勢いよく振り向くが、正直こっち見ないで欲しい。私達まで馬鹿と一括りにされるだろ。

 

「ハイテンションな大人って不気味ね。」

 

野薔薇の的確なツッコみを余所に、悟の持ってきた箱がバゴッとデカい音を立てて開いた。

 

「故人の虎杖悠仁くんでぇーっす!!」

 

「はい!!おっぱっぴー!!」

 

あ、恵と野薔薇が固まった。

 

私達の前に現れたのは、死んだと聞かされてた宿儺の器で恵達の同級生の虎杖悠仁だった。

 

固まった恵達以外は、あまり悠仁の登場に感心は無いようで、あるとすれば学長達だけ……それに困惑している悠仁に、箱を蹴り睨みつける野薔薇……なるほど、これが噂に聞くカオスってやつか。

 

「ていうか悟、もう一つの箱なんだよ?一発目に死んだ筈の奴が出てきたんだ。最後に残すってことは、更に碌でもねえやつが来るんだろ?」

 

「流石は真希っ!良い所に気が付いたね〜!」

 

そう言って笑う悟だが、絶対に碌なこと考えていないのだけは分かる。

 

「それでは最後に東京と京都の皆さんにサプライズでぇーっす!!」

 

悟の無駄に高いテンションと共に、もう一つの箱がバカリと開く……その中には。

 

「あれ?何で順平がそん中にいるの?」

 

「僕に聞かないでよ……僕も師匠に急に眠らされて、目が覚めた時には既にここの中だったんだから……」

 

知らねえ奴が入ってた……

 

「あれ……?確かに僕、この中に入れた筈なんだけど……」

 

「それは私も見たよ……一体どうなってるんだ……?」

 

馬鹿共の会話を聞く限り、こいつ等も予想して無かったことが起こって困惑しているらしい。

 

馬鹿馬鹿しい……私がため息をついていると、急に真依と恵が、箱の中に入ってる奴の胸倉を掴み掛かった。

 

「「アンタ一体何のつもり?/お前、一体何のつもりだ。」」

 

「ひいっ!!」

 

真依と恵の急な変わりように、私は驚いた。私だけじゃない、この場にいる全員がだ。だが、真依と恵が今にもそいつを殺してしまいそうな様子に、私と甚爾が即座に動いた。

 

「おい何してんだ真依っ!」

 

「離してっ!!私はこいつに聞かないといけないの!!」

 

「お前もだ恵、急にらしくねえことしやがって。」

 

「うるせえ!お前は気付かねえのかよクソ親父!!」

 

「あ?何のことだ?」

 

「「こいつからっ!兄さんの呪力の残穢を感じるのよ!!/んだよ!!」」

 

「「…………は?」」

 

今……こいつ等……なんて言った……?

 

「どういうことだ……真依。兄貴は……確かにあの時……」

 

何かの冗談だろう……冗談にしちゃ笑えないが……だけど、真依と恵の目に嘘は無い……

 

「……おいお前。」

 

「はっはいっ!!」

 

「こいつらが言ってることは本当か?」

 

「えっ?」

 

「だから!お前から兄貴の呪力の残穢が残ってることだよ!!」

 

「ひっ!ざっ残穢……って……何ですか……?」

 

ビクビクして縮こまる姿に苛つきを覚えるが、言っていることに嘘は無い……こいつ、呪術師としてずぶの素人か……いや待てよ?

 

「お前……さっき師匠がどうのって言ってたよな?」

 

「え……?あっ、はい……」

 

「師匠の名前は……?」

 

「……え?」

 

「だから師匠の名前は何だって聞いてんだ!!」

 

誰だ……一体そいつは誰なんだ……

 

心臓がバクバクと煩い……もしかしてや何でといったを疑問符ばかりが脳内を行き交う。自慢の身体も、鈍った思考のせいで上手く動かせない。それでも、目の前の男が口にしようとする師匠と呼ばれた奴の名前を一言一句聞き逃すまいと、視線だけは外さなかった。

 

「あ……あい……あいぜ「アタシっスよ。」」

 

「「「「!?」」」」

 

順平と呼ばれた男の十数メートル後方から静かに発された声と共に、突然現れた気配。その気配の先に目を向けた私達は、思わず言葉を失った……

 

「も〜っ!一体何処に行ってたの!しかも順平身代わりにしてさっ!見てよこの地獄みたいな空気っ!」

 

「いやいや五条さん、悠仁さんの見ました?あのまま出て来ても、結果は同じことになるの目に見えてたでしょ。」

 

「だから五条さんじゃなくて悟って言ってよ〜っ!!」

 

「いやあ……流石に厳しいっスね~。」

 

カランカランと軽い音が辺りに反響する……その音の主に悟が話し掛けているが、正直悟の声なんて耳に入って来なかった。

 

その男から発される声に音に、そしてその男の挙動に、天与呪縛により研ぎ澄まされた五感をフル稼働させる……

 

私があいつの声を、姿を間違える訳が無い……もし偽物なら……生きていることを後悔させながら殺してやる……そんな呪詛師じみた考えを浮かべながら。

 

だけど、その男の声はあいつそのもので……あの歩き方も、困った時にする癖も、その後にする柔らかな笑い方も……その姿かたち全てがあいつを本物だと証明する……

 

もう二度と会えないと思っていた……もう二度とその声を聞くことが出来ないと思っていた……過ぎた過去だと、何度自分に言い聞かせていたか……頭では理解していたのに、心はその事実を受け止めきれず、何度もあいつの墓に訪れて、生きているという証拠を探して……そんな数え切れない回数を重ねて……その度にあいつは死んでいるという事実を突き付けられて……他の奴らに奇行だの言われて……

 

だってさ……もう一回でも良かったからさ……聞きたかったんだよ……あいつの声を……触れて欲しかったんだよ……あいつの手に……

 

私も真依も恵も津美紀も美々子も菜々子も……皆そう思ってた……

 

ああ……夢ならどうか覚めないでくれ……もう居なくなられるのは嫌なんだ……

 

カランカランと音が鳴る……その音は段々と大きくなり、あいつが私達に近付いてくることが分かる……だけど私は此処から動かない……今度はあんたから迎えに来いよ……これまで散々探し回らせたんだ……これくらい、バチは当たらないだろ?

 

「五条さん達から話は聞きました……まさか十年も経ってるなんて吃驚したっス。」

 

ああ……本当だよ……十年も待たせやがって……

 

「随分と……大きくなったっスね……」

 

ああ……あんたの居ない間に、背も大分伸びたんだ……まだあんたに届くまでは無いけど……

 

「本音を言えば……アタシは皆の成長を、傍で見守りたかったですけど……」

 

そんなの……これから見守れば良いだろ……それに違うだろ……私達が聞きたかったのはそれじゃない……

 

「今更アタシに言える言葉では無いかもしれません……でも、これだけは言わせて下さい。」

 

ああ……いいよ……聞いてやるよ……

 

「皆さん……ただいま……」

 

……うん。

 

 

 

「「「「「おかえり……兄貴/兄さん/藍染様。」」」」」

 

 

 

ああ……やっと……やっと言えたよ……

 

もう絶対に……離してなんかやらねえからな……

 

 

 

 

 

 





〜オマケ〜

「なあ兄貴。」

「ん?どうしました真希さん?」

「気の所為かもしれないけどよ、兄貴って十年経ってる割には変わってなくね?」

「あっ、それ私も思った。」

「俺も、そう思います。」

「あ〜……まあ何故かは分からないっスけど、アタシ封印されてた期間、歳を取ってないらしいんスよね。」

「へえ〜……なら今の兄貴はまだ高専生扱いになるってことか?」

「うーーーん……それはどうなんでしょう?」

「歳取って無いってことは、兄貴まだ十八歳ってことだろ?ならまだ高専生でいけるだろ。」

「まあ、それもそうっスねえ……」

「しかも十八歳ってことは、私にもチャンスが回って来たってことだしな……」ボソッ

「ん?真希さん今何か言いました?」

「いや何も……ということは、兄貴は当然こっち来るよな?元々東京校だし。」

「それは良いですね真希さん。俺も賛成です。」

「ん〜?やっぱりそうなりますかねえ?」

「ちょっと待ちなさいよっ!!」

「ん?どうかしたか真依?」

「どうしたもこうしたも無いでしょっ!!何でそっちの勝手な意見で兄さんが東京に行くことになってんのよ!!」

「勝手な意見って……元々兄貴は東京校の生徒なんだし、こっち来るのは当たり前じゃねえか?」

「お〜……真希さん言いますねえ……」

「うっ……!でっでもっ!兄さんだって!兄さんを虐めてた奴の多い東京校に行くのは気が進まない筈よっ!!」

「まあそれもそうだが……けど、そっちにも傑がいるだろ。」

「ぐっ……それもそうだけどっ!」

「真依さん負けてるじゃ無いですか……」

「恵くんは黙ってて!!兎に角っ!兄さんは京都校に来るのっ!!その手を離しなさいっ!!」

「いいやっ!兄貴は東京校のもんだ!!」

「いや〜……二人共相変わらず仲が良さそうで良かったっス。」

「言ってる場合かよ兄さん。早く真希さんと真依さんどうにかしないと腕が千切れるぞ……」

「それもそうっスねえ……さっきから肩と肘からイケない音が聴こえ始めましたし……特に真希さん側から。でも十年も待たせちゃったんで、もう少しだけ二人の好きにさせようかと思うっスよ。」

「……そのお人好しは相変わらずなんだな。」

「褒め言葉として受け取っておきますよ……恵さんもどうっスか?真ん中なら空いてますよ?」

「…………」ギュッ

「あら……甘えたがり屋は相変わらずっスねえ……」

「うるせえ…………会いたかった……兄さん……」

「……アタシも、会いたかったっスよ。」




































「すみませーーーんっ!!真希先輩と真依先輩の虐めた奴発言で五条先生と夏油先生が死んでまーーーすっ!!」

「放っておきなさいよ。そんなクズ共。」

「五条悟は別にどうでもいいけど、ごめんなさい夏油様……今回ばかりは自業自得……」

「美々子と……同じく……」

「うえええええええええん!!ごめんよおおおおお!!」

「私はクズだ私はクズだ私はクズだ私はクズだ私はクズだ私はクズだ私はクズだ私はクズだ私はクズだ私はクズだ私は………」



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