メガネがガオーン   作:アルピ交通事務局

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メガネがガオーン 10

 

「仮とはいえ同盟を結ぶ事になったのですから此処から先は私の領分じゃありません」

 

「と言うと?」

 

「私より偉い人を呼びますので、その人と同盟の詳しい内容を定めます」

 

 紅き界賊団とボーダーは同盟を結ぶことになった。

 一時的で仮とはいえ同盟である事には変わりはなく、そこから先は有里彩の領分ではない。

 

「本来ならば船長……アカレッドに色々と話を通さないといけないのですがあの人はなにかと多忙なのでこちらの世界でなにかあった時の為に居る人と話し合いをお願いします」

 

「君ではダメなのか?」

 

「私は末端ですので今回のこの仮の同盟も勝手に行っている事です。一応は組織ですので上を通さないといけません」

 

 組織とは時にマニュアル対応をしなければならないもの。有里彩の一存で決めることは出来なくもないのだが上に怒られる事は確かである。

 後で色々と怒られるんだろうなと嫌な事をイメージする有里彩。残念な事に怒られる事は既に決まっている……青峰を含めてだ。

 

「ならばその人を呼んでもらいたい」

 

 上に話を通さなければならないのならば通すしかない。

 城戸司令は有里彩より上の人を要求すると有里彩はスマホを取り出して電話を入れる。

 

「もしもし」

 

『なんだ?』

 

「修くんがゼンカイガオーンなのと私がゴーストなのがバレて最終的にはボーダーと一時的な仮の同盟を組むことになりました」

 

『……マジか……互いに不干渉とか出来ないのか?』

 

「遊真くんの事も考えれば不可能です」

 

『そうか……めんどくせえな』

 

「めんどくさいで片付けないでください!大事な局面で一手間違えれば大変な事になるんですよ!」

 

 一手間違えれば今ここでボーダーと全面戦争する可能性だって存在している。

 迅は深くは語っていないものの、ボーダーの基地がボロボロになっている未来も視えているので割とヒヤヒヤしている。

 

『じゃあ、取り敢えずそっちとこっちがなにを差し出す事が出来るかの話し合いだな』

 

「いきなりそれか」

 

 もうちょっと交渉に捻りがあっても良いんじゃないかと外務営業担当の唐沢は思う。

 交渉する上でいきなりカードを出してくるのは悪手、電話越しで聞こえる声からして随分と若い人が上なんだと思う。

 

『つーか、今じゃなくて後日正式な交渉をした方がいいんじゃねえの?こっちもこっちで突然の出来事だから交渉で使えそうなカードがなんなのか分かってないし、そっちもボーダー以外にトリガーを扱っている公安委員会的な秘密の組織が存在していたってだけでも充分な話の爆弾みたいなもんだしよ』

 

「まぁ……そうですね……」

 

 いきなり此処で交渉しようとなっても交渉に使えるカードがなんなのか分かっていない。

 近界民の大規模な侵攻までにはまだそこそこ時間があるので今すぐ此処で決断するのではなくゆっくりと時間をかけての交渉を青峰は提案する。少なくとも今は地球(チーキュ)の人間同士で争っている場合じゃない。争うならば別にそれはそれで構わないと青峰は思っている。困ったら暴力で物事を解決すればいいと思っている脳筋ゴリラだから。

 

「今すぐに色々と話をしても互いに混乱しますので後日話し合いの場を設ける……それでよろしいですか?」

 

「……いいだろう」

 

 青峰の提案を城戸司令は飲み込んだ。

 ここで今すぐにでも話し合いをしても良かったのだが相手は自分達と同じくこちら側の世界の人間でボーダーとはまた異なるトリガーを扱う組織、下手に刺激してくだらない内乱を起こしてしまうのはいけない事だ。

 取り敢えず後日に青峰が話し合いの場に出てくる事が決まったのでこれ以上は会議室に居る必要は何処にも無いのだと有里彩は修達を引き連れて会議室を出ていった。

 

「いいのですか、近界民(ネイバー)を野放しにしたままで!」

 

 色々とあったのだが結局のところ遊真に関してなんらかの処断をする事は出来なかった。

 上手い具合に逃れられてしまっており、根付はこのままでいいのかとテーブルをダンッと叩いて感情的になる。

 

「ボーダー以外にトリガーを扱っている組織、しかも政府公認の組織が居るとは聞いていなかったですよ」

 

「その事に関しては我々も初耳だ」

 

 唐沢はボーダー以外にトリガーを扱っている組織が無いのだと今まで思っていた。だが、実際のところは居たのである。

 その件に関しては今のボーダーが出来るより前にあった旧ボーダーの一員でボーダー創生に関わっていた忍田本部長も初耳である。ボーダーが表に出てきたのならば、彼等もまた表に出てくるのでは?という疑問を抱いたのだが今のところは表に出ていない。ボーダーが表で近界民=敵、悪だとイメージ戦略をしている事に関しては不干渉を貫いている。もしかすると組織の存在自体が嘘なのかもしれないと考えるのだがここまで吐く必要のある嘘は早々に存在しない。

 

「ボーダー以外にトリガーを扱っている組織が表に出ればボーダーと共食いをはじめる可能性もあります……早急に対処しなければ」

 

「対処と言うがどうするつもりで?まさか彼等の持っているトリガーを剥奪すると?それでは強盗と一緒ではないですか!」

 

 ボーダーはあくまでも政府公認の民間組織であり、逮捕や捕虜をどうこうする権利は無いに等しい。

 もし仮に青峰達が持っているトリガーを剥奪しようものならば国家権力という力を使ってくる。それ以前にやっている事が強盗と一緒だと忍田本部長は根付室長に対してあまりいい顔をしない。

 

「迅、お前にはなにが見える?」

 

「すみませんが、このボーダーの基地が壊滅的になるぐらいにまで追い込まれてる未来しか見えません」

 

「なに?」

 

「あのメガネくん達がボーダーに入ってる未来も可能性としてはあったんですけど……有里彩ちゃんの言う通り、最初にメガネくんを要らないと判断したのはボーダーです。こうなったのもある意味身から出た錆かも……」

 

 頼みの迅から聞く未来はあまり明るくはない。

 修がボーダーに入ってくれれば大体はボーダーに有利に事が運ぶのだが残念な事にこの世界線の修はボーダーに対して疑心を抱いており、更には紅き界賊団の見習い候補生的な立ち位置になっている。ボーダーに入隊する可能性は殆ど0に等しい。

 ボーダーという組織を大きくした結果、知らず知らずの内に慢心や傲慢になっており、今回の一件は身から出た錆としか言いようがなかったりもする。

 

「とにかく今は紅き界賊団と同盟を結ぶことを優先しましょう……真正面からバチバチにやりあったとしても負ける、オレのサイドエフェクトがそう言ってます」

 

「……そうか」

 

 予知能力を持つ黒トリガー使いが戦うことを避けるのを提案する程に紅き界賊団はヤバい奴であった。

 迅が退出した後に忍田本部長と林藤支部長も会議室を抜けると唐沢、鬼怒田、根付、城戸司令の近界民排除の一派だけとなり根付はため息を吐いた。

 

「困りましたね。ボーダー以外にもトリガーを扱う組織がいるとは」

 

 ボーダーが今日までに積み上げてきた物が崩壊する可能性があるとヒヤヒヤする根付。

 

「今の今まで表に姿を出してないって事はコレからも秘密の組織として行動するんじゃないですかね?」

 

「ボーダー以外にトリガーを持っていて更には近界民を匿っておる!そんな組織を信用しろと言うのか!!」

 

 近界民が直ぐ側に居る。しかもただの近界民ではないとテーブルを強く叩く鬼怒田開発室長。

 

「では誰をけしかけると?市街地に現れた爆撃型のトリオン兵を両断する事から並のB級隊員では敵いませんよ?」

 

 唐沢部長の言う事は最もだ。

 近界民に対して強い憎しみを抱いてたりする城戸派の面々を、例えばA級7位の三輪隊を出撃させたとしても有里彩1人で返り討ちに合う。なんだったらたった数名にボーダーを壊滅寸前にまでボコボコにされる未来が待ち構えている。

 

「っぐ……太刀川達がもうすぐ帰ってくるが……」

 

「交渉の前に一悶着起こせばそれこそ交渉の場が決裂してしまう。くれぐれもA級上位3部隊を出動させるなんて真似はしないでください」

 

 仮に太刀川隊、冬島隊、風間隊が出動しても有里彩1人に返り討ちに合うのだが是非も無し。

 どうすることも出来ない事に鬼怒田と根付はグヌヌとなる。

 

「申し訳ありません、厄介な事に巻き込んでしまって」

 

「あ、頭を上げてください」

 

 ボーダーの本部を後にした有里彩達。

 先ずはと有里彩は無関係だった千佳を巻き込んでしまった事を謝罪すべく頭を下げるのだが千佳は慌てており、頭を上げるように言う。

 

「私、なにも知らなかったんです。近界民の事とか修くんの事とか遊真くんの事とか……なにも知らないまま終わらずに良かったと思ってます」

 

「そう、ですか。もし辛いと思ったのならば直ぐに言ってくださいね。記憶を消しますので」

 

「け、消すってそんな」

 

「大丈夫です、痛みは感じません」

 

 そういう問題では無いのだが有里彩はやや少しズレた事を言っている。

 ともあれ大事な場面を乗り越える事が出来たので修達はホッとする。場合によってはボーダーの人達と戦う未来も存在しており、そうなった場合は城戸司令が殴り飛ばされる。その未来を知っているのは迅だけである。

 

「あの……すみませんでした」

 

「なにがですか?」

 

「元はと言えば僕が学校でゼンカイガオーンになったのが原因で騒ぎがこんなに大きくなって……」

 

 まさかボーダーのトップに会うことになろうとは思いもしなかった。

 自分がそうすべきだと思った行動が巡り巡って他人に迷惑をかける事になってしまった。その件に関して修は頭を下げるのだが有里彩は特には気にはしていなかった。

 

「修くん、気にしないでください。どの道、修くんが遊真くんと接触して遊真くんが自身が近界民だとバラす世界線も存在していたんです。遅かれ早かれ紅き界賊団の存在は何時かはボーダーにバレると思っていましたし……コレはむしろチャンスだと捉えてます。ボーダー相手に仮の同盟を結ぶ交渉が出来るんですから、結果オーライです」

 

 だから気落ちをしなくてもいいし、謝らなくてもいい。有里彩は修に頭を上げてもらう。

 

「それよりも大変な事になるのはこれからです。ラッドは偵察用のトリオン兵、ボーダーの手の内や総力などが敵の国に知れ渡っています……近いうちに大きな侵攻があります。それもボーダーを狙った大規模な侵攻が……それをどうにかするにはボーダーと同盟を結ぶしかないです……千佳ちゃん、貴女はどうしますか?」

 

「えっ!?」

 

 突如として話題が振られて困惑する千佳。

 

「ここまで話を聞いて、なにか興味を抱いたりはしませんか?」

 

「えっと……紅き界賊団は向こうの世界で色々と活動をしているんですよね?」

 

「詳しい内容を言うことは出来ませんが、その認識で間違いありません」

 

「……私も紅き界賊団に入れてくれませんか?」

 

「千佳!?」

 

「私、兄と友達が向こうの世界に攫われて……友達と兄を探したいんです」

 

 どちらかといえば引っ込み思案な千佳だったが、近界民について色々と知っていく内に向こうの世界について興味を抱いていた。

 どうにかしたいという思いが友達と兄を探しに行きたいという原動力となり、有里彩に紅き界賊団に入れて欲しいのだと頼み込む。

 

「紅き界賊団は向こうの世界で色々とやっていますが今のところは攫われた人を見つけたという一例はありません……向こうの世界は、国はかなりの数がありますからね……千佳ちゃん、覚悟は出来ていますか?」

 

「……1%でも可能性があるのなら、行きたいです」

 

「私が聞いているのはその覚悟ではありません。受け入れる覚悟が出来ているのか聞いているのです」

 

「受け入れる、覚悟?」

 

 なんの事だと首を傾げる千佳。

 やっぱりそこまで考えていなかったのだと有里彩は少しだけ困った様にため息を吐いた。

 

「千佳ちゃん、貴女の友達が攫われたのは4年前の大規模な侵攻の時ですか?」

 

「それよりももっと前です」

 

「近界民が人を拉致したら先ずはトリオン能力を確認します。優秀なトリオン能力を持っている人は生かして奴隷に、そうでないトリオン能力の持ち主はトリオン器官を取られて殺されてしまいます……仮に生きているとしても最低でも5年はこの世界に、チーキュに居ませんでした……人を殺すのがトリオン兵を破壊するのが当たり前な日常になっている子を、友達と断言できますか?」

 

「っ!?」

 

 千佳の友達が攫われた正確な時期を有里彩は知らないが、ボーダーが表に出てくる前に拉致されたとなれば最低でも5年はこちらの世界に居なかった。攫われた奴隷を向こうの世界ではどう扱うか、それは国によって異なるのだが5年も日本におらず戦争が日夜起こっている向こうの世界にいる友達は……きっと自分が知っている友達とは違うナニカになっているだろう。勉強は当然遅れてしまっているし、もしかしたら日本語を読むことが出来なくなっている可能性だってある。変わり果てた友人を見て受け入れる事が出来るのかどうか、大抵の人は無理だと言うだろう。

 

「日本では犬や兎を食べる文化はほぼ無いです。ですが、海外では犬や兎を食べる文化があったり昆虫を食べたりします……文化や考え方が変わった友人や兄を見て、元の社会のレールに戻ろうと言うことは出来ますか?いえ、そもそもで拉致された被害者を見つけて元の社会のレールに戻すプランは政府も考えてませんし、仮にボーダーが見つけても都合のいい悲劇のヒロイン扱いするか記憶を封印したりしますよ」

 

「……」

 

 千佳はありえないと否定することが出来ずに顔を青くする。

 少しだけ言い過ぎただろうかと有里彩は考えるのだが最悪の事態も想定する事が出来ない人間を紅き界賊団の船に、ゴーカイガレオンに乗せる訳にはいかない。例え黒トリガー並の規格外のトリオンを有していてもだ。

 

「あ……ぅう……」

 

 嫌な事ばかりを想像する千佳。

 必死になって伸ばした手を掴んで貰えない可能性だってある。見つける事が出来ても助けの手を求めないという可能性を一切考えていなかった。

 もし友達が変わり果てたなら、もし兄が人殺しになっていたのなら……そう考えてしまうと気分が悪くなってきた。

 

「……時間はまだ沢山あります。気持ちを落ち着けてゆっくりと考えてください……ただ、向こうの世界への遠征は中々に厳しい事ですので並大抵の気持ちならば船には、ゴーカイガレオンには乗せられません」

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