潜水艦描写は目を瞑ってご覧下さい。
見渡す限りの青の中を白い影が抜けていく。白波とも違う、風のように駆ける“それ”の後には睡蓮が散り、彼女を目指す道標となっていた。
一見凪いだ海だが、両島原より遥かに凶悪だ。何せ奇天烈な潮の流れがそこらにある上に、水龍に負けぬほど巨大な生物が横行闊歩しているのである。初めて遭遇した時は食われてたまるかと啖呵を大盤振る舞いし、抜き身の電光丸もおまけにつけたものだが、杞憂であったのは記憶に新しい。
今や見つかれば最後、蹴鞠の如く宙に放り投げられ、アマテラス十頭分はあろう口から牙を剥き出しに涎じゃれつきの刑を互いが満足するまで執行される。そういえば、此奴は自然の頂点大神アマテラスなのだ。妖怪や化生憑き以外には基本的に命を脅かされる道理がないとイッスンが気付いたのは、通算五回目の執行を喜び戯れる白い毛むくじゃらの背中で藻屑の精になった時だった。
「ったく、折角月見と洒落込んだのに夜が明けりゃァ“ぐらんどらいん”とはツイてねェ」
両島原の月見やぐらで団子をツマミに旅の思い出話へ花を咲かせたのは夢ではないはずだ。常闇ノ皇を討ち取ってタカマガハラを立て直し、再びナカツクニ中を旅する内に時折見知らぬ海に行き着くようになったのはいつからだろう。
最初の出会いは太陽と獅子を掛け合わせた船に乗る愉快な海賊達。神木みかんに劣らぬ、絶品みかんの主であるみかんのボインことナミと物知りボインのロビンにこの海の常識を教えてもらった。あの時は十日ほど船で寝泊まりしたが、ある朝イザナギ窟で目覚め、彼らとはそれきりだ。
それからも上半身裸の炎男や棺桶に乗った鷹のような寡黙な戦狂い、煎餅好きの大仏といつの間にかを何度か繰り返し、様々な出会いがあった。幽門扉のように時間の捩れもあるようで、幼かった者が次にはどえらく成長し、血みどろ死にかけなんてこともある。その者はどういうわけか、この不可思議な海ではなくカムイの雪原の中での再会であったのだが。
ウエペケレで保護し、記憶喪失もあったためケムシリが新たな名前を与えた。今後はオイナの一員として暮らすかと思いきや、色々あって今は笹部卿のスズメ宿で毎日ボヤ騒ぎを起こしながらもそこへ住み込んでいる。ウエペケレでも日に一回は自身に火をくべてボヤを起こしていたようだから彼らしい。新たな名前もその習性と加護を重ねてオイナ語で“火の男”だ。
閑話休題――度重なる転移ともいえるこの現象は何かの予兆か。ふわつく毛並みに体を埋め、イッスンは取り出した地図をクシャリと握り締めた。合わせて寄った眉間の皺を散らすように体へ衝撃がかかる。
「――っと危ねェなこの毛むくじゃらァ! もう少しでオイラが海にまっ逆さまのトコロだィ!」
ぷおんぷおんと怒るイッスンを尻目に、アマテラスは何かを探るように見回し、鼻をふんふんと鳴らした。前に後ろにぐるりと巡ったかと思えばひたり、と一点を見据える。尾がぐるぐる回り、いざ再び走り出さんと海の地を前足が掻いた。
「あん? アマ公、お前ェ一体何ッ――!」
嗚呼、これは。南無三。
くるり、と優雅に舞ったかと思えば途端に周りの景色が怒涛の勢いで流れる。付き合いの長いイッスンにすら予想がつかない何かがあるのだろう。振り落とされぬよう必死で掴まる。みるみる近付く一点に目を凝らすと、海面から人ほどの高さの木のようなものが生えていた。たった一本佇む低木は、黄色という特徴も相まって小さな波の中でもよく目立つ。瞬間、木が振り向くように反転し、目のようなものが合ったのをイッスンは見た。
なるほど、今回の被害者はこれらしい。
アマテラスの石頭が激突する衝撃と鉄のひしゃげる音が耳につく。同時にずず、と海面が迫り上がり、胃のひっくり返りと水飛沫、潮の薫りに包まれてイッスンの意識は暗転した。
丸い視界には穏やかな海面と抜けるような青空が広がっていた。今日の浮上はこの辺りが良いだろう。潜望鏡から目を外してペンギンはあたりをつけた。
広大なグランドラインを渡るには船舶移動が外せないが、その中でもこの海賊団の手段は特殊だ。舷窓から覗く風景は先程と比べ夜のように暗く、クルーの会話以外に響くのは風でも波でもなく、重いモーターとスクリューの駆動音。
「今回はここら辺にするか。シャチ、ベポとキャプテンに確認。許可が出たら浮上指示を出す」
「りょうかーい」
海賊潜水艦ことポーラータング号は、死の外科医トラファルガー・ロー率いるハートの海賊団の移動手段であり家である。通常の船と異なり、風や潮の流れにあまり左右されないこの黄色の燕は、気まぐれなローの性格に合った自由気ままな航海を可能としていた。しかし、どのようなものにも短所はあるもので、安全な潜航にはどうしても発電機が欠かせない。おまけに陽も当たらず昼夜も分からない上に空気のこもる海中生活は、ストレスや衛生面にも影響する。
前の島を出港してしばらく経ち、次の島までも一週間以上はかかる見込みなのだ。蓄電と換気のための夜間浮上はあったものの、ここ最近は日中の天気に恵まれなかった一行にとって陽に当たるというのは、まさに娑婆に出るも同然の価値だった。
「天気どんな感じ?」「めっちゃ晴れ」「よっしゃー! シーツ洗う!」「おれ日向ぼっこー!」「馬鹿野郎、甲板掃除が先だっつうの」と野郎共はわいわいがやがやそわそわ。良い大人が少しは落ち着けと思うが、そこは海に出て運とロマンの巡り合いを繰り返す海賊である以上、子どもっぽい性根を抱えているのも無理はなかった。
「おう、ペンギン! 許可が降りたぜ。天気の続きようによっちゃ一日二日は上だとよ!」
操舵室に嬉し気なシャチの声が響いた。うおーという野太い歓声をBGMに頷きを返し、伝声管に大きく息を吸う。
「上に上がるぞ、浮上準備!」
途端に艦内へ慌ただしさが巡り、目の前に並んだラッパたちから次々と区画と準備完了の声が上がってくる。普通の船とは異なる操作や準備に乗り始めは戸惑ったものの、人生の三分の一近くも付き合えば手順も方法も慣れたものだ。水測員からの「障害物なーし」の気抜けた最終チェックを耳にして、ペンギンはハクガンと視線を合わせた。
「メインタンクブロー」
「上げ舵一杯!」
ポーラータング号が一際大きな呼吸音を放ち、船体が緩やかに揺れる。あとは浮力に任せて待つだけである。潜望鏡深度まで既に浮上している以上、青空の出迎えはすぐそこだ。
帽子に隠れた目元のせいで分かりにくいが、ペンギンの気持ちも浮き足立っていた。掃除に洗濯と浮上中のスケジュールを頭の中で組み立てる。ひと風呂浴びて外の風にも是非当たっておきたい。隣ではしゃぐシャチの言葉へ適当に頷き、ブリッジの舷窓へ映る海中が徐々に明るく、クリアになっていく様子見つめて、ふ、と一息ついたその時だった。
「――ッ、水面に障害物! 備えろ!」
ペンギンと交代して潜望鏡を覗いていたクルーが息を呑み、すぐに声を張り上げた。水測員が振り向いた。
「はァ!? ソナーにゃ何も――」
ぼこめきょがん、と鈍い音が響く。操舵室のクルー達の視線がゆっくりと上へ向いた。「上が見えねえ! 接触で多分曲がったァ!」と先程異常を知らせたクルーが泣きそうになっている。
――ペンギン? キャプテンが「今の音何だ」だってさ~
飛んで来た呑気な声の向こうに天井を睨み付ける船長を幻視し、ペンギンとシャチは二人そろって顔を覆った。
仕上げにぼこん、ともう一度。落ちるように響いたそれは、確かに何かを打ち上げた音に違いなかった。
きい、と丁番が鳴いた。扉の隙間からシャチを先頭に甲板を見渡す。船首側には何も見当たらない。ならば、落下の衝撃で波間に消えたか、それとも船尾側か。
「すまねェ、おれが気付くのに遅れたばっかりに……」
「事故みてェなもんだ、気にするな。直せばいいんだよ」
嗚咽を上げるクルーの肩を優しく叩いて慰める。ブリッジから伸びる潜望鏡を見上げると、ものの見事に折れ曲がっていた。整備や修理についてはヴォルフに嫌というほど叩き込まれているし、クルー達にも教えている。医者らしくマメなローの性格もありマニュアルすらある。
変わり果てた姿の潜望鏡はあの高さ。足場は必要だが海上では組むことは難しい。しかし、それは普通の場合だ。
「キャプテン、お願いしまーす!」
「……これは便利道具じゃねェんだぞ」
どやどやと出てきたクルーに続き、悠々とした足取りで出てきたのは我らがキャプテン、トラファルガー・ローである。じろりとシャチを睨むが、拝むように頭を下げたその様子に大きく溜め息を吐いた。仕方ないという態度がありありだ。しかし、それでもこちらの意を汲んでくれるのだからありがたい。
「――“ROOM”」
呟きと掲げた掌に呼応して薄い膜が静かに広がった。
“
瞬きの間に流れるように鬼哭を抜き、掌を翻せば、あっという間に甲板へ切り取られた潜望鏡が横たわる。刺青で埋め尽くされている手指はその器用さを納得できるほど美しい形をしており、技のひとつの通りである指揮者を錯覚させた。
「おれは裏で寝る。作業が終わったらベポに」
側に控えるベポへ指先でローがハンドサインするのに合わせて、「アイアーイ」と和やかな返事が甲板に響いた。ローの機嫌をこれ以上損ねない内にとっとと済ませてしまおう。工具箱を携えて、作業に入ろうと一歩踏み出したところで浮上前のクルー達との会話がペンギンの脳裏を掠めた。
「そういえばキャプテン、シーツ洗うんで部屋入りますよ!」
折角の晴れに二日ほど浮上するのだ。医療には清潔が命。おまけに普段から船長室に籠りがちなローの健康のためにもクルーとしてできることはやっておきたい。医者に何を、というかもしれないが、目元を住処にしている濃い隈を思えば心配するのも無理はなかった。
振り向いた先のローの背中は静かだ。ドライな彼との会話ではいつものことである。しかし、ペンギンはふと違和感を察知した。普段ならば手や一言で簡単な返事があるのだ。それに隣のベポが「よろしく」やら「今日はふかふかベッドだね~」やら惚け惚けと合いの手をくれるはずなのに、二人揃って静かに船尾側を向いて立ち止まっている。クルーに指示を出すシャチを肘で小突き、目を合わせた。ちらりとローに視線を飛ばし、異常事態に気付いたらしい。足先が船尾に向く。
「キャプテン、何か――」
犬である。食肉目イヌ科イヌ属イヌ。仲間に白熊はいるが、犬は覚えがない。白い毛並みは北の海の生まれっぽいが断じて違う。駆け寄った先には犬がいた。
魍魎跋扈のグランドラインにおいて、未知との遭遇は警戒すべき事態の一つだ。そうだと分かっていても目の前の光景を理解した時、ペンギンは何だか馬鹿馬鹿しくなった。
所謂“へそ天”。愛犬家の間でセクシーポーズとして名高いそれは、ある時立ち寄った島で一方的に絡まれ喋り倒された末に手に入れた無駄知識であった。へそ天媚び媚びポーズで犬とローが見つめ合っているのだ。ああ、キャプテンもふもふ好きだもんな、と和みかけた己の頬にビンタをかます。
カリスマたっぷりで頭が良くて医者でとっても強くて格好良い。しかし天然でもあり、時にはオーバーヒートする。今、まさにオーバーヒートしている。十年以上の付き合いは伊達ではない。状況理解は容易だ。キャプテンが会心の一撃でフリーズした今、船を守れるのはペンギン達なのだが、何故かみんなで犬とローを見守っている。おまけにベポは、はわわなんて言って頬を染めている。何故だ。
「ど、どういう状況ォ?」
耐え切れなかったシャチがローと犬に視線を反復横飛びさせるのも無理はなかった。
すっかり混乱したシャチの声に反応し、犬がこちらへ視線を投げた。とはいえ、口を半開きに「何かご用でしょうか?」と惚けた様子に格好は例のセクシーポーズのままでなんと続けたものか困ってしまう。
「シャチのエッチ! そんなに見ちゃダメだよ!」
「いや、キャプテンも見てるし何でおれだけ!?」
あわあわとベポが割って入った。エッチって何だ。性的なことの隠語、由来は変態―HENTAI―の頭文字。海賊生活は確かに女日照りであるが、明らかな動物に興奮を覚えるほど飢えちゃいないし変態でもない。ベポはミンク族だからその辺りの感覚が違うのかもしれない。いや、でも確かどこかの島の店先の日向でへそ天全溶けの猫を見た際はそばにしゃがんで「かわいいね~」と花を飛ばしていた。世間一般の反応だったはずだ。ちなみにローはその様子をひたすら黙って眺め、目に焼きつけていた。その時の様子からいえば、見た目の好みの問題だろうか。しかし、性別美醜に関わらず全裸ないしセミヌードでセクシーポーズの人間がいたらペンギンでも相応の反応はする。
そもそもどうして甲板に犬がいる、と脱線仕掛けた思考を戻したところで、手元の工具箱の意味を思い出した。
「ああー! 潜望鏡に突っ込んできたのコイツですよ!」
上がった叫びに皆の視線が声の主に集中した。
「突っ込んできたァ?」
「おれ、確かに見たんだよ! 見渡したらすげェスピードで走って目の前に突っ込んで来てて……」
「走って……、走って!?」
グランドラインには水の上を走る犬がいるのか!? と素直に驚くシャチの頭をばこりと叩く。そんなのがいて堪るか。
視線を戻せば、今まで惚けた顔をしていたのが嘘のようにびくりと白い毛玉が揺れる。だらだら、と言うべきか、獣の癖に冷や汗を流しているようで酷く焦っている様子だった。
なるほど、こいつか。
じり、とペンギンが一歩近づく。乱暴しちゃダメェ! とベポが叫んだ。犬に発情するかバカ、と返したくなるのをぐっとこらえ、潜望鏡破壊の犯人――犯犬の発覚という本来真面目な雰囲気が崩れそうになるのを何とか防ぐ。もう一歩。
「――待て」
「……何ですか」
やっと再起動したらしい。ローは相変わらず仰向けの犬を見つめているが、いくら突然の事態に混乱していたとはいえ先ほどの会話は聞こえていた筈だ。報告の内容からして悪魔の実の能力者の可能性もある。目的は間違いなく聞き出さなければならない。ハートの海賊団式尋問術でいえば、その時に体のパーツが繋がっているかどうかというのはあるが。
ペンギンに代わってローが一歩近づくと、犬はやっと佇まいを正してこちらを見上げた。白い帽子が犬の視点近くまで下がる。そして迷わずその首元へ手を伸ばし、触れんとした。
「オエェ~ップ!! ゲホッ、ゴホッ!」
聞き慣れない声。話す動物なんぞはベポで慣れているつもりだったが思わず驚く。ローもペンギンと同じ心境だったのか、近付けた手を素早く離した。するとその時、毛並みの隙間から鮮やかに輝き小さい何かがローと犬の間に転がり落ちた。
むせ込みながら、ころりころりと赤い煌めきがのたうつ。まさか先ほどの声はコレか、と理解すると同時にペンギンは、犬が単独ではないことに警戒を強めた。強めようと努力した。
「アマ公この、ウェップ、ゴホ、おえ、やめろォ!」
犬が前足で声の主を転がり回す。むせ込みとえづきの混ざった悲惨で小さな叫びがひゃあひゃあと響き渡った。右へ左へと往復する様は犬に玩ばれるボールそのものだ。「うわ……」「仲間にする仕打ちじゃねェ」「セミであれやってる犬みたことあるぜ。最後は食っ……」「それ以上言うなァ!」と途端に周囲の緊張感が霧散する。こればかりはペンギンも頬を掻くしかなかった。
「す、すまねェ助かった……! オイラは旅絵師のイッスン、この毛むくじゃらはアマテラス、大神アマテラスってンだィ」
終わる気配のない戯れに待ったをかけたのは結局ローだった。イッスンへ掌を被せるように庇い「やめてやれ」とたった一言。それだけで犬――アマテラスはあっさり引き下がった。
話を聞くに、野宿で夜を明かしたらいつの間にかグランドラインに迷い込み、ひとまず休める島を探していたというのだ。そこら辺を散歩していたら迷子になったみたいな感覚で新世界を彷徨う奴があるか、とツッコミどころ満載だ。
「迷子ってのは分かった。うちの船にぶつかったのはどういう了見だ?」
「船ェ?」
ローが後方を顎でしゃくる。横たえられた曲がった潜望鏡を何人かで整備していた。その光景を確認した途端に、ピカリと更に輝き、イッスンが焦ったように一際高く跳ね上がった。
「そ、それは……。コイツはちょいと好奇心が旺盛でなァ、その、……見たことがねェモンにはこの有り様だィ」
輝く豆粒というほど小さな姿はどのような見目なのかもまったく分からないが、項垂れて反省している様子がひしひしと伝わってくる。そんなイッスンを見下ろすローの口角が上がったのをペンギンは見逃さなかった。
「なるほど、事情は分かった。だが、好奇心で船を壊されちゃあ、うちも堪ったモンじゃねェ」
許す条件だ。沙汰を下さんとする静かな響きに、イッスンが唾を呑む。アマテラスは口を半開きに首をかしげており、感情が分からない。
ひとつめ、集落のある島を出るまでポーラタング号に乗ること。
ふたつめ、乗っている間はこちらの指示に従うこと。
それを聞いて、ペンギンはローがどうするつもりなのか理解するのは簡単なことだった。近くのクルーに、船で一番裁縫が得意な者の名を告げ、必要道具を準備するよう指示を出す。
ぽかんとした様子で一匹と一頭がこちらを見る。イッスンは呆然としているが、アマテラスは話自体を理解しているのだろうか。
次第に条件を理解して、そんなことでいいのかと喜び跳ねるイッスンを複雑な気持ちで見つめる。しかし、ローが決めた以上、従うのがクルーの務めである。この流れも予測した上での不埒な輩であれば、その時はその時なのだ。
決まりだな、と呟き、ローが鬼哭を担ぎ直した。
「おれはトラファルガー・ロー。ようこそハートの海賊団へ」
ローは彼らをクルーとして迎えいれるつもりだ。フライトキャップのツバを下げて、ペンギンはやれやれと大きな溜め息を吐いた。
アマテラス達はどのような場所にいようと、大神すら及ばぬ力で霞のように消え、問答無用でナカツクニへ帰るという現象を繰り返していることをローはもちろん、ペンギンをはじめとしたハートの海賊団は知らない。
最初の出会いであった、麦わら帽子の船長率いるピースメインの頭脳にこの海での立ち回りや相手に開示すべき情報のアドバイスを受けていることも。
それでも、この日ポーラータング号上に広がる空は新世界を渡ってきた中で最も澄んで、光明の輝く晴天だった。
ボツver.
「――待て」
「……何ですか」
やっと再起動したらしい。ローは相変わらず仰向けの犬を見つめているが、いくら突然の事態に混乱していたとはいえ先ほどの会話は聞こえていた筈だ。報告の内容からして悪魔の実の能力者の可能性もある。目的は間違いなく聞き出さなければならない。ハートの海賊団式尋問術でいえば、その時に体のパーツが繋がっているかどうかというのはあるが。
ペンギンに代わってローが一歩近づくと、犬は佇まいをと正してこちらを見上げた。白い帽子が犬の視点近くまで下がる。そして、迷わずその首元へ手を伸ばして白い毛並みを優しく撫でた。
「シロって名前はどう思う?」
「アンタちゃんと話聞いてたか!?」