今回はどうやらここで世話になるらしい。遠ざかっていくローの背中をイッスンは見つめた。どういう縁かは分からないがグランドラインへ迷い込む度にに海賊に出会う。ナカツクニ内でさえ、旅人といえば虚無僧にサザンカ姉妹、コカリと限られた者達だけだ。せいぜい単独か二人組。だが、この海では一味徒党となっている場合がほとんどだ。
漁師ならともかく何が一体、ここまで人々を海賊に駆り立てるのかとイッスンは不思議に思う。そうぼんやりと考えるイッスンにのんびりとした声がかかった。
「おれはベポ、よろしくね!」
大きな白熊である。ローと話していた時は、溺れ死にかけたことや、アマテラスのやらかしの言い訳に必死だったが、改めて見ると着込んだ熊というのはなかなかに異様な姿をしていた。そして、その体躯はネムリよりも大きく圧巻だ。
「デケェ……」
「えへへ、照れるなァ。でもおれより大きいクルーもいるんだよ」
後でみんなを紹介するね。うきうきとした様子でベポはアマテラスに話しかける。声を出すイッスンでなく、アマテラスに意識が向いてしまうあたり、神性の畏ろしさを感じる。アマテラスもふんふんと鼻を鳴らし、軽やかにステップを踏んでご機嫌だ。
「ベポ、はしゃぎすぎだ。あとはおれがやるからキャプテンのところに行ってろ」
「あ、ペンギンにシャチ」
ペンギンと呼ばれた男は、頭から足元へジロリとアマテラスを見下ろすと、体を屈めてずい、とこちらへ距離を詰める。その後ろからシャチがよう、と陽気に手を挙げた。
「キャプテンはああは言ったが、経緯が経緯だ。しばらくは見張らせてもらうし、艦内のことも制限させてもらう」
その声色には冷たさが滲む。イッスンの脳裏には、麦わら帽子――ルフィのところにいた毬藻剣士が思い起こされたが、船を破壊している以上、このような対応も無理もないかと考えた。
「ペンギンもこうは言っちゃいるが……そんぐれェこの船が大事ってことでさ、すまねェな」
「いンや、無理もねェ。コイツのお転婆でとんだ迷惑をかけちまった。マ、短い間よろしく頼むってンだィ」
定位置であるアマテラスの額でぴょこりとひと跳ねすれば、ペンギンはふん、と鼻をならした。そこへ、アマテラスがベロリと唾液で印をつける。
「うおっ!? テメェっ!」
「ああっ! ペンギン羨ま――じゃない、ガルチューだよ!」
落ち着け! スキンシップだ、と腕を振り上げたペンギンをシャチが押さえつけ、ベポが宥める。今までの居候先とはまた違って前途多難な予感だ。どうしたものか、とイッスンが頭を悩ませているとアマテラスがベポへ近付いた。
「うわ、おっとっと……?」
「あ?」
「ん?」
ベポの腰元の裾を噛み、ずりずりと二人から引き離す。たたらを踏みながらこちらへ振り向いたベポが、首をかしげた。アマテラスはようやっと口を離したかと思えば、向かい合って静かに座る。一瞬の間。
何かが間にぬたうつ。
「滝太郎……」
イッスンの記憶が正しければ、先日曇りヶ淵に落ちた極度にドジな知人を助けた際に足に食いついていたやつだろう。イワナ属なだけあって食べやすく、刺身はとろける舌触りで、もちろん焼いても揚げても美味い。海が身近すぎるグランドラインにおいては川魚は珍しいだろうが、それにしたって行動の突拍子がなさすぎる。そもそも、熊は肉餌袋が主流で――。
そこまで考えて、イッスンはやっとアマテラスの思惑を理解した。ベポに向ける視線は慈母然としている。そして、肉餌を切らしていたこと、秋のカムイに渓流で鮭漁をする緋熊の姿を思い出した。
物知りボインのロビンに教えてもらったこちらの第二言語が頭を過る。確か、こう言うのだ。
「す、すまねェ。ふぃっしゅおんりー、ってヤツだィ……」
びたり、びたん。滝太郎が甲板へ体を打ち付け、合いの手を入れた。神御用達の道具入れに入っていただけあって、まだまだ新鮮らしい。
「わあ~、おいしそう!」
「ベポォ! ちったァ現象を疑問に思え!」
「どこから出てきたんだコレ……」
警戒を解く道のりはまだまだ長そうだ、とイッスンは空を仰いだ。