ブルーアーカイブalternativetype 作:Ringseiran
平日の朝
まだ誰も来ていない対策委員会の教室掃除をしたり、書類整理をするのが俺の日課だ。
しばらくすればみんなも登校してきて、賑やかになるこの教室だが、俺はこの一人の静かな空間も嫌いじゃない。
朝の雰囲気は好きだ。少し冷たくて心地のいい空気と暖かい太陽の光、それははっきりとしていない意識を覚醒させてくれる。まだ少しの眠気を感じるが、じきに目も覚めるだろう。
こんなにのんびりとした思考は、一年以上前の自分では考えられない。誰も信用できず、ひとりで生きていく事しか知らなかった俺は、多くの学校を転々としていた。結局最後は行く所がなくなり、犯罪に手を染めようとした。それを止めてくれたのが、ホシノ先輩だった。俺は彼女に救われた。そしてこの学校に居場所をもらった。
アビドス対策委員会、副委員長、椎名スグル。
この肩書きが今の俺の全てだ。だから、この学校を銀行なんかに奪わせはしない。腹黒い大人に、利用させたりなんか絶対にさせない。
先日救援を要請した、連合生徒会捜査部シャーレ。自分達から救援要請をしておいてこう言うのも何だが、俺は正直その顧問の先生とやらを、まだ会ってもいないが信用していない。他に宛がないからしょうがなく頼ったまでだ。普段なら大人になんか頼らないし、頼りたくない。もし救援の要請が通って、先生がアビドスにやってきたとして、
「なにかあったら、その時は……」
腰に装備しているサブウエポンの拳銃に手をかけ、取り出し構える。
「おはようございま……って何してるんですか?」
「あ……お、おはようアヤネ、これはだな、ちょっとイメージトレーニングを……」
バッドタイミングでアヤネが入室してきた。別に拳銃のイメトレ程度普通のことだが。教室でやることでもないので不審がられただろう。
「教室で発砲しないでくださいね」
「しねぇよ!」
アヤネがジト目で言ってくる。俺はそんな学校の修理代が嵩むようなことは絶対にしない。というかアヤネは、俺のことを教室で発砲してもおかしくない奴だと思っているのだろうか。そんな不安を抱くが、彼女は表情を笑みに変え、
「冗談です、スグル先輩が誰よりも学校の備品や設備を大切にしているの知ってますから。もし発砲した日には保健室で休んでもらいます。いつも掃除してくれてありがとうございます」
天使がいた。笑顔でそんな事を言うアヤネはまさに天使だ。心なしか背中にはトリニティ生徒の様な白い翼が見える気がする。こんな優しい笑顔を向けられるなら、今まで早起きして学校の掃除をしていた甲斐があったというものだ。少し泣けてくる。
「Oh……my angel……」
「へ?」
「……何やってるのよ」
俺が両膝を着いてアヤネを拝んでいると、少し引いた様子のセリカが入室してきた。
俺はすぐ立ち上がり、セリカに挨拶する。
「おはようセリカ。なに、後輩の優しさを全力で受け取ってただけだ、気にしないでくれ」
「アヤネちゃん、スグル先輩になにしたの?」
「私はただスグル先輩がいつも掃除してくださってるから、お礼をしただけで……スグル先輩最近ずっと物資のことで思い詰めてたから、疲れておかしくなったんじゃ……」
なんだか後輩達から可哀想な者を見る目を向けられてる気がするが、気にしたら負けである。
「おはようごさまいまーす☆」
「おはよ~」
「あ、ノノミ、ホシノ先輩おはよ」
二人と雑談しているとみんな着々と集まって来きた。しかしシロコだけはなかなか登校して来ない。
「今日はシロコ遅いな、いつもなら俺の次くらいには来るのに」
シロコの口癖がそないあれば憂い無しなように、彼女はいつも朝早く登校している。だから最後になるのは珍しいのだが、なにかあったのだろうか。
「シロコ先輩なら下駄箱で会いましたけど、忘れ物したみたいで」
「へー、珍しいこともあるもんだな」
「でも、そろそろ帰ってくるんじゃない? シロコ先輩自転車超速いし」
彼女が忘れ物とは珍しいが、たまにはそういう事もあるだろう。
トタトタ、ガチャ
噂をすれば何とやら、シロコらしき足音が外から聞こえたと思ったら、すぐに扉が開かれた。
「ただいま」
「あ、おかえり、シロ、コ……」
帰ってきたシロコを見て言葉が詰まる。
なんと、彼女の背中にはぐったりとした様子の大人が背負われていた。
「うわっ!? 何っ!? そのおんぶしてるの誰!?」
「わあ、シロコちゃんが大人を拉致してきました!」
「まさか……シロコ、お前ついに……」
驚くセリカ。何故か楽しそうなノノミ。嫌な予想が頭をよぎる俺。
ついにシロコが一線を超えてしまった。こんな大人を拉致して来てどうするつもりだろう。身代金を要求するのか。はたまたこの人物自体に価値があるのか。真相はなんであれとんでもない事をしてしまったのは事実だ。一緒に罪を償おうか、それともいっそこのまま一緒に罪に染まろうか。いや、しかし俺は一度ホシノ先輩に犯罪に手を染めるのを止めてもらった身……
「拉致!? もしかして死体!? シロコ先輩がついに犯罪に手を……」
え? 死体なのこれ?
だったらそんなこと考えてる暇はない、急いで処理しなければ。
「みんな落ち着いて、速やかに死体を隠す場所を探すわよ! 体育倉庫にシャベルとツルハシがあるから、それを……」
「いや待てセリカ! こういう時は埋めるんじゃなく溶かした方がいいと聞いたことがある! 理科室に硫酸があるはずだ、それを使って…………」
よし溶かそう。すぐ溶かそう。今溶かそう。見たところ俺より大きいから時間がかかりそうだが、ここはアビドス。生徒は俺達6人しかいないので誰かに見られる心配はない。
「ほら……シロコ、早く死体をこっちに……」
シロコから死体を預かろうとするが、彼女は呆れた表情を浮かべ背中に背負った人を下ろした。そして、死体だと思っていた大人は、普通に立っている。
え? 生きてんのこれ?
恐る恐るボールペンの先っぽで、この大人の体をつつく。
「いや、普通に生きてる大人だから、うちの学校に用があるんだって」
シロコがそう言うと、さっきまで黙ってたその大人が元気よく挨拶した。
うん、俺めっちゃ失礼なことしたな。
安堵する皆の傍ら。溶かそうなどと言ってしまった分少し気まずいが、珍しい事にアビドスに用があるらしいこの大人を観察する。
俺より少し背の高い男性の大人。彼の頭にはヘイローが無く、生徒では無い事が一目瞭然だ。優しげな笑みを浮かべており、見たところ敵意は無さそうである。
「わあびっくりしました。お客様がいらっしゃるなんて、とっても珍しいですね」
驚きながらも、楽しそうなノノミ。しかしアヤネはそんな予定があったかと、疑問に思っているようだ。
俺も記憶を巡らすが、そんな予定に心当たりはない。
そもそも借金取りやヘルメット団を除けば、客人自体数ヶ月ぶりの訪問だ。そんな重大な予定があるなら絶対に印象に残って覚えているはずだし、朝確認した時もそんな予定はなかった。
だが、予定の心当たりは無くとも、彼が誰なのかという心当たりならある。
ほんの数日前の記憶。アヤネが見つけてきた、俺たちにとって最後の希望。
本音を抑えて、アビドスのために苦渋の選択をした記憶はまだ新しい。
おそらくは、彼がそうなのだろう。彼が
「シャーレの先生か」「シャーレの先生です、よろしくね」
to be continued……
※スグルは疲れています
次話からは平均5000文字くらいで書いていきます。書いていきたい・・・