東雲の空に鳴り響く聲は   作:亥露

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だいぶ人を選ぶ話を書いてしまったと自覚はしているんです。ただこういう話書いてみたかった!


彼女が彼らと歩む前
始まり、そして再会


 ハッと、目を覚ます。時刻は午後五時を回っており、まだ寝ていたいのにと嘆いても時既に遅し。私の脳は覚醒してしまって、最早二度寝は不可能となっていた。抑も今から学校に行かなければいけないのだから、二度寝している暇は無い。

 怠い。途轍もなく怠い。それは身体が怠いとか、頭が痛いとか。そのような病弱的不調ではなく、シンプルに面倒くさいのだ。抑もの問題、学校が好きな人間など居るのだろうか。そりゃ学校に極端に仲の良い友達が居るだとか、好きな人が居るだとか。そう言う人達は学校に楽しく行けるのだろう。然し残念。私には好きな人疎か、友達ですらも学校に居ない。否、居るは居るが、その子は全日制で、校舎で会える時間は、全くもって、これっぽっちも無いのだ。

 重い身体を引き摺りながら、身支度を始める。顔を洗い、歯を磨き、髪を梳かし、片方の横髪を三つ編みで結い、部屋に戻って制服に着替える。今は母も父も仕事に向かっており、弟も友人と何処かに行っている。つまり、此の家には私一人だけと言う事だ。

 そういえば昼飯を食べていないなと思いつつも、時計を見て絶望する。あぁ私の腹、授業中に鳴らないでよ。

 そう思い、私は玄関の扉を開ける。外はもう日が傾いており、空も橙色に変色していた。

 あぁ、嫌だなぁ。

 こういう時間帯には〝出る〟のだ。

 私は世間で言う()()()分類に区別される人物だ。幽霊とか、妖怪とか。幼い頃から見ては泣いていた。もう此の年になって慣れたのでなんとも無いが、なんとも無いだけで、何も感じないわけでは無い。

 いや、遠回しで言わず、端的に言おう。怖いのだ。そう、私、東雲絵名はそう言う物が苦手なのだ。苦手なんて物じゃ無い。嫌いなのだ。大っ嫌いだ。もう消えて欲しい。小さい頃は遭う度に夢に出てきたものだ。

 然し、遭遇すると言っても、出逢ったわけでは無い。正確にいえば見かけたが正しいか。何故かソイツらは此方を見るばかりで、近づこうともせず、ただ、ずうっと。なんなら此方を怖がっている様にも見える。何故か。

 只の臆病な妖怪なのか、はたまた私が怖いのか……いやちょっと待って。若し後者だとするのなら、それはとても不本意だ。私が一体何をしたと言うのだ。ただご飯を食べて絵を描いて勉強して買い物に行って寝ているだけなのに。普通の女子と変わらないのに。否、普通の女子ならそういうのは見えないか? 然し私に見えているという事は、他の誰かも見えている可能性は絶対0では無い。然し、弟の彰人は見えていない様である。目の前で妖怪が暴れ回っていた時も、目もくれずサッカーをしていたし。まぁ、見えていないから当たり前か。

 私はソイツらを避けることも無く、学校に着いた。校舎はシンっと静まり返っており、私の歩く足音だけが鮮明に響いている。コツコツ、コツコツと。不気味なほどに、反響している。まるで私一人かの様に。

 ‥………一人?

 嫌な予感がした。気がつくと私は廊下を全速力で走っていた。一つ一つ、教室を開け中を確認する。そして絶望したのだ。私は廊下の隅に蹲り、荒くなった息を整える。

 何故だ。

 如何してだ。

 有り得ない。

 何故()()()()()()()()居ない?

 休校な訳がない。弟は朝普通に学校に行っていたし、スマホのメールにも学校からは何もきていない。

 怖い。何か嫌な予感がする。取り敢えず一旦家に帰ろう。外はまだ明るい。家に帰って友人の瑞希に連絡をしよう。

 そう思い、私は外に出る。

 

 

 

 その時だった。

 

 

 

 

「……は?」

 空は黒く染まり、空気も湿って、まるで夜の様な静けさだった。

 先程まで明るかったのに。

「ちょ、なんなのよ! さっきから。」

 私は思わず叫ぶ。

 だって有り得ないんだもの。

 今までだって無かったんだもの。

 

「!!」

 何かが後ろから這いずってくる。ペタペタと足音を立てて。

「ヒッ……あぁ……」

 私は動けなかった。足が震え、腰が抜いてぺたりと座り込む。

 怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い。

 全身が恐怖に包まれる。今までだってそんな怪物を見かけた事はある。然し此方をじっと見てくるか、隠れるかのどれかだったのだから。

 でも、今回のは違う。

 しっかり此方を見て、殺意を持って近づいている。

 逃げなきゃ。

 動け。

 動け動け。

 そう思う度に、足が動かず、震えるばかり。

 あぁ、私はここで殺されるんだ。無意味に、不条理に。私が何をやったというのだろう。もっと絵を描きたかったのに。友達も、未だ誰一人として救えていないのに。夢も、叶えていないのに。

 気がつくと、瞳から冷たい何かが頬を伝い、地面に落ちて華を描いた。あぁ、涙か。こんな時でも涙は出るのね。

 少しずつ、私とバケモノの距離が近づいていく。恐怖は度が過ぎると逆に冷静になるんだと初めて知った。

 然し、ピタリと、バケモノは止まって此方をジッと見つめる。

 ……なんだ?

「ウ………アアァアァ?」

「?」

 目が、あった。バケモノの瞳に私が写り、反射していた。私、今ひっどい顔してる。今自撮りなんてしたらアンチコメントつきそうだな。っと呑気なことを考えていると、バケモノは奇声をあげて何処かに行った。

「アアアアァァァアアアアァァアアァァアアアァァァアア!!」

「は? ちょ、ちょっと!」

 バケモノの背中を見て呆気にとられる。なんなんだ一体。

 然し、バケモノの思惑は外れ、ある一言によって遮られた。

『爆ぜろ』

 瞬間。

 バケモノの身体は吹っ飛び、粉粉に砕かれ、血や肉はそこら辺に飛び散った。私の体にも引っ付き、腐臭が漂う。

 思考が追いつかず、ポカンとしていると、廊下の突き当たりから少年が出てきた。小柄で、口元を隠している男の子。真っ黒い服を着ている事から、此の学校の生徒では無いというのが明白だ。

 誰だ?

 少年は、此方を見ると、驚いた様に目を見開いた。

 いや、驚きたいのはこっちの方なんだけど。

「……あのぅ? 大丈夫ですかぁ?」

 あまりに静止するものだから、思わず声をかけてしまった。いや、逆だろう。何故倒したこの人では無く私が心配をしているのだ。

「しゃ、しゃけ」

 ………は?

 しゃけ? しゃけって、鮭の事? なんで? 此処は「はい」とか「大丈夫」とかじゃ無いの? なんで此処で鮭? お腹空いてんの?

 等々。疑問が頭に浮かんでは消えてくれなく、増えるばかりだ。

「いくら、たらこ、ツナ!」

「は? え? ちょっと! いきなりおかずの名前言われたって分かんないわよ! 何?お腹空いてんの!?悪いけどお菓子もなんも持って無いわよ! 有ったら私が逆に食べたいわ!」

「おかか!」

「だからわかんないって!」

 私は思わず声を荒げてしまった。だって分からないんだもの。急におかず言われたって、彼が考えている事とか、何を言いたいのか一切合切伝わって来ない。

 私が困り果てていると、何処かしらから爆発音が響く。上の階からだ。

「な、今度は何!?」

「小松菜!」

「なんて!?」

 私は様子を見に上に行こうとすると、少年に止められた。

『此処にいろ』

 そう言っている様に見える。私は訳が分からずその場に立ち尽くすしか無かった。少年は其の儘走りだし、先程まで見えていた背中は、もう見えなくなっていた。

 此処に居ろったって、一体どうすれば良いのだろうか。

 次々に爆発音が響き、その度に地面が揺れる。その音で彼が苦戦しているのは明らかだった。

 此の儘では彼は死んでしまう。

 私の知らない所で。

 そんなの。

 絶対許さない。

 私は決死の覚悟で走り出す。我ながら馬鹿な行動だとは思う。漫画でよくあるだろう。でしゃばったヒロインが、逆に足を引っ張る事。多分、私は今からそれをする。

 それでも、どうしようも無いのだ。

 此の儘では、東雲絵名で無くなってしまう。東雲絵名が亡くなったしまう。

 勝機はないわけでは無い。幼い頃に、母に二度と使うなと言われた事がある、ある〝力〟。

 私もあれ以来使っていないし、今此の瞬間まで忘れていた。

 でも、それで彼を助けられるのなら、使いたい。

 ごめんお母さん。今回だけだから。

 私は二階に上がり、少年の方へ向かう。

 少年は口から大量の血を流し倒れ込んでいた。幸い死んではおらず、瀕死だった。バケモノは此方に気付いておらず、少年に攻撃を続けている。

 大丈夫だ。

 よく観ろ。

 私はアイツを如何したい?

 如何なって欲しい?

 私は手を前に出して其の儘ゆっくりと力を込め握り締める。ゆっくり、ゆっくり。

 目が熱くなっていくのがわかる。そうして熱い何かが頬を伝う。涙では無い何かが。

 私が握り締めるタイミングでバケモノは捻り、絞り、私の指の裏が手のひらにつく頃には破裂し跡形もなく消え去った。

 よかったら。久々だけど上手くいった。

 地面には真っ赤な跡がついていた。あぁ、さっきの雫は血だったのか。目から血って、どんなファンタジーよ。

 私は目を拭い、彼の方を見る。瀕死な状況で、意識もないらしい。私は急いで駆け寄り、もう一つ、自分に出来る事をする。

 今度もうまくいって。

 両手を使い、彼の傷を癒していく。手からは青い炎が出て、彼の傷は治っていく。これがなんなのか、私には全然分からないが、彼が治るのならなんだっていい。

 幼い頃に、母に見せた事がある。

 見て。

 凄いでしょって。

 然し母は褒めるどころか、涙を流し、

 もう使うなと。

 泣いて懇願された。

 幼い私にはそれがショックだったらしく、それ以来使っていない。彼が来るまで、彼と出会うまで忘れていた。

 母に迷惑をかけたく無かったから。

「……うぁ?」

 傷が癒えたのか、少年は目を覚ます。体に異常は無いらしく、眠そうに目を擦っている。

 良かった。

「えっと、大丈夫?」

「……しゃけ」

 うん。分からん。

 もしかしたら何か事情があってこんな喋り方なのか? 考えれば考えるほどわからなくなってくる。

「すじこ」

「え?」

 突然手を握られ、手のひらに何か書かれた。

『ありがとう』

 そう書くと、彼はにっこりと笑った。その時、私の心臓が跳ね上がるのを感じた。これは断じて恋では無く、ただこういう美形に慣れていないだけだから。本当にそれだけだから。

 

 

 

「あれぇ。棘もう終わってんじゃん。さっすがだねぇ」

 

 

 後ろから声がし、振り返ってみると、目隠しをした白髪の大男が此方へ近づいてくる。

 不審者だ

 完全に不審者だ。

「棘もなかなかやるねぇ。無傷で倒すなんて。しかもこんな可愛らしい女の子も守って。もう王子様じゃん」

「おかか。」

「あれ、違う? なんだ。……へぇ、成程。そういう事か。」

 その男は此方を見てニヤリと笑い、跪いて手を差し伸べる。

「こんにちは。東雲絵名さん。うちの生徒を助けてくれて如何も有難う」

「は?なんで名前……」

「そりゃ知ってるよ。」

 頭にハテナが浮かぶ。

 なんでこの人、私の名前知ってんの?

「僕は五条悟。こっちは高校二年の狗巻棘。君と同い年だ。仲良く出来ると思うよ」

「はぁ」

 仲良くって。多分これから会う事も無いし、関わる事も無いのに。狗巻と呼ばれた少年は「しゃけ」とガッツポーズをしていた。見た目と反して若しかしてノリがいいの?

「先ずはこれからついてきて貰おうか。おいで」

「? おいでって何処に?」

「君も知っているだろう? 東京都立呪術高等専門学校さ」

 東京都立呪術専門学校。名前だけは聞いた事はあった。なんか宗教系の学校だとか。正直胡散臭い。先ず宗教って所がもうダメだ。元来私は神だのなんだのを信じるタチではない。

 然しだ。

 若し私の此の力の正体を知れるとしたら。何故母があそこまで拒絶したのか。

 知りたい。否、知らなければいけない。自分が何者なのかを。

「分かりました。行きます。」

「よし、決まりだね」

 そう言い、私は五条さんと狗巻君の後について行った。

 

 

 

 それが本当の地獄であるとは知らずに。

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