東雲の空に鳴り響く聲は   作:亥露

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分類されたものは、出遭うべきでは無かったのだ。

流血表現があります。注意してください。


暴走戦篇
恐怖の幕開け


 「は?任務?」

 「そう。夕方には返って来れると思うから。」

 私は真希にそう告げ玄関でブーツを履く。そして其の儘玄関框に座りハーッと息を吐いた。

 今回の引率は五条さんや伊地知さんでは無く、別の人が代理で行くと言っていたが大丈夫だろうか。私が。足手纏いにならなければ良いのだが。いや、ならない様に頑張るんだ。ただでさえ私は新人なのだから。

 「……おい。任務終わった後空けとけよ。」

 「え?別に良いけど。どうしたの?」

 「良いから空けとけ。」

 「えぇ……。」

 真希の言葉に困惑する。理由を話してくれないと分からないじゃない。まぁ空けとくけれども。じゃあ生きて帰らないとね。

 スマホを取り出し連絡事項を確認する。すると其れを見計らったか如く五条先生からの通知が来ていた。

 

 『絵名へ。今日の任務は一級術師の奴に同行してもらうから。十一時に校門で待ち合わせね。頑張れ〜。』

 

 時刻を見てみると十時五十分。そして連絡が来たのは二分前。

 ふんふん。成る程そういう事。

 

 

 

 

 「そういうとこよ五条悟ー!!!!」

 

 

 

 

 私の叫び声が山に響き辺り反響していた。確かこう言うのはやまびこというと聞いた気がする。然し私はそんな事は無視して掛け出す。真希はポカンとしていたが、構っている暇は無い。此の広い高専内部。当然寮と校門は途轍も無く遠い訳で、私はダッシュで向かう。気心の知れた相手だったらまだ良い。私だって何度も遅刻した事はある。然し相手は恐らく初対面。然も一級呪術師。下手したら殺されるかも知れない。

 道中の石や段差に躓きながら走る。呪術師を初めて数ヶ月。こんなに猛ダッシュをした事は無い。これが火事場の馬鹿力という奴か。

 そして校門前に着くと、あるスーツの男性が立っていた。背筋をシャンッと伸ばしていて、正しく大人って感じだった。其の男性は此方に気付いた様で、無言で此方に近づいて来る。

 「お久しぶりです。お嬢。貴女は覚えておられないかもしりませんが七海建人と申します。」

 七海さんと言った人は、此方にピッタリ九十度のお辞儀をした。とても丁寧な人なのだろう。

 「不出来だと思いますが今日は宜しくお願い致します。」

 何を言う。不出来なのは私の方だ。数ヶ月前に呪術師を初めて日が浅い。そんな私と、一級呪術師で、然もキャリアもある七海さんとは実力が天と地程の差があるだろう。

 然し私は頭を上げてくださいとも、謙遜も今は言える状況に無かった。

 「……お嬢?」

 七海さんは異変に気付いたのか、先ほどまで垂れていた首を上げ、私の顔を見た。そして校舎がある山の上と私を交互に見つめる。

 「真逆彼処から此処まで走って来たのですか。」

 「‥………………。」

 私は七海さんが頭を下げて挨拶をしてくれている間もとても大きな息切れをしていた。心の底から申し訳ないが、止めようとしてもまた止めようとする事に労力を使い息切れという悪循環に見舞われる。汗もダラダラ流し髪にへばりつく。

 腰を曲げながら顔を上げる男と息切れをしながら汗を流して立っている女が互いに無言で見つめ合うという混沌極まりない光景が其処には広がっていた。幸い平日の真昼間なので通行人一人居やしなかったが、見るものにとっては漫才より滑稽な姿だ。

 「………………東雲絵名です。」

 か細かったと思う。自分でも何を言っているのか分からない音量だった。息切れを振り絞り出した声は七海さんに届く事はなく、ただ無言で見つめられていた。

 私はあまりの疲労に足を動かす事が出来ず、然しなんとか力を振り絞りポケットから財布を取り出し二百円を出して七海さんに預ける。

 「……これは?」

 私は右方向に指を指す。其処にはポツンと自動販売機が置かれていた。七海さんは悟ったのか、其処に行き何かを買った。そして持って来たのはキンキンに冷えた水だった。私は其れを受け取り一気に飲む。するとさっきまでの息切れはだいぶ治り、なんとか声を出せる様になった。

 「すみません。なんかパシリみたいな事をやってしまって。」

 「いえ。お気になさらず。どうせ五条さんの所為でしょう。」

 ズッパリと言い切った。事実なのだが、こうも決めつけられるとは。どんだけ信用が無いのよ。五条先生。

 「えっと。東雲絵名と言います。今日は宜しくお願いします。」

 「此方こそ本日は宜しくお願い致します。」

 二人して頭を下げる。なんだろう。向こうが凄く礼儀をしっかりした人だからこっちもしっかりしなくちゃいけない様な気がする。

 私はさっきの七海さんの発言に少し違和感を覚えた。

 そういえばさっき私の事お嬢と呼んで居なかったか?

 「其れでは行きましょうか。時間が惜しいです。私は残業をしたくは御座いません。」

 「は、はい。」

 「其れと敬語は入りません。東雲家のご令嬢ともあろうお方が立場は下の人間に敬語を使うとなると示しがつきません。」

 「立場って……。」

 そういえば忘れて居たが確か東雲家は呪術界の総括と五条先生は言っていた。最初は嘘かと思ったが、そんな嘘をついても五条先生には何もメリットは無い。こういう風に言われると益々東雲家は凄い所なんだなと実感する。

 然しだ。今の所東雲家の当主に会ったことは無いし、そもそも其の本家が何処にあるのか私には分からないため、立場とか自覚とかが難しいのが正直な所だ。

 「分かったわよ。じゃあ宜しくね。建人。」

 「はい。」

 でも此の人の言うことはなんか説得があり、そうしなければいけない感情に押される。此れが大人か。五条先生とは大違いだ。

 若し其の当主と会うとなったら如何なるのだろうか。少なくとも良好な関係は築けなそうだ。恐らく向こうも家を飛び出した私達の事を許そうとはしないだろうし、私も彰人を殺そうとしたと聞いて好感度は高くは無い。

 「お嬢?」

 「ん?あぁなんでも無い!行こ?」

 あるかも分からない未来を想像して如何する。今は目の前の問題を解決しなければ。

 私はそう思い歩き出す。

 「お嬢。」

 「何よ。」

 「道反対です。」

 目の前の問題が山積みでめげそう。

 

 

 

 

 

 

 

 ————

 時間を早送りにして同日夕方。真希と狗巻は昨日の公園に来ていた。昨日の少女と待ち合わせだ。然しまさか真希達も絵名が任務だとは思っても見なかった。よくよく考えてみたらそうだ。絵名は東京校唯一の一級だ。暇なはずが無い。唯一の救いは夕方迄に帰って来るという事だろう。

 今日は日差しが強く、黒い服を着ている二人は服に熱が籠り暑がっていた。

 「あちぃ……まだかよあいつら。」

 「おかか。」

 「あ?まぁ確かに待ち合わせ時間にわはなってねぇけどよ。木陰もあちぃし。早く来てくんねぇかな。」

 真希は暑さでイライラしていた。今日に限ってこんな日差しが強く無くたって良いだろう。そう思いながら買ったばかりの缶ジュースを首に当てる。狗巻も狗巻で口元を布で覆っている為、口が蒸れて仕方がない。

 乙骨は別の任務だそうだ。残念がっていたが、緊急に決まった任務の為、断る訳にもいかず、其の上乙骨は特級という事で引っ張り凧なのだ。然し特級と言うのは賞賛では無く、『単独で国家転覆が可能な者』と言う、所謂烙印の様な者だ。

 だからだろうか。絵名が一級なのは。若し絵名が特級だとしたら、『東雲家の人間が国家転覆をすると考えているのか』と言う事になる。其れが東雲家にしれたら処分どころじゃ済まないだろう。

 

 「あの…。お待たせしました。」

 真希と狗巻が暑さで項垂れていた所に丁度良く昨日の少女が現れた。いや、昨日の少女だけじゃ無い。後ろには桜色の髪をした人と紫の髪をしたセーラー服の人が追加されていた。

 「いや、そんな待ってねぇよ。」

 「え?絶対嘘じゃん……。」

 真希が汗だくでそう言うと、桜色の少女(?)が突っ込んだ。然し真希にはツッコミに突っ込む元気もない。

 「どうも!暁山瑞希です!宜しくお願いしまーす。」

 「朝比奈まふゆです。今日はお忙しい中時間を割いていただき有難うございます。」

 桜色の少女とセーラー服の少女の順に自己紹介をして来た。全然タイプが違う二人が一緒にいるとは、世間とは分かったのもではないなと真希は思った。其れを言ってしまえば真希と乙骨もそうなのだが。

 「禪院真希。コイツは狗巻棘。」

 「宜しくお願いします。」

 「で?」

 「え?」

 狗巻と真希は昨日のジャージの少女を見る。よくよく考えてみたらこの少女の名前を知らない。昨日引き止められてから此処までこの少女は自分の名前を名乗っていないのだ。

 少女もそれに気付いたらしくなっ慌てふためいていた。

 「よ、宵崎奏です。」

 「え?まさか奏名乗ってなかったの?」

 「もう、ダメだよ奏。人と話す時は先ず自己紹介からしなきゃ。」

 「う……ごめん。」

 真希は時間を見る。そろそろ帰って来ている時間か。大丈夫か?怪我とかしていないか?等、真希の脳内に心配事が浮かんでは消えていた。

 信じるんだ。絵名を。彼奴はできる奴だ。

 「……禪院さん?」

 まふゆがそう聞いて来た。恐らく怪訝な顔をしているのがバレたのだろう。真希は「おう?なんだ?」と返していたが、誤魔化しにもなっていなかった。

 「大丈夫ですか?やっぱり今日は都合が悪いとか……。」

 「心配ねぇよ。つーか私を苗字で呼ぶんじゃねぇ。」

 「あ、ごめんなさい。」

 まふゆは申し訳なさそうに謝った。三人の間に微妙な雰囲気が流れる。狗巻や他の術師は日常茶飯事の事だが、一般人からしてみたらきつくみられるのだろう。然し狗巻には弁解する術がない。

 狗巻がどうしようかと唸っていると、公園の出入り口に黒い車が勢いよく止まった。何事かと思い其方を見ると、中から見知った人間が出て来た。

 「伊地知さん?どうしたんだよ。こんな所で。」

 真希がそう聞くと、伊地知は顔を青くして説明した。ただ事では無さそうだ。

 「すみません!真希さん!狗巻術師!至急応援です!

 

 

 

 

 

 絵名さんがやられています!」

 

 ドッと真希と狗巻心臓が飛び跳ねた。恐れていた事態が今正に起こったのだ。

 なぜ?あの絵名が?

 「あの?やられるって何ですか?」

 奏は訳が分からずそう聞いた。それもそのはず。まさか自分の友人が危険な所に身を置いていると考えないからだ。

 「お前らはもう帰れ。悪いが約束は保留だ。」

 「は!?どう言う事ですか!?」

 瑞希はそう聞くが、真希は怪訝な顔をするばかりで答えてはくれない。

 「伊知地さん。場所は何処だ。」

 「すぐ近くです。行きましょう。」

 真希達が駆け出そうとした瞬間、何かが上からドロっと垂れて来た。

 彼等は此れをよく知っていた。

 

 

 

 

 「は……?帳?」

 辺りは真っ暗になり、異様な雰囲気に包まれた。奏達は訳が分からずお互いに身を潜めた。何が起こっている?絵名の身に一体何が?

 考えれば考えるほどに奏達の頭は混乱した。

 すると突如近くのビルが爆発し、こちらへ何かが飛んでくる。すると目の前にどさっと黒いものが落ちて来た。

 其れは………。

 

 

 

 

 「は?……絵名?」

 其れは右手と左足、おまけに脇腹を抉られた絵名が、物が如く横たわっていた。

 最低で、最悪な事態が幕を開けてしまったのだ。

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