東雲の空に鳴り響く聲は   作:亥露

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眠っていた眠り姫は、王子のキズで目を醒ますのだ


目覚めてしまった眠り姫

 ————数分前。

 

 「……本当に此処なの?」

 「はい、此処です。」

 「本当に入るの?」

 「じゃなきゃどうやって祓うのですか。」

 「あ、はい。」

 私達はある廃ビルの目の前にいた。其れは禍々しい雰囲気を纏っている。

 居る。これは居る。

 私は背筋が凍るのを感じた。

 「………貴女本当に一級ですか?」

 「喧しいわよ!」

 コイツ。さっきは凄く私の事慕ってそうだったのに、今じゃ哀れみの目を向けやがって。思いっきり私の事馬鹿にしているじゃない。

 私は意を決して中に入る。其処はとても冷えていて、日差しが強い今日とは思えない寒さだった。幽霊が居る場所は冷えると言うが、此れが良い例だろう。いや、幽霊では無く呪霊なのだが。

 カツカツと足音が辺りに響き反響する。矢張り大人の建人と子供の私では重量が違うのが少し面白く、気を紛らわす為に足音を揃えてみたり、なんなら足を出している方向を同じにしてみたりと遊んでいたら、建人はそれに気付いたらしく、急に立ち止まってしまった。私は建人の真後ろを歩いていたので大きな背中にゴンッと顔面をぶつけてしまった。

 いや何か当たったんだけど。背中に。硬いものが。背中に何仕込んでいるの。

 「……何をされておられるのです?」

 「えっと……足音を揃える遊び?」

 沈黙が流れる。え?若しかして引かれた?

 私がワタワタと焦っていると、建人は「そうですか。」と其の儘前を向いて歩き出した。何だったんだ。

 此処は電気も通っていないので、階段で上がるしか無く、三階に着いた頃には私は息切れを起こしていた。そしてまた建人に哀れみの目を向けられるという地獄のやり取りをしていた。

 「居ますね。」

 「そう……ね……ゼェ……ハァ……。」

 「大丈夫ですか?それで戦えますか。」

 「アンタさっきから五月蝿い。」

 四階にたどり着き、身構える。廊下の奥から呪力を感じる。

 「覚悟は良いですか?」

 「えぇ、いつでも行けるわ。」

 私は目を凝らす。視力は良い方なのだ。然し廊下の一番奥を見ても呪霊の姿は見えなかった。部屋の中にでも入っているのか?

 シュルリと私の足に何かが絡みつく感覚がした。デジャヴだ。

 下を見てみると、地面から何かが出ており、私の足に絡みついていた。其れはどんどん膨れ上がり、ミシミシと音を立てている。

 まさか……。

 「建人!!」

 私は出来る限りの力を振り絞り建人を押す。建人はバランスを崩したのか、扉を破って倒れてしまった。

 「お嬢!」

 その瞬間、その膨れ上がった何かは爆発し、私は吹き飛ばされた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 「そして紆余曲折あってその結果が此方となります。まさか建人が伊地知さんに電話で連絡していたなんてね。」

 「うわぁァァ!!!!」

 私が説明すると、真希は叫びながら尻餅を付いていた。何をそんな亡霊でも見るような目は。

 血はもう止まっていて、もう私は達磨状態だった。正確には血が止まったとかでは無く、切れ目の肉を伸ばして傷口を固定しただけだ。因みに意図的に神経線を切っていたので痛みは殆ど無い。感触も今のところ無いが。

 目の前に何かか落ちて来た。

 

 「バクはつ?……デキナィ?ナンデ……?」

 

 呪霊だった。

 私は反転術式で腕と足と脇腹を再生して立ち上がる。神経線も修復し、自分の足を叩いて確認する。

 うん。感覚がある。

 このやり方を教えてくれたのは高専に偶々来た金髪のお姉さんだが、これはまた別の機会で説明しよう。

 先ずは此の呪霊だ。

 

 「……絵名?」

 

 見知った声がして、振り返ってみると、其処には居てほしくない人物が三人居た。

 「奏?……其れに瑞希にまふゆも。……何で?」

 冷や汗が出た。

 何故みんなが?バレた?何で?此処に何でいるの?どうして?

 そう考える間も無く呪霊は目の前に迫って私を吹き飛ばす。

 「絵名!」

 「真希!狗巻君!取り敢えずみんなを守って!」

 私は空中で体勢を変え街灯の上に着地する。危なかった。あと一歩ズレてたら落ちてた。

 建人はどうした?まさか殺して来たなんて事はないでしょうね?まだあのビルに居るの?

 取り敢えず街灯から降りて呪霊を見る。爆発系の呪霊か。

 さっさと済ませてしまおう。建人も心配だし。

 私はジッと見つめる。大丈夫。あれから相当訓練をしたし、行けるはず。

 然しそいつは何を考えたのか、右に思いっきり逸れた。

 拙い。そうなれば標準が定まらない。

 「………え?」

 思ったより奴は素早く、いや、素早いだけならどんなに良かったか。其奴は目にも止まらぬ速さで帳の隅へ移動していた。

 

 

 

 手を真っ赤に濡らして。

 すると真希の側に居た奏はどさりと倒れた。

 奏の身体から赤い液体が流れる。左の肩から胸元にかけて千切れており、奏は叫び声を上げる間も無く気を失っていた。

 

 

 

 

 「奏ぇぇぇぇ!!!!!」

 私は呪霊など無視して駆け出した。瑞希とまふゆも奏の側で奏の名前を叫んでいた。

 こうなるから離れたのに。こうなりたくないから関係を絶ったのに。

 嘘だ。

 嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ。

 

 

 

 

 

 その瞬間。私の中の何かがプツンと切れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 絵名は目を見開いて宵崎の側で佇んでいた冷や汗をコレでもかとかき、手をプルプルと震わせていた。地面で暁山と朝比奈は泣き叫んでいた。

 其れは私も同じだった。絵名に任されたのに守りきれなかった。呪霊の攻撃を良しとしてしまった。

 呪霊は私達の気持ちを無視するかのように此方へ向かってくる。私は袋から大刀を取り出し構える。棘も口元のチャックを下に下げ戦闘体勢を整えていた。

 せめてコイツを祓わなければいけない。そう本能が叫ぶ。

 然し………。

 

 

 

 

 「五月蝿い。」

 

 

 

 

 絵名は手で呪霊の頭を握り潰していた。いつの間にか宵崎の腕は再生していて、絵名の上着が被せられている。

 呪霊は握り潰しただけでは祓われず、遠くに避難していた。先程同様目にも止まらぬ速さで。

 「絵名!」

 「真希。狗巻君。さっきと同じく奏達を守って。」

 

 ————これは命令よ。

 その発言に、ぞわりと背中に何かが走る。私と棘は半ば本能的に宵崎達の方に向かった。

 これは——。

 

 呪霊はその殺気を感じないのか、先程同様音速で此方へ向かってくる。絵名にぶつかると思ったが、絵名はその呪霊の手足を術式を使い文字通り捻り潰し、呪霊は無常にも地面へ転がる。絵名はその呪霊を弄ぶ様に足で踏んでゴロゴロ転がす。

 その時、ビルから走って七海サンが来た。その表情は焦っていて、セットしていた髪も崩れている。

 「遅れてすみません。お嬢……は……。」

 「あぁ、見ての通りだよ。」

 絵名の姿はあまりにも恐ろしく、高圧的で、禍々しい。姿形こそは変わっていないが、雰囲気が恐ろしいのだ。

 今の空間は絵名の快不快のみであり、私達でも絵名に不快な態度を取ったら絶対殺される。

 

 東雲家の本能。

 天上天下唯我独尊。

 それに足りうる恐ろしさ。

 友人の傷を皮切りに、

 その眠っていた(本能)が目覚めたのだ。

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