東雲の空に鳴り響く聲は   作:亥露

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貴女だからこそ、全力で。


己に出来る事

 「今から言う事をして下さい。」

 七海はまふゆと瑞希に向かってそう言う。

 「先ずこの人を此処の病院に連れて行ってください。大丈夫です。此処の病院は呪術師関係の病院ですので。そしてその後に呪術高専に行って五条悟と言う人と日下部篤也と言う人を呼んできてください。七海建人という人が呼んでいると言えば分かります。出来ますか?」

 「はい!」

 「伊知地君は乙骨君達を呼んできて下さい。総力戦です。」

 「七海さんは如何なさるんですか?」

 「私はあの子達の加勢をします。」

 七海はそういうと立ち上がり真希達の方に行く。

 「さぁ早く行ってください。時間がない。」

 三人は七海の言葉と共に駆け出す。伊知地は車に乗り、まふゆと瑞希は奏を抱え走った。

 「ねぇ、大丈夫かな?絵名。」

 「……分からない。祈るしかないと思う。あの人達が止めてくれる事を。」

 まふゆと瑞希は走りながらさっきの事を考える。あの笑いながら人を殴っている絵名を、楽しそうに呪いを祓っていた絵名を。

 瑞希は走っていた足を止めた。まふゆも止めて瑞希の方を見る。其の目には涙を溜めていて顔も顰めていた。

 「なんで……こうなっちゃったのかな……。ボクはただ絵名に会いたかっただけなのに……なんで……?」

 会う事も許されなかったのか?会って会話する事が烏滸がましかったのか?絵名は平たく言えば良家のご令嬢。端から瑞希達と絵名では生きる世界も立場も違うのだ。

 然しそうだとしても、それはあまりに悲しくはないだろうか。会う事も、喋る事も許されないのでは、あまりに厳しく、悲しく寂しい。

 『……まふゆ、瑞希。大丈夫?』

 まふゆの携帯に、ホログラムでツインテールの少女が浮かび上がった。

 初音ミクだった。

 ミクは心配そうにまふゆ達を見つめる。

 「……大丈夫だよ。ミク。心配しないで。」

 まふゆはミクに心配をかけまいとそう言った。

 そう、自分たちは大丈夫なのだ。問題は絵名だ。公園からだいぶ離れてしまったが今如何なっている?

 瑞希達が佇んでいると、背後から見知った声が聞こえた。

 「あれ?瑞希?如何したんだい?こんな所……で……若しかして泣いているのかい?」

 其の声の主は瑞希の昔馴染みの神代類だった。ショーの練習の帰りだろうか、荷物を肩にかけていた。

 そう言えば類はみんなを笑顔にする為に頑張っているんだったなと瑞希は思う。みんなを笑顔にする為に自分が出来る事を精一杯やる。類の場合睡眠も削り食事も削り、日中ショーの事を考えている。

 

 自分に……出来る事……。

 瑞希は涙を拭い、抱えていた奏でを差し出す。

 「類!お願い!この子を駅前の病院まで運んで!」

 「え?如何いう事……。」

 「説明は後!時間がない!」

 瑞希は半ば強引に類に奏を押し付け走り出す。それに続く様にまふゆも走る。抱えていた重力がないので先程より速く走れる。奏はきっと類が安全に病院まで運んでくれるだろう。大切な友人は、一番信頼できる人に預けたほうがいい。

 「まふゆ!呪術高専までどれくらい!?」

 「後もう少しだと思う。でも居るのかな?もう夜だけど。」

 「居る事を祈るしかないよ!」

 がむしゃらに走った。もう走りすぎて今出しているのが右なのか左なのか分からなくなってきたと瑞希は思う。

 どれくらい走っただろうか。都立呪術高等専門学校と書かれた看板の前でまふゆと瑞希は息を整える。

 「着いた……けど……ハァ……これ、勝手に中に入って良いの……?」

 「分からない……。でも入んないと何も出来ないと思う。」

 でかい門の前で立ち尽くす。入らなければ何も始まらない。然し瑞希達は底知れぬ(プレッシャー)を感じていた。それはこの高専内部からであり、まるで瑞希達の侵入を拒んでいる様だった。

 

 

 「おい。あんたらこんな所で何やってんだ。」

 いつの間に後ろに居たのだろうか、黒い服を着た男の人が顔を顰めて立っていた。

 「其の制服……神山高校と宮益坂女子学園か。呪術高専になんか様っスか。」

 まふゆと瑞希は目を合わせる。彼が着ている制服は絵名が着ていた服と同じなのだ。

 「あの、此処に五条悟って人と日下部篤也って人居ませんか?」

 瑞希は息を整えて聞いた。すると男は驚いた様に頷く。

 「居ますけど……何の用ですか。」

 「七海さんに呼んでこいって言われたんです。」

 男はまた目を見開く。心当たりがある様だ。

 「……緊急事態ですね。」

 「はい!」

 そう聞くや否やスマホを取り出し何処かに電話をかけた。

 「もしもし五条さん。……今そういう冗談良いですから。実は緊急事態でして直ぐに校門に来てくれませんか?日下部先生も連れて。……はい。今すぐです。じゃあ待ってますので。」

 男はピッと電話を切ると、瑞希達の方に向き直る。

 「あんたら名前は?」

 「朝比奈まふゆです。こっちは暁山瑞希。よろしくお願いします。」

 「伏黒恵です。わざわざ此処までありがとうございます。」

 お互いに自己紹介を簡潔に済ませ、事の内容に入る。恵にはこの状況を知る義務があるのだ。

 「一体何があったんですか?」

 「実は————。」

 

 

 

 

 

 まふゆから発せられた言葉は恵には理解が出来なかった。いや、理解したくは無かったのだ。あの東雲先輩が?何故?暴走?

 考えれば考える程に頭は混乱して収束がつかない。

 恵がそうしていると、近くの街頭の上に五条悟が飛び乗ってきた。日下部はというと丁寧に校門から走ってきたらしく、息を切らしていた。

 「めっぐみ。緊急事態って如何したの?あれ?可愛い子ちゃん連れてる〜。」

 「揶揄わないで下さい五条先生。後大変な事になりましたよ。」

 五条は街灯から降りてまふゆと瑞希に挨拶をしている。二人は目隠しをしている五条を怪訝な顔で見ている。当たり前である。どこから如何見ても不審者なのだから。

 「大変な事って?」

 「東雲先輩が暴走したらしいです。」

 明らかに五条の動きが止まった。そうして先程まで纏っていた気の抜ける雰囲気から一変、緊張が走る。」

 「………そんなに拙いんですか?」

 少し間を置いて瑞希は質問する。自分たちも見ていて拙いと思ったが、それは友人というのが大前提としてあって、呪術界でどのくらいの重要度なのかは全然知らない。

 五条は声のトーンを低くして答える。

 「拙いなんてものじゃない

 

 

 

 

 

 

 

 地球滅亡するよ。」

 

 

 

 

 ————

 「クッソ………!」

 「攻撃するどころか、近づけやしねぇ!」

 乙骨とパンダは何とか拘束しようとするも、吹き飛ばされたり、押し潰されたりして距離を縮めるどころか、更に遠くなっていく。

 数ヶ月でこうも成長するのかと乙骨は少し関心にも似た気持ちになる。初めて一緒に任務に行った日はまだ足取りも(つたな)く、体の動きもままならなかったのに、今目にしているのはまるで呪いの猛者を相手しているかのようだった。

 特級呪術師でもこのザマだ。

 せめて五条が居てくれればと願わずには居られなかった。

 『止まれ!!』

 狗巻は乙骨に渡された喉薬を飲み応戦する。

 其の結果見事動きを止める事に成功した。

 「ぅっしゃ!」

 パンダはそれを見計らい一気に距離を詰める。そうして絵名の背後に回って脇を押さえた。

 「七海今だ!」

 七海は自分の術式を使って攻撃を開始する。

 然し絵名はあろう事か足を使って七海の左頬を切り飛ばし、吹き飛んだ七海はトイレの塀にぶつかった。

 パンダは拙いと思い距離を取ろうとするも、其の儘一本背負をされた。パンダは其の刹那、そういえば最近絵名は夜蛾に体術を学んでたなと思い出す。

 思いっきり地面に叩きつけられて、受け身を取る暇もなく地面にめり込んだ。

 真希は背後から大刀を振り翳すが、其の武器を掴まれ、真希は腹部を蹴られ転がっていく。

 乙骨も続けて刀で斬ろうと振り上げ、右肩から左腹部にかけザッと斬る。

 絵名の身体から大量の血がボタボタとこぼれ落ち、地面に赤い水溜りが出来る。

 その瞬間、乙骨の脳味噌にズキリと激痛が走る。

 其れは友人を傷つける事と、格上に挑む事へ極度のストレスから来る頭痛だった。

 乙骨は距離をとり膝を着く。冷や汗が止まらない。

 其の瞬間、パキンと刀は折れた。

 「………は?」

 刀に付いた絵名の血液が個体になって乙骨に襲いかかる。乙骨は勢いよく刀を投げた。

 絵名の血もまた呪力の一つとなり襲いかかる。

 

 

 

 

 「其処まで!」

 絵名が乙骨に近づきとどめを刺そうとした瞬間、割って入ったのは五条悟だった。絵名の手は五条の右腕を貫き、乙骨の呪力を媒体にして防御しようとした掌は左腕をめり込ませた。

 絵名は遠くに下がり五条を見る。五条は両手をプラプラさせている。

 「ダメだよ。喧嘩なんかしたら。」

 何処を見て喧嘩だと思ったのだろうか。地面に無惨に横たわる生徒と一級術師。何処から如何見ても殺し合いじゃないか。

 

 「シン・陰流……。」

 

 いつの間にか到着していた日下部は絵名の間合に入り、刀を構える。然し刀は抜かず、鞘のまま攻撃をした。絵名は其の防御に間に合わず吹き飛ばされた。

 「日下部先生!五条先生!」

 「ったく。教師の手を煩わせんなっての。」

 日下部は首をコキコキ鳴らしながら言った。

 この二人が来てくれただけでも乙骨にとっては希望の光だった。

 絵名が飛ばされた方を見ると、其処は砂埃がたっていてよく見えなかった。

 然し其の煙が消える頃には人影も何もうつっておらず、其処には無情にも木が立っているだけだった。

 「日下部先生後ろ!」

 いつの間にか移動をしていた絵名は日下部の背後をとり、振り返った瞬間、日下部の顔面に膝を入れた。

 「いっでぇぇぇ!!!」

 日下部はその場に倒れ込み鼻血を出していた。

 「てんめぇぇ。担任の顔面に膝枕拳を喰らわすたぁどういう了見だ。」

 「大丈夫ですか。日下部先生。すっごい鼻血出てますけど。来て速攻退場は勘弁して下さい。」

 「お前は教師を敬うということをしろや伏黒ぉ……。」

 日下部は瞬時に起きて距離をとる。

 絵名はまだ正気を取り戻してはいない。

 さて。役者は出揃った。

 最終戦だ。

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