東雲の空に鳴り響く聲は   作:亥露

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共に歩もう。それが地獄だとしても。


幸せの尺度

 無機質な風景が広がる。鉄鋼が地面に突き刺さり、灰色の地面は少し冷たい。

 25時。私は丁度その時間にセカイに来た。スタスタと辺りを彷徨く。尚足にもダメージがいっているため少し速度は遅いが。速く治す為、病室で反転術式を使って治そうとしたが、硝子さんにマジ顔で「ヤメロ。」と止められた。曰く、癖がついて自分の命を軽視するだろうだと。そんな事は無いと言いたかったが、何故か言葉が出なかった為、心の何処かでは図星を突かれたと思ったのだろう。

 あれから狗巻君達や五条先生達、建人に日下部先生、それと夜蛾学長が見舞いに来ては帰らず、無駄に広い病室はパーティ会場並みの騒がしさになっていた。

 結局みんなは面会時間ギリギリまで居たのだった。

 そして今に至る。

 ニーゴのみんなに話をしたかったけど、奏達どころか、ミク達も見当たらなかった。文字通り誰も居ないセカイだ。

 私は少し足が痛くなり、近くの鉄鋼に腰掛けた。冷たい空気に、私は目を細める。此処に来たのはいつぶりだろうか。数ヶ月来ていないだけなのに、もう何年も来ていない気分だ。

 

 

 

 「………絵名?」

 機械音にも似た声がセカイに響き渡る。振り返ってみると、白髪のツインテールの少女、ミクが居た。

 ミクは突然走り出し、私に抱きついた。私は体勢を崩してしまい、情けない声を上げながら後ろに倒れた。あれ?なんかデジャヴ?

 「絵名……。」

 「ミク、元気にしてた?」

 「うん。」

 「そっか。良かった。」

 私はミクの頭を撫でる。ふわふわの髪が心地よく、動物を撫でている気分だった。

 ミクの頭を撫でていると、胸元らへんに何かが濡れる感覚がする。

 泣いているのだ。

 「遅くなってごめんね、ミク。」

 「うん。」

 ミクは私の胸元に顔を(うず)めたまま頷く。私は頭を撫でたまま空を見た。何処までも広がっている灰色の空が目に映る。その光景も懐かしく思えた。

 「ミク、そろそろ退く気無い?私そろそろ身体が限界なのよ。」

 「……やだ。」

 「あぁそう。」

 私は如何してか年下には弱い。それは元来私が長女だからかなんなのか。瑞希?アイツは別よ。ともあれ年下にこう甘えられると嫌だとはとてもじゃ無いが言えないのだ。

 今の私は手足全体に包帯を巻き、頭にも包帯を巻きで、ミイラ女状態になっている。然も入院服ときた。だからまた更に動くのも億劫になってきたのである。然しミクの体重で傷口が潰され、背中の傷がミシミシ言っているのもまた事実。どうしたものかと考えていると、とある金髪の少女が目に入った。

 「……リン。居たの。」

 「うん。大変そうだね。退かすの手伝ってあげようか。」

 「気持ちは有難いけどもう少し此の儘で居させてあげて。」

 「……わかった。」

 リンはそう言って私の倒れている上体の横に座った。膝をおり、所謂体育座りというやつだ。そうして私の顔をじっと見つめる。私はその視線に耐えかね反対方向に目線を逸らした。

 どのくらいそうしていただろうか。胸元ではミクが涙を流して埋めており、横にはリンがじっと此方を見ている。私の腰は限界どころかもう感覚を失っており、恐らくこれが痺れと言うやつなのだろうと頭の中でそう思ったのだ。

 そうしていると、視界の端で何やら光ったものを見つけた。その光は一瞬妙な三角型の様なものを放ち、消えていったかと思えばその光の中心にある人物を現した。

 「か、奏!?」

 「絵名!」

 奏は此方に走って近づき、この状況を見てびっくりしていた。

 「一体この状況は………?」

 「私もよく分かってない。」

 奏は私の身体が限界なのを察してくれた様で、ミクに降りる様に諭してくれて、ようやく降りてくれた。私は其の儘立ち上がり、グッと伸びをする。

 奏曰くもう直ぐでまふゆと瑞希も来るらしい。

 「奏、傷の様子は如何?」

 「うん。大丈夫だよ。なんか瑞希の知り合いが運んでくれたらしくて、今度御礼しなきゃ。」

 私はそれを聞いて心の底から安堵する。良かった。それにしても瑞希の知り合いって誰だろうか。若しかしてキャンプの時のあの人?いやまさかね。

 「絵名は……大丈夫じゃなさそうだね。」

 「うん。思ったより身体が痛いよ。」

 奏は私の包帯を痛々しくみる。私はまたそれに少し心を締め付けられる。

 あの時奏の方が痛かったろうに。

 「有難う、絵名。」

 「へ?」

 「絵名が治してくれたって聞いた。本当に有難う。」

 奏は自分の肩を触りながら言う。違う。私は御礼を言われる様な事は何一つしていない。巻き込んだのは私なのに。

 御礼を言われる資格なんて、あるはずないのに。

 「絵名!」

 急に声がして私が身を竦めると、向き合っていた奏は私の向こう側を見てあっという表情を浮かべた。振り返ってみると、まるで短距離選手の様なポーズで此方に向かってくる瑞希の姿があった。私は速いなぁっと何処か他人事の様に眺めていたが、瑞希はスピードを緩める事は無い。

 その瞬間、私は嫌な予感がして、左右をみると、右にリン、左にミク、そしてあろうことか後ろには奏という、逃げ場がほぼ無い状況に絶望する。

 そして其の勢いの儘瑞希は私の体に飛びつき、私は先程と同様後ろに思いっきり倒れた。これが怪我人に対する態度か。

 「……これさっきも見た気がする。」

 リンに半眼で見下ろされ、私は少し恥ずかしかった。

 「瑞希、退いてあげて。今の絵名は脆いから直ぐ潰れそう。」

 「はぁ!?それ如何言う意味よ!」

 「其の儘の意味だけど。」

 「腹立つんだけど!」

 「大丈夫まふゆ!絵名程良く柔らかい!」

 「サイテー!」

 私は瑞希を蹴飛ばす。転がった瑞稀はころころ笑っていた。私はそれを見て何かが溶けていくのを感じた。

 「……みんな、ごめん。」

 私はみんなに頭を下げて謝る。

 みんなは面食らった様に此方を見た。

 「私はみんなを巻き込まない為に離れた……つもりだった。でも結果がこのザマ。結局みんなを守るどころか危険の元に晒してしまった。本当に、償っても償いきれない罪を犯した。ごめん。」

 「そんな、絵名……。」

 貴女達は優しいから、多分そんな事無いって言ってくれる。然し私はそんな優しさは1ミリたりも求めちゃいない。

 私は赦しが欲しいわけじゃ無い。ただ彼女達の絶対的安全が欲しいのだ。

 然し今は、心からの謝罪を。

 「自白すると、私がみんなから離れたのはこんな事態を防ぐ為だったの。何処まで伊知地さん達から聞いているのか分からないけれど、呪力の関係で私にはあまり呪霊が寄り付いて来ない。だから必然的に普段一緒に居るみんなの方に矛先がいく。だから離れたの。これは私の勝手なエゴ。説明不足でごめんなさい。でも私はみんなの幸せを何より願いたい。だから————わっぶ!!」

 私がみんなに説明していると、突然大量の紙が私に向かって投げつけられたのだった。その紙には大量の五線譜と音符が書かれていた。前をみると、今まで見たことがない程に怒った顔をした奏が立っていた。

 「か、奏?」

 「ふざけないで。何がエゴ?あぁエゴね。確かにエゴだよ。でも私たちはちっとも嬉しくない。人の気も知らないで勝手に消えて、危険に身を投じて。私言ったことあるよね。もう目の前で誰かが消えるのはもう嫌だって。」

 「え、でもあれってまふゆに対してであって私には……。」

 「屁理屈は良いから。絵名は私の大切な友達で仲間なの。それに絵名の尺度で私達の幸せを勝手に決めないで。私達の幸せは私達が決める。」

 そうして奏はストンと私の目の前にしゃがむ。その顔は一変、とても切ない顔だった。

 「ねぇ、絵名。私達の幸せを何より願うんだったら、絵名が抱えているものを一緒に背負わせてよ。私達は絵名と一緒に居たいの。」

 

 

 やめて。

 

 

 それ以上言わないで。

 

 

 「うん、奏の言う通り。ボクたちも覚悟は出来てるよ。まぁ絵名と一緒に居ることに関しては覚悟なんて要らないけど。じゃなきゃ呪術高専まで走って五条さん呼びに行ったりしないし。ね、まふゆ。」

 

 

 嫌だ。

 

 

 それを聞いてしまったら。

 

 

 「覚悟とかはよく分かんないけど、絵名が居ない数ヶ月間、胸が苦しくて、張り裂けそうだった。こういうのを寂しいっていうんでしょ。私も少しはわかる様になったの。それは多分絵名のおかげ。だからこれからも教えて欲しい。勿論絵名の事も。」

 

 

 もう、離れられないから。

 

 

 「良いの……?こんな私でも。……もっと手を汚す事するかもしれないよ?またあの時みたく我を忘れちゃうかもしれない。……今度はあの比じゃないかもしれない……それでも良いの?」

 「良いよ。」

 三人はそう言い切った。

 ブワッと何かが溢れた。声も上手く出せず、目も霞む。

 奏の腕が私を優しく包み込む。それは温かく、幸せな心地だった。

 「絵名。もう一度言う。ニーゴの絵師として私達と一緒に居てくれないかな?」

 「はい。私でよければ。」

 私は声をあげて泣いた。誰も居ないセカイに私の甲高い声が響き、そのまま消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ————

 「で?なんで怪我増えてんだよ。つーか何したらあんな怪我すんだよ。」

 「五月蝿いわね。そんなことより甘いもの買ってきてよ。」

 「久々にあったと思ったらパシリかよ。元気じゃねぇか。心配して損したよ。」

 「はぁ?アンタに心配される程私は柔じゃないから。」

 「へーへー。」

 私は横に座る彰人に向かってそう言った。久々にあったというのに可愛くない奴。まぁ彰人に可愛さなんて求めないが。

 「……アンタ、歌まだやってる?」

 「あ?あー。まぁ。それがなんだよ。」

 私はそれにふふっと笑う。単純に嬉しかったのだ。成り行きだけれど、私が進めた音楽で、彰人は希望を見つけ、楽しさを見出し、今は仲間と共に目標を掲げて努力をしている。私はそれがどれ程幸福なことかという事を知っている。

 お母さんの気持ち、今ならよくわかる。

 彰人には此の儘好きな事をしてもらいたい。呪いなんて、そんな危ないものには関わってほしくない。

 でもいつかは言わなくてはならない時が来るのだろう。然しそれは今じゃなくて良い。

 今は黙って、幸福でいて。

 「今度見にいくからね。」

 彰人はポカンと目を見開いた後、クソガキの様な笑みを浮かべた。

 「俺らの凄さにビビんなよ。」

 「あら。それは楽しみね。』

 私も負けじと余裕の笑みを浮かべる。この状況で余裕の表情を浮かべても説得力のカケラもないのだが、姉は弟の前ではカッコつけたい生き物なのだ。

 ふとある事を思い出してスマホを片手に彰人の腕を引く。

 「おい。なんの真似だ。」

 「写真SNSに上げさせてよ。顔は隠すから。」

 「……しょーがねぇな。」

 彰人は珍しく頷き此方へよる。私はフィルターを選び写真を撮った。

 「ふふ、彰人半眼じゃん。」

 「ジト目って言え。」

 そんな軽口を叩きながら写真をアップした。

 数ヶ月ぶりに、私の自撮り垢は更新されたのだった。




今更ながらに沢山のお気に入り登録と感想誠に有難うございます。最初は他人から評価されるなんて考えもしなかったのですが、いざ感想やらもらえるとやはり嬉しいものですね。これからも見ていただけると幸いです。
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