「いやだから此処の呪霊は引き続き東京の方で——。」
「それだと効率的に京都の方が——。」
「先ず抑も彼の人がですね——。」
等。
等等等等等等等等等等等等等等等等等等等等等等等等等等等等等等等等等等等等等等等等等等等等等等等等等等等等等等等等等等等等等等等等等等等等等等等等等等等等等等等等等等等等等等等等等等。
先程から意味の無い話し合いを私は延々と聞いていた。私の人生で初めての総会の議題は京都と東京の管轄問題だ。聞けば去年の十二月二十四日、つまりはクリスマスイブに夏油傑と言う呪詛師の手によって呪術テロを巻き起こされたらしい。此れを彼等は『百鬼夜行』と呼んでいた。新宿と京都に約千体の呪霊を撒き散らし、一般市民への被害は免れたものの、呪術師側の被害は痛手だったらしく、元々人手不足だったのが、また更に首を絞める事となったそう。
そこでまた新たにお互いの管轄の範囲を変更しようと言うのが今回の会議の狙いだったらしいが……。
「だから言ってるでしょう!東京では無理です!京都で見て貰わないと。」
「それは此方も同じですよ。京都に押し付けないでもらいたい。」
やらない。出来ない。しない。したくない。無理。嫌だ。
そんな事をぺちゃくちゃと彼等は話していた。あぁ、きっとこのままじゃ平行線で終わってしまう。然し私が彼等の話に割って入る隙間も与えられていない。絶対に舐められている。私が座った時にヒソヒソと此方を見ながら話しているのが見えた。男尊女卑が根付いている此の業界では女が当主、然も自分たちを纏める総括というのは気に入らないのだろう。
「————御当主様は如何思われます?」
私がみんなの様子を伺っていると、巫女姿の顔に傷がある女性が話しかけた。しまったなぁ。気を使わせてしまったかな。
私が慌てて答えようとすると、しわくちゃな老人が意地の悪い笑みを浮かべて遮ってきた。
「いやいや庵殿。絵名様はまだ子供ですよ。そんな重大な事を決めさせるのは酷かと……。」
イラ。
「そうですよ。それにまだ当主になって日が浅い。呪術師のいろはも分からないでしょうに。」
イライラ。
私はその言葉に苛立ちを覚える。何だ此の人たちは。此方を見てニヤニヤしながら。馬鹿にしやがって。私はその苛立ちを抑えながら少し考える。
此の時、あのジジイなら如何してた?五条先生と学長にあの時なんて言ってた?考えろ。考えろ。あの耄碌ジジイどもを黙らせる一言。東雲家の当主になるって事はそういう事だ。
「………それは私を貶していると受け取っても宜しいのでしょうか。」
私がそう聞くと、大袈裟に笑って「いやまさか!そんな事はありませんよ!」とその老人は答えた。何ともまぁわざとらしい演技だ。多分此方が強気に出れないと思って調子に乗っているのだろう。浅はかな考えだ。こっちは当主になる為に色々学んできたのに。
五条先生や母に当主の在り方を学んだ。まぁ五条先生に聞いた所で何も得る事は出来なかったが。彼の人は立場とかを重んじる人ではないという事を嫌という程知っている。
クスクスと笑う一部の術師に顔を向ける。すると目が合った術師はビクリと飛び上がった。今私はどんな表情をしていたのだろうか。まぁ如何でもいいか。
「では私も発言して宜しいですね。それと言っておきますが私は子供である以前に此の家の当主です。今後その様な発言は控えて頂きたい。」
そう言うと、先程の老人達は「申し訳ありません!」と其の儘土下座をした。何だろうか。いい歳したおじいちゃんに本気で謝られると……なんかこう、言葉にできない何かが込み上げてくる。悪い意味で。先程までの威勢はどこに行ったのやら。
私は少し溜息を吐き、先程までの彼等が話していた内容を頭で再生をする。確か京都の方が人数が少ないって言っていたな。うーん。確かにそれは痛手だ。そして少し一部では三級以下の呪霊も増えてきたのか。ふむ。
だとしたら……。
「じゃあ丁度真ん中の石川愛知滋賀を共同範囲にしましょ。数の多い所を東京側がやって、二級以上の呪霊を京都側がやるというのは如何でしょう。」
私がそう聞くと、「ちょいと待ってください。」と金髪の男の人が手を挙げていった
「何で二級以上の呪霊を京都なんどすか?可笑しいでしょ。其方には特級二人おんのに。」
確かにそうだ。こっちは人数が多い上に特級が二人いる。当然の質問だ。然し私には二級以上の呪霊を京都が捌けると言う確信があったのだ。私はその人の目をじっと見て答える。
「京都の方には禪院家本家があります。禪院家の強さなら二級以上の呪霊なら余裕で祓えると思ったんです。それに高専には一級術師の東堂葵さんもいます。数は東京でカバーして、強さは京都でカバーすると言うのが効率的にはいいかと。禪院家の強さ聞いていますし。」
私がそう伝えると、その人は少しむず痒そうに頭を掻いた。確かに今の話は本心なのだが、此処で持ち上げていた方が今後の関係性には良いだろう。私が「期待してますよ。」と微笑みかけると、先程の金髪の男性は少し嬉しそうに「任せてください。」と言った。
「えっと、私の案に何か意義のある人は居ますか?」
「異議ナーシ。」
五条先生が手を挙げて言うと同時に、色んな人が賛成をしてくれた。良かった。上手くいった。うん。初めての会議にしては上々だったんじゃないか?
他に何か話す事は無いかと手元の資料を見る。すると気になる内容を見つけた。
これは………。
「御当主様?」
先程の巫女姿の女性が顔を覗き込んで言った。しまった。少し顔に出ていたか。
「あ、えっと。今日の会議はこれにて終了です。お疲れ様でした。」
私がそう言うと、みんなは私に頭を下げた。もう慣れてきつつある此の状況に私は少し苦笑をする。
使用人に促され外に出ると、私は一目散に駆け出し自分の部屋へと戻る。そして押し入れから布団を取り出して寝転がった。
「つっかれたーーーーー!!!」
「はしたないですよ。」
「良いの!あーもう疲れた!何なのあの空気。特に禪院家と五条家。もうバチバチだったじゃない!」
「彼処の家はお互い仲が悪いんですよ。」
「何それめんどくさー。」
着物の儘寝転がると、側にいた女中に注意をされたが知った事ではない。もう私は働かないもんねー。
私は寝返りをうつと、先程地面にばら撒いた書類が目に入る。その書類を手に取り先程の気になった項目を探す。
「あ、あった。」
『特級呪物:両面宿儺の指について』
特級呪物という事はとても危険なのだろうか。えっとなになに?現在両面宿儺の指は全国にばら撒かれている……?そしてその一部は高専で保管済み……?………これだけ?
端的で容量を得ない説明文に私はがくりと肩を落とす。なんか大きなプレゼント箱の中身がしょうもなかった時に似た感じがする。要するに今密かに其の両面宿儺の指を集めてるって事でしょ。
私は仰向けになり天井を見つめる。そういえば最近自撮りあげて無かったな。折角綺麗な着物着てるんだしあげるか。
パシャリとシャッター音が静かな部屋に響く。何枚か撮り一番出来の良かった写真を加工してあげる。そしたら直ぐにいいねやコメントが付く。
「ふふ、たっくさんいいねついた。」
画面を見て私は笑みが溢れる。
こんなにも簡単に私の事を見てくれる。
こんなにも簡単に認めてくれる。
私はアカウントを切り替えてイラスト垢の方を見る。最近あげたイラストの良いね数は0。いいねもフォロワーも全然増えない。最初は画家になりたかった。絵が大好きで。絵を描ければ良いと思っていた。
然し今の私は如何だ。絵を描くどころか自分で絵を描く時間を減らしているではないか。
結局私は何をしたかったのだろうか。
あぁ駄目だ。疲労で嫌な事考えてしまう。考えるな。これ以上。疲れるだけだ。
五条先生が言っていた上は保身馬鹿というのはきっとあの事なのだろう。そしてきっと私はこれから其の惨状を目の当たりにするのだろう。きっとそれは今の私のメンタルでは耐えれそうに無い。
然しそれは私が決めた道だ。甘えてはいけない。
私が自分を戒めていると、障子の向こうから「絵名様。」と使用人の声が聞こえた。
「お客様がいらしています。入れても宜しいでしょうか。」
「あ、はい!」
私は軽く着物や髪を正して答えた。お客って誰だろうか。
障子が思いっきり開かれて外の風が入る。それと同時に見知った懐かしい顔が私の視界に映った。
「みんな!?」
「よう。カッコよかったぜ。」
「しゃけしゃけ〜。」
「今暇か?ちょっと付き合えよ。」
「来ちゃった。」
一週間ぶりに会った同級生達はいつもの様子で笑いかけた。そうだ。この人達は私が如何なろうといつも通り接してくれる。其の事実に胸が締め付けられる。
彼等は私の許可なしに部屋に入ってくる。たまらず私は其の光景に笑ってしまう。
「多分アンタらくらいよ。当主の部屋にズカズカ入り込むのは。」
「別に良いだろ。夜まで此処で遊ぶかんな。」
「ちょ、真希さん!それは流石に迷惑なんじゃ……。」
「桃鉄100年やろうぜ。」
「パンダ君まで!?」
勝手に話が進んでるなぁ。そういえば今日は此処に泊まる人が多いって聞いたな。確かに今から帰ってももう日を跨ぐだろう。京都の人なら尚更だ。
「言っとくけど此処ゲーム機無いわよ。」
「高菜!」
「え!?わざわざゲーム機持ってきたの!?でも桃鉄のソフトないし……。」
「あるぜ。」
「パンダ君まで。アンタら此処に何しにきたの?」
私がそう言うと、真希は「勿論少なくとも老人の話を聞きにきたわけじゃねぇ。」とドヤ顔をした。いや普通に会議には参加してよ。特に狗巻君は寝てたの気づいてたからね。
フッと笑いが込み上げる。何だろうか。此の感じ。とても懐かしい。スッと疲れが引いていく。
みんなの笑い声を聞きながら外を見た。空は橙色に変わっていて綺麗だ。
カラスが鳴くから帰ろう。そんな歌がある。じゃあ私も帰らなくては。
みんなの知っている、普通の女子高生に。