「あ、因みに君のご両親にはもう説明済みだからね。後は君の了承のみってところだ。」
前回のあらすじをツラツラ語ったところで、この事実は変わらないしそれなら端的に今この現実について説明しよう。
私は今、人生の瀬戸際に立たされている。転校するか、しないか。というか今の今まで何をやっていたかと思えば私の両親に連絡をとっていたとは。アイツは兎も角、よく母が許したものだ。絶対今までの時間押し問答が続いたでしょ。
「あの、なんでか聞いても良いですか?」
私は重要な事を聞いた。そう、この人は何故私が転校しなければいけないのかを説明していないのである。そう私が問うと、五条さんはあっけらかんと「あぁ、説明が未だだったね。忘れてた忘れてた。」と笑って答えた。いや、忘れんじゃないわよ。そんな大事な事。
そこからは本当に難しい説明だった。呪力がどうのとか術式が〜とか。私は足りない脳を最大限にフル回転させ、なんとか理解する事がやっとだった。いや、先ずこの人は自分のペースで喋り続けるから理解もクソもあったものではない。本当に教員か?この人。
「因みに棘の呪言もそうだね。」
「しゃけ。」
「呪言?」
私は狗巻君の方に向き直ると、狗巻君はビシッとピースをしていた。その姿は少し可愛らしく、私はほっこりしてしまう。こういうのを庇護欲というのだろうか。きっと狗巻君は末っ子なんだろう。
「声に呪力を乗せて相手を強制する術式だよ。普段は安全を考慮しておにぎりの具に絞ってるんだ。しゃけは肯定、おかかは否定。」
成る程。確かに思い返してみればそうだったかも。呪言っていったら言霊みたいなものか。先程の学校で狗巻君が『爆ぜろ』といった途端にその呪霊が爆発したのを思い出す。ヒェ、そんな強い術式だったら簡単に人を操れるじゃない。怖すぎる。可愛いと思って舐めてたら痛い目に遭うわね。いや、舐めた瞬間なんて一度たりともないけれど。
そう思うと同時に、私はあることに気づいた。
「じゃあ、私のコレもその〝術式〟ってモノなんですか?」
「そゆこと。いやぁ、理解が速くて助かるよ。」
どうしよう、当初の目的がもう解決してしまった。早過ぎないか?もっとこう、なんだろう。なんか複雑な感じを想定していたが、こうもあっさり解ってしまうと、私が悩んでいた時間はなんだったのかと思ってしまう。まぁこれは思いっきり私の事情で、私情なのだが。
「で、今の呪術界は深刻な人手不足。だから術式が使える人はなるべく呪術師になってほしんだよねぇ。」
「因みに入らなければ如何なるんですか?」
「東雲本家に連れ戻される。」
……本家?
本家って、何処の本家?もしかして所謂私の祖父の家って事?そうだとしたらなんで連れ戻すだなんて。
私は未だ自分の親類と会ったことが無いのだ。先ず本家と称される程にでかい家なのかも今まで知らないし、聞いたこともない。ただ親類とは縁を切っているとしか聞かされていないのだ。
「あり、本当に覚えて無いんだね。昔僕と君は会ったことあるのに。」
「え⁉︎そうなんですか⁉︎」
五条さんの突然のカミングアウトに私はガタリと椅子から立ち上がった。嘘だ!こんな一度見たら忘れられない不審者を私が忘れるはずない!
「ん?今なんか失礼な事考えなかった?」
「いえいえいえいえ。そんな事あるわけないじゃないですか。」
「わかりやすい嘘だなぁ。あー。昔遊んであげたのになぁ。絵名、「悟くーん。」て飛びついてきてたのになぁ。悲しいなぁ。」
「あぁ多分それ私じゃなく私の声と顔と名前をした別人ですね。私じゃないです。」
「そんなに認めたくないの⁉︎」
とほほと五条さんは項垂れる。いや、でもだとしたら昔私は本家に住んでいたということになる。
じゃあ何故忘れているんだ?
私が考えていると、五条さんは手をパンっと叩き「ほらほら話を戻すよ〜。」と言った。いや、逸らしたのはアンタでしょうが。何私が悪いみたいになってんの。
狗巻君も「おかか〜。」とジト目で五条さんを見つめているあたり、この人は普段からこういう人なんだと伺える。本当、なんでこういう人が教員になれたんだろ。
「東雲家はね、呪術界の元締め、所謂総括なんだ。人数は少ないけど、それ故に強大な力を持つ最恐一族。で、君が使っているその術式は東雲家相伝の術式ってわけ。本家としてはどんな手を使っても欲しい人材だ。」
「いや、そんなの私じゃなくても他の人がいるじゃ無いですか。あるんでしょ。なんか、分家的な……。」
「無いよ。」
「え。」
「東雲家に分家なんてものはないよ。」
分家が、無い。
それは即ち、文字通りの
「元々は君のお母さんが本家の人間だったんだけどね、君の弟が産まれたのをきっかけに家から姿を消したんだ。本家の人間にとって、長子しか必要なかったから、下の子殺そうとした。」
「そんな!」
彰人を、殺そうと……。
そう思うとゾッとした。確かに生意気で、可愛げはないが、可愛い弟なのだ。一生懸命で、努力家で、好きな事には真剣に取り組む。そんな弟がもし其の儘殺されていたら。
今の私は絶対に居ない。絵なんて描き続けて居ない。
「君に残された道は二つ。一つ、このまま本家に入る。二つ、呪術高専に入って呪いを学び、人の為に命を賭けるか。」
最低で、最悪な選択肢だと思った。いや、これはもはや選択肢を提示している様で、結果は一つしかない。そう思うと同時に、あぁ、恐らくこの人は性格がクソほどにわるいんだと気づく。
だってどちらに転んでも呪術師の道しか無いのだから。
最初っから選ばせる気なんてないんだ。それを愉快に思ってしまう私も、また性格が悪いのだろうか。
どちらに転んでも地獄なら、自分がましと思う地獄に行ってやろうじゃないの。
「わかりました。私………
呪術高専に入ります。」
どうせ死ぬのなら、大切な人を護って死にたいから。