東雲の空に鳴り響く聲は   作:亥露

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久しぶりの顔ぶれ


最終決戦篇
似た彼の人


 「んじゃ、其の手順で宜しく」

 

 日下部先生の言葉に、俺達は各々返事をする。先輩が本殿に入ったのは数分前。そして俺達は日下部先生の指示の元山の麓迄歩いた。西側を京都校、そして東側を東京校という風に分けられ、然し此方の圧倒的人手不足もあり、呪霊が此方に雪崩れ込まないのを祈るばかりである。

 

 東雲先輩が眠っている間、此の結界が緩み、呪霊が襲ってくる可能性が高い。いや、確実に襲ってくる。

 不思議と緊張はない。それは慣れなのか、先の戦いを知っているからなのか。きっと後者だろう。

 

 「恵、これ使え」

 

 真希さんが投げたそれを俺は手に取る。急に投げるのは危ないが、真希さんはそういう人だ。言うだけ無駄だろう。その証拠に真希さんは真顔で俺の顔をじっと見つめている。

 渡されたのは小刀だった。真っ黒の鞘に、水仙の模様が付されてい、とても綺麗な刀だ。その刀は見覚えがある。

 

 「これ、東雲先輩のじゃないですか」

 「絵名が使えって。どうせお前呪具持って来てねぇだろ」

 

 図星である。此の状況を想定していなかった俺は、無防備にも手ぶらで来てしまっていた。それを察した東雲先輩が態々真希さんを介して貸してくれたのだろう。感謝の気持ちもあるが、少しばかり恥ずかしい気もする。

 鞘を抜き刃を確認する。銀の側面が俺を映す。定期的に手入れをされているのか、切れ味の良さそうな刃だ。

 

 「……じゃあ遠慮なく」

 「壊すなよ」

 「善処します」

 

 壊してしまった場合は……まぁ、素直に謝ろう。

 そんな会話をしていると、結界が緩む気配がした。全員に緊張が走る。

 

 

 

 斯くして防衛戦が始まった。随分あっさり?戦いなんてどれもそんなものだ。終わりは長く尾を引くものだが。

 次々に現れる呪霊を、一体、また一体と祓っていく。一つ一つの強さはそんなにないが、数が多い。一体祓ったら、虫の様に湧いて出てくる。これではキリがない。結界を緩めただけでこんなになるのか。此れでは東雲先輩が目覚める前に俺の呪力が尽きてしまわないか。

 そんな心配をしながら、また一体と祓っていく。

 

 「だー! 祓っても祓ってもきりがねぇ!」

 「しゃけ」

 

 真希さんの叫びに、狗巻先輩は声を枯らしながら頷く。俺と同じ事を考えていた様で、真希さんは呪霊を乱雑に蹴飛ばす。

 

 

 すると急に、呪霊の動きが止まる。全員一斉に。それと同時に、俺たちの動きも止まる。本当は今のうちに祓った方が良いのだろうが、呪霊の不審な静止に警戒せざる負えない。

 

 カラン……とあたりに響く。誰の足音だ?少なくとも俺達はではない。

 

 呪霊が一列になって真ん中を開ける。其の向こうから、とある人型が歩いて来る。カラン……カランと音を立てて。手には提灯を握っており、ボウっと照らしていた。

 近くに来て其の姿が露わになる。濃い茶髪に、毛先が癖っ毛になっており、それを両横で結んでいた。

 

 

 そして()()()()()()()()()()()が此方に笑顔を向ける。

 

 「困るなぁ、そんな事されちゃあ」

 

 

 

 

 同時刻。夜蛾と五条は本殿の前で待機をしていた。お互い何を喋る訳でもなく、ただジッと待っている。遠くで爆発音が響き、それが始戦の合図を悟った二人は、緊張の糸を張り巡らせていた。今日は風が全く吹かず、少し蒸し暑い。

 五条は本殿へ上がる為の階段に腰をかけて、其の長い足を組んでいた。目隠しをしている為、寝ているかどうかも分からない。この状況下で寝る人間は先ず居ないだろうが、此の男ならやりかねんと夜蛾は不安に駆られる。昔の教え子がこうも奇人に成長してしまったとは。出会った頃から可笑しな奴だったが、十年の時を得て更に輪をかけて変な方向に進んでしまった。

 

 「……悟。少し聞いても良いか」

 「はいはい。何ですか?」

 

 五条は寝ていなかった様で、夜蛾の質問にダルそうに答える。緊張感が無さそうだが、五条の殺気が夜蛾の所まで漏れていた。

 

 「何故急に記憶を取り戻すと言い出したのだ」

 

 夜蛾の質問に、五条は少し押し黙る。すると付けていた目隠しを取り、青空の様な瞳を露わにした。其の表情は真剣そのもので、冗談は許されないという顔だった。

 

 「九年前、呪霊による大量殺人があったのはご存知ですか」

 「それは流石に知っている。姿形は判明されていないが、高専に登録されている特級呪霊だろう」

 

 夜蛾は其の悲惨な事件を思い浮かべ、サングラス越しでもわかる程に顔を顰めた。

 九年前、東京の某所で大量殺人が起こった。被害者は大人から子供まで其の差は問わず無座別だった。それは殺人というより惨殺と言う方が正しいと思える程に悲惨で、残虐な殺され方だったのだ。其の事件を追った五条も顔を歪める程に。

 

 当時分かった事と言えば、女性の呪霊で、鈍器の様な物を凶器として使っている事だけだった。それから五条は此の事件を珍しく真剣に追い求めた。直近では、山にある廃校、人気の無い神社、そして嘗て乙骨と絵名が任務に赴いたトンネルで被害が出ている。

 

 「絵名が記憶を無くしたのも九年前。無視出来るタイミングでもないでしょ」

 

 五条はそこまで言って、夜蛾に問いかける。夜蛾は少し考える素振りを見せ、五条の方を見る。

 

 「すまん。もう少しピースをくれ。確かに無視出来る情報ではないが、それで絵名の記憶を戻すという発想には至らないだろう。絵名が其の呪霊を生み出した訳でもあるまいし」

 「そう。正にそれです」

 

 ビシッと効果音が付く程に、五条は夜蛾を指差して言う。

 

 「絵名がその特級呪霊を生み出したのです」

 

 夜蛾は去年の事を思い出した。嘗て乙骨憂太が、折本里香の死を拒み、特級呪霊を生み出した出来事を。そしてそれを巡って百鬼夜行が行われた事を。

 然し——。

 

 「そうしたら何故、どの様にして呪霊を生んだと言うのだ。乙骨の場合、折本里香の死という明確な理由があったものの、絵名ははっきりとした理由がない」

 「絵名の記憶の空白が呪霊を生んだとしたら?」

 

 沈黙が走る。

 有り得ない話では無い。呪いというのは未知数だ。それ故に何が起こっても不思議では無い。

 夜蛾が考えているが、五条はお構いなしに喋り続ける。

 

 「此処の所絵名は物忘れが激しくなって来たそうですよ。その流れてしまった記憶がその特級呪霊だとしたら」

 

 絵名が記憶を取り戻す事で其の呪霊は弱体化する。

 成る程、それは理に適った方法だと夜蛾は自分の手を顎に当てて感心する。此の作戦は特級呪霊を祓う為の作戦だったのだ。

 

 「さて、お喋りは此処迄ですね」

 

 近くで爆発音が響き、熱風が押し寄せる。そして自分達の生徒が地面に倒れていた。其のどれも体を真っ赤に濡らしており、直ぐに体制を立て直す。

 

 「ちょっと五条先生。聞いてませんよあんなのが居るだなんて」

 

 伏黒が自身の唇に付いた血を指で拭いながら五条を睨みつける。

 

 「いやぁ、一か八かだったけどまさか当たりだとは。然もめっちゃ手負じゃん、相手」

 

 五条は宝石の様な瞳を左にずらす。其処には一人の少女がポツリと立っていた。着物は所々破けており、其の覗いている皮膚からは赤い液體が流れ出ている。少女は此方を恨めしそうに睨んだ。

 

 「退いて。君達に構っている暇は無いんだ」

 「退かない」

 

 五条は少女の声に間髪入れず答えた。それが合図だった。辺りはクレーターが出来、其の中央で五条と少女が立っている。此の一瞬の間に彼等はもう戦いを始めているのだ。

 これが特級と特級の戦い。

 伏黒達は其方に気を取られそうになるが、次々に湧いてくる呪霊を祓う。

 

 「日下部先生、あれ大丈夫なんですか?」

 「知らん!俺達は俺達の出来る事をするしかねぇだろ!」

 

 乙骨の心配を他所に、五条と少女は攻撃を続ける。他の追随を許さんとばかりに。其処には誰が入るも許されない空気が醸し出されていた。

 呪霊は反転術式が使える様で、五条によって吹き飛ばされた腕も着物ごと再生していた。五条は隙をつき術式反転「赫」を発動する。

 

 遠くに吹き飛ばされた少女は壁にぶつかり、其の瓦礫の下敷きになる。

 

 「……やったか?」

 

 五条が呟くと、瓦礫を破壊しながら少女が出て来た。

 

 「駄目じゃん」

 「五月蝿いよ真希。もう相手のスタミナが切れるまで頑張るしか無いじゃん」

 

 五条はその場にいる低級呪霊を一掃する。全員何が起こったのか分からず、ポカンとしていたが、直ぐに五条が一瞬の内に祓ったのだと理解が出来た。

 

 「みんな手伝って。一気に畳み掛けるよ」

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