何気なくだった。粗方デモが完成し、参考程度にミクやルカに感想を貰おうと『悔やむと書いてミライ』を再生した。ミクやルカが居なくても、他のバーチャルシンガー達や、ニーゴの誰かが入ればそれで良い。
只、それだけだった。
それなのに何故——。
遺書があるのだろうか。
いしょ?異所?いや、遺書だ。紛れも無く、何処から如何見ても遺書だ。其れは恐らくシャーペンで書かれているであろう文字に、私は見覚えがある。
絵名。
此の文字は絵名しか居ない。
私がワタワタと狼狽えていると、ミクがトコトコと此方へやって来た。その表情には不安の色が張り付いていた。
「奏、いらっしゃい。如何したの?」
「ミ、ミク!此れ……」
私が慌てて紙を見せると、先程の不安の顔から青い顔になり驚いていた。
『一週間以内に戻らなかったら死んだと思って下さい。絵名』
何処から如何見ても遺書だ。やっといつもの日常が戻り、さぁこれからみんなで頑張っていこいうと決意した途端に此れである。
何を間違った?どれがいけなかった?
私は思考を回して考えるが、一向に其の原因とやらを見つける事は出来なかった。最近は絵名も筆が乗っていると言っていて、楽しそうだった。実際絵名の絵はこれ迄以上にクオリティーというものが上がっていた。まふゆからの指摘もまぁまぁあるが、それも前と比べると格段に無くなったのだ。何かが吹っ切れたのか。きっとあの事件がきっかけだろうか。
結果論だが、私はあの事件があって良かったなと不謹慎乍らにも思ってしまう。腹をぶち抜かれて何を言うかと瑞希に言われそうだが、あの事件があったからこそ私達は本音でぶつかる事が出来たし、くさいセリフになるが、今迄以上に絆も強くなったと感じている。
然し、そう思っていたのは私だけだったのだろうか。
私は持っていた紙を強く握る。悔しさや悲しさが一気に押し寄せた。
「一週間って事は
ミクの後ろから出て来たのはまふゆだった。まふゆは私から紙を取ってまじまじと見る。
「文面からしたら絵名は病んで書いたんじゃ無いと思う……多分」
「確証は?」
「……勘」
「そっか……」
私の言葉にまふゆは目を逸らしそう答えた。まふゆの勘はよく当たる。恐ろしい程に。しかし病んだ訳ではないとはどういう事なのだろうか。絵名は、何の為にこの遺書を書いたのだろうか。
……分からない。
しかし一週間。時間がある様に見えて、これは結構短い。絵名の身に一体何が起こったというのだろうか。
まふゆも、俯いて考えている。
絵名の行動を振り返ってみよう。
ある日絵名は突然居なくなった。焦った私達は絵名の知り合い全員に居場所を聞きまくり、瑞希は弟さんから『転校した』と言う情報を聞き出した。しかも全寮制の。そして私達はいろんな学校に行き、手掛かりを求めた。しかし結果は惨敗。と言うよりも都内の高校数は百を超えており、私達四人で探すのは不可能だった。しかも高校生の行動範囲なんてたかが知れており、特にまふゆなんて遠出は絶対的に不可能だ。
私は焦っていた。
嫌だと拒絶した。絵名が居なくなるなんて、そんなのは絶対嫌だと。心にぽっかり穴が開いた気分になった。針で刺される様な痛みに襲われた。絵名の顔を思い出す度に胸が張り裂けそうになった。あの私を褒めてくれる様な声が、私を呼んでくれる様な声が聞けない耳など、切り落としてしまいたいと思う程に。私は曲作りをあろう事かほっぽり出して日夜問わず走り続けた。その事についてまふゆは何も言わなかった。いや、言う暇も無かった。まふゆも探し回って居たのだから。
その時。
絵名を見つけたのだ。スクランブル交差点の人混みの中。見落とすわけがない。あの人より突出して綺麗で可愛い顔をした彼女を、私は見つけたのだ。
努力が全て報われた気がした。
絵名の姿は一瞬にして消えてしまったが、絵名と一緒にいた人を捕まえて懇願した。
『絵名に会わせて欲しい』と。
そう言った相手、乙骨さんと真希さんと狗巻さんは驚いた顔をしていたが、私はひたすら頭を下げ続けた。そして何とか絵名との間柄を取り持ってもらったものの今度は呪霊というものに私は腹をぶち抜かれた。私はそこからの記憶はないが、瑞希とまふゆ曰く絵名がそれをきっかけに暴走してしまったらしい。そして紆余曲折あり絵名は収まった。そして絵名は再度セカイに姿を現し全てを語ってくれた。呪術高専に転校したこと、自分が呪術師である事、そして私達を巻き込みたくないから目の前から消えたこと。
私達はそれぞれ本音を話し、漸く絵名はニーゴに戻ってきてくれた。
これが今までの絵名だ。そんな絵名に何が起こったのか。起こったとしてもそれは呪術師関連の事し……。
……ん?待てよ?
「──あ!」
私は思わず声を上げた。行き着いた答えに、思わず身震いをする。まふゆも同じな様で、顔を顰めている。ミクは何が何だか分からないと言う顔で辺りを見渡した。
「もしかして、今まずいことになってる?」
「……かも、しれない」
私の言葉に、まふゆは頷く。
絵名は確か呪術師だ。それも結構地位の高い。それの内情で面倒臭い事に巻き込まれて居ても、何ら不思議ではない。
そうだとしたのなら、私達が出る幕はない。然し此処でじっとしている事も出来なかった。どうすれば良い?どうすれば最適解だ?前回の事で素人で一般人の私達がでしゃばった所で、状況を悪化する恐れがある。
一体どうしたら──
「あれ?何この空気。どしたの?」
「あ、瑞希!」
暇つぶしに来たのか、瑞希がポカンとした表情で此方を見つめていた。学校帰りだろうか、制服姿だ。瑞希が学校に行っているのは珍しいなと思いつつ、私達はことの顛末を説明した。セカイに来たら遺書があった事。それが絵名の筆跡である事。そして私とまふゆによる推理。
それを聞いた瑞希は、真っ青になり、携帯を取り出してどこかへ電話をかける。恐らく絵名の所にだろう。失念していた。まさか電話をかけることを忘れていたとは。
「……駄目だ、繋がらない」
瑞希は顔を顰めて携帯を耳から離した。矢張り繋がらなかったか。八方塞がりだ。恐らく今回は弟さんに聞いても何も有益な情報を手に入れることは出来ないだろう。一体どうすれば……。
「あ、待ってて!恵君に電話かけるから。あの子なら何か知ってるかもしれない」
「え?瑞希まだ交流あったんだ」
意外な事に、瑞希は
然し現実とは残酷なものだ。
「……駄目だ。恵君とも繋がらない」
それを聞いて私は肩を落とす。
駄目だった。伏黒君にも繋がらないとなるともうなす術がない。まふゆも、どこか諦めの様な顔になる。何か、何かないか……。
「あ!」
突然、瑞希とまふゆの声が重なった。急に二人が叫ぶものだから、私は思わず肩をビクつかせた。まふゆと瑞希は顔を見合わせ頷く。二人の自己完結に、戸惑いを隠せないでいる私は、二人に問うた。
「どうしたの?何か思いついた?」
「思いついたと言うより思い出した!」
「……うん。多分あそこに行けば分かるかもしれない。何で気づかなかったんだろう」
「これぞ正しく灯台下暗しってね!」
「えっと?」
私とミクは二人同時に首を傾げる。
そして瑞希は人差し指を立てながら、思わぬ事を言った。
「実際に呪術高専に行けば良いんだよ!」
確かに、灯台下暗しだと思った。