ジリリリと目覚まし時計の音で目を覚ます。早起きに慣れていない私の身体は起き上がる事を拒み、布団から足の先を出す事すらも億劫になっている。
然し少なくとも手を出さないと目覚まし時計のベルは止めれないので、致し方なく目覚まし時計に手を伸ばす。
「げ。まだ六時半じゃない。」
時計の針は短い針と長い針がどちらも下を向いていた。今時スマホのアラームではなくアナログ時計だなんて、ネットのインフルエンサーとは思えない状況だ。まぁ、私はスマホを必要以上に使ってしまうので充電の節約と思えば容易い事である。
というか七時ってまだ寝れる時間じゃないか。二度寝しよう。私の持論だが、人はどんな時よりも二度寝をする時に幸福を感じるものでは無いのだろうか。ふわふわと感じる浮遊感、遠くなる外の音。あぁ、心地が良い。このまま一生寝ていたい。
「おかかーー‼︎」
「ぎゃあ!」
突然布団を剥ぎ取られ、冷たい空気が身体を支配する。
「明太子!」
見上げると狗巻君が顰めっ面で私の布団を持っていた。あ、そうだった。私転校したんだった。
「というか、勝手に部屋に入ってこないでよ……。一応私女の子なんだからね。」
私がそういうと、狗巻君は「高菜。」と手を合わせた。謝罪のつもりだろうか。
最悪。まだメイクもしていないのに。
私は狗巻君から布団を受け取り、再度布団に戻る。
「おやすみー。」
「おかかぁ!」
「ぶべっ!」
またもや布団を剥ぎ取られ、今度は体を地面に叩きつけられた。
いや、一応女の子なんだけど……。というか朝から元気だなぁ狗巻君は。羨ましい事この上ないよ。
「あ、起きた?絵名は朝弱いんだねぇ。ダメだよー生活習慣直さないと。」
やかましい。余計なお世話だ。
部屋のドアが勝手に開き、五条先生が中に入って来る。どいつもコイツも勝手に入ってきやがって。ていうか狗巻君は百歩譲って許すけど五条先生はダメでしょ。先生が生徒の、然も異性の部屋に勝手に入るのは。
そんな私の心情を知ってか知らずか、五条先生は何やら袋を私に差し出してきた。
「はいこれ。」
「何これ。」
「制服だよ。」
私はそれを受け取り中を確認する。体の採寸もしていないのにいつのまに…。
服は狗巻君が着ている服と似ており、色は黒みかがった藍色だった。なるほど、呪術高専の制服はこんな感じなんだな。質感的に動きやすさ重視って感じだ。
「きっと絵名に似合うと思うんだよね。」
「すじこ。」
「あ、そういえば絵名、朝飯まだだよね。先生が特別に作ってあげようか。」
五条さんはぺちゃくちゃ一人で喋っている。此の人、自分の喋りたい事だけをずっと喋ってやがる。まるででかい子供だなぁ。
然し、着替える前に、動く前に、二人に伝えなければいけない事がある。
「ねぇ、二人とも、着替えたいから出てってくれない?」
————
「え?五条先生が担任じゃないの?」
「僕は一年の担当だからね。今から二年の担任に会いに行くよ。」
私は制服に着替えて五条さんと狗巻君の後についていく。制服は首元の襟は狗巻君よりだいぶ短く首が隠れる程度で、上の服は胸下くらいの丈だ。ウエストが見える様なデザインで、セーラー服の上着みたいと言った方が近いか。プリーツスカート下にはフリルが施されている。靴はローファーではなく、真っ黒なブーツだった。まぁ動き回るためタイツを履いているが……うん。なかなか可愛いんじゃない?
「二年の担任ってどういう人なの?」
私は率直な疑問を五条先生にぶつける。もしその先生が五条先生みたいな人だったら嫌だな。多分一ヶ月くらいなら耐えられるだろうが、そこから先は反抗モードだろう。
「あ、ごめん。少し電話。」
私の質問に被せるように、五条先生のスマホに着信が入った。全くどんなタイミングだと思ったが、まぁ、教員っていう立場だから忙しいのだろう。
「ねぇ、狗巻君。先生ってどういう人?優しい?」
私の問いに狗巻君は首を縦に振り「しゃけ。」と答えた。まぁ、優しいなら大丈夫か。人の優しさの基準は人それぞれだが。
五条先生の電話を狗巻君と無言で待つ。き、気不味い。会話が続かない。元々の狗巻君の語彙がおにぎりしか無いから私から話を振るのが普通なのだろうけど、生憎弟以外の異性と喋る機会も無かったため、年頃の男子が好む会話の内容が思いつかない。
「えっと、狗巻君って、好きな食べ物とかある?」
「ツナマヨ。」
「それはおかずとして?それともおにぎりの具?」
「しゃけ。」
「ツナマヨ美味しいよね。私も好き。」
「しゃけ、すじこ。」
私が返答すると、狗巻君は私の方を指さして言った。私の好物か?
「私はねぇパンケーキとかチーズケーキが好きだなぁ。」
「こんぶ!」
狗巻君は目をキラキラさせていた。狗巻君も好きなのだろうか。
するとスマホを出してまたもや私のアカウントを見せてきた。それは私とチーズケーキが写った写真だった。
「あぁ、うん。そこまで好きなんだ。高頻度でチーズケーキの写真投稿してるけど、流石に拗すぎかな?」
私が少し心配で聞くと、狗巻君は首を横に振り「おかか!」と否定した。よかった。最近喫茶店にいっぱい行ってたからフォロワーに「コイツまたか。」と思われて無いか少し心配ではあったが杞憂だったようだ。まぁ別の心配事はあるけれど。特にお腹の肉とか。
「あ、そうだ。」
私はスマホを取り出し自撮りを撮る。これは記念だ。制服も可愛いし。
「高菜?」
「あぁ大丈夫。ツイッターには載せないから。」
先ず上げようにも制服が独特すぎて身バレ待ったなしだろう。それは困る。今まで自撮りを上げてきたが、そういう変な人に絡まれたのは少なくない。その時の心情は怖いというよりめんどくさいだった。もうあんな事は二度とごめんだ。
「明太子……。」
狗巻君は何やらモジモジとして何か言いたげだった。私は何かまたやらかしてしまったのだろうか?
「狗巻君?」
私が顔を覗き込むと、目を合わせるまもなく顔を逸らされた。なんなんだ一体。
私は逸らされた苛立ちからムキになりなんとかして目を合わせようと狗巻君のあたりをうろちょろする。側から見れば異様な光景だろう。
すると狗巻君はスマホを取り出し何か文字を打ち込んで私に見せにきた。
『制服、似合ってる。』
それを見せた狗巻君の顔は真っ赤になっていた。
私も呆気に取られたつられるか如く顔が熱くなっていく。
「あ、ありがとう。」
変な空気が流れる。こんな面と向かって褒められた事はあんまりない為恥ずかしくて死にそうだ。似合ってる……似合ってるか……。ふふ、悪くない。
「あのぉ、もう入っても良いかな?」
あ。忘れてた。
電話を終えたであろう五条先生は手を挙げながら立っていた。こんな場面に巻き込まれるなんて哀れだな。まぁ私たちなのだが。
「ごめん二人とも。仕事が入った。棘、後の事は任せても良いかな?」
「しゃけ。」
そう言い五条先生は走って行った。ほんと忙しそうだなぁ。
またもやポツリと残された私達は目を見合わせる。狗巻君も「しゃけ」と肯定したら良いものの、担任が何処にいるかも分からないようで、少しオロオロしている。
せめて何処に行けば良いのかくらい教えて欲しかったな。
私達が立ち尽くしていると、後ろから「オイ。」と声をかけられた。
振り返ってみると、三人の少年少女が立っていた。通行の邪魔だったのだろうか。そしたら申し訳ない事をした。
いや、そう思う前に思考が停止してしまった。正確には三人ではなく、二人と一匹なのだ。あまりに自然な立ち住まいに流してしまいそうになったが、これはいくら私でも許容はできなかった。
だって、如何にも気弱そうな男の子と、気が強そうなポニーテイルの女の子と一緒にいたのは、紛れもない、上野動物園にいそうな
「そんな所に突っ立ってんなよ。邪魔だ。」
「こんぶ。」
狗巻君は手を合わせて伝えた。すると女の人が此方を見て「お前、例の転校生か?」と聞いてきた。いや、情報早すぎでしょ。
「はい、東雲絵名です。よろしくお願いします。」
私が頭を下げると、女の人がまじまじと此方を見てくる。何か付いていただろうか。そんなじろじろ見られると恥ずかしいな。
「まぁ、棘が言ってた事は納得したわ。私は禪院真希。新人だからって容赦はしねぇぞ。」
成る程、呪術師はイカれた人達が多いとは聞いていたけど、想定してたより一癖二癖ありそうだ。私、本当に此処でやっていけるのかなぁ。
「僕は乙骨憂太。僕も去年の冬に転校してきたばかりなんだ。よろしくね。」
「うん。よろしく。」
乙骨と名乗った少年も、私と同じく転校してきた人だと聞いて、少し安心した。此処は転校とかが多いのかな。
「俺パンダ。よろしく。」
「え。あぁ、うん。よろしく。」
何かのマスコットかと思ったら、割と自我あったな。いや、割とというか思いっきり?というかパンダ以外に色々説明して欲しい。
それぞれの自己紹介が終わり、このまま一緒に教室行くかという流れになり、四人と一匹で歩く。説明によると、二年は私を含めた五人だけらしく、一年は二人だが、うち一人は遅れて入学するらしい。因みに三年は停学中。いや、癖が強すぎるでしょ。何をしたら停学になるのよ。
「おー。二年ズ仲がいいことで。もう転校生と仲良くなったのか?」
「あ、日下部。」
パンダ君が発言した方をみると、そこには平日の三時からやってるな刑事ドラマに出てきそうな風貌をした男の人が立っていた。
日下部と言われた人は「先生をつけろ。」と言いながら棒付きキャンディを咥えている。煙草じゃなかったんだ。その人は私の方に向き直り手を差し伸べる。
「俺は二年担任の日下部だ。よろしく。」
「あ、よろしくお願いします。」
どうやらこの人が探していた先生らしい。見た目的に教員より
「よし、五人揃ったところで行くかぁ。」
日下部先生はパンっと手を叩き、号令をする。行くって何処にだろう。
「ねぇ、これから何するの?」
私は横に居た禪院さんにこそっと聞く。すると禪院さんは片耳を穿って「あー。」と曖昧な返事をした。
「実習だよ。実習。」
「?なんの?」
「実際に呪いを祓うんだよ。」
その言葉に背筋が凍る。
私、生きて帰れるのかな?
やっと五人揃いました!なんか狗巻と絵名のフラグがぼんぼん立ってますねぇ。次回はついに実習です!