東雲の空に鳴り響く聲は   作:亥露

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不随の彼

「絵名様ー! コッチです!」

 

 有象無象の視線が、同時に絵名に降り注ぐ。絵名は縮こまりながら声の主──庵歌姫の元へ急いで駆けた。

 

「歌姫ちゃん。声が大きいって」

「あ、すみませんでした! つい……」

 

 そう言って歌姫は「えへへ」とはにかむ。それを見て怒る気も失せてしまった絵名は少し口角を上げた。

 

「まあ良いや。今日はよろしくね」

「はい。宜しくお願いいたします」

 

 新幹線を乗り継ぎ、随分と時間をかけて、漸く京都へ辿り着いたのだ。新幹線で約四時間。時刻はもう十時を回っており、絵名が新幹線に乗った時より、遥かに日が昇っていた。此処に来るまで、新幹線の中で睡眠をとっていたので頭は冴えている。爆睡をこいていたので、時間内にきちんと起きれたのが奇跡であった。

 

 大きく伸びをして、体を正す。椅子で眠っていた所為か体の節々から音が鳴る。矢張り睡眠は布団でとるに限る。と、絵名は人知れず思うのだった。と言っても絵を描いて居る後に寝落ちするなんて事はしょっちゅうあり、椅子で寝るのももう慣れっこだったが。

 

 絵名は歌姫の先導の元、歩みを進める。矢張り京都は東京とは違う。人の雰囲気も、街並みも、そして呪いのあり方も。全てが初めてで、絵名はどこか浮ついた気分になっていた。

 

 通行人の会話に少し聞き耳を立てる。全員とまではいかないが、それでも矢張り方言や訛りが新鮮に感じられた。

 

「けれど、良いのですか? うちの生徒の為に態々足を運んで頂くなんて……。いえ、私としては嬉しい限りなんですが」

 

 歌姫は振り返りながら心配そうにそう言う。しかしその心配は杞憂のものだ。絵名は迷惑だなんて思っておらず、逆に言えば是非にと感じた程だ。だからこそ話が来た直ぐに、その腰を上げたのだ。

 

「良いのよ。私がしたくてしている事だし。それに放って置けないでしょ、()()()()()()()()()()()を」

 

 絵名がそう言うと、歌姫はホッとした表情を浮かべた。

 

 京都に来たのは、観光の為などではない。とある人間に会いに行く為だった。

 

 けれども観光では無いと言っても、矢張り見慣れない風景は気になるもので。少し良さそうな店があると、つい其処に余所見をしてしまうのであった。浮かれるなと自分で叱咤しつつも、目を奪われる。そんな自分の意志の弱さに、少し呆れた。そして最終的に帰りに時間があったらお土産として皆んなに買っていこうと言う結論に至るのだった。

 

「それにしてもやっぱ東京とは違うわね。なんか雰囲気がさ」

「あ、それ私が東京行った時も思いました。やっぱり県民性でしょうか」

「どっちも〝県〟では無いけれどね」

 

 府民生と都民性だろうか。と、絵名は頭で考える。どちらも絵名的にはあまり聞かない単語だった。

 

 絵名は普段他県の人間と関わることがない為、そう言うところは新鮮であった。

 

 しかし冷静に考えてみればニーゴのメンバーが全員近場の学校で、その上気軽に行ける距離に住んでいる同じ東京の人間というのも、一種の奇跡を感じざるを得ない。もしかしたら自分も含め、メンバーの誰かが都外の人間という事もあり得ただろう。そう考えると、些かこの縁には運命じみたものを感じた。

 

 周りの視線が刺さる。恐らく歌姫の着ている巫女の袴姿にだろう。

 

 歌姫は仕事着として袴を着用して居るのだ。それは十一年前から変わっておらず、絵名の記憶の中の歌姫は常に袴を着ていた。それが正装なのだろう。あまり着物を嗜まない絵名から見たら新鮮でならない。

 

 しかしそれが浮いているかと言われたらそうではなく、歌姫の美しい雰囲気に、赤白の袴は見事にマッチして居るのである。

 

 対する絵名は昨晩の服を着替え、普段の高専の制服を着ていた。矢張りこの服の方が動きやすいのだ。着慣れているというのもあるが、何より仕事となるとこの方が身が引き締まると、絵名は思った。元々絵名は服が好きだ。服によって行動の遣る気(コンディション)が決まると言っても過言ではない。

 

 けれどもこの服を着るのは、一種の切り替えだと思っている。

 

 この服を着る事により、絵名は〝普通の女子高生〟ではなく、〝呪術師の東雲絵名〟という鎧を纏うのだ。それは、己を守る術でもある。

 

 そうする事で絵名は己を鼓舞し、地獄に向かう。そうしなければ、絵名の弱い化けの皮が、意図も容易く剥がれてしまうのだ。それは東雲を背負う絵名には絶対に許されない事だった。

 

 虎杖が死んで、いつしか不安が襲うようになった。

 

 自分は東雲の姓を背負うに足る人間なのかどうか。

 

 この先本当にやっていけるのかどうか。

 

 きっと数十年というブランクがあるからなのだろう。その不安は次第に膨れ上がり、より一層絵名の自信をなきものにする。

 

「そう言えば、昨日は栃木に行かれてたと聞きましたが、大丈夫でしょうか。お疲れになられていませんか?」

「大丈夫。新幹線の中で爆睡したし。疲れは完全に取れたよ」

 

 歌姫を安心させるように、絵名笑みを浮かべてそういう。本当は疲れは取れていなかったが、それでも昨晩よりは幾分かマシだった。

 

 けれどもここで不安を煽る様なことは無意味に等しい。絵名は素早く取り繕って誤魔化す。

 

 そして両頬を叩き、邪念を祓う。歌姫が驚いたように絵名を見ていたが、それは敢えて無視をした。

 

 そうだ。こんな所でぐずぐずして居る暇はない。これから会う人物はもっと辛い思いをして居るのだ。こんな所で感傷に浸っていたら天国の虎杖に笑われてしまう。

 

 そう自分に叱咤し、前を向く。その顔には、憂いながらも、決意の色が見えていた。

 

 

 

◆◆◆◆◆

 

「此処です」

「これはまた薄暗い所ね。本当に居るの?」

 

 連れて来られたのは、薄暗い廃墟の様な所だった。

 

 病院でも、施設でも、況してや家でもなく──廃墟。

 

 療養にはとてもではないが相応しくはないな、と絵名は思った。

 

「ええ。先に硝子がついている筈ですが……あ、いたいた。硝子ー。お待たせー」

 

 歌姫が声をかけた先に、いつも通り白衣を着ている医者──家入硝子が立っていた。そして二人を見つけるや否やポケットに入れていた手を出し、右手を挙げて此方へ挨拶をしながら歩いてくる。その顔は矢張り疲労の色が見えた。

 

 絵名の比ではない。

 

「歌姫先輩。お疲れ様です。それに絵名も。長旅ご苦労様」

「それは硝子さんもでしょ。ただでさえ忙しいのに、付き合わせちゃって悪かったわね」

 

 今回硝子は、絵名に言われ京都まで来たのだ。本来は一緒に来る筈だったのだが、前日に硝子の予定が入ってしまい、じゃあ丁度良いということで絵名も栃木へ行く事に決めたのだ。そして結果的に現地集合になってしまったが、それでも予定は狂ってはいなさそうだ。

 

「気にすんな。あんたは本来私たちを顎で使っても良い立場なんだからね」

「そんな事を言われても……。急には無理よ」

「慣れていきな」

 

 絵名は呪術師の元締め。ということは呪術師を自由に動かせる権利を持つ。

 

 しかし絵名にはその実感がまだ湧かなかったのだ。

 

 上に立つという事は理解をした。しかしまだ自分が優位に居るという現実を、受け入れられないでいた。

弟に対するパシリとは、訳が違うのである。 

 

「それで? ()()はどう?」

 

 歌姫の言葉に、硝子は静かに首を横に振る。その意味を、歌姫は汲み取り、「そう……」と目を伏せながら呟く。それを見て、絵名の額に汗が伝った。

 

 硝子の優秀さは身に染みてわかっている。だからこそその硝子で対応が出来ない事を自分が出来るかという不安があるのだ。

 

「取り敢えず中に入ろう。直で見た方が早い」

 

 そう言って、硝子は絵名と歌姫に背を向ける。二人はその後を追った。

 

 そして廊下を進み、地下へ進み、扉の前に立ち止まる。此処に、件の人が居るという事だろう。

 

 絵名は固唾を飲む。

 

 安心しろ。気丈に振る舞え。

 

 そう自分にいい聞かせ、絵名は硝子に目配せをする。

 

 硝子は頷き、扉を開けた。

 

 最初に感じたのは──酷い消毒液の匂いだった。

 

 そして次に異常なまでに締め切られた部屋。一寸の光も許さぬとばかりに窓やカーテンは締め切られており、ただ唯一ある光はモニターから発せられるブルーライトだけだった。

 

 中央には、何やら液体が満たされた浴槽に下半身を突っ込んでいる少年が、此方を見ていた。その体には包帯が巻かれており、最早肌の色も認識できなかった。

 

 無数の点滴に繋がれた彼──(むた)(こう)(きち)は、この世の全てを呪っているかの様な、光も希望も灯らない瞳を、絵名にむけていた。

 

 

 

◆◆◆◆◆

 

「こんにちは。あなたが与幸吉くん?」

「……そう、ですけれど」

 

 与は、刃の様な鋭い目付きで絵名を見る。分かってはいたが、相手は余程絵名を警戒しているようだ。絵名は内心少しショックを受ける。

 

 与幸吉。天与呪縛で一生外に出れない体にされてしまった哀れな少年。

 

 莫大な呪力と引き換えに、体の自由を奪われた少年。

 

 普段は遠隔で呪力を使いロボットを操縦して学校に通っているらしい。その時の名前は『究極(アルティメット)メカ丸』と、歌姫は言っていた。しかしその正体は、残酷なものだった。

 

 セカイを呪いたいと言っても、無理はないだろう。己がもし逆の立場だったら、もうとっくに首を吊っているかもしれないと、絵名は思うのだった。

 

 そして好きに動ける人間を、恨むのだろう。恨んで、恨んで、恨み続けるのだろう。

 

 けれどもそれは分かった気になるだけだと、絵名は思う。どれだけ考えようが、想像を膨らませて相手の立場になろうが、それはやはり想像の域を出ない。本人になってみないとその痛みは理解ができないのだ。

 

 そして場合によっては、その考えこそが相手を侮辱することもある。

 

 だからこそ、相手は絵名に嫌悪するのだろう。

 

 此方の苦労も知らないで──と。

 

 けれどもそこで折れてしまっては本末転倒だ。何の為に此処に来たのか分からない。

 

 意を決して、辛抱強く話しかける。

 

「私は東雲絵名。よろしくね。一応、あなたと同い年なんだけれど」

「知ってますよ。総会で見ました」

「そっか。覚えていてくれてありがとう。歌姫ちゃんから聞いてると思うけど、貴方の()()を治しにきたわ」

 

 絵名は目線を与の体に移す。その体はとても痛々しく、思わず絵名は顔を顰めてしまう。

 

 どれだけ苦しいだろうか。絵名には計り知れない。

 

 きっと、全てを呪ってしまうほどの苦痛なのだろう。それこそ、死んでしまった方が楽と思うくらいに。

 

 徐に、与は口を開く。

 

「うるさい。あんたに分かるか、俺の苦しみが」

「ちょ、メカ丸! あんた絵名様に……!」

 

 歌姫の叱責を、絵名は歌姫を見ずに手で制す。歌姫は絵名の指示に従い、グッと堪えた。

 

 何でもいい、彼の言葉が聞きたかったのだ。

 

「生まれつき右腕と膝から下の肉体と腰から下の感覚がない。その上肌は月明かりでも焼ける様に痛く脆い。更に全身の毛穴から針で刺された様な痛みが四六時中続く。これをなんで軽々しく治すなんて言えるんだよ……!」

「………………」

 

 絵名は、黙って聞いていた。いつの間にか与は感情的に叫び、怒りを露わにしていた。

 

「今までお前と同じ事を言ってきた人間は五人いる。だかその全ての奴らは匙をなげ諦めろと逃げ出した。お前に分かるか。希望を見せられるだけ見せられ、後に突き放される絶望が、屈辱が、お前に!」

 

 左手で顔を覆い、そう叫ぶ。

 

 どれだけ苦しかったかなんて、測り用がない。きっと今露わにしている感情も、彼の苦しみの五割にも満たないのだろう。

 

 けれど、それは知っている。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「……苦しくて、絶望して、泣きたくて、死にたくて」

「……え?」

 

 絵名は目を伏せ、続ける。

 

「突き放されてさ、思うの。じゃあなんで希望を見せたの? って。まず最初に来るのは絶望。その次に怒り。そして最終的に虚無感に襲われる。こんな事なら、期待しなければ良かったって」

「何……を」

「私もそうだったから」

 

 絵名は跪き、目線を与に合わせた。

 

「突き放されて、絶望した側だから。体の痛みや今までの苦しみは完全に理解出来なくとも、それは分かる」

 

 そして、真っ直ぐと与を射止めた。

 

「だからこそ、貴方を救いたいと思った。気休めなんかじゃなく、本当の意味で」

 

 絵名はそう、正直に言った。

 

 どこか共感(シンパシー)を感じたのだ。ぜ

 

 絶望の底に居る苦しみは、絵名はよく知っていた。だからこそ、その活路を持っている自分が、救いたい。絶望の底から、押し上げたい。そう思ったのだ。

 

 与の目に、少し光が灯るのを見逃さなかった。

 

「……本当に、治せるんですか?」

 

 その声は掠れており。力がない。

 

 しかしその全てに絶望しているのかと言われればそうではなく、その中に、少しの希望を望んでいる様だった。

 

 少なくとも、絵名にはそう聞こえたのだ。

 

「……絶対に、とは言えないけれど、全力を尽くすわ。何たって、こっちには優秀な医者がいるんだもの」

 

 そう言って絵名は硝子を見た。硝子は見るからにドヤ顔をする。

 

「だから、その為にも貴方の体を見せてくれる? そうしないと前に進めないわ」

 

 絵名は、真剣な口調でそう訴える。本人の了承がなければこの話はお終いだ。絵名としてはどうしても頷いて欲しかった。

 

 目の前で苦しんでいる人間を、野放しには出来なかった。

 

 今の現状に不満があるのだとすれば、なりふり構わないで手を伸ばすべきだ。絵名はその手を、掴む覚悟でいる。

 

「望むのなら、私は貴方を光へ連れ出す事が出来る」

 

 そう言って、絵名は手を差し伸べる。

 

「貴方は、どうしたい?」

 

 絵名の言葉に、与はくしゃりと顔を歪めた。

 

 そして、呟く様に答えたのだ。

 

「俺は……みんなに会いたい。外に出て、日を浴びて。普通に生きたい」

 

 そう、泣いたのだ。

 

 泣いて、そして、絵名の手を握った。

 

 救いの手を、握り返してくれたのだ。

 

 

 

◆◆◆◆◆

 

「……終わったぁぁぁぁ!」

 

 地面に倒れ込み、絵名は伸びをする。着ていた白い服が土で汚れる。しかしそんな事はもうどうでも良かった。目的は達成されたのだから。

 

 時刻はもう日を跨いで四時だった。地下からでは分からないが、恐らく外はもう明るいのだろう。手術台には、未だ眠っている、与幸吉の姿があった。

 

 先程とは違い、正真正銘、五体満足の人間の姿で。

 

 それを見て、絵名は本当に、心の底からの笑みが浮かんだ。

 

 良かった。本当に。上手くいった。

 

 頭に温かい感覚が伝わる。顔を上げて見ると、絵名と同じく白衣に身を包んだ硝子が優しい手つきで頭を撫でていた。その顔には慈愛が孕んでいた。

 

「お疲れ様。数時間も、よく頑張ったよ」

「硝子さんは平気そうね」

「こんなしょっちゅうだからね。嫌でも慣れるさ」

「成る程。其の目の隈の正体見たり」

 

 絵名は寝転がりながらそんな軽口を叩く。恐らく今の絵名にも同じ様に隈が出来ている事だろう。東京に帰ったら、死んだように眠る(コース)が決まってしまった。

 

「にしてもよく思いついたね。まさか()()()()()()()()()()()()()()()

 

 そう、絵名は体に影響を及ぼしている血管や筋肉を術式を使い一般的な仕組みにしたのだ。肉や血管を伸ばし、新しい姿に変え、そうして正常な形に戻す。そうして物理的に治癒をするのだ。

 

 しかしそれは口に出す程簡単な事では無い。何なら夜明け前に終わったのが奇跡なくらいだった。

 

 その上絵名は手術と言うものをした事がない。けれど硝子の監修の元、絵名一人で行われたのだ。最初こそは不安しかなかったが、それでも後半に行くに連れ、ゾーン状態になり、硝子に言われるまでもなく、一人で治療に集中出来たのだ。硝子も何も言ってこないあたり、よく出来たのだろう。しかし慣れない作業に体が悲鳴をあげたのか、終わってからはもう何も考えれないでいた。

 

 絵名は呪力こそ多いが、それでも際限はある。今の絵名の呪力はもうカスカスだった。これだけ呪力を消費したのは先の戦い以来だ。

 

 結局、与が起きたのは、昼を過ぎてからだった。絵名と硝子はその時間まで、死んだ様に寝ていた。歌姫はと言うと、態々絵名達のために毛布を用意してくれていたのだった。

 

 歌姫は二人に泣いて感謝していた。どうやら歌姫は根っからの生徒思いの人間らしく、まるで自分の事のように喜んでいたのだ。

 

 それを見て、硝子と絵名は顔を見合わせ、笑った。そして起きた与に、歌姫は号泣しながら抱きつく。

 

 起きた与は、自分の体をまじまじと見ていたのだ。

 

「これが、五体満足の体……」

 

 本当に感激している様だった。

 

 感激して、そして泣いた。

 

 焦がれた自分の姿が、今手にしているのだから。それを見て、絵名も泣きそうになった。こんなにも喜んでもらえるなんて、此方も頑張った甲斐があるというものだった。

 

 しかし生まれてからずっと歩いていない為か、与は歩く事が出来なかった。いや、筋肉はあるのだが、歩き方を知らないのだ。暫くは車椅子とリハビリの繰り返しだと、硝子は語っていた。しかし与は、それでも良いと、泣いて感謝したのだ。

 

 そして、その顔には出会った当初のような、全てを呪う様な、絶望は感じられなかった。

 

「ありがとうございます。貴方のおかげです。本当に、ありがとう」

 

 そう言って、与は絵名の手を握りながら何度も何度も感謝を述べたのだ。

 

 絵名はむず痒い様な、気恥ずかしい様な。そんな落ち着かない気分になり、思わず顔を逸らした。

 

 そうして与を連れて外に出た。

 

 日の光に当たった与は、これ以上にない程の笑みを浮かべたのだった。

 

 

 

 

(ひと)(つき)()

 

記録──2018年9月

神奈川県川崎市

キネマシネマ

 

上映終了後

男子高校生3名の変死体:を従業員が発見

 

死因 頭部変形による脳圧上昇 呼吸麻痺

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