東雲の空に鳴り響く聲は   作:亥露

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彼らとの日々、そして呪霊退治と訓練
呪いのトンネル


 「んじゃ、パンダと狗巻と真希は南区に行って、乙骨と絵名は東区に行ってくれ。」

 都内某所。そこで私達は所謂作戦会議とやらをしている。まぁ作戦会議って言うほどでもないが。ただ指示に従って動くだけだから。

 「あ、絵名は今回見学な。術式の扱い方も然程わかってねぇだろ。まぁ今回は乙骨一人で事足りるから心配すんな。見て色々学んでこい。」

 なんだろう、舐められてる訳ではないのだが、なんかムカつくなぁ。馬鹿にされてる気分だ。然し本当のことなので何も言えないのが現実だ。私は十数年と言うブランクがあるし、常日頃呪霊と戦っている彼らとは天と地ほどの差があるのは確かだろう。

 「よ、よろしくね。東雲さん。」

 「絵名でいいわよ。苗字で呼ばれることあんまり無いし。普通に呼び捨てでいいよ。」

 「え、じゃあ絵名。」

 うん。やっぱり呼び捨ての方がやりやすいな。ニーゴのみんなも、仕舞いには弟の彰人も私の事を呼び捨てにしている為、もうそっちの方に馴染みが出来てしまったのである。とはいえやはり年下に呼び捨てはなんか馬鹿にされている様な気がしないでも無いので、冬弥君や他の後輩達にはさん付けやちゃん付けで呼んでもらっている。瑞稀は……まぁアイツは別って事で。

 「じゃあ僕も憂太でいいよ。」

 「じゃあ憂太。よろしくね。」

 そんなやり取りをしながら私達は歩みを進める。向かった場所はトンネルだった。如何にもって感じだなぁ。

 「じゃあ帳下ろすね。」

 「帳?」

 「うん。中から呪霊を炙り出す結界だよ。」

 

 

 

 闇より出て闇より黒く

 その穢れを禊ぎ祓え

 

 

 

 すると当たりは夜の様に暗くなり、急に呪いの気配がしてきた。なるほど、最初狗巻君と初めて会った時の()()はその帳ってやつだったのか。

 「此処で五人の男女が行方不明になってるって情報だよ。生きていたら保護、死んでいたら遺体の回収。」

 「え、遺体って?」

 「もしかしたら呪霊に殺されているかもしれないしね。あ、もしかして遺体って初めて?」

 初めてに決まっているだろう。何処の世界線に毎日の様に死体を見る一般女子高生が居るんだよ。コナンか。私は今まで絵しか描いてこなかったんだ。

 私が優太に引いていると、ある事に気がついた。あれ?此処って…。

 「此処は心霊スポットとしてはかなり有名らしくて、実際に呪霊を見た人も沢山いるらしいんだって。然もその所為で事故も多発。以前から有名だったけど、なんか今年の春らへんに急激に増え始めたらしいよ。事故も呪霊も。」

 「………。マジ?」

 「マジ。………絵名、もしかして此処来たことある?」

 そう、此処はニーゴのみんなと一回肝試しに来たことがあるのだ。然もその春に。

 「うん。そのまさか。まさか呪霊が居るとは思わなかったな。」

 私がそう言うと、苦笑いしながら「まぁ術師にならないとそういうのは分からないよね。僕もそうだよ。」と慰めてくれた。優しいな憂太は。

 「にしてもこっち来ないね。呪霊。こっちを見てるばかりで一向に襲って来ない。」

 「え?呪霊ってそういうもんじゃないの?」

 「え?」

 なんか、私と憂太の間で呪霊の認識の相違があるな。今まで襲いかかって来る呪霊に遭遇した事が無かったから、そういうもんだと思っていたが、違うらしい。

 憂太は何やら考えている。そして徐に口を開き、「ちょっと学生証を見せてくれない?」と聞いてきた。断る理由もないので、ポケットから学生証を取り出し学生証を見せる。

 「あー、やっぱり。」

 「何が?」

 「いや、ちょっとね。」

 憂太は私の学生証を見て何やら納得をしていた。私も一緒に学生証を見てみるも、何も変わった所は見られず、頭にハテナを浮かべるしか無かった。

 「此処に一って書いてるでしょ。」

 「え?うん。そうだね。それがどうしたの?」

 「呪術師には階級があるのを知ってる?」

 「え?初耳なんだけど。」

 曰く、呪術師にはそれぞれ階級があり、それぞれ四級、三級、二級、一級。そしてその上の特級があるそう。

 「そして絵名の学生証にある一は一級って事だ。」

 「え、という事は私一級って事になるの?」

 「そういう事。」

 それは身に余るほどの事実だった。何もしていないのに一級だなんて、おかしすぎるでしょ。然も私は未だ上層部どころか、五条先生にも術式を教えてないから、術式関係って事は無さそう。 

 じゃあどうして?

 「取り敢えず中に入ろう。若しかしたら中に原因の呪霊が居るかもしれない。」

 ……中に、入るのか。

 外から見ても分かる。ホントに此処はやばい。一度来たからっていって慣れるわけもなく、私はトンネルの出入り口で立ち尽くしている。

 「絵名?どうしたの?」

 「えっと、私、こういうのは苦手で……。」

 憂太はポカンとして目を丸めた。そしてしばらくしてから大声で笑い始めた。憂太の声がトンネルの中に響いて反響する。

 「うん!うん!分かるよ!ふふ、僕も入った時そうだったから……ブフ、にしてもそういうのダメなのに高専に入るなんて……アハハ!」

 憂太の笑いにみるみる顔が熱くなる。そんな笑わなくってもいいじゃないか。ダメなものはダメなのだ。

 「ちょ、そんなに笑わないでよ!ていうかさっき憂太もそうだったって言ってなかった⁉︎人の事言えないじゃない!然も高専に入ったのも正直で言って仕舞えばノリと勢いに任せて…。」

 「いやぁ、一時の感情はいつか身を滅ぼすよ。僕が言えたことでは無いけどね。」

 ぐうの音も出なかった。本当にその通り。言い返す術も、言い訳する材料も私には持ち合わせていなかった。然し身を滅ぼしてでもやりたい事がある。護りたいものがある。

 私は自分の為に身を滅ぼすのだ。

 「でも入るって決めたからには強くならなくちゃね。」

 「言われなくても分かってるわよ。さぁ行くわよ。」

 私が足を踏み出すと、その足音が反響して鼓膜を刺激する。そして背中にぞくりと冷たいものが走り、これ以上進む事が出来なくなった。

 「……絵名?」

 「ねぇ憂太。先に行ってくれない?」

 「さっきまでの意気込みは何処に行ったの⁉︎」

 私が声を震わせてそう言うと、憂太はツッコミとばかりに声を張り上げた。馬鹿ね。人はそう簡単に変われないのよ。

 

 

 

 

 

 

 ————

 「中は思ったより暗いね。」

 「ちょっと、なんで此処電気通って無いわけ?あり得ないんだけど。」

 私達はトンネルの中を一直線に進み、辺りを見渡す。あまりにも暗い。憂太が持っている懐中電灯が心許ないと思うくらいには。

 中は呪力は感じるものの、一向に呪霊が出て来る気配が無い。本当に此処に居るのだろうか。憂太が言うには基本呪霊は襲ってくるものらしい。

 では何故私の場合襲って来ないのか?

 謎は深まるばかりだ。

 「そういえば、絵名って此処に来たことあるんだよね。どういう幽霊が出るとか聞いてないの?」

 憂太の問いに私は記憶を遡る。確か瑞希が言っていた記憶があるが、なんだったっけ。出入り口のガードレールの凹みは確か車が衝突した跡で、それの原因になったのが……。

 「あぁ思い出した。確か髪の長い女性の幽霊が出るらしいわよ。でも普通の女の人に見えるから、車で通りかかった人が「どうしたんですか」ってつい声をかけちゃうんだって。そうすると何かぶつぶつ呟いて、その人が何を言っているんだろうって耳を澄ませると小さい声で何度も『痛い』って言ってるんだって。然もその声を聞いちゃった人は大変な事になるって。」

 「……大変な事って?」

 「いや、そこまでは知らないわよ。私も友達から聞いただけだし。その友達も知らないって言ってたし。」

 上から水がポチャンと落ちる音がトンネルの中に響く。そして私と憂太の間に静寂が流れた。

 「うーん。そうしたらその女の人が呪霊?で、その『痛い』って声が鍵になって来るのかな?」

 「なんで冷静に分析してんの⁉︎怖くないの⁉︎」

 私は自分の先程の説明が怖くなって憂太の服の裾をギュウっと握る。やっぱこういうの慣れなの⁉︎呪術師やってると慣れるものなの⁉︎私十数年間呪霊見てたけど一向に慣れる気配がしないんですけど!

 そう思いながら私と憂太は歩きを進める。

 すると目の前に女の人がペタペタと足音を立てて歩いて来る。行方不明の男女の誰かかと思ったが、それは違うと目の前の現状を見て悟った。

 いや、足音の主はその彼女の物であったが、彼女はもう動ける体になかったのだ。

 だって彼女の顔は悍ましく、もう人と呼べる顔になかったのだから。

 『痛い……痛い……』

 「遂にお出ましかな。絵名は下がってて。僕がなんとかするから。」

 そう言い憂太はしない袋から日本刀を取り出し構えた。空気がピリつき、冷や汗が出る。

 此処から先は命のやり取りなのだろう。私は邪魔にならない様に後ろに下がる。憂太の雰囲気は先程とは打って変わって殺気を纏い付い呪霊と対峙していた。ぞくりと背筋が凍る。

 こ、怖い。憂太ってこんなに怖かったっけ。

 静寂は実際に見れば一瞬だったのだろう。文字通り、瞬きをした瞬間に戦闘が始まったのだから。

 それはもうまるで漫画で見るようだった。いや、これは現実だ。現実だからこそ目が離せなかった。

 憂太の刀は呪霊の肉を削ぎ、目を抉り、身体を貫いた。呪霊も対抗し、その部分を再生して憂太に攻撃をする。然しそれでは祓えない。もっと〝核〟を狙わなければ。憂太もそれが分かっているのか、呪霊を冷静に観察している。

 私は自分にできることはないかと考え、地面に置いている懐中電灯を取り、近くに被害者が居ないか探した。

 然しそれは叶わなかった。

 動こうとしたら、動けなかった。否、足首だけが固定されている。驚いて下を見てみると、地面から干からびた手の様なものが私の足首を掴んでいる。其処で私は自分の軽率さを思い知らされた。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()

 私が困惑していると、上に引っ張られ、その反動で下に落ちる。そして其処には口を大きく開けた呪霊が。

 「絵名‼︎」

 憂太が此方に駆け寄ろうとするも私はそのまま口に一直線へ落ちていった。

 

 

 残酷な走馬灯を観ながら。

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