……ウマ娘とかいうのに転生した件について。   作:稗田之蛙

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女心

「なんだってキングとセイちゃんはあんな不機嫌になってんだ!?」

 練習の休憩タイム。猫目とボブヘアと一緒に、近くのコンビニまで皆の分の飲み物を買いにきた折に、オレはそんな事を二人に吐露した。

「クリスマスの別れ際にゃ二人ともやたら機嫌よさそうにしてたのに、今日は二人揃って不機嫌そうにしやがって!!」

 その嘆きに対して猫目もボブヘアも、何とも言えない表情で黙りこくっている。

「……おい、なんだその顔は?」

 二人を訝しげに見やるが、ボブヘアは苦笑するばかりで。猫目の方は険しい顔で腕を組む。

 猫目がオレの方に一歩距離を詰めてきたかと思えば、口を開いてハッキリと言いつけるように声を出す。

 

「ディオスちゃん、正座」

「あ゛?」

「正座ッ!!」

 

 ……「何故オレがそうしなければならない?」と反抗しようとしたが、猫目から発されるプレッシャーに負けて往来の邪魔にならない場所まで移動して正座した。

 

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「ったく……ジュースがぬるくなるから説教なら手短に」

 袋に入ったペットボトルの様子を見つつ悪態をつきながら、正座したまま猫目の方を見やる。

 すると猫目はオレの目の前で腰に手を当てて胸を張り、諭すような口調で話しかけてきた。

「ディオスちゃん! 前々から思ってたけど、あなたは本当に『女心』というのが分かってないわ!!」

 ……うん、まぁ、牡馬の時の記憶の比重多いし。女になって結構長い期間経ったけど。

「ちょっと待ってくれ。今日は本当にキングヘイローにもセイウンスカイにも不躾な事をした覚えはないぞ!」

 本気で心当たりが無い。今日に関してだけは、間違いなく無罪を主張しても問題はないはずだ。

 しかし目の前のウマ娘は呆れた顔になり、ため息交じりで首を左右に振っていた。

「なんだよぅ、その態度は……」

「クリスマス。セイちゃんに髪飾りあげたでしょ」

 胸の奥がドキリと跳ね上がった。

「なんで知って……」

「あんな思い切って髪を短くしてきて、しかも新しい髪飾り着けてきてて……ディオスちゃん相手だけにこれみよがしに『似合う?』なんて聞いてたんだから当人以外でもだいたい想像つくに決まってるじゃない!!」

 猫目の指摘を受けて、オレは片手で顔面を覆う。

 ……髪がえらく短くなってた事に気を取られて、そっちに全く意識がいってなかった。

「……おいおい待てよ。キングにはアクセサリーあげなかったからってアイツ不機嫌になってるわけじゃねぇだろ。そんなワガママなタイプじゃねぇって。断言する」

 そう言い返すが、猫目は下唇を噛みしめて烈火の如く捲し立てようとしたところを、ボブヘアが一旦手で制してくれた。

「えっとね。ディオスちゃん。キングちゃんが不機嫌になった理由はそれじゃないって、私もそう思う」

「だろ?」

 その言葉に同調するように頷いて見せると、ボブヘアは苦笑を強めた。

「……えっと、例え話なんだけどね。私は猫目ちゃんが他の女の子を、『とっても可愛い』とか『好き』って言ってたら……ちょっとムッとしちゃうかも?」

 ボブヘアが何を言いたいのか分からず、オレは首を傾げた。ついでに隣の猫目は顔を真っ赤にさせて俯いていた。オイ、天然で羞恥プレイしてんのかボブ。実は分かっててやってねぇかお前。

「お前はそうでもキングはそういう手合いじゃねぇだろ」

「……キングちゃんの方には全然『可愛い』とか『綺麗』とか言ってなくても?」

 いや、オレもキングは十分に可愛いし綺麗だと思…………。

「…………うん、当人の前でそんな言葉は言った覚えがほとんどないな」

「でしょ?」

 確かに言われてみればそうだ。オレはこれまで、あの幼馴染相手にその手の褒め言葉をほとんど口にした覚えがない。

「だからって、なんでもかんでもソッチ(同性愛)に結びつけられちゃ困る」

 言い含めながら猫目の方を見やるが、ボブヘアはますます苦笑しながら小さく首を横に振る。猫目も猫目で、わなわなと震えながら口を真一文字に結んでいた。

「……えっと、"お友達の関係"でも、やっぱり羨ましいと思っちゃうかな? 私なら……」

 ボブヘアにそこまで言われて、オレはようやく周囲からあんなによってたかって叱られた理由に気が付いた。

「……キングと面と向かって『可愛い』とか『綺麗』とかおべっか使って言い寄れとでも?」

 だが理解したとしても、なんか、やだ。

「……セイちゃんに嬉しい言葉を向けたり、皆の前で仲良くお手々繋いでたり……キングちゃん、純粋に不安なんだと思うよ。また、自分だけ放っておかれてセイちゃんとばっかり付き合っちゃうんじゃないかって……」

 そう言われた瞬間、自分が塞ぎ込んでた時期にキングヘイローを蔑ろにしていた事を思い起こした。

「…………色恋抜きにしたってアイツが面白くなさそうにしてるのは道理だな……」

 女心というか、子供同士の友情だのなんだのに関しては猫目とボブヘアの方が何枚も上手だと改めて思い知らされる。

 

「いや、キングが不機嫌な理由は分かった。分かったけど、だったらセイちゃんが不機嫌そうになってるのが納得いかん!!」

 オレが二人にそう言うと、今度は猫目の方が目を輝かせながら意気揚々と口を開いた。

 

「それはやっぱり禁断の愛(ガールズラブ)だよ!!」

 

 

「ボブヘアちゃん。みんな待ってるしジュース持っていきましょうか」

「うん」

「待ってぇぇぇぇッッッ!!!!」

 

 猫目に飛びつかれるように縋りつかれてスボンがズレてきたので、スボンを着直しながらまた座り直す。

「違うぞ、絶対。お互いにそんな趣味は断じて無い」

 セイウンスカイの名誉の為にも、キッパリとその疑いを否定する。しかし猫目は未だに不服そうだった。

「……私なら、好きな人にでも言われない限り、あんなバッサリ髪切らないし……」

 まぁ、その考えは一理ある。私だってそういうシチュエーションなら髪型を変えるのもやぶさかでない。

 しかしセイちゃんの場合は、違うだろう。単なるモノグサか、私が関わりないところで考えついたイメージチェンジだ。

「そも、友人としてならともかく恋愛方面でアイツに気に入られる掛け合いをした覚えは微塵もない」

 この点においては、何よりも自信があった。後ろ向きだが、自惚れやナルシストで変な勘違いするよりずっとマシだと思う。

 変な話続きで喉が渇いたので、ペットボトルからオレンジジュースを口に含んだ。

 しばし考え込んでいたボブヘアが、何か思いついたように「ポン」と手を叩いた。

「じゃあ、ひとめぼれとか……」

「ブフォッ!」「目に柑橘系がぁぁぁぁッッッ!!!」

 噴き出したジュースを腕で拭い、泣き喚く猫目の顔をハンカチで拭ってから、ボブヘアの方に向き直った。

「オ、オンナ同士でひとめぼれなぞするはずなかろう??? わたくしだってそうであるます事よ。オホホホ……」

「……ディオスちゃん口調変じゃない?」

 

 いい加減ジュースもぬるくなりそうだったので、一旦話を切り上げて練習場に戻って皆に配る事にした。

 キングヘイローは、イヤに真剣に練習していたのか。汗まみれで肩で息をしているような状態になっていた。不機嫌なせいか、運動にソレをぶつけていたと見える。

 そんな彼女の頬に、半解凍状態のキンキンに冷えたペットボトルを押し付けてみる。

「ちゅめたっ!!?」

 小動物のようにビクリと肩を震わせてから、オレの方を向いた。

 そして頬に押しつけられたドリンクとオレの顔を交互に見つめると、疲れで強張っていた顔が不機嫌そうに歪んだ。

「……そういうイタズラはよしなさい」

「あー……えーっと」

 無視されず会話するきっかけはとりあえず作ったものの、次になんて切り出せばいいか全く考えてなかった事に気付く。

「キ、キングヘイローが凄く可愛い女の子だと気づいて……」

「あなたは可愛いと思った相手の頬に、こんな冷たいモノをくっつける趣味でもあるの?」

 オレの口説き文句は全くもって琴線に触れなかったようだ。むしろ逆効果だったのか、ますますキングは眉間に皺をよせる。

「……えぇっと、オレはキングヘイローの事が好きで……」

「何? まさかまた変なイタズラやらかして謝る為の予防線敷いてるわけじゃないでしょうね!!?」

 オレの口上が下手クソ過ぎて、キングはどんどん機嫌が悪くなる一方だ。

 そりゃあ、まぁ、何の前触れも無しに普段言って来ない褒め言葉を投げかけてきたら企み事を疑うわな。誰だってそーなる。おれだってそーなる。

 

 結局、オレはこの方法しか知らんのだ。

「……練習を始めた辺りから不機嫌そうにしているように見えて、それで私が何か不愉快にさせたと思って、その事を、どうにか謝りたくて……」

 オレは率直に、自分の頭にある事を嘘偽りなく彼女に打ち明けた。

 キングヘイローは小さくため息を吐いて、オレの手からペットボトルを半ば奪い取った。そしてそのままオレの頬にくっつけてくる。

「つめたっ!?」

「はい、おあいこ。で、具体的に"何を謝りたい"の?」

 そう言うと彼女は歪めていた表情を、いつもの澄ました表情に戻してくれた。どうやら少し機嫌を直してくれたみたいだ。

 

 お互いしばらく水分補給の為に一息つく。その折に、猫目達が語っていた推察を相手に説明した。

「ふーん……?」

 キングは横目で、ちらりとこちらを見てきた。

「……いや、もう、だから、あんな風に塞ぎ込んで一方的に面会謝絶とかやらかさないって誓うから……」

「あら、そちらに関してはもう心配していないわ。むしろ誓う必要がある事かしら?」

 殊勝だが本題はそこではない、と言いたげに含みのある言い方だった。

「…………えっと、『綺麗』とか、『可愛い』とか、全く言わないから、怒ってます?」

「さぁ、どうかしらね?」

 オレが恐る恐る訊ねても、彼女は素知らぬ顔のまま横目でこちらを見ているだけだった。

 猫目とボブヘアと一緒にキングコールやる時はわりとノリノリで褒め言葉を言えてるんだが、たぶんそういう事じゃないんだろう。

 

 オレは顔の下半分を手のひらで覆いながら言葉を選んだ。

「…………オレは昔から、キングヘイローは可愛らしい女の子だと思っている」

 表情はそのままだったが、キングの耳がピクリと動いた。

 

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 ……しかしそれ以外は特にリアクションを取ることなく、無言の圧力だけで話の続きを促していた。

「ただ、"いちいち言うまでもない"と思って……いや、違うな。単純に伝えるのが恥ずかしくて……」

 しどろもどろになりながら弁明をするが、やはり相手の表情は変わらないままだ。

「つまり、えぇっと……要するに……」

 言葉が思い浮かばない。

 相手の不機嫌を取り払おうと、何か気の利いた台詞でも言おうとする。しかし頭が回らず、つい語彙力が無くなっていく。

 キングはオレを横目で見つめ続けていた。視線のプレッシャーに気圧されて、思わず俯いてしまう。

「…………え、とっ……」

 情けない声を出して言葉に詰まっていると、キングヘイローが小さく声に出した。

 

 

「おばか」

 

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 その言葉に反応して顔を上げると、不機嫌……とはまた違った、厳格な彼女の横顔があった。真剣な説教をする時の顔だ。

「『嫉妬心は一流らしくない』と何度私に言わせるつもりかしら? そもそもの話、お友達に『可愛い』だの『好き』だの言われないくらいで不機嫌になったりしていないわよ。幼稚園児じゃあるまいし」

「え、じゃあなんであんな面白くなさそうな顔を……」

「あんなたくさんの人前で、大勢の見ている前で、プレゼントされた髪飾りを見せびらかして『可愛い』だの『好き』だのいちゃついていれば呆れたくもなるわよ」

 ……ごもっともである。合同練習で自分の取り巻きがそんな失態を繰り広げていては、キングとしては面白くあるまい。かといって皆の前でそんな事を説教するわけにもいくまいし。

 そして、今更ながら自分がとんでもなく小っ恥ずかしい事をしていた事に気づいた。

「まぁ、私が貴女に忠告したい事はそれだけ。一流のこのキングがヤキモチを妬くだなんて、見当外れもいいところよ。まったく……」

 キングはため息交じりにそう告げると、彼女は飲み終えたボトルを置いて立ち上がる。

「……あぁ、いや、それでも」

 足早に去ろうとするキングを引き留めるように、思わず声が出た。

「……オレはキングは格好良いと思うし、それにとても綺麗だし、人望もあって……」

 キングヘイローの肩がぷるぷると震えてる気がした。先の説教からのコレで、呆れてるか怒っているだろうか。

「あと脚も速いだろう。見た目も可愛いし。クラスの中じゃ頭も良い。そこは素直に尊敬している。二度と疎遠になんかなりたくない」

 でも、伝えたかった。矢継ぎ早に出てくるこの気持ちは、嘘なんかじゃないから。

オレ()は、キングヘイローが好きだ」

 それを言い放った途端、反響するようにキングの方から大声が放たれた。

 

「おばかっっ!!!!」

 

 先よりも怒気を孕んだ声。それだけ言い放って、さっさと走り去っていった。

「…………まぁ、呆れ返るしかないよな。今更白々しい」

 誰も居なくなった中庭で独り言を呟く。キングにはメールで謝っとこう。

 キングとの話し合いが終わるとオレはセイちゃんに渡す分のペットボトルを手に取り、彼女の事を探し始めた……。

『女心』『妬心』の内容の方向性

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