「
「
「遥かな未来をー…………」
……あー。
待ってくれ神様。この展開は必要なのか?
「ディオスさん! もっと、こころをこめてうたわないとだめよ!」
「そーよ! "かんきゃく"におくるライブなんだから!」
猫目とボブヘアのヤツらが寄ってたかってオレを責める。これはデジャヴというヤツか。
その言い合いを制止するように、パンパンと手を打ち鳴らす音が鳴る。
「こーら、二人とも。しっぱいしたからって、ケンカはだめよ?」
「はーい、キングちゃん」
「はーい」
猫目もボフヘアも、キングのいう事ならば素直に聞く。ここらへんについてはさすがボス馬だと関心しなくもない。
そもそもの発端は、トレセン学園に向かう為の"特訓"をしようと三人が言い始めた事にある。
「トレセンがくえんににゅうがくするためには、ふさわしいじつりょくをもたないとだめだわ!」
そうのたまうキングヘイロー。実際、その通りだと思う。あそこはアスリート養成学校のようなものだから、ウマ娘だから無条件で入れるわけでもないだろう。
前世でも追いかけっこの為に背中に重たい人間乗せる事に慣れたり、一旦狭い檻に閉じ込められてスタート決める一連の流れを覚えなきゃいけなかったからな。そこで挫折するヤツがザラにいるくらい、大変な訓練だったんだぜアレは。
「だから、きょうはウイニングライブのとっくんよ!」
だがオレはウイニングライブとやらについて、何の必要性があるのかよく分からない。前世の『ウイニングラン』ってヤツに当たるのか?(もっとも、それについてもオレはやった事がないが)
「わたし、せんたーがいい!」
「ずるいー! わたしも!!!」
だが、ことウイニングライブにかけてコイツらは追いかけっこの特訓よりも本気に練習したがる。それどころかその話を聞きつけた周囲のウマ娘以外の女の子達すらも「わたしもまぜて!」となって、センターの取り合いの口喧嘩になるほどだった。
「……意味わかんねぇ」
オレはウマ娘がウイニングライブを披露するテレビを眺めながら、そう漏らしてしまった。
何も、テレビの中の彼女達を否定するわけじゃない。彼女達が踊り歌うサマは牡馬だったオレでさえ感心する。上手な歌手が奏でる音楽ってのは耳心地が良いもんだぜ? 前世でもラジオから聞こえた時はよく耳を傾けてた。種族の違いがあっても、そこは共通事項だからな。
そんな代物だからか、幼稚園の女の子達が我も我もとウイニングライブをやりたがる。男児のライダーごっこに比肩するほどだ。
そんなのはまるで、こっちが"本番"みたいだ。
「ディオスもこういう舞台で踊りたいの?」
母ちゃんがニコニコとした顔で、テレビを眺めていたオレの横に座り込んできた。オレは姿勢を女の子らしく崩して、母ちゃんに精一杯笑顔を向ける。
「うん! ディオスも、あのお姉ちゃん達みたいに、お歌が上手くなりたい!」
いや、ぶっちゃけオレはウイニングライブとやらにそこまで興味はない。トレセン学園に入る為に必要となれば最低限訓練はするつもりだが。
母ちゃんはオレの態度を微笑ましく思った、あるいは見透かしたのか、そのどちらとも取れる母性のある笑みで話を続ける。
「でもね、このお姉ちゃん達はお歌や踊り、もちろん走るのが上手いだけじゃないの」
「えー?」
それ以外に何が求められるというのだ。テレビで見ていても、その三つ以外で優れてる技術はパッと分かるものはないが。
オレは母ちゃんの言葉がイマイチよく分からず、小首を傾げる。
「ふふ……ディオスがもうちょっと大きくなったら、分かるかもね」
母ちゃんはそう言って、オレの頭を撫でた。
「わたしがセンター! そうじゃなきゃやだぁーっ!!!」
今日も女の子達が、遊具の舞台中央を取り合って泣き喚く。
ライダーごっこでライダー役か怪人役かという事と同じく、こっちも何回かに一回はそういう事が起こる。もはや日常茶飯事だった。
「わたしがセンター!! センターがいいーっ!!」
「ずるい! あんただってずっとセンターでしょ!? いつもそうじゃん!」
「そうだよ! たまにはちがうひとにゆずれー!」
「うぅー……っ!」
責められていた女の子の一人が、張り手をしようと腕を振るいかけた。
オレもさすがにその手をやんわりと掴む形で止めに入った。それよりも一瞬だけ早くキングヘイローのヤツが間に割って入ってその子達の喧嘩を止めていたが。
「みんなケンカしないの!」
「キングちゃーん……」
「ほかのこにケガをさせたら、ライダーごっこみたいにせんせいからだめだしされるわよ!!」
男児達がライダー役を取り合って、殴り合いになって『ライダーごっこ禁止条例』が制定されかけたのは記憶に新しい。殴り合った男児達が謝罪し合いもう二度と殴り合いの喧嘩はしない約束する事で、どうにか条例は撤廃されたみたいだが。
だが蚊帳の外だった女児達にとって、"群れ"の道理がその事例で理解出来るものか。現に、女児達は皆が皆不満そうにしている。
キングヘイローはその不満げな子達の前で仁王立ちになって腕を組み、全員に言い聞かせるように言い放つ。
「いい? ウイニングライブは、"わたしたちのためだけのもの"じゃなくて」
そこで一拍置いて、高らかに言い放つ。
「"レースにかんけいしてくれるすべてのひと"のためにあるのよ!!!」
女の子達はシン、と静まり返った。
……たぶん、キングヘイロー含めてその言葉の意味はよく分かってない。彼女も、周囲の大人が口にしていた言葉を耳に聞いて覚えて使っただけだろう。
だが、ごっこ遊びにおいて外連味(ハッタリ)というのは重要だ。それを蔑ろにすると、ヒーローになりきっても何の面白みもない。だから、キングの物言いは効果は抜群だった。
「そっか……」
「ごめんなさい、らんぼうなことばつかったりして」
「ううん、わたしこそ……きょうはほかのひとにゆるずわ」
喧嘩していた女の子達がそれぞれ謝り合い、そして仲直りする。その様子を見て、他の女の子達もキングへ拍手を送った。
レースに関係してくれる全ての人、か。
そういえば、駆けっこで調子良かった時は世話してくれた人間とかが偉く喜んでくれた覚えがある。
それはオレも気分が悪くなかった。自分が優秀だって自覚出来るのもあるし、何より世話になってる人間に恩返しになってると思えた。
……前世でこそ、ついぞウイニングランで走る事が出来なかったオレであるが、オレを打ち負かした馬の関係者であろう人間が、ことごとく大喜びしていたのを覚えている。
前世の関係者達をあのように大喜びさせてやれなかったのは悔いても悔やみきれないが、今回こそはウイニングライブでセンターを取れれば母ちゃん達は喜んでくれるのだろうか?
……そこを踏まえれば、存外ウイニングライブとは歌や踊りが上手いだけでは成り立たぬ部分があるのかもしれない。
「そうだ! きょうは、キングちゃんにセンターやってもらおうよ!」
「いいねそれ! わたしもそれさんせー!」
「わたしも!」
先ほどまでセンターを争っていた女の子達も、その提案に賛成する。
ウイニングライブのごっこ遊びにおいて、キングヘイローは自分でセンターを主張するよりも、何かしらの流れで他人から促される事の方が多い。
まぁ、普段の付き合いからそこら辺のカリスマ性がある事は認めざるを得ない。
「お~っほっほっほ!! それじゃあ、わたしとともにおどる"けんり"をあげるわ!!」
キングヘイローは女の子達に背を向け、高笑いをしながら胸を張る。
女の子達は、やったーとキングヘイローを褒め称える。まるでお姫様のような扱いである。
そんなキングヘイローは、両脇を固める配役を選ぶ際に、オレの方を見てきた。
「……あなたには、いつもどおりにわたしのセカンドでおどる"けんり"をあげるわ!!」
…………おい、お前がセンターの時に毎回オレをセカンド(二番手)に就けたがるのは嫌がらせか何かか。それって追いかけっこで二位になったヤツが就く場所だろ。
実はオレを打ち負かした前世の記憶もってて、そのあてつけにやってきてるのかこいつは。
「とめようとしてくれたところ、ちゃんとみてたわよ」
キングヘイローはいたずらっぽく笑みを浮かべながら、耳元でそんな事を囁いてきやがった。それについても"でも自分の方が速い"って自慢したいのか。
「ウイニングライブにおいて、セカンドもサードもりっぱなえいよ、よ。こんかいにおいて、あなたはそのえいよにふさわしいいちりゅうのふるまいだったわ」
笑顔でそんな能書きをたれやがる。センターの悦びを知りやがって。騙されんぞ。
「
幼稚園児のお遊戯なのもあって、お歌はモロモロだ。だが「聞くに堪えないか?」と問われれば、これはこれで味があるのだろう。
現に、幼稚園の先生や迎えに来た親御さん達が遠巻きにニコニコとウイニングライブを見守っているのがその証左だ。
「見てて元気になりますよねぇ」
「そうねぇ、実際のウイニングライブ――ううん。それを見てるより元気になるかも」
大人達のそういう世間話が聞こえてくる。
オレは馬から転生した存在だ。だから人間特有の感性というヤツは、未だよく分からぬ。人間の文化を完全に理解するのも、まだまだ時間が掛かるだろう。
しかし、まぁ、ニコニコ見守ってる大人達や楽しく踊る幼子達の様子を見るに……ただ「自分がセンターで歌い、踊りたい」という意思だけで、ウマ娘のウイニングライブは成り立っておらぬ事だけは、なんとなく理解出来た。
ただよう、キングヘイロー。オレはこの件においては理解し難い事が一つある。
「……スペシャルな明日へ繋がるー」
「
「
メイクデビュー(新馬戦)でオレに土つけさせてんのに、挙げ句その曲でセカンド就かせてんのはマジで天然でやってんのか。なぁ。