……ウマ娘とかいうのに転生した件について。   作:稗田之蛙

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台風の目(後編)

『高松宮記念?』

 セイウンスカイがやけに彼女らしくない振る舞いをしていたと思えたオレは、心配になってすぐにキングヘイローに携帯電話を通して相談を持ち掛けていた。

 無論、そのG1にキングの前世で勝利したなどとは微塵も教えるつもりがないのは大前提だ。

「そう、前世で記憶に残ってるそのレースの事を口にした途端、セイちゃん凄く動揺してたというか、落ち込んでた? いや、よくわかんないけど……とにかく、変な感じだった」

「まぁ、ディオスさんが正確にどういう言葉を語ったのか、一言一句知るわけではないから断言できる事は言えないけれど……」

 電話越しにキングヘイローの考え込むような息遣いが聞こえる。キングヘイローはウマ娘のレースの知識については、小学生としては折り紙つき。おそらく、心当たりはあるはずだ。

 そう思ったからこそ、オレは彼女に電話をしたのだった。

 ……キングヘイローはいくばくかの呼吸置いて、オレにいくつか問答を投げかけてきた。

「そのスカイさんが動揺していたレースの名前って『高松宮記念』で間違いないのよね?」

「え、あぁ、うん。正式名称があるとかならもっと長いかもしれないけど、周囲の人達はまずそういう名前で呼んでた」

 いきなり質問をぶつけられて戸惑いながらも、オレは肯定する。

「等級とレース条件は?」

「G1。場所は確か……中京1200m」

 そこまで言って、キングヘイローは少し間を置いた後、再び口を開いた。

 それはオレにとって想定外の答えだった。

 

「この世界にそんな条件や名前のレースは存在しないわ」

 

 一瞬、思考が停止した。

 ……いや、しかしそういう事があっても驚く事ではないかもしれない。ただ単に、前の世界と同じレースが興行されている保証などどこにもないのだ。皐月賞や日本ダービーなど、それに菊花賞など共通のレースは存在するものの。全てが全て前世の世界と同じわけではないのも頷ける。

 そう考えていたのだが、キングヘイローは思い当たる節があるように続けた。

「G2中京2000」

「?」

 オレが察しがつかないように沈黙をすれば、キングヘイローが補足してくるように告げる。

「高松宮記念というレースはないけど、『高松宮杯』という格式高いレースならある。それがG2中京2000」

 なるほど、と思った。こっちの世界ではそういう風に形を変えて存在しているのかもしれない。

 オレはそんな形で楽観的に考えていたが、続くキングヘイローの言葉に驚かされる事になる。

「このレースの歴史を考えるに、近いうちにG1に格上げされてもおかしくない」

「へ?」

 オレの間の抜けた声が、受話器から漏れる。

「……レースって、そんな格上げされる事あるの?」

「当然あるわよ。逆も然り。でもそんなしょっちゅう起こる事じゃないから、トレセン学園のウマ娘とかあるいは関係者でもなければ世間話程度で終わる話でしょうけど」

 キングヘイローの言葉を聞きながら、オレの脳内では今聞いた情報を整理するので精一杯だった。

 ……つまり、高松宮杯が高松宮記念とやらに変わってしまう可能性があるという事だ。

 

『でもさ、それって前世と同じ結果になる可能性もあるわけでしょ?』

 

 セイちゃんが言い放った言葉が頭の中でリフレインする。

 もしその高松宮杯が将来はG1に変わったとして……。

 もしその高松宮杯が『高松宮記念』に変わったとして……。

 

 オレの頭の中でまとまらない考えを、キングヘイローはスマートな表現で要約してくれた。

 

「もしあなたの言った通りG2中京2000『高松宮杯』が、G1中京1200『高松宮記念』に生まれ変わったその時は、もしかしたらそのほかの事も貴方が前世で知っている通りに事が運ぶのかもね?」

 

 ……セイちゃんが何故あのように落ち込んでいたのか、ほんの少しだが理解出来た気がした。

 呆然とするオレの耳元で、電話越しの彼女の声が響く。

「……前世のキングヘイローがどれだけ凄い走り手だったとしても。私はそこで胡坐を掻くつもりはないわよ? 慢心してサボっていれば当然それ以下になるだろうし、もっともっと頑張ればソレを追い越せる可能性があるのだと私は確信している」

 彼女らしい自信に満ちた言葉の数々を聞いているうちに、オレは震えかけた声で訊ねた。

「何故そのように確信を持てる?」

 キングヘイローは当然のように答える。

「だって、この一流のキングヘイローについていける実力を持った貴女が、未勝利で終わるだなんて到底思えないもの」

 前世の身の上について何度か話す事があったからか、そこから拾い上げて変化球で投げ返してきて思わず面を喰らう。

 ……だが、ありがたい事だ。今のオレにとって、それ以上に説得力のある言葉はない。

「……あぁ、それについては、オレも同意見だ。手を抜いたらキング以外にも負ける。全力でやり続ければ、公の場でお前に勝てる可能性は十分ある」

 オレはキングヘイローの言葉に大きな安心感を抱きつつも、同時に漠然とした不安を感じていた。

 

 現役の競走者として走っている時期のセイウンスカイが、キングヘイローがG1を勝ったと認識するならいざ知らず……"まだ心の幼いセイウンスカイ"が、オレの前世の話が予知まがいの代物だったと確信すれば、それをどう受け止めるだろうか……。

 

 ……神様。どうかオレの不安が杞憂でありますように。

 

 

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