ディオスはセイウンスカイに対して……
彼女の為に前世での功績を明かして慰める49 / 35%
前世の事を明かさずキングとの仲直りを乞う92 / 65%
ディオスはセイウンスカイに対して、前世の事を明かさずキングとの仲直りを乞う。
「オレが全部悪かった!」
彼女の前世での活躍を明かすべきではないと頭の中に思い浮かんでから、即座にそう叫んだ。
深々と頭を下げる。オレがキングヘイローの前世を軽々しく伝えた事で、セイウンスカイに余計なプレッシャーをかけてしまったのは事実だ。だから、誠心誠意謝罪するしかない。
「安易に余計な事言った! 前世の事柄でお前にプレッシャー掛けてしまったっていうのも今なら十分理解出来る!!」
頭を下げながら叫ぶオレに対し、彼女は沈黙を保っていた。怒っているのか呆れているのかすら分からない状況に、頭を下げたまま冷や汗を流し続けた。
「許してほしいなんて言わない! キング相手にやらかした直後なのに、お前相手にも同じ轍を踏むような真似した! 嫌悪されたって仕方ないと思ってる! 本当に申し訳なかった!!」
それでもなお、オレは続ける。セイちゃんの心情を考えずに発言した自分の愚かさを反省しながら、とにかく謝らなければという一心だった。
「だ、だが、キングヘイローと顔を合わせ辛くなるなんて言わないでくれ! 悪いのはオレだ! オレは嫌われて当然だとしても、キングとは仲直りしてほしい! キングはこの件に関してなんにも、微塵も悪くないし、お前とも仲良く競い合っていきたいって絶対――」
そこまで言って、小さくぽつりと呟く声が聞こえた。
「……つまんない」
反射的に顔を上げてそちらを見ると、セイちゃんが不満そうな顔でこちらを見ていた。
飄々とした性格のセイちゃんがそんな態度を向けてきた事に驚き、口を半開きにして固まってしまった。
しかし、それも束の間、いつものへにゃっとした表情に戻った。
「ディオスちゃんはさー。ズルい言い方するクセ、やめたほうがいいと思うよ」
先程の空気を打ち消すように、少しおどけながらオレに語りかける。
その表情からは何も読み取れず、どんな感情を抱いているかも分からなかった。
「な、あ、え…………?」
先程までの彼女が打ち明けてくれた悩みが、まるで元から話してなかったように振る舞うセイちゃんに、オレの頭は混乱していた。
「『私の失言でキングちゃんと不仲になられたら、私、キングちゃんに合わせる顔がない』? そんな事口走った直後に『オレは嫌われて当然だとしても、キングとは仲直りしてほしい』? それ本気で言ってる?」
先程自分の口から飛び出た言葉を、一言一句違わず繰り返された。
「加害者ぶって謝ってくれてはいるけど。それって、結局は私の為に言ってくれてるんじゃなくって、"ディオスちゃんがキングちゃんに嫌われたくないから"あるいは"キングちゃんを悲しませたくないから"って事でしょ?」
彼女の声が耳に響く。確かにその通りだと思った。
彼女の言葉が心に突き刺さると同時に、自分は、彼女が求めていた事を全く理解していなかったのだと気づかされた。
取り繕う為に何か別の話題を必死で絞り出そうとするが、もう遅い。
彼女の瞳の奥にある暗い影のような感情が、一層濃くなっていた。
「正直言うとね。キングちゃんが私より強いとか素質に恵まれてるとか、他人から期待されてるとか……彼女の前世の事とかも含めて……そういう事だけなら、キングちゃんと競い合って、そんでさ、将来どうにかして彼女に勝って、そん時に周囲をアッと驚かせる! そんな企み事を楽しみにさえ出来たんだと思う。これは嘘偽りない、ホントだよ」
淡々と、自分に言い聞かせるように、言葉を紡ぐセイちゃんを見て、何も言えなかった。
「ただ、ね。……たとえば、自分を好きになってくれた子がいるとするじゃん。セイちゃんも、そういう子の隣にいたら、多少なりとも自信がつくわけで。でもさ、隣にいるその子に、『セイちゃんよりキングヘイローの方が大事』って態度を何度も何度も、繰り返し示されたら……さすがのセイちゃんでもショック受けるっていうか、傷つくよ」
そう言って、自嘲気味に笑うセイちゃんを見て、自分がどれほど愚かな事をし続けてきたのかを痛感した。
『キングちゃんの事、好き?』
『いや、まぁ、好きか嫌いかで言われたら好きだが』
『そっかそっかぁ~。それじゃあさ、私とキングちゃんどっちが好き?』
『キングヘイローの方が好きだ』
『えー、妬いちゃうなぁ』
『……キングちゃん、なんであんな不機嫌なのか理由分かる?』
『さぁね~、分かんないや』
『ディオスちゃんに一つ質問があります』『キングちゃんの事、どれくらい好き?』
『また茶化してるのか?』
『いやいや、大真面目な質問ですよディオスの旦那ぁ~』
『……だってさー、ディオスちゃんったら、いっつも『誰よりも一番キングちゃんが大事』みたいな態度取るからさー……』
『それでなんでお前が不機嫌になるんだ』
彼女を本当に追い詰めていたものは、キングヘイローや前世達ではなく、他ならぬオレ自身だったのだ。
彼女の好意がどういった方向性のものかも見極めきれずに、無意識に傷つけていたという事実が心を苛む。
そして、何より、彼女はまだ10歳だ。
そんな彼女を傷つけた事がいかに残酷な行為であるかを自覚した瞬間、強烈な自己嫌悪に襲われた。
「オレは――」
――本当はキングヘイローより、セイウンスカイの方が好きだ。
その場しのぎでもいいからと、咄嗟にそう言いかけて、セイウンスカイの方が先に言葉を放った。
「……やーめた」
――何を?
そう訊ねる視線を彼女に投げかけ、相手の発言を待った。
すると、彼女はベッドから立ち上がり、こちらに近づいて来た。
思わず後退りしてしまう。明らかな体格差があるにも関わらず、壁際まで追い詰められてしまった。
「これ。返せって言われてたから、返すね」
彼女は自分の髪につけていた太陽の髪飾りを取り外し、そのままオレの手に握らせた。
「いや、返せって言ってたのは……」
そう言いかけるが、遮るように彼女は言葉を続けた。
「こういう思わせぶりなアクセサリーはね~。本来は大事な人にあげるもんなんだよ? 女の子ってぇのは」
若い女性に説教するおじさんよろしく、そんな面倒臭い口調をわざとらしく演じながら悪戯っぽい笑顔を浮かべている。
その切り替えの速さについていけず、困惑していた。
「だからさ、私にはやっぱ、こういうプレゼントは似合わないや」
オレを見上げてくる形で、無理やり口角を上げて笑顔を作る彼女の表情はひどく歪だった。
そんな彼女を前に、何も言えなかった。
いや、もはや何を言っても無駄だと感じた。
「……んじゃ、セイちゃんはお家に帰りますね」
「え……は?」
まだ轟々と風の雨が鳴り響く音が聞こえる。そうでなければ、オレが謝罪を叫んでいた時点で弟か両親が様子を見にすっ飛んできていただろう。
いやいやいや。
「く、車も出せないくらい冠水してるんだよ!?」
オレは窓の外に映る道路を指さして訴える。だがセイちゃんの返答は淡々としたものだった。
「ウマ娘だから歩いて帰れるよ。あれくらい」
そう言って玄関の方へ歩いていくので、慌てて追いかける。
レインコートを羽織り、靴を履いてドアを出ていくセイちゃんの腕を後ろから掴んだ。
「ちょっと、本気で危ないからいい加減にっ……」
その瞬間、振り返ったセイちゃんと視線が重なる。
……泣いていた。
「……あー、もう。雨で顔が濡れちゃっててさ、早く帰りたいんだ」
涙声になりながら、無理矢理作ったような明るい口調でそう言った。
オレは、彼女の腕を離していた。
「……さようなら」
セイウンスカイはそれ以上何も言う事はなく、じゃぶじゃぶと冠水した道路をかき分けながら帰っていった。
――ズキンズキン。
「……くそ、脚が痛ぇ……」
涙が出てくるのは、きっと脚の痛みが酷いせい。
撫でてくれる彼女はもう隣に居ないけれど、自業自得なのだからワガママを言うな。成長痛くらい、我慢しろ。
数か月前と同じように塞ぎ込んで、他人に迷惑や心配を掛けてなるものか。
ただ黙って空を仰ぐ。気持ちの良い青空も、大好きな星空も、台風のせいで見る事は叶わないだろう。
「ディオス? セイちゃん? お外はまだ危ないわよ?」
「おねーちゃーん?」
母ちゃんと、弟が様子を見に来る。
「あはは、セイちゃん帰っちゃった。まったく、見た目に似合わず強情なんだから」
冗談めかした態度で、そう笑って家に入る。
母ちゃんも弟も心配そうにしていたが、セイちゃんから母ちゃんに対して、帰り着いた報告の電話がきて、それ以上家族から追及される事はなかった。
この件の話に関しちゃ、それっきりさ。
……神様、アンタを呪うつもりは1ミリもない。
たとえ、これが尾を引きずってオレが前世よりも悪い成績になったとしてもな。
これはあくまでオレが選んだ結果で、どうなったってオレの自己責任さ。