……ウマ娘とかいうのに転生した件について。   作:稗田之蛙

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意識してもらう為の一つの方法*

 

「もうすぐオープンキャンパスだから、髪整えてきたらどう?」

 お母さんにそんな事を言われた。気分が落ち込んでいて身だしなみもおそろかになっていた私だけど、お母さんの言う通りトレセン学園の職員さんや在校生達と顔合わせするのだから、身だしなみは整えておくべきだと思う。

「そうねぇ、大人っぽくしてきたら? 心機一転。すこーし大人にね」

 お母さんは、ちょっと楽しそうな調子でそう言う。私は微妙な表情で返しながら、自分の指に髪を巻いた。

 

 私は、生まれながらに髪の毛がふわふわしている。クセが付きやすい。髪型も気分でアレンジしやすいから、かなり気に入ってる。バシっとストレートで決めたい時は手間がかかるのが難点だけど。

「……セットが面倒だから丸坊主にしようかなぁ」

 なんて、髪の毛を指で弄びながら冗談っぽく言う。失恋した直後だからって、センスの無い自傷的な言葉だと思う。女の子としては0点だ。

 髪を手で撫で付けながら、気分転換にいつもとは違う美容室へ行くつもりだった。宛てもなく、というわけではないが。スマフォの情報を元に一軒一軒見回っていく。

 

 ――そして私はふと足を止めた。

 

『芝1600m……天候は曇……バ場は良。発走14:35から……』

 店内に映されてるテレビからそのような中継が聞こえてきた。

 カットを担当しているのは、新人さんだろうか。画面の様子に見とれているのか。よそ見しながらハサミを入れている。

「あーっ!!?」

 ざんばらり。……前髪をざっくり切ってしまい、お客さんはそんな声を上げた。

 私はつい、そこで立ち止まってしまう。新人らしい若い女性の店員さんと、同年代の女性客が言い争いを始めた。

「アンタは、いっつもいっつも! レースが始まったらテレビに夢中で! ぜったいソレ直した方がいいって!!!」

「で、でも。そっちが来る時間は大概レースが始まってて……」

 常連客なのか、彼女は店員さんへ食ってかかっていた。それに対して、美容師さんはしどろもどろになりながら言葉を返す。

 私はそんな二人の様子を見つめながら……そのやり取りを聞いて「ここで切ってもらおう」と思った。

 私が入店するのと同時に、ぷんすこ怒って退店する女性客に「ここで切んないほうがいいよ!」とヤケクソ気味に女性客さんに言われて、私は苦笑いながら会釈を返した。

 私に対して、店員さんはバツの悪そうに苦笑いをしていた。

「……カットですか?」

 そう訊ねられて、私はこくりと頷く。

 それから短いやり取りを複数回交わしてからカット台へ移動し……店員さんに髪を触ってもらう。

「やわらかい髪質ですねぇ」

 店員さんは、私の髪を触ってそう言った。自覚もあるし、たまに言われる。

「ばっさり短くしちゃおうかと思って」

 私は、そんな事を言う。あくまで冗談っぽく。

「もったいない」

 店員さんが、そうぼやく。まるで"友人"との関係性について指摘されたようで、少し苦い思いがする。

 話題を変えるつもりで、ここに入店しようとした理由を店員さんに相談した。

「私、もうすぐトレセン学園のオープンキャンパスに行くんです。だから、先輩達や教師さんに良い印象を与えられる髪型にしたいな、って……」

 ウマ娘のレースに熱中する人なら、ある程度そういうのには知見があるだろうと判断しての事。

 店員さんは、それを聞いて少し考え込んで、したり顔で言った。

「じゃあ……今、"鹿毛のウマ娘さんの間で流行ってる髪型"にしましょうか」

 ……それは、私が思い描いていたのとは少し違う提案だった。でも、不思議と悪い気はしないので頷いた。

 私も、"鹿毛"だ。

 

 私の髪を洗髪してからひと房手に取ると、店員さんはハサミでそれを切り落とした。

 そして、その一房をまた指で触って長さを確認する。

「ゆるく縦ロールさせますから、整える程度に切っていきますね」

 店員さんがそう言う。私の髪は癖が強いので、縦ロールは合うのかも。

「お嬢様っぽい髪型になりそうですね~……」

 縦ロールと聞いて、少しだけキングちゃんの事が思い浮かんだ。ウェーブのかかったセミロングヘアー。彼女自身がお嬢様っぽい、という印象は何故か薄いけれど。彼女も家柄からみれば、お嬢様だし。髪型もお嬢様。

 思い切って、今からキングちゃんみたいにウェーブをかけたヘアーに頼み直してみようかなぁ。

「………………」

 …………セイちゃんが嫌がってたとこって、なんでもかんでもキングちゃんと結びつけちゃうところだよなぁ…………。

 

 髪がだんだんと整ってから、ここからウェーブかけたヘアーに仕切り直しは出来ないだろうなと思わずため息をつく。店員さんにアンニュイな形で伝わってしまったのか、彼女は微笑ましそうに口を動かした。

「だいじょうぶですよ。この髪型なら、たくさんの先輩達にきっと気に入られますよ」

 店員さんにそう言われて、私は愛想笑いを返した。

 髪型一つで、誰彼の気を引けるほど人間関係は甘くないってもう理解してる。

 私は再び鏡の自分を見つめた。

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 店員の楽しげな様子から、たぶんさっきのレースで活躍していたウマ娘の髪型なのだと、なんとなく思った。

 ねぇ神様。この髪型の人ってどんなウマ娘なのかな。

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