「ディオスちゃんも隅に置けないねぇ~。あんな可愛い恋人さんを見つけちゃってさぁ~」
神様。オレは今現在、セイウンスカイとベンチで隣同士で座っている。
経緯の説明が必要か? 口から鉛吐き出しそうな気分になってるのに?
今回は10行くらいで纏められそうにないぞ。文句は言わないでくれよ。
事の始まりはオレが件の一年生のラブレターについて返事をした事に端を発する。
この件についちゃ、よくよく考えてみれば何も難しい事はなかった。相手が男でも女でも関係なく、まだまだ可愛い仔馬ちゃんの年齢だ。なんて事はない。
そんな年代の相手から求められる"恋人付き合い"なんてのは友達と公園でかくれんぼとか鬼ごっことかして遊ぶ延長戦で、オトナみたいに雰囲気の良いカフェで見つめ合うとか夜に海の見える砂浜で追いかけっこするとかが求められるわけでもない。
ただただ楽しい事がしたいだけという子供の考えなどたかが知れてるというものだ。まったくもって……可愛らしい事この上ない。
「ディオスのお姉さん、いつもウチの子をお世話してくれてありがとうね~」
彼女の母親を紹介されたのは、その子と数回くらい一緒に遊んでからの事だ。お茶とお菓子をご馳走になってから、世間話の流れで「フラワーパークへ勉強をしに行く」という事を打ち明けられた。
曰く、チケットが当たったらしいが父親が急用で行けなくなった。腐らせるのはもったいないから、もしよろしければオレもご一緒にどうだという誘いだった。
その場は「自分の親に相談してみてもいいですか」と保留しておいた。数回くらい年下と一緒に遊んであげたにしてはお礼が大きすぎると思ったからだ。
そしたら母ちゃんが勇み足気味にGOサインを出してきた。つーか母ちゃん速攻で相手の親御さんに電話して合意を交わしてた。わざわざオレに新品の化粧品まで買い与えてくれもした。「貴女もこっち側になったのね……」としみじみした顔で言われたが、母ちゃんの言いたい事はよく分からん。
まぁ、フラワーパークなんてのはオレは普段行かない場所だ。花にはあんまり興味がないからな。それでも、植物の勉強をするには貴重で良い機会だと思った。
その話がなんでセイウンスカイと再会する事に繋がったかって? それについては続きを聞いてくれ。
オレは、約束通り件の一年生の子とフラワーパークに出向と相成ったわけだ。日にちは夏休みの日曜日。保護者に引き連れられたオレ達と同じ年代の客なんて、でたらめに多い。
で、まぁ、ドーム型の温室に入って花を見回ってると迷子になってる女の子を発見したわけだ。どういうわけだか不安そうにしている子供に対しちゃ、我ながら目敏い事だ。
「保護者の人とハグれちゃった?」
「は、はい……」
その子の名前は「西野」だと言ったか。いや、ウマ娘だから「ニシノ」か。今をときめく現役の幼稚園児ちゃんだぜ。やったな大将。
とりあえず迷子センターに同伴しようとしたわけだが、ドームから出る前に保護者が居ないか見回っている際に、その子の保護者に出会った。
「……ディオスちゃん?」
……セイウンスカイが、そのニシノって子の保護者だった。
まぁ、なんで幼稚園児と一緒にフラワーパークに来ていたかは深くは聞くまい。オレと似たような理由だろう。
相対してしまえば露骨に避けられるわけでもなく、ニシノちゃんを保護していたお礼を言われた。
ここで計算外だったのは、件の一年生が「ディオスお姉ちゃんの恋人です!」と自己紹介を繰り出しやがった事だろうか。
セイウンスカイはひどく驚いた後に、何故か生暖かい視線をオレに投げかけて、「相変わらずだね」とか言ってた。何が相変わらずだというのだ。
そういうわけで……前々から謝罪したかった相手であるセイウンスカイとこうやって再会する機会が出来たわけだ。神様。
……オレは気を取り直してセイちゃんの方を見やる。
オレの視線を受けてか、セイちゃんは片手で髪の毛を主張するような仕草を取った。
「あはは。髪、伸ばしてみたんだ~。似合う?」
その所作に何かしらの意図を感じて、心臓がきゅっと切なくなるような感覚がした。いや、まぁ、うん。オレの思い過ごしだろう。
「あ、相変わらずセイちゃんは美人さんだねぇ」
実際、セイちゃんはむちゃくそに美人なのだからそう言うしかない。いや、マジでマジで。
「その髪飾りも可愛いね。花……菊? の髪飾りかな」
「さすがディオスちゃん、お目が高いね~」
セイちゃんは照れ臭そうにニッコリと微笑む。機嫌がよさそうでよかった……。
「これね、ディオスちゃんがさっき連れてきてくれた子ね。あの子からもらったんだ~」
……うん、ぜんぜんよくない。心臓がまた切なくなって頭に鉛を詰め込まれた気分になった。ディオスちゃんベンチで横になりますね。
待て待て、早まるなオレ。オレだって一年生の子と仲良くやってただろう。一人のお姉さんとしてさ。ご近所さんや学校の年下ちゃんに親切にする事だってあるだろ。セイちゃんだって、そりゃ同じさ。むしろ小学生高学年にもなって幼稚園児の女児相手にそーゆー感情持つわけねぇだろうが。オレは馬鹿かよ。馬だよ。
とりあえず、内心を悟られないように世間話を続けるとしよう。
「ニシノさんだっけ? 可愛いウマ娘さんだよねぇ~。ところでフルネームは?」
「ニシノフラワーっていう子だよー。ディオスちゃん、もしかして前世の知り合いだったりしますかー? なーんて……」
「どうしたのディオスちゃん。隕石が頭上に降ってきたような顔して」
神様、オレはどうやら
唐突に肩を引っ張られて、ベンチに寝転ばされた。
やたら柔らかいものが枕になって、眼前にはセイちゃんがきょとんとした表情で覗き込んでいる顔がある。
「セイちゃんの気持ち、ちょっとは理解してくれましたか?」
鉛を吐きたい。
「……すまんかった」
この状況がコミカルだかシリアスだか分からないが、どちらにしても謝るしかなかった。
このまま膝枕を享受するわけにもいかないので、早々に頭を上げてベンチに座り直す。
「謝りたかったんだ。ずっと。キングの事ばかり考えていて、セイちゃんの事を軽んじてたような振る舞いばかりしてた事について……ごめん。本当に」
セイちゃんは特に大きなリアクションを返してこなかった。怒っているのか呆れているのか……。
ややあって、彼女は口を開いた。
「もういいよ。別に気にしてないし」
それを受けてオレはほっと息をつきけたが、以前の事を思い出す。
「……気にしてないなら、過剰な練習だけはやめてほしい」
キングヘイローや前世の事どうこう関係なく、彼女を慮ればこれだけは言わなければならなかった。
しかし、当のセイちゃんは飄々とした態度で言い返してきた。
「自分が過剰な練習してるのに、その言い草は都合が良すぎない?」
……何故知られている。
「あ、『なんで知ってるんだ?』って聞きたそうな顔してるね。でもヒミツだよ。情報網ってのはさ、他人に早々バラすもんじゃあないんだよ。ディオスの旦那」
そう言って、セイちゃんは人差し指を口に当てた。あざとい仕草だったが、それが妙にサマになっている。
「私は私の意志でトレーニングしてるんだから、ディオスちゃんが気にすることないよ」
「しかしッ……」
「それに、今のディオスちゃんには別の目標があるんでしょ?」
「あ、その顔は図星だね。こっちは当てずっぽう」
……あの"台風の日"の自分ならともかく、今現在の自分においてセイウンスカイにもはや何も言い返せない。
「でもっ、本当に……セイちゃんには怪我だけはしてほしくなくて……」
苦し紛れに言える事はせいぜいそれくらいだった。
「……ディオスちゃんさー。前々から思ってたけど、たまに雨に濡れた犬みたいな顔するよね」
「なんだよそれ……」
「それも大型犬。ゴールデンレトリバー?」
話を逸らされてるのか、からかわれてるのか分からないけど、セイちゃんの表情は笑ってなかった。
「ま、いいや。わかったよ。怪我しない程度に練習するから、そっちもほどほどにね」
……軽くあしらわれているような気がするが、これ以上何を言っても喧嘩にしかならないような気がしたし、ここは頷く事にした。
「分かればよろしい」
セイちゃんはやや満足そうに頷いて、視線をニシノフラワーや件の一年生の方に向ける。
「それにさ。練習の事しか考えてない、ストイックな状態にはなってないからいいんじゃない? お互いにさ」
……彼女達がこちらの視線に気づいて、えらく朗らかな笑顔で応えてきてくれているのを見る辺り、まぁ……その通りなのだろうと安堵する。
「……セイちゃんが大怪我しないならそれでいい」
私がそう言うと、セイちゃんは後ろ頭を掻くだけで安心をさせるような事は言ってくれなかった。
結局のところ、ドーム型の温室を見回り終えればセイちゃんとは別々に行動する事になった。
自分の行動について、久々の再会だというのに薄情だと思う。もっと謝ったりするべきなんじゃないかと思いはしたけれど、彼女がそれを望んでいない事はなんとなしに伝わってきたからやめておいた。
それに、仲良しこよしに戻れるのなら相手から言ってくるはずだ。傷つけた私側から言うべきじゃないんだ。
セイウンスカイとニシノフラワーが仲良く手を繋いでいるのを眺めながら、私はそう思う。
「そういえば、最近のレースではどういう風に走ってる?」
別れ際、セイちゃんがどういう戦法で走ってるか最後に一つだけ聞いておいた。これは単純な好奇心だ。
「大逃げ」
……最初に出会った頃とは大違いの戦法に行きついてる事だけは分かった。
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