……ウマ娘とかいうのに転生した件について。   作:稗田之蛙

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 神様、ライスシャワーっていうヤツについて少し語ってもいいか。

 いやすげぇ有名なヤツだったらしいから、あんたにとっちゃ「今更何を語るんだ」って話だろうが。

 

 まずオレからすれば、あの人――正確には馬と呼ぶべきか――は『大おばの子』であって、遠い遠い親戚だ。他人といっても差し支えはないレベルかもしれない。

 だがまぁ、人間達からすれば曾祖父様のマルゼンスキーがモノの見方の基軸になるのだろう。ニンジンが好き系だとか嫌い系だとか難しい話まではよく知らんが、とにかく仔馬のオレを世話してた人達は、「世話してる仔の血縁者」という考えでライスシャワーの事を応援していたみたいだった。

 

 

「ごめんね、突然のお誘いしちゃって……」

 待ち合わせの場所に辿り着くと、そこで待っていたライスシャワーが謝罪の言葉を向けてきた。そもそも誘いに乗ったのはオレなのだから、彼女が負い目を感じる必要は無いと思う。

 オープンキャンパスの後、オレはマルゼンスキーのファングッズを……えぇっと、ひそかに買い漁っていたら……同じようにマルゼンのグッズを買いに来ていた彼女の目に留まったらしく。その際に声をかけられ、「今度新しく発売されるグッズを一緒に見に行かないか?」という話が持ちかけられたのが今回の経緯。

「私もマルゼンさんのグッズが欲しいと思っていたので、お気になさらず」

 普段はあまり使わない敬語をどうにかひねり出しながらそう返答すると、ライスは小さく微笑んだ。

 季節は秋。待ち合わせの場所から目的の場所へ向かう途中、乾いた秋紅葉に道路が埋め尽くされていて足裏に伝わる感触が鬱陶しい。

「……マルゼンスキーさん。もうトゥインクルで走らないって本当なのかな……」

 歩きながら、ライスシャワーがそんな事を口にした。

「ドリームトロフィーリーグへの移行を狙って活動するらしいですね」

 マルゼンに脚部不安の兆候があると噂には聞くが、それが事実なら一旦競走から退いて様子を見るのは当然の話だろう。もう二度とアスリートとして走れなくなるより、なんぼもマシだ。

「……でも、ドリームトロフィーリーグかぁ。やっぱり、マルゼンさんはすごいなぁ……」

 ライスシャワーは寂しそうながらも、少し恍惚とした表情で呟いた。

 トゥインクルで好成績を残したウマ娘達が進む事の出来る夢の舞台、ドリームトロフィーリーグ。トゥインクルで偉業を成し遂げた者達ばかりが集う、レジェンドとレジェンドの対決。それらが同じ舞台で対決する事を想像するだけで武者震いする。

 そしてオレは思った事をそのまま口にした。

「ライスの姉さんも、ドリームトロフィーにいけるくらい凄いウマ娘になれるかもしれませんよ」

 

 

 まぁ世話してた人間達が応援していた存在だ。オレだって、よく分からないながらも一緒になって一喜一憂してたさ。

 無敗の二冠馬を菊花賞で打ち倒した。春天を三連覇しようとする怪物を討ち取った。

 数多の人間が望んだであろう御伽噺のような伝説を、ことごとく破壊してみせた黒い刺客(ヒーラー)

 勝手な話だと思ったよ。あんだけ頑張ったのに、悪役扱いというのは。

 身内贔屓といわれればそれまでかもしれないが、オレはどうしてもライスシャワーの事を悪く考える気にはなれなかった。

 

 

「あはは……わ、私なんかがドリームトロフィーリーグなんて……」

 冗談と受け取られたのか、彼女はぎこちない笑いを浮かべていた。

 ショップが開くまでの昼時間。珈琲店に入って、お互いに好きな食べ物を選ぶ。この系列店は、値段に対して料理の量がヤケに多いから好きだ。

「あれって量が案外多いけど、大丈夫です?」

 ライスシャワーが店員に注文したモノを思い返してみる。成長期のウマ娘にしたって、彼女の体格を考えればかなり重たい量だと思う。

「え、えっと。大丈夫! 御残ししたら悪いから、ちゃんと全部食べ切れるように頑張るよ……」

 彼女はそう言いながら頬を赤らめて、気恥ずかしそうにした。……まぁ、食べ残しも包んで貰えるサービスがあるからあまり心配しすぎなくてもいいのかもしれないが。

 

 

 悪役扱いされていたのは仔馬の時期に聞いたラジオのそれっきり。それより先のライスシャワーは、まるで絵本の中の英雄扱いだった。

 彼女のこれまでの活躍が一転して美談のように扱われ、まるで勇者か何かのように語られるのは正直いって気味のよい感覚ではなかった。

 もちろん、ライス自身や周囲の世話する人間を否定するつもりは微塵もない。しかし、だからこそ世間が最初からそのように扱ってくれてもよかったろうにとも思う。

 ……もし目の前の彼女が"そういう顛末"になったら、そんな事を想像して胸がざわつくような気持ちがある。

 

 

 店内の壁にかかっていたテレビから、歓声が聞こえてきた。しかしそれは次第に悲鳴に変化する。

 画面に映し出されたレース映像では、たんぱ賞でマルゼンに惨敗していたあの銀髪鬼が見事に菊花賞を制していた。

『――ファンの夢を砕いて、銀髪鬼菊制覇!!!!』

 しかし実況の語り振りはその勝利を歓迎するムードではなかった。一部の観客からのブーイングが響く中、中継カメラが捉える彼女の表情はどこか物悲しげで、その状況を堪えているようにも見えた。

「…………」

 ライスシャワーもまたレース中の映像を観ていたが、その表情は実況や観客の態度にひどく怯えてるような表情をしていた。

 ウマ娘なら誰もが憧れるであろう大舞台のクラシックG1を見事勝ち取ってあのように扱われるのは、自分達ウマ娘にとって目に入れたくない事実でもある。そんな光景を見てしまっては、このように怯えてしまうのは無理もない。

 

 ………………。

 

「怖いですか?」

「……え?」

「テレビのアレ。菊花勝ったのにあんな扱いされてるの」

 オレが訊ねると、ライスシャワーは黙り込んでしまった。

 ライスシャワーが沈黙していると、頼んだメニューが運ばれてきた。

 机の上に並べられていく皿を眺めていると、彼女が小さく呟いた。

「……ライスは、ライス、小さいとき――今も、体は小さいけれど――幼稚園くらいの時からね。よく絵本を読んでるの……」

 彼女は少し気恥ずかしそうにしながら、その時の感情を思い出すように、ぽつりぽつりと話し始めた。

「……読んできた絵本の中には、夜中に寝ないとお化けになっちゃうみたいな、悪い事をすれば怖い目に遭うってお話もあったし。赤鬼さんが泣いちゃうお話とか、誰かがかわいそうな目に遭っちゃう、悲しいお話もあったけれど……」

 そこまで話して、ライスシャワーは一度言葉を切った。

「――それでも、絵本に出てくる青鬼さんとか……あのテレビの銀髪鬼さんみたいに、登場人物が誰かの為に頑張ってる御話は、誰かを幸せにしているってライスは想うんだ……」

 今一度、中継テレビの方に目をやる。カメラは一着を勝ち取った銀髪鬼を応援カードを掲げていた観客に焦点を当てている。確かに、その観客の表情を見ると、晴れやかなものである。物悲しそうにしていた銀髪鬼も、担当であろうトレーナーの出迎えを受けて、悔しさや悲しさとは別の感情の涙を頬に伝わせていた。

「だから、怖くはないよ。……ううん、ちょっと違うかな……"怖いけど、誰かに夢を届ける為なら、誰かを幸せにする為なら、立ち向かえる"……ライスはそう考えてる……」

 そう言って、彼女は小さく笑いながら食事を口に運び始めた。

 

 

 マルゼンスキーや銀髪鬼の流れを踏まえれば、やはり自分達はいくらかは前世と似たような道筋を辿っているのであろう。

 ならばライスシャワーの辿る道筋も同じなのだろうかと考える時はある。その事について、警告をすべきなのかもしれないと考える時もある。

 だが、今はひとまず余計な心配は無用なのだとオレは結論付けた。

 神様。この小さな英雄は、オレが抱いていた印象よりもずっと強い子らしい。

 

 

「さっき言ったドリームトロフィーの話。私は本当にそう思ってますよ」

 それを聞いたライスシャワーは、ぽかんとした表情でオレを見つめた。

「だって、姉さんみたいな素敵な考え方で走れるウマ娘が活躍してもらえたら、私みたいな年下にとっちゃ夢があるじゃないですか。だから、応援してます」

 私は前世の事を一旦切り離してから、本心で思った事をそのまま言い述べた。すると、彼女はびっくりしたようにこちらを見た後、嬉しそうに微笑む。

「……うん。ライスお姉さん、頑張るね」

 彼女の笑顔が眩しく思えた。そして、この子は笑顔が一番似合うと思った。

 

【挿絵表示】

 

 ……その眩しい笑顔と小柄な体格に似合わず、やけに食べてるように思えるのは指摘しないでおこう。

 

 

 

 ご飯を食べた後にグッズショップに来て、目的のモノを見つけたはいいものの。

 まぁ、なんというか、マルゼンスキーがファン達に鮮烈な印象を残していったウマ娘であるせいか、グッズの売れ行きは好調らしい。新しいグッズも一個しか残ってない。

「ううう……ライスのせいだ……ライスがあんなにたくさん食べて遅れちゃったから、マルゼンさんの新しいグッズが一個しか残ってないんだ……」

 ライスシャワーはそれを自分のせいだと思って落ち込んでるのか。自罰的になっている。

 ……この子の前途について心配無用だと判断したが、部分的には早計だったかもしれない。

「あぁ、ライスの姉さん。そんなに気に病むことは……」

 マルゼンスキーのグッズ。トゥインクルシリーズでもう走らないであろうことを踏まえれば、ここで買い逃せば次はいつ入荷する機会があるかどうかわかったもんじゃない。欲しい。マルゼンスキーのグッズ。すごく、欲しい。

「あー…………」

 まぁ、なんというか、ここでひょいとグッズを手に取って自分が買うというのは簡単なんだが……。

 

「……本当によかったの? ライス、ディオスさんより一つお姉さんだからここで手に入らなくても、我慢できるよ?」

 結局、我慢して最後の一つを譲ってショップを出た。いや、子供の泣き顔見たくないっていう自分の性分的に、あの最後の一つを奪い取るの無理だろ。

「い、いいんですよ。それに、ほら、お金、タリナカッタみたいダシー……?」

 実際には忘れてない。だがそうでも言わないと、さっきみたいに「ライスが誰かを不幸にするんだ……」とか塞ぎ込み始めかねない。

 それで納得してくれたのか、はたまた別の事を思案しているのかは知らないが。自罰的になるでもなく、悲しそうにするでもなく。少し申し訳なさそうに、小さく笑っていた。

「うふふ……ディオスさんはおっちょこちょいさんだね。じゃあ、あのグッズが入荷されてたら、ライスお姉さんと一緒に買いにいこっか。足りない分は、お姉さんが出してあげる」

 うん。ライスの姉さんが……うん。うん?

「い、いや、それはさすがに悪いですよ。『お友達と金銭的な貸し借りはするな』って、親や学校の先生にも注意されてますし」

 さすがにお金を出させるっていうのはマズイだろう。そういうのはよくない。

「ふふ、そっか。ディオスさんはえらいんだねぇ」

 ……なんだろう。えっと、この態度どっかで感じた事があるなー……。

 あー、アレだ。幼稚園に入学した時に、年長組のお姉さんやお兄さん達がやたら可愛がってくれた時のー……。

「それじゃあ、お金が溜まったら今度一緒に買いにいこっか。ライス、グッズショップによく行くから、あのグッズ見かけた時に知らせてあげるねっ」

 やけにニコニコした笑顔でそう言って、マルゼンスキーのグッズ大事そうに抱えながらオレと横並びに歩行してくる。

 

「……また女の子に貢いでる」

 

 猫目とキングのヤツと偶然すれ違う際、猫目が何事か呟いたのが聞こえた。

 ……違う。違うんだ…………キング……あの、この子の場合は何も言ってこないのが逆に怖く感じるのは、何故なんだ……神様……。





ライスシャワー
森ガール甘やかし系お姉ちゃん28 / 37%
雑穀ソウルインストール38 / 51%
アニメ・アプリ準拠9 / 12%

米「作者は意見を求め その意見は読者が支払った
そのツケを払う方法は一つしか無い ここで初めてアンケートを採った日から その採決が反映する日まで進み続けるんだ


    書いても 書いた後も

  これは、お前が始めたアンケートだろ

 いえーい、ぴすぴーす」


【挿絵表示】

雑穀IN米
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