ボブヘアーのウマ娘は、まぎれもない善人であったといえる。
彼女というウマ娘は、周囲の人間が泣いている姿が放っておけない性根だった。
……その善の部分もキングヘイローを見習ったからこそ養われたものかもしれないが、それでもやはり本質的な部分では彼女もお人好しの一人であったのだろう。
だからこそ、彼女はディオスというウマ娘の事がとうとう許せなくなっていた。
一度目なら、人は誰しもそういう過ちを侵すものだろう。ディオス自身にだって、悩みがあったのだ。
二度目でも、人は仲違いをするものだ。誰だってしたくてしているわけではない。
「……キングちゃんやディオスちゃんの事、嫌いにならないであげてください」
セイウンスカイの元へ直接出向いた彼女は、そんな事を懇願した。
キングヘイローやディオスと仲違いしたという噂は、セイウンスカイを含めた三人の振る舞いからどうしても耳に入る。
「……あちゃー、もしかして、気まずい関係になってたの他の子にも気づかれちゃった?」
「はい~」
ボブヘアーのウマ娘の言葉に、セイウンスカイは申し訳なさそうな苦笑を浮かべた。
「んー、実は私。二人の事嫌いになっちゃったりとかしてないんだ。むしろ、好きなまんまだよ? 面白い二人でさー」
のんびりとした、嘘偽りのない表情。それを見て、ボブヘアーのウマ娘はむしろ驚いた。
「……では、なんで会いに来てくれなくなったんですか~」
そう聞かれ、セイウンスカイは後ろ頭を掻く。
「ボブヘアちゃんはさ。大好きなお友達とかいる? 一人か二人思い浮かべて」
ボブヘアーのウマ娘は、目を瞑りながら猫目のウマ娘の事を思い浮かべた。
「……その人達がさ。自分以外の愛情表現ばかりしてるところ見せつけられたら、ちょっと胸が苦しくならない? 私が二人に会わない理由は、そんだけ」
……セイウンスカイに、何も言えなくなった。共感してしまったから、無理強いは出来ない。
「でも、セイウンスカイさんと、キングちゃん達がこのまま仲違いしていくのは、イヤです~……」
素直な気持ちをセイウンスカイに打ち明けた。
これは、素直になりきれないセイウンスカイにとっても助け舟だったのかもしれない。彼女はやはりディオスやキングヘイローの事が、心配だった。
だから、それに賭けた。そして賭ける為に、自分の知り得る情報というチップを差し出した。ボブヘアーのウマ娘も、義理を果たす形で同じく。
「これが私の知ってる全て……ディオスちゃんがさ、怪我しかねない事してたら、止めてあげてね? 頼んだよ」
「……」
……ディオスの事は、信じていた。
だが三度目になって……他人を踏みにじるようなディオスの言い草を目の前にして、いよいよ我慢ができなくなった。
「で、さ。一年生の女の子とやる事って、結局おままごととか鬼ごっことか、そんな遊びの延長線だからさー。別にお友達が増えたっていう感覚でー、恋人だとかそんな御大層な~~……」
まるで話の種に笑うような言い草に、ボブヘアーのウマ娘は表情に出さずとも、ディオスの人柄にひどく失望した。
その理由は、猫目のウマ娘が一年生の頃にキングヘイローにラブレターを送った事が強く影響していただろう。
キングヘイローは、後輩の事を考えてそういったものはちゃんと優しく断ってくれた。
……それでも、落ち込んでいたが。猫目のウマ娘としてもボブヘアーのウマ娘としても、一切の恨みはない。むしろキングの事は誠実な先輩だと思っている。
……だが、ボブヘアーのウマ娘にとって、三度目の間違いを犯しかけている"あのディオスというウマ娘"は違った。